22話ー遊ばれた景色ー
鬼神幹部 黒谷を倒した千歳。
これを機に戦況は一変する。
鬼神も然り。
想いを込めた刀は、男を斬った。
男は組織に位置し、組織は恐れられた。
組織はまた、組織を恐れた。
恐れは連なり、1つの真実へと辿り着く。
ー黒谷絶命当日 東京本部 20時ー
「千歳の活躍で、鬼神幹部黒谷を倒した。残りの鬼神幹部も3人になった。壊滅が目に見えてきたな。このまま引き続き、頼んだぞお前ら」
「はい!!」
「ところで堀さん!千歳くんと川崎さんの様子はどうですか?」
「川崎は深く眠ってる。精神的な疲れもあるだろう。しばらくは寝かせてやる。千歳の方は"ラーメンチャーハンギョーザ食いてえええ"って叫んでたから世話んなってるラーメン屋に出前頼んで、それぞれ10皿ずつ食いやがった。俺の金でだ。"美味かったああ〜"って言ってから爆睡だよ、自由な奴だよまったく。俺の金で……」
「千歳らしいな」「うん、千歳くんらしいね」
「相当深い傷負ってたから、2日は寝込まないとって感じだ。その間の出動は3人になってしまうが、チームルナの兵士を手配するか?」
「大丈夫です。私らのルナは千歳くんしかいません。3人で行きます!」
「高千穂も心強くなったな、わかった」
「ありがとうございます!それと、東京以外のチームエル・ソルの方々は出動できないんですか?」
「ああ。海外から応援要請があってな、出動中だ」
「あの、すみません」
「ん?どうした滝原」
「今更なんですけど、僕みたいにひ弱な人間が、千歳さん高千穂さん畑山さんと同じチームに居ていいのでしょうか。足を引っ張って邪魔しかしていない気がして」
「そんなことないって!俺らもまだまだだしよ!みんなで上に登ってこう!」
「そうよ!滝原くんに助けられたことだってあるもん!」
「滝原はこの中じゃ断トツで年下だ、本来15歳は任務にも出動できない歳だしな。それに何故千歳らと行動を共にできているか、それはお前の強さだ。お前は越すべき目標、憧れが側にいれば、近づこう、越えようと強くなる。そうやってその歳では考えられないほど成長した。千歳らとの任務でも何の支障もでない程にだ。それに、千歳ら3人の近くにいることで、お前はまた強くなる。心配するな滝原!今はわからなくても、わかる日が必ずくる!!」
「……そうですか。ありがとうございます」
滝原は腑に落ちないようだった。
大丈夫だ滝原。必ず理解する日が来る。そう遠くないうちにな。
ー同日22時ー
「……集まったか」
「随分と少なくなったネ」
「……」
「黒谷が殺されるなんて、微塵も考えてなかった。大きな戦力を失ったよ」
「確かにネ、黒谷がいたら街単位で大量殺人できたのニ」
「仲間が2人もやられた。上河原、頂、明日お前らはJEAを迎え撃て。街で暴れ、到着したエキポナを中心に攻撃し、殺害するんだ」
「わかったけド、エキポナ殺すのって大変なんだよナ〜。硬いししぶといし、強いんだヨ」
「仲間を殺されて黙っているというのか。この際、世界デュロル保護機構との契約は無視しろ。暴れろ!」
「あんたがそこまで言うのなら、わかったヨ」
「……」
「舞台は福島だ。わかったなJEA、明日はエキポナの死者が出る」
「JEAの期待の新人、千歳の活躍によって鬼神幹部の1人が倒されました。千歳は英雄ウルフを助けただけでなく、小隊を組まずに1人で倒すことに成功しています。JEA、いや、千歳の活躍が益々期待されます」
「鬼神幹部の強さは並外れています。これまでに報道された事件の能力を見れば一目瞭然です。その幹部たちを倒しているのが新人たちということに驚きが隠せません」
「日本に脅威をもたらす組織の幹部も残り半分となりました。日本国民でJEAに期待する人も増えてきていますね。今日は、JEA支持派と反対派の皆様にお集まりいただきました」
ー翌日10時33分 福島県某所ー
ジジッ
「こちら郡山支部!3メートルを越すデュロルと交戦中!5小隊の半数が負傷!死者も出てます!至急!増援を求む!」
ジジッ
「了解。直ちに増援を送る」
「お前ら、出動だ。他に2小隊を同行させる。決して死ぬな!!」
「はい!!」
「千歳くんは抑えといてくださいね!私らだけで行くことを知ったら、あの大怪我の状態で出動するって暴れるだろうし」
「ああ。任せておけ。千歳は行かせない!安心して行ってこい!!」
ー同日同時刻 北海道支部ー
ジジッ
「安久利だ。詳しい任務情報は移動中に聞いてくれ。福島県上空でエアボーン降下だ」
鬼神対策北海道支部の4人を乗せた装甲輸送機は離陸した。
最新のジェットエンジンを搭載した三角形の形をした装甲輸送機は、最高時速のマッハ10(時速12240km)まで7秒で到達する。その場合、ソニックブームが発生する影響で地上付近を飛行できず、最高時速から地上に下がるまで時間がかかる。それに加え空中で止まるように浮くことが可能なため、エアボーンに適した機体なのだ。
搭乗する際、7秒でマッハ10に到達する際の加速時に50G(体重×50)がのしかかる為、一般の人間は乗れないエキポナ専用の輸送機だ。
離陸してしばらくは高度を上げる為、あまり加速はしない。
ジジッ
「承知した!離陸から福島県上空までは時間がある。その間に作戦を練ろう!」
「うん!あたしエアボーン好きだけど、メガネくん高いところ苦手じゃなかった?」
「う、うん。でも、ここで怖がってたら任務にならないし、頑張るよ」
ゴンゾーは水戸部オタクにガッツポーズを送る。
「一緒に飛ぼっか?メガネくんならおぶって降下できると思うし!」
「おかーさんいいアイデア!!」
「へ!?おぶって……え!?いやいや!男なんで!自分で飛びます!!」
水戸部オタクは敬礼して動揺を隠した。
「頑張るなら応援するよ!メガネくん頑張れ!」
「うん!エアボーンなんて乗り越えて、僕ももっと強くならないと!おばあちゃんを安心させたいんだ!!」
「おばあちゃんか!こんだけ立派に育てば安心すると思うぞ?」
「室瀬くんには話してなかったね、メガネくん話していいんじゃない?」
「うん!室瀬くんなら話してもいいよ!僕、おじいちゃんの後を継ぎたくてエキポナになったんだ!」
「エキポナで後継ぎ?ほうほう!」
「僕のおじいちゃんは、おばあちゃんを守る為にエキポナになったんだ。そして、エキポナ第1世代として活躍した。けど、デュロルとの戦いで……。そんなおじいちゃんみたいに、僕もおばあちゃんを守って、最前線で活躍したいんだ!!」
「そらおばあちゃんも喜ぶな!俺らで活躍して、チームエル・ソルを目指そう!!」
「うん!!目指そう!」
「そうしましょう!!」
「うむ」
「ところで水戸部、お前眼鏡かけてた?たまにクイッてやる癖あるからさ」
「前まではかけてた!おじいちゃんの形見のやつ!でもエキポナになって視力も良くなったからかけなくなったかな!」
「それで癖ついてんのか!なるほどな」
一息ついた数十秒後、それは突如起こった。
輸送機に何かが激しくぶつかり、大きく揺れ、高度が下がっていく。
その数秒後にまた何かがぶつかる。異常を知らせる音が機内に響いた。
次第に落ちる速度は上がり、機体は地面に叩きつけられる。
ー11時14分 福島県某所上空ー
ジジッ
「北海道支部の装甲輸送機は攻撃により墜落した。だが全員の無事は確認されている。恐らくだが、上河原の攻撃だろう。上空の輸送機に当てるなんて、計り知れない命中率だな」
「2箇所に鬼神幹部なんて、こっちを対処して私たちも向かいましょう!」
「そうしよう!」
ジジッ
「それが出来ればいいがな、福島県で暴れてる鬼神幹部も油断するな。エキポナで死者が出るほどの猛者だ。11月21日の新潟県ビル崩壊事件はこいつの仕業だろう。目撃証言の身長3メートルと一致する。これといった能力はまだわからない。気を引き締めていけ」
「はい!!」
装甲輸送機は上空で停止した。
輸送機の尻部分の扉が開き、3人は飛び出す。
他の輸送機からも増援として出撃した2小隊も飛び出した。
ー同日同時刻 福島県某所ー
ジジッ
「チームアルボルの!!チームアルボルの全員のシールドが砕かれた!!」
ジジッ
「こちらチームフエゴ!大槌も砕かれ、歯が立ちません!!」
ジジッ
「早く増援を!!早く!!」
「痛い??痛いの!?じゃあもっと痛くしてあげる!!」
「こいつ狂ってやがる!!」
「ぐあああああ!!」
「チームアグア!矢を!矢を放て!!」
「ダメだ!!さっきから避けられて仲間に当たってる!!これ以上射れない!!」
「早い……あの巨体でなんて速さだ……」
「もういっそ!殺してくれ!!」
「いーや、まだ死なせない。僕はまだ楽しみたいんだ!!勝手に死んだら殺すからな!!」
「ぐあっ!!」
「隊長!!」
「そのままだ、そのまま握り潰せ!!いっそ殺せ!!」
「ダメです隊長!!」
「ん〜、痛がらなくなったお前はもう要らないかな。死んじゃえ」
「ぐ……ぐうう」
なんだこの景色は。
「ぐああああ!!」
なんだこの景色は!!!
「っふっざっけるなあああああああ!!!」
ドゴォン!
俺は着地の勢いでデュロルを吹き飛ばした。デュロルはその勢いに握っていた兵士を離す。
他の3小隊も着地する。高千穂と滝原もそれぞれ着地し、俺らは周りを見渡した。
エキポナが皆倒れてる。皆瀕死で、かろうじて生きている。いっそ死んだ方がましと思う程に、酷い有り様で。
「……たった……たった3小隊の増援で……勝てるわけがない」
俺らが来たにも関わらず、皆の希望は死んでいた。目の輝きは失われていて……辛い。辛すぎる。
吹き飛ばされたデュロルはムクッと起き上がり、俺を見やる。
「元気なのが来たね〜、まだ楽しめそうだ」
「まだ??お前、何が楽しいんだ」
「お前じゃない。鬼神幹部、頂 瑠璃哉様だぞ」
「興味ねえ!!何が楽しいんだって聞いてんだよ!!」
「怒った〜怒った〜最初に怒った方が弱いんだ〜」
俺の身体は勝手に動き出していた。
「待って畑山くん!!!」
行こうとした俺の腕を力強く掴んだのは高千穂だった。
俺は怒りに身を任せていた。
鬼神幹部 古田との戦いでも、怒りに身を任せ傷を負った。俺の悪いとこだ。直さないと。
「ありがとう高千穂……」
「千歳くんのいない3人編成なの。1人でも欠けたら、ただでさえ勝てるか難しい相手に勝てなくなっちゃう!!それに、畑山くんに死なれちゃ嫌!!慎重にいこう!!」
俺の心に矢が刺さった。一瞬心臓が動くのをやめたんじゃないかと思う程に。
「僕もお力になれるよう頑張ります!!」
そうだな、ただでさえ千歳がいなくて難しい任務だ。勝手な行動でチームを乱すわけにはいかない。
「ねえ!何をヒソヒソ話してんの!いけないんだよヒソヒソ話!!!僕も混ぜて!!」
3メートルを越す巨体は足をドタバタさせて、いじけるようだ。
足のドタバタで地面が抉れ、ヒビが伸びる。
辺りを見渡すと、住宅街はボロボロで、地面も抉れ、所々にできた大きなヒビが伸び、窪みにエキポナが倒れている。エキポナが吹き飛ばされて半壊した家が殆どなんだろう。
皆、かろうじて生きてる。息をするのがやっと。俺がこいつを倒すまで、生きててくれよ。
頂は、道路に倒れてるエキポナの片腕を摘み上げると、俺らに見せびらかしてきた。
「ほら!ブランブラン!楽しいよね〜ブランブラン!ほら!見て!」
「離しなさい!離さないと痛い目に合うよ!」
「いいよ?やってみて?」
高千穂は矢を引き抜いて構えるが、頂はエキポナを"ほれほれ〜"と言いながら盾にしているせいで、矢を放てない。
頂の注意を逸らしてるうちに、俺と滝原は左右に分かれ頂に向かって走った。
「ん?ちょ!ちょっと!来ないで!」
頂は摘んでるエキポナを振り回した。
「なーんてね!」
頂は摘んでるエキポナを滝原に向け放り投げた。
「ぐあ!!」投げ飛ばされたエキポナは、目に追えない速さで滝原にぶつかり、滝原諸共、家屋を半壊させながら遠くに吹き飛ばされる。
エキポナを放り投げた頂の隙をつき、高千穂は矢を放ち、頂の右胸部に突き刺さる。だが、普段と違って浅く刺さる。
頂は右足を一歩下げただけで衝撃を吸収した。
俺はすかさず頂にタックルする。
……。
う、動かねえ。
ビクともしない。こいつの体幹どうなってんだ。
「ねえ、邪魔なんだけど」
頂は俺を無視し、右胸部に刺さってる矢を抜き、手の上でポンポンと跳ねさせる。
「最初にやられた方って、やり返していいんだって!」
俺が頂の腹部から下を押さえつけてるにも関わらず、まるで何事もないように矢を振りかぶり、高千穂に向けて投げようとした。
「させるか!!」
俺は左腕に持つシールドから放電し、頂の動きを止めようとした。
しかし、頂の動きは止まることなく、振りかぶった矢で弧を描くように俺へ刺した。
背中を貫く矢は、痛みを通り越し、不快に感じた。
頂は刺した矢を掴んだまま、高千穂の方へ俺ごと投げ飛ばす。
地面に弾かれながら矢はグリグリと背中へと刺さっていく。
飛んできた俺を高千穂は受け止めてくれた。
「痛がってるその表情!たまらなく楽しいよね!!もっともっと、痛がってよ!!」
頂の表情は見えないが、体の表現だけで心の底から楽しんでるのが伝わってきた。




