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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【起】
33/144

32話ー期待の値ー

 鬼神との戦いが終わり、束の間の休息。


 輪を組んだ仲間は、それぞれの場所で想いを抱く。


 コンコン。


 病室に硬いノック音が響く。


「誰だー??」


「千歳くんってば!どうぞー!」


 重い自動ドアが機械音と共にスライドした先に、堀さんが立っていた。


「入るぞ」


 堀さんの顔は神妙で、顔色一つ変えずに入室する。


 機械音と共にドアは閉まる。


「お前ら……」


 堀さんは下を向いてプルプルと肩を震わせた。


 その光景に思わず息を飲んだ。


「……」


 堀さんはこれでもかと目をクシャクシャに閉じて顔を上げた。


「……よくやったあああああ!!!!」


 堀さんは両腕を伸ばして大口を開ける。


 皆ホッとしたように胸を撫で下ろし、後に続いた。


「イェーイ!!」


 高千穂も胸の前で手を叩きながら笑顔を見せる。


「お前らの活躍で鬼神(アラハバキ)を倒す事ができた。感謝する」


「堀さんが居なかったらできなかったよ!ありがとう!」


「「堀さんありがとうございます!」」


「こちらこそ」


 堀さんは深く頭を下げた。顔を上げた堀さんの顔は、先程とは打って変わって真剣な表情に変わる。


「助手の件だが、申し訳ないことをした。早くに俺が気付いていれば」


「気にしなくていいって!堀さんが俺の視界記録守ってくれたから勝てたんだし!」


「え?そうなの?みんなのがバレてた訳じゃないの?」


 目を見開いた高千穂(たかちほ)の問いに堀は冷静に答えた。


「ああ。助手が渡した情報に千歳(ちとせ)のは含まれていなかった」


「俺が市中(いちなか)に、黒谷(くろたに)とどうやって戦ったか聞いた時、俺と川崎(かわさき)さんの2人で戦ったって答えた。でも実際は俺1人だったから、そこ知らないのはおかしいなって思ってよ!」


「最後の千歳の一斬りにも油断した様子だったしな」


「それにしても、千歳くんの最後のアレ、市中に当たってなかったのに、血が出てたのよね」


「あれ当たってなかったのか!?早すぎて見えなかった」


 冷静な高千穂の横で畑山(はたけやま)は愕然としていた。


「さすが高千穂だ。アレが見えていたとは。確かに千歳の刀身は市中には触れていなかった。だが、千歳の刀速に空気は斬られ、斬撃の気流を作り出したんだろう」


「いや〜そうだったのか〜!何で当たってないのに斬れたんかなって思ってたから、そうゆうことだったんだな!なんか照れるな!なっはっは!」


「……言葉を失うわ」


 高千穂は頭を抱えてベッドに突っ伏す。


 畑山は眉間にシワを寄せて腕を組んだ。


「す……凄すぎます!!」


 滝原(たきはら)はパチパチと手を叩いていた。


「だが、今回の戦いは皆一人一人の活躍があっての勝利だ。高千穂の精密過ぎるエイムと分析力、畑山の馬鹿力と瞬発力、滝原の成長と判断力。その力が合わさったからこそ、発揮された」


 堀さんは入室時から手に持つタブレットの電源を入れて画面を見る。


 俺ら4人は何をしだすのかと興味津々に覗き込むようにベッドの淵まで身を寄せる。


 堀さんは4つのベッドの真ん中でタブレットを片手にこう言った。


「お前らにスポンサーが殺到してる」


「おお!!!スポンサー!!!」


「やったー!」


「おっしゃ!」


「スポンサー……僕にもスポンサーが!!」





ーJEA 福岡支部ー


「鬼神対策福岡支部の皆、集まっていただき感謝します。この場を持って、皆のスポンサー額を発表します」


「きた!!スポンサー!!」


「あんま活躍できなかったけど……」


「喜んどけ!俺らに期待してるって意味もあるんだぜ!!」


「私にもスポンサーばい!」


 セロリちゃんは満面の笑みで喜んでいる。


「まずは三姉妹から。三姉妹は皆スポンサー額は同じです。それぞれに4億円の額が付きます」


「よよよよよ!!!」


「4億!?!?」


「よ、よかと?ウチらには大金すぎじゃなかと?」


「す、凄え!4億って、凄え!!」


「貴女方に似合った金額だと思いますよ?鬼神(アラハバキ)はそれほど世間を騒がせた組織だったのですから」


「んーーーイェーイ!!」


 3人は順々にハイタッチし合い、喜びを分かち合った。


「では、続いて。藤長(ふじなが)さんのスポンサー額です」


 俺は生唾を飲み込む音を立てる。


「4つの企業から、合計で9億3200万円の額が付きます」


「……え?」


「……なんばいいよっと?9??億??」


「はにゃ〜高額やな〜」


 ビックリするほど綺麗な女性の司令官の顔をマジマジと見つめる。


 その喜びの感情はジワジワと遅れてやって来た。


「9……億……もっと……もっと強くなれる!」


 俺はあまりに嬉しくて涙を堪えきれなかった。


「凄いよ陸くん!!」ガコッ!


 満面の笑みの瀬川(せがわ)ちゃんは俺に抱きついた……抱きついた!?瀬川ちゃんが!?俺に!?


 鹿子木(かのこぎ)ちゃん、セロリちゃんと次々に俺に抱きついた。


「さすがばい!りっくんやるね!」


 セロリちゃんは大きな胸を押し付け、キラキラした瞳を俺に向ける。


「あれ?どしたと?りっくーん?」


「あー!白目向いちゃー!」


「陸くん?陸くん!?おーい!」





ーUEA サンフランシスコ支部ー


「おい里道(さとみち)!!お前のスポンサー額3億470万1000円に跳ね上がってっぞ!!」


「へ!?なんて!?」


「お前もまだまだだな!がっはっはっは!」


「急に叫ばれて何も聞き取れなかったじゃないですか!何て言いました?ねえ!なんて言ったんですか!?」


「んなこたぁ気にすんな!特訓だ!行くぞ里道!がーはっはっは!」


「そんなぁ〜」


 里道くんは分かりやすく肩を落としていたから、あまりに可愛そうなんで耳元で囁いてあげた。


 そしたら里道くん凄く喜んで(すぐる)に着いて行った。


「まあ、僕たちは上がらないよね流石に」


「アメリカの任務が片付いたら上がるはずだが、鬼神(アラハバキ)に関しては私らはほとんどの成果を挙げていないからな」


「それもそうだね」


「私たち、あの子らに負けてるんだから、気を抜かずに頑張るよ!」


「あ、負けてるんだっけ、勢いあるね〜」





ーJEA 北海道支部ー


安久利(あぐり)さん!お疲れ様です!」


「おう!」


「珍しいですね!安久利さんが病室(ここ)に来るなんて!」


「発表することがあってな」


「あっ!まさかスポンサーですか?」


「察しがいいな(おか)!その通り!」


「よし!来い!!」


「じゃあまず宮武(みやたけ)!お前からだ!5つの企業のスポンサーで額は11億6900万円だ!」


「有り難き幸せ」


 ゴンゾーは正座の太腿に手を置き、首を前に倒した。


「11億!?凄すぎてイメージつかねえや」


 おかーさんは目を見開いて、手で口を覆い隠していた。


「次、丘!」


「はい!!」


 おかーさんはピシッと正座し直して安久利さんの正面を向く。


「3つの企業!額は9億200万円!!」


「ひょあー!!」


 おかーさんは両手を振り上げてそのまま後ろに倒れ込み、ベッドから落ちる。


 おかーさんはベッドに腕を置いて身体を持ち上げながら言った。


「夢みたい……自分に……」


 その後は言葉が詰まったように下を向いて小さくガッツポーズをして喜びを噛み締めていた。


「次!室瀬(むろせ)!!お前は凄いぞ!7つの企業!額はなんと!17億4500万円!!」


「うおっしゃああああああ!!!」


 俺は病室であることを忘れ、ベッドの上に立ち上がりガッツポーズを決めていた。


「ベッド壊れる!ベッド壊れるって!」


「これで!専用の武器が作れるようになるんだな!!」


「ああ、開発となると莫大な費用が必要だからな、企業に感謝しろよ」


「ありがとおおおおおお!!!よっしゃああああ!!絶対無駄にはしねえ!!もっともっと強くならねえと!!おかーさん!ゴンゾー!水戸部(みとべ)!!今まで以上に頑張るぞ!!」


「うん!!」


「おうふ!」


「じゃあちょっくらランニングしてくる!!」


「ちょっと室瀬くん!?まだ傷治ってないよー……って行っちゃった」


「俺らも早く訓練再開しないとな、身体が鈍るな」


「そうね、着いて行こ?」


「おうふ!」


「うんうん、元気が一番!!あとは、水戸部の枠を誰が務めるか……か」





ーJEA 東京本部ー


「じゃあ発表するぞ」


「おう!すっげー楽しみ!!」


「まず滝原!」


「は、はい!!ここです!」


 滝原は思わず片手を上げ、恥ずかしそうに静かに手を下ろした。


「滝原は初のスポンサーだな。15の若さで前代未聞すぎるほどの巨額だ。大手企業を含め、6つの企業がお前に期待している。合計額は16億円だ」


「すげえええええ!!滝原すげえぞ!!!」


「おめでとう滝原くん!!桁が凄すぎてどんだけ凄いのか掴めてないけど」


「それほど世間は俺らを見ていてくれたんだな」


 畑山はうんうんと頷きながら腕を組んでいる。


「ぼ、ぼぼぼぼ僕が……」


 滝原は胸に手を当て、自分に言い聞かすように下を向く。


「滝原!もっと喜べ!お前が頑張ったから付いたスポンサーだ!期待裏切らねえようにしないとな!なっはっは!」


 滝原は違う違うと言わんばかりに首を振るが、自信を取り戻したような笑顔で顔を上げた。


「高千穂、発表するぞ」


「っはい!!!」


 高千穂は胸の前で両拳を握りしめ、目を星にして堀さんの言葉を待った。


「大小の企業含め9つ、合計額は25億7300万円だ」


「すっげええええ!!!高千穂!やったな!!」


 高千穂は前屈みで肩を震わせ、「やったー!!」と両拳を天井目掛け突き上げた。


 高千穂は嬉し涙を目に溜め、指先でそれを拭う。


「これから忙しくなるね!CMと訓練を両立させなきゃ!!」


「スポンサーが付くってことはそうゆうことだな、断ってもいいんだぞ?」


「断りはしません!期待されてるんですから、その期待に応えてみせます!!」


「その意気だ!続いて畑山!大小含めて11の企業だ、合計額は28億4500万円!」


「すっげえええ!!みんなすっげえな!桁が凄すぎて訳わかんねえや!」


 畑山は腕を組みながら壁に寄りかかり、ニヤりと笑って頷いた。当然だと言わんばかりの態度だ。


「畑山くんは素直じゃないね〜もっと喜んでもいいんだよ?」


 高千穂は下を向く畑山の視界に入り込むように顔を傾け、手を後ろに組んで金髪を垂らす。


 畑山は目を合わせないように顔を上げ、そっぽ向く。


「もー!」高千穂はぷくっと頬を膨らませて振り返って続けた。


「で!千歳くんのスポンサーは?」


「ああ。千歳、お前はチームエル・ソル並みのスポンサーが付いてる。デビューして1年も経たずにこの額には驚きを隠せない」


「おおおおお!!そんなに凄えのか!!」


「まあ千歳くんだもんね〜」


 高千穂の言葉に滝原も笑顔で頷く。


「大小の企業含めて24つ。合計額は48億9500万円だ……スポンサー主は皆口を揃えて、力になりたい、応援する、期待するなどと言っていた」


「やっ……たああああー!!!」


「もう凄すぎて笑えてきちゃうわね」


 高千穂は拍手した。それにつられるように滝原も口をポカーンと開けながら拍手する。


「なにいいい!!」


 口を大きく"い"の字に開き、思いっきり悔しがる素振りを見せる畑山。


「これでもっともっと!強くなれる!」


 俺は拳にグッと力を入れ、鼻息を荒くしていた。


「お前ら4人に似合った金額だと俺も思う、スポンサーが付くってことは、敵のデュロルにも目が付き狙われやすくなるってことだ。油断だけはするな」


「おう!!わかってるって!なっはっは!!」


 千歳のこの態度には毎度毎度心配させられる。けど、この態度の裏には壮絶な努力と、自信があるからこそなのだろう。はぁ、峯岡とあいつもこんな感じだったっけか。益々、あいつに似てきているよ。


 もっともっと強くなっていく気しかしない。


 期待しているぞ、千歳。


「ところで、ここに映ってる場所スゲーことになってんな。どこだ?ビル崩壊しまくってんぞ!」


 部屋に設置されたテレビに映し出された映像を見て千歳は唸った。


 それを観た高千穂は、あちゃーと言わんばかりに自身の顔面を手のひらで抑える。


「堀さん……これって……新宿ですよね?」


 高千穂は指の間から目を覗かせ、恐る恐るそう言った。


「ああ。その通りだ」


「そっかー新宿かー、大変なことになってんなー」


「ねえねえ千歳くん」


「ん?どうした高千穂!」


「私らが激しく戦った場所ってどこだか覚えてる?」


「もちろん!新宿だろ?」


「……」


「……ん?新宿?」


 千歳はハッとテレビ画面を凝視する。


「新宿じゃねえかこれ!!!」


 千歳は両手で頭を抱えて、凄まじい形相を見せた。


「俺らがこんなにボロボロにしちゃったんか!悪いことしたぁあぁ!!!」


 うんうんと腕を組み、唸る4人を見渡した。


 その後彼らは1年半、任務をこなしつつ新宿の崩壊したビルの再建を手伝った。


 千歳らのいる所為かわからんが、現場の士気も上がり、予定より大分早く、見慣れた都市に戻ることとなる。





ー鬼神壊滅から1ヶ月後、訓練棟地下2階ー


「はぁはぁ。もう一回お願いします!!」


 黒潮(くろしお)の言葉を合図に、トレーニング用戦闘ロボ2機は黒潮に向かって走る。


 黒潮の殴り蹴りに反応し、戦闘ロボは避け、的確なパンチを繰り出す。


「ぐはっ!くそっ!まだまだ!」


 黒潮は戦闘ロボに向かい続ける。


 黒潮と戦闘ロボの攻防が10分を過ぎた時、戦闘ロボの1機が起動不能となった。


 だが、黒潮の体力共に想は底を尽き、その場に倒れ込んだ。それを見て私は急いでもう1機の動きを止める。


 黒潮は床に大の字になり深い呼吸を続けた。


 隅の壁に背をつけ、座り込む山辺(やまべ)菅岡(すがおか)もまだ肩で息をしていた。


「そろそろ休憩ね!」


 ピーッピーッ。と来客を知らせる音が響き、出入り口の扉に急いだ。外廊下を映すモニターには堀さんの姿があった。


 私は出入り口を解錠して「どうぞ〜」とだけ告げた。


 外扉と中扉を開けて堀さんは入ってきてすぐ「お疲れ伊歳野(いとしの)、皆の調子はどうだ」と口を開いた。


「基礎体力の方は以前より格段に上がっています。ただ、想の回復に時間がかかるようで。(そう)を使いすぎると人を捕食したくなるのは変わらないようです」


「なるほど、デュロルは人を捕食して"(そう)"とやらを補給していたのか」


「話を聞く限り、以前は恐怖から逃れる為にも人を捕食したくなったそうです。ですが、千歳らが鬼神を倒す直前から、恐怖を理由とした人への捕食願望は無くなったようで、単純に想の回復の為に捕食願望が生まれるようです」


「ということは、人には想の元となる物が含まれていることになるが、その物質とは何か掴めてるか?」


「いいえ、まだ掴めません。ですが、この前戦闘ロボとの訓練中に一つ気がかりなことが……」


「何だ?」


「戦闘ロボの動きを活性化させる為に、感情のプログラムと、強い感情を持った際にプログラム処理上高熱が発生する為、"感情抑制液"と呼んでる液体を開発して使用していたのですが、黒潮が戦闘ロボを破壊し、床に流れた"感情抑制液"に触れ、黒潮が能力を使おうと力んだ際に、その触れた手についた"感情抑制液"が蒼白く発光したんです。これは"感情抑制液"実験時の戦闘ロボには確認できなかったので、想を持った"感情"に反応するようです」


「その"感情抑制液"は人体に影響は無いのか」


「それなんですが、黒潮曰く、触れた部分に熱を感じたらしく、大きな力が加わったような気持ちになったと言っていて、実際発光した後の一撃はこれまでと比べ物にならない程威力が上がっていました。ですが、その後激しい筋肉痛に襲われたようでしたが、その他に何ら影響はありませんでした。現在、身体全体に"感情抑制液"を使用する為の体力と筋力増強トレーニングを行ってる最中です」


「もし仮に、人に想があるのなら……その液、俺の手にかけてくれないか?」


「わかりました」


 伊歳野は訓練場に完備してある実験室から感情抑制液を持ってきた。


 フラスコの中に入ってある青い液体を俺の手にかけた。


「何か強い感情を持ってください。できれば手に集中させて」


 堀さんは右手にグッと力を込め、眉間にシワを寄せた。


 やがて歯を食いしばり、右手をプルプルと震わせた。


 すると、感情抑制液は若干ながら蒼白く発光した。


「光りました!!微小ではありますが、光りました!!」


 力を抜いた堀さんの右手からは、プシューという音と共に白煙が滲み出る。


「はぁはぁ、皆、想を持ってるってことなんだな」


「これで、エキポナに適応する強化液のようなものができるかもしれません!続けて研究してもいいですか!?」


 堀さんは自身の右手を眺めてしばらく目を閉じ、力強く目を見開いたと同時に口を開いた。


「ああ!頼んだ!!」





ーJEA東京本部 トレーニングジム 22時ー


「千歳くん!ちょっと涼みに外行ってくるね!」


「おう!!」


 200人ちょいが入れそうな広さの中、ポツポツと人がいるだけで寂しげな空間に変わってしまった。お喋りな高千穂が居なくなるだけでこんなに静かになるんだな。


「いいじゃないかお喋りな子で、可愛いじゃないか」


 そう、静かになるといつもこいつが出てくる。


「ヒョーゾーも寂しがりだもんな〜」


 5トンのバーベルを肩に担ぎ、スクワットする横にポツンと居座る柴犬。


「ツトムが1人で喋ってて可笑しな目で見られてもいいなら、ガツガツ喋り掛けるぞ?」


「あー、別にいいけど」


「まだ誰にも言っとらんのじゃろ?ワシのことも」


「うん、言う必要もねえかなって。言ったところで、何か変わるわけじゃねえだろうからよ」


「まあ、言う言わないはツトムに任せるわい、皆の反応が変わるかもしれないしな」


「さあな!俺はもっと強くなることに専念するぜ!」


「そうじゃな、じゃが最近、ツトムの感情が強すぎてワシが押し出されそうになるんじゃ、便意を我慢するのと同じ苦しみを負ってるんじゃ!少しは抑えてくれい」


「そんなこと言われたってなあ、しょうがねえ!!だ!ろっと!」


 俺はバーベルを元の位置に戻した。


「俺も風あびてくっかな!」


「やれやれ」


 ヒョーゾーは俺の後をテクテクと歩いて着いてくる。


 他の人には見えないその柴犬は、相も変わらず舌を伸ばし、へえへえと犬を演じていた。






 第一章【起】完

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