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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【起】
32/144

31話ー見せた背中ー

 激戦の末、勝利した千歳達。


 日本中を脅かした鬼神は、それを宣言した男率いるチームによって壊滅する。


「夕方のニュースです。10年前に姿を現し、児童数名を誘拐、多くの命を奪ったデュロル組織『鬼神(アラハバキ)』が壊滅したとの情報が入りました。『鬼神(アラハバキ)』の存在が我々にどれほどの恐怖と、悲しみを生んだのか。失われた命は帰ってこない。その『鬼神』の脅威を止めてくれた人がいます。超新星であり、鬼神を壊滅させると宣言した男の率いる『鬼神対策本部』です。我々に平和を届けてくれました。皆様に感謝の意を表します」


「悪いことした奴ってのは結果こうなるんですよ」


「まあ、『鬼神』を倒せたのもマグレでしょうね。きっと何かの偶然が重なったにすぎません」


「人の心を持った人達のお陰で、私たちがこうしてテレビに出れてることを忘れずに、責任を持って報道していきたいと思います。ありがとう」





ーJEA東京本部ー


「またこの病室ね。で、何で4人一緒なのかしら」


「まあ!細けえこたあ気にすんな!なっはっはっ!」


「細かくないわよ!!」


 高千穂(たかちほ)はぷくっと頬を膨らませる。


「まあまあ。またこうやって、無事にここに居れることを嬉しく思おう」


「そう思いますけど、その問題とこの問題は違うと思いますよ」


 滝原(たきはら)は苦笑いをしながら畑山(はたけやま)に呟いた。


「そんなことよりラーメン食いてえええ!」


「あの後、誰も身体動かなくてラーメン食べに行けなかったもんね」


 高千穂は眉を八の字にして笑ってそう言った。


「それにしても、市中が負けず嫌いな性格で良かった」


 畑山は腕を組む。


「そうね、負けず嫌いじゃなかったら私たちここに居ないかもしれないわね」


「設置型バリアのことを言えば絶対に食らいつく。自分の弱みを見せるのを嫌う人だったな」


「そうね」


 高千穂は顎に指を添えて自分のシーツのシワを見つめる。


「あいつがデュロルにならない人生だったら、仲間思いで家族思いのいい奴だったかもな!」


「僕もそう思います。デュロルになってしまって、許されない道に進んだこと、こうなることも覚悟していたんでしょうか」


「さあな!市中の気持ちは市中にしかわかんねえからよ。ただ、市中が経験したこと、感じた想いと同じことを、これ以上他の誰にも感じて欲しくねえ」


「ちょっとだけど、夢に近づいた気がする」


 畑山は過去を振り返るように、強い想いを込めて息を吐く。


「ああ。絶対に終わらせる方法はある。デュロルが産まれた理由だって絶対にある。って今考えても埒があかねえなっ!とりあえずお前らのお陰でここまで来れた!!本当ありがとう!これからもよろしくな!!」


「いいえ〜!こちらこそよろしくね千歳くん!」


 高千穂は額の横で右掌を俺に向けた。


「ああ。よろしく」


 畑山は俺を真っ直ぐに見やる。


「僕の方こそよろしくお願いします!この戦いで僕にも自信がつきました!」


「俺らにはタメ口でいいんだぜ?気使うな気使うな気楽に行こうぜ!なっはっは!」


 滝原は目を伏せてモゴモゴと唇を動かした後、恥ずかしそうに口を開いた。


「へへ……ありが……とう」


「照れながらって可愛いー!!!滝原くんその調子ね!ね!千……歳……くん??」


「ぐが〜……がっ……」


「「「寝てるー!!!!!」」」





ー同日 JEA 東京本部 会議室2ー


(ほり) 龍二(りゅうじ)の助手、戸池(といけ)の処置についてだが。戸池、鬼神(アラハバキ)市中(いちなか)にどこまでの情報を渡した?」


「はい、川崎(かわさき) 優馬(ゆうま)の個人情報と、鬼神幹部 古田(ふるた)戦の畑山、高千穂の視線記録。同じく鬼神幹部 (いただき)戦の畑山、高千穂、滝原の視線記録の情報です」


「この情報に間違いはないか、モニタリング班」


「はい。不正ログインの削除記録が、戸池の述べた記録と一致します」


「戸池、何故鬼神の市中に情報を渡した?」


「言っても信じてもらえないことなんで、黙秘します」


「それじゃこの場を設けた意味がない。貴方から出た言葉が大事なのだ。言ってみろ」


「であれば、言います。市中に家族を狙われ、脅されていました。ただ、証拠はありません。通話記録などは削除してあります」


「何だそれは、信じるわけなかろう。悪意を持った行為とみなす」


 戸池はわかりきっていたように真っ直ぐ前を見つめた。


「発言よろしいですか」


「許そう、堀からも何か言ってみろ」


「ご自身が口にしたことに責任持てない人がこの場を仕切るのはよろしくないことと思います」


「……それはわたしに向けた言葉と捉えて良いのか?」


「はい。貴方の考え方を遵守するのであれば、貴方の意思、貴方の言葉に心はありません。その地位にいることが不思議なほどです」


「口が過ぎるぞ堀。誰に物を言っている」


「雑な貴方です。『貴方から出た言葉が大事』と言っておきながら、自らがそれを棒に振っているようじゃこの場を設けた意味がまるでありません。戸池が信じてもらえないと思い断ったことを、信じる風な言い方をして口に出させ、その言葉を信じないのであれば、私が勝手に戸池の処罰を決め、私をクビにしたいのならすれば良い。自分の地位に酔いしれて心無いこと言う奴が上に立つ場所で働くなら、自分で世のために動いた方がマシです」


「生真面目と思っていたが、堀、失望したぞ」


「どうぞご自由に失望ください。私は貴方に失望されてもクソ程どうでも良い。行くぞ戸池」


 堀と戸池は会議室を出て歩く。


 堀の後ろ姿、かなり怒ってんな。


 わしゃ会議室に入った。


「全部聞かせてもらったわい」


「げ、元帥……!!」


「わしゃ、お前をその立場にしたことを後悔した。心のあったお前が、ここまで廃れるとは。すまんが堀は残す。もうお前を信用できなくなったわい」


「で、ですが、戸池の証言を証明できる物も記録も無く、信じるに値しません」


「そうかもな……じゃが、たった1回のやり取りでそれが嘘と決めつける根拠も無いじゃろう。高い地位の者の思い込みや偏見だけで、1人の人生を狂わす権利はないんじゃ。兵士に戻って心身を鍛え直せ!!」





ーアメリカ UEA サンフランシスコ支部ー


(すぐる)!見てこのニュース!あの子達やったみたいだよ!」


「ん?何だ?おおおおおお!!!千歳(ちとせ)やったか!!鬼神倒したか!!!さすがは俺の弟子だ!がっはっはっ!!おい里道(さとみち)!里道ぃ!」


「里道なら海岸にいる。訓練とか言ってたな」


「そうか!!」


 峯岡はU(United States of America)E(Eekeypona)A(army)サンフランシスコ支部を飛び出し海岸に向かった。


 今僕たちは要警戒デュロルの出現でアメリカに出撃している。日本で鬼神が活発化してきた頃の出撃だったから、卓も浩貴(ひろき)君も出撃を嫌がってたけど、こっちもこっちで強敵だったから、仕方ないことなんだろうけどね。


 このニュースを見るまで卓の顔が不安げだったから、久しぶりに笑顔見た気がする。


 浩貴君もずっと心配してたからね、きっと笑顔になるはず!


 支部から海岸が見渡せるわけなんだけど、卓のやつ、少年みたく浜辺を走り回ってる。


「あんなに嬉しそうな卓、久しぶりに見たかも」


「鬼神の奴らには相当怒ってたしな、ましてやその鬼神を、弟子の千歳が倒しちゃうんじゃ喜ぶわよ」


「そうだね。浩貴君もそうだけど、超新星って呼ばれてるあの子達、凄いよね」


「ああ。私たちがデビューした頃の峯岡と健史(けんし)が何人もいるような感じね」


「そうだね、健史(けんし)も喜ぶと思うな」


「里道いいいいいい!!!」


「ここまで聞こえるって」


 由紀(ゆき)ちゃんも笑ってる。こっちの件も落ち着いたこともあって、みんな安心してるんだね。久々にのんびりした優しい空気な気がする。



「ミネールさん!どうしたんですか?」


 ミネールさんは砂をガシガシと撒き散らしながら走り寄ってくる。


 その迫力に思わず仰け反りそうになるほど。


「聞いて驚け!!千歳の野郎やったぞ!鬼神倒しちまった!!!」


「ええええ!!!すげえ!!やっぱチトッセオすげえ!!……すげえ」


 チトッセオ本当に凄いや。周りから何と思われようが、自分の想いを貫いたんだね。


 僕ももっと頑張らないと。もっともっと背中に追いつかないと。


「ひゃー!それにしても綺麗な海だー!!がーはっはっは!!」


 ひとまず僕は、この元気バケモノおじさんに引っ付いて行けるように頑張らないとね。





ーJEA 福岡支部ー


「ねえねえ!(りく)くんとこの千歳くん!鬼神やっつけたと!!」


 すのちゃんはアシメを揺らして輝かしい笑顔を見せた。


「本当か!!やる男だと思ったよ俺は!!」


「凄いっちゃね〜。ウチらと同世代って思えんばい」


 セロリちゃんは胸をたゆんたゆんに揺らして喜んでいた。


「千歳は訓練生の時からズバ抜けてたからな〜。俺も負けねえように頑張らねえと!」


「陸も凄いよ!私たちを引っ張ってくれるし!かっこいいよ!」


 瀬川ちゃんは強い目力とは対照的な可愛らしい声で……そう言った……。


「か、かかかかかか……。かかか……」


「あちゃー、何も言えんくなった。陸くん慣れとらんばい、もう少し言葉選ばないけんね」


「ごめんごめん、もう慣れてきたかなと思って」


 瀬川ちゃんはテヘッと言わんばかりに右手拳をこめかみに添える。


「フフッ。そゆとこ可愛いっちゃ」





ーJEA 北海道支部ー


「よっしゃあああ!!!」


「ちょっと室瀬(むろせ)くん!ここ病室よ!あんま大きい声出しちゃダメでしょ!どうしたの?」


 ゴンゾーはビックリしたように首を立てて目を(みは)っていた。


「わりい!千歳が鬼神(アラハバキ)に勝ったから、つい嬉しくなってな!」


「え!!!……大きい声出しちゃった。やっと終わったのね」


 おかーさんは口に手を添える。


「凄い」


「こりゃ水戸部(みとべ)も喜ぶな!あいつにも知らせてやらねえと」


「そうね、動けるようになったら、水戸部くんのお婆さんに眼鏡届けましょう」


「そうだな!!」


 コンコン。


 優しく、小さな音はこの部屋に響いた。


「どうぞ!」


 自動ドアの開く電子音。


「失礼致します」


 扉が開いた時に、既に深々とお辞儀をしていたのは、還暦を迎えたであろう女性の姿だった。


「この度は大変お世話になりました。ウチの(とおる)と最期まで寄り添っていただき、本人も嬉しいことと思います」


 顔を上げた女性の顔は、寂しげな笑顔を作っていた。


「水戸部くんの……。何と言えばいいか……」


「婆ちゃん!すまん!!水戸部を守ってやれなかった!!」


「いいんよ、謝ったりなんかしたら、徹が悔しがるでな」


 婆ちゃんは目尻にシワを寄せ、口を震わせながら笑ってみせた。


 1番辛いのは婆ちゃんの筈なのに、俺らには笑顔を見せている。婆ちゃんの優しさなのは知ってる。けど、それが1番辛いんだよ俺ら。水戸部を守れなかった。謝られるの嫌なのは解る、解るけど、婆ちゃん、今くらいは俺らに涙くらい見せてもいいんじゃねえかな。


「婆ちゃん、水戸部は最期の最期まで諦めなかった、すげえ強い男だよ」


「そうかい、婆ちゃん嬉しいよ。徹は昔っから気の小さい男の子でね、すぐに泣いて諦めてしまう性格だったから。それが、こんなにも……立派に……」


 婆ちゃんの息を詰まらせながら途切れ途切れに言う言葉に、どれだけの想いが込められてるか。それを考えた途端、溢れそうな感情を抑えるのに必死だった。


 俺はベットから降り、婆ちゃんの肩に手を回した。そのままおかーさんの方を向いてもらうために、手のひらで視線を誘導する。


 おかーさんが大事に手のひらに乗せている眼鏡へと。


 おかーさんはベッドから降り、婆ちゃんの高さに合うように両膝をつき、両手のひらに乗せた眼鏡をそっと婆ちゃんの前に差し出す。


「水戸部が、最期の最期まで大事に持っていた眼鏡。これ、婆ちゃんに届けて欲しいって。これを水戸部から受け取る時、あいつは心配させないように笑顔作ってた」


 婆ちゃんは、その眼鏡を見た瞬間、今まで堪えて作ってきた笑顔を崩して、感情のままの表情を彩った。


 か弱く持つポーチからハンカチを取り出し、零れる感情を拭う。


 呼吸を整えようとして吸った息を、そのまま漏らすように肩を揺らした。


 婆ちゃんの姿に、堪えてた俺らも大粒の涙を流す。


 少し落ち着いた婆ちゃんは、言葉を選ぶように話し始めた。


「この眼鏡ね、爺さんが、徹が産まれた時に記念にって買ったんよ。そん時から鬼人(きじん)の退治で家を出る時、御守りとして大切な眼鏡を徹に預けて行ってたん。それっきり帰ってこんくなってから、徹は宝物のようにどこに行くにも持って行ってね、目も悪くないのに掛けちゃって目悪くしちゃうしで、大変だったんよぉ〜。そうかえ、エキポナになっても大事に持ってたんだねぇ」


 婆ちゃんは両手で優しく眼鏡を持って、包み込むように抱き寄せた。


「ありがとう。2人が帰って来たよぉ」


 婆ちゃんは、部屋に入って来た時とは比べ物にならないほどの笑顔を見せてくれた。


 婆ちゃんは深々とお辞儀をして、夕飯の支度しなくちゃと言い残して帰ってった。


 いつもの水戸部の笑顔が、そこにある気がして、安心したよ。





ー同日 居間ー


「ただいまー!夏美(なつみ)ちゃん!聞いた!?(つとむ)勝ったって!!」


 私は待ち切れずに、これでもかと玄関のドアを開ける。


(かなで)ええええおかえりいいいい!」


 ちょっとびっくりしたのか、声を裏返しながら夏美ちゃんは叫んだ。


「どうしたの!そんな顔ぐっちゃぐちゃにしちゃって!」


 夏美ちゃんは思いのほか頬をビショビショに濡らした顔で私を迎えた。


「だってえええ、努死んじゃうかと思って」


「大丈夫よ!なんたって努だもん!実際ホラ!!鬼神(アラハバキ)倒しちゃった!!」


 夏美ちゃんは私にしがみついて、私の服で涙を拭う。あーあービショビショじゃないの。


「そうだけどおおお、良かった!よし!今日はハンバーグね!!」


 夏美ちゃんは私にしがみついたままリビングまで私を引っ張る。


「切り替えだけは早いんだから。今日武雄(たけお)くんは?遅いの?」


「そういえば、何の連絡も無いわね」


「……て……べぇ……」


「……なんか、外から聞き覚えのある声が聞こえた気がするんだけど?夏美ちゃんも聞こえたよね?」


「うん、紛れもなく武雄さんと……」


 ガッチャーン!!


 勢いよく玄関の開いた音が聞こえ、すぐに腹を掴むような声が聞こえた。


「たっだいまー!!!!!」


「やっぱりね」


「ほれ!来たよーて!じっちゃん来たよーて!!」


「もー!そんなに勢いよく玄関開けたら壊れちゃうで……って、えええええ!?!?」


 夏美ちゃんは玄関に出迎えに行って叫んでいた。


 なんで叫ぶんだろう。じっちゃんの事だしいつも通りなのに。


 夏美ちゃんの声に誘われ、私も玄関に向かった。と思ったら「ええええええ!?!?」私も叫んじゃったわ。


「なんでそんなずぶ濡れなの!?磯臭(いそくさ)!!どうして海の匂いがするわけ!?」


「いやはや、孫の危機かと思うてよ、沖縄から泳いできた!でーはっはっは!!」


「お……き……な……わ……から?」


「そうだぜ!!沖縄よ!知らねえか?ほら、日の本の南端にあるべ……」


「場所なんて知ってるわよ!あんた、生身の人間よ?エキポナならまだしも」


「んなあ機械に頼らんくても俺はまだまだピンピンじゃい!!」


 そう言ってじっちゃんはガニ股で屈伸し、伸び縮みに合わせて両腕を広げてみせた。


「この脳筋ジジイが!!そんでビショビショのまま電車乗って来たわけ!?」


「そうだぜ!!ケツに貝が引っ付いてたから座ってた知らん婆ちゃんにあげた!でーはっはっは!!」


 じっちゃんの後ろで申し訳無さそうに頭をかく武雄くんがやけに小さく見えた。


 この人の迫力はいつ見ても凄まじいわほんと。




 生身でデュロルと対峙しただけあるわ。





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