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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【起】
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20話ー黒谷 渉ー

 たった1人で黒谷の元へ向かった川崎。


 妹を人質に取られてる不利な状態で、鬼神幹部相手に立ち向かう。


 黒谷に接近し、間合いを詰める。黒谷は焦る素振りを見せずに拳を構えた。


 横に振った刀はしゃがんで避けられ、縦に振った刀は、片足に重心を移動させて避けられてしまう。


 全然当たりやしない。


「ウルフそんなもんだっけか?もっと全力で来いよ!!」


 黒谷は避けながら、刀を振った隙をついて殴りに来る。避けようにも避けれない。そんな速さと正確さを持った拳は次々に俺を痛めつける。


「準備運動にもなんねえぞ?」


 こんな挑発にのるような俺じゃないはずだ。でもなぜこんなにも焦っている?


 少しでも時間を稼がないといけないからか?


 こいつを楽しませないといけないからか?


 こいつが鬼神(アラハバキ)幹部だからか?


 陽梨花(ひりか)が危ない目にあってるからか?


 全部だ。全部ある。


 まだ黒谷は能力すら使っていない。そんな中で俺は1人戦っている。


 なぜ焦っているのか。焦りの元凶……。



 俺じゃ黒谷(こいつ)に勝てないからか。



 黒谷は最初からこれが目的だったはずだ。俺を動けなくして鬼神の目的を有利にすることが。


 俺の相棒が改造して何もできない時を狙って。


 俺1人だと弱い。そこを突かれたんだ。最初から俺を殺す気でいたのは知っていた。


 知っていたからこそ、何もできなかったのが悔しすぎる。何もできないで妹が危険にさらされるのが悔しすぎる。


 だから俺は、あいつに頼んだ。


 あいつなら来る!


 あいつが来るまでに、無力な俺が出来る限りのことはしておく!あいつの体力を、少しでも!!


「お!動きが変わったぞウルフ!いいぞ!その調子でかかってこい!!」


 黒谷が拳を出せないほどの速さで刀を振るう。


 かすり傷程度だが、刀身が当たるようになってきた。


「お兄ちゃん頑張れ!!」


 陽梨花の声援に応えるように刀を振るう。


「ん、んん」


 黒谷も避けるのが精一杯になってきたように見える。


「甘ったりいわ!!」


 黒谷は一撃、俺の腹部に拳を突き立てた。


「ぐはっ……」


 その一撃で俺は後ろに引きずられるように押される。


「ウルフ、お前の相棒が居ないとこんなにも弱いのかよ。失望した」


 息を切らす俺とは反対に、首と指の関節。鳴らしながら歩く黒谷。


 その姿に心が砕けそうになるが、グッと堪えて構え直す。


 ここで俺が諦めるわけにはいかない。



 闘いは、負けると思った方が負ける。



 俺が負けるのは最初からわかってる。けど、この闘いに勝つためには、今の俺が踏ん張らないといけないんだ。


「ちょっと力入れよっかな」


 そうだ、来い!それでいい!


「黒谷、お前もその程度か?」


 俺のこの一言に、黒谷の肩はピクッと動く。


 黒谷は何も言わずに俺へ向かい走り出す。


「っしゃあ!!」俺も気合入れて立ち向かう。


 黒谷は俺の顔めがけ飛び蹴りをする。間一髪のところで避けて刀を振るうが、刀身を握られ、着地した黒谷に引き寄せられ、腹部に蹴りをくらう。屈んだ俺の背中に肘を落とし、体勢を低くされる。体勢が低くなった俺の頭を掴むと、膝で顔面を蹴り上げられた。


 俺は宙に浮いた。視界もボヤける。


 何とか空中で体勢を整えようとしたその時、黒谷は地面に手をつけていた。


「"(バースト)"!!」


 俺の後頭部に強い衝撃が走った。


 天地左右がわからなくなり、地面に落ちる。


 ボヤけた視界で見えたそれは、地面の一部が四角柱となって空高く突き上がる様だった。


 俺は急いで起き上がり、刀を構える。起き上がると視界は歪み、よろけてしまう。


「弱えやつが粋がってんな、手加減しねえと死ぬような奴が調子こいたこと言ってんじゃねえぞ!!」黒谷はそう言い終わると同時に俺の腹部へと蹴りを入れる。


 力が思うように入らず、後方に倒れる。


「楽しくないからさ、あいつ殺していいよね?」


「やめろ!!」


 俺は死にものぐるいで黒谷に飛びかかる。


「ぜーんぜん楽しくねー!!!!もっと全力で殺しにかかってこい!スリルを味合わせろ!!命がけの闘いがお前には無え!!!」


 黒谷は地面に片手をつき、顔を上げる。


「"乱凸(ディスターブ)"!!」


 俺を囲むように地面から次々と四角柱が空へ向かって突き上がり始めた。


 次第に俺の踏む地面も突き上がり始める。


 突き上がった地面に身体が掬われ、次々と突き上がる地面に身体を打たれながら上へ上へと持ち上げられてしまう。


 地面は動きを止め、高さのバラバラな四角柱の束に挟まれる。下半身が固定され、上半身と片腕が束の側面から出ている状態だ。陽梨花のいる穴が見える位置にいる。高さは地面から30メートルほどだろうか。


 陽梨花は俺を見上げている。


 ごめんな、こんな情けない兄で。


「そこで、兄の最期を目に焼き付けろ」


 黒谷は俺と陽梨花の間で、右手で地面に触れる。


 黒谷の横の地面から、俺へと向いた四角柱がゆっくりと出てくる。その四角柱の先端の土が崩れ、鋭利に変わる。


「ウルフ、なーんも楽しくなかったわ、期待はずれ!じゃあな!」


 先端は真っ直ぐ俺に向いてる。すまない。時間を稼げなかった、後は頼んだぞ……。


「"鋭凸(スピアバースト)"!!」


 その鋭利な地面は真っ直ぐ俺へと向かって突き出された。


 こんな最期、情けない。


 必ず黒谷(あいつ)を倒せ______。


「さっせるかあああああああ!!!」


 俺を挟んでいる四角柱の束を駆け上がり、俺の真横を蹴って鋭利な地面へと向かっていった。


 ______千歳!!!!


 千歳は刀で鋭利な先端を斬り、そのまま向かってくる四角柱を一刀両断した。


「千歳ええええええ!!」


 黒谷は嬉しそうで怒りのこもった声で叫んだ。


 千歳は地面に着地すると、俺を挟む四角柱の束を次々と斬って崩壊させる。


 身動きが取れるようになるが、思うように動けずにいた俺の場所へ千歳は駆け寄った。


「川崎さん!大丈夫っすか!!」


 千歳の後ろで黒谷は地面に手をついていた。


「しまった!陽梨花!!」


 陽梨花が入れられていた穴が閉じ、跡形も無くなってしまった。


「ひ……陽梨花……」


「あそこに閉じ込められてた女の子って、川崎さんの妹っすよね?さっき助け出して、離れた場所に居るよ!」


「……ありがとう、千歳……」


「任務で川崎さんに苗字で呼ばれたの初めてだな!なっはっは!!」


「他のみんなはどうした?」


「俺1人!みんなに何も言わずにすっ飛んできちゃった、怒られるな〜」


「無茶なことを……」


「いいじゃないっすか!約束果たせそうだし!」





ー鬼神幹部 古田 アンドリューの任務時ー


「刀を構えなければ、切る」


「抜かねぇ!!一緒に戦った仲間を俺は切れねぇ!!」


 川崎さんは力んで握る手を一瞬緩める。


「……。できない」


「!?」


「俺はできない。お前は斬れるか?」


 川崎さんが何を言っているのかわからなかったが、顔を見たら理解できた。


 俺は川崎さんの表情を見過ごさない。


 川崎さんは悔しそうな顔で、何かを目で訴えるようだった。


「何かあるんすね。川崎さんができねえなら、俺がやる!!」


「そうか。すまんな。お前は立派だ」


「立派なんかじゃねえ!困ってる人を助けんのは偉いことでもなんでもねえ!当たり前のことだ!」


 川崎さんは刀を納めようとする。


「斬ってくれ!川崎さんは俺を斬らねえと危ねえんだろ!」


「斬りたくない!俺はお前を斬れない!」


「俺は川崎さんを信じてる!だから川崎さんも信じて俺を斬ってくれ!大丈夫だから!」


 川崎さんは俺の目を見て、少し頷いた。


 川崎さんは振り上げた刀を振り下ろした。





ー現在ー


「あの時の顔は、このことっすよね」


「ああ」


「千歳ぇ〜!なにコソコソやってんだ〜?そいつじゃダメだ、千歳なら俺を楽しませてくれるんだろ?もうちょっと鍛える期間あった方がよかったけどな!」


「黒谷なんて楽しむ隙もないくらい、すぐぶっ飛ばしてやる!!」


「たった2ヶ月前に手も足も出なかったお子ちゃまがよく言うぜ!」


「川崎さん、走れるか?なるべくここから離れたとこに居てくれ」


「新人がウルフを庇うたぁ、やけに自信あんだな」


「おう!黒谷倒すために死ぬ気で特訓したんだ!自信しかねえ!!」


 千歳と黒谷は互いに走り出した。


 俺は少し離れた場所まで足を引きずって移動した。


「黒谷いいいいぃぃぃいぃぃ!!!」


「千歳ええええぇぇえぇえぇ!!!」


 互いの右拳は、互いの左肩に入る。


 互いに間髪入れずに素手で殴り合う。


「おっりゃああ!!」


 俺の放った右拳は黒谷の腹部に当たり、黒谷は勢いで後方に引きずられる。


「だぁ、はぁ、はぁ」


「当たった!強くなってる!!」


「どうやって、はぁ、たった、2ヶ月で!!」


 息を切らす黒谷に休む暇を与えずに殴りかかる。


 2ヶ月前は掠りもしなかった殴り蹴りが、今では次々と当たってる。


 黒谷は攻めるのをやめ、大きく後退した。そのまま両手を地面につけ、俺を見上げる。


「”乱凸(ディスターブ)”!!」


 四角柱の地面が次々と突き出してくる。けど、見切れる速さだ。


 俺はかいくぐるように四角柱を避け、黒谷の元へ走る。


 黒谷は焦ったように地面から手を離し、川崎さんの妹が閉じ込められてた崖の上に飛び乗った。


「あの高さまでひとっ飛びかよ!」


「強くなったのは認めよう。ウルフよりも手応えがありすぎる。ただ残念だな千歳、俺は今最高に楽しいぞ!」


「あーそうかよ!」


「絶望のステージを見してやろう!俺の環境でな!」


「かっこつけたこと言ってんなよ!」


 黒谷は両手を地面につける。


「千歳には(そう)を使ってもいい。大想(たいそう)三重巨壁(デザートキャニオン) (デント)”!!」


 心臓をつかむような重低音を響かせ、立って居る場所が揺れ、ゆっくりと沈んでいくのがわかる。


 周りを見ると、遠ぉ〜くの方まで広範囲に円形に沈んでいて、高さ15メートルはある壁で覆われているかのようだ。


 そこからさらに一段が沈み、さらにそこからもう一段沈む。


 1段目は15メートルほど沈み、2段目は1段目から20メートルほど、3段目は2段目から25メートルほど沈んでいる。3段目の1番深く沈んだところから地上までは60メートルほど沈んだ。


 1段目の直径は1.5キロメートルはある。2段目は700メートルほど、3段目は500メートルほどだ。


 俺は1段目の端っこに立ってる。


「どうだ?いいステージだろ?」


 黒谷は1段目まで降りてきて、楽しそうに言った。


「楽しい楽しいってさっきから言ってっけど……人の命奪うことが楽しいってことか?」


「人の命奪ったところでなんの楽しみも生まれない。弱すぎるからな。殺してもなんも感じねえ、スリルが無えんだよ!」


「……」


「だからエキポナ相手に闘ってるんだけどよ、弱い奴らばっかでつまらねえ!だから俺は期待されてた千歳が強くなったら、最高に楽しい闘いができるんじゃねえかって思ったわけよ!!っはー!たまんねえ!」


「……奪われた命を、何とも思わねえんだな」


「当たり前だ、死んでったのは人間だろ?人間は俺らデュロルが死のうが何も想いやしない。俺らデュロルはそれと同じだ。人間が死んだところで何も感じない!!ましてや俺らを作り出してんのは人間だからな!!」





ー黒谷 渉 6歳ー


 俺には妹がいた。


 3つ下の妹は体が弱く、常に病気がちだった。


 父はろくに仕事せずパチンコ三昧、家に帰ればタバコと酒とクスリだ。


 日常的に暴力が絶えない中、妹はどんどん衰弱していった。


 母は体を売ってて、帰ってくるたび傷が増えてるし、父の暴力でも傷が増えてた。


 妹の飯を確保してたのは俺だった。


 店から盗んだもの、道で拾ったもの、山で採ったもの。


 3歳になって間もない妹にとって、何の栄養もないこんな食事じゃ体調が良くなるはずもなかった。それをわかっていても、俺がどうにかして助けたかった。


 俺はいつものように街へ出て、食べ物を探していた。そん時、買い物し終わった主婦が長話に夢中で、パンパンに入ってるレジ袋をチャリのカゴに置いたままどっかに行っちまった。


 宝を見つけたと思ったよ。


 急いで盗って、ウキウキで家に帰った。


「まみ?兄ちゃん帰ったぞ〜」


 あれ?何の反応もない。


 いつもならひょこっと顔を出すのに。


 妹がいつも顔を出すとこから見えたのは父の足だった。


「まみなら、山に埋めたぞ。もう要らねえよあんな弱っちい体したやつ、稼げやしねえ」


 俺は耳を疑った。


 山?埋めた?まみ?


 ここら辺で山はひとつしか無い。


 陽が落ちた夕方、俺は家を飛び出した。


 まみ、まみ。


 あの野郎が言ったことが嘘であってくれと、心の中で叫んだ。


 真っ暗になるまで、山の中を探し回った。何も見つからない。


 俺は泣きじゃくりながら家に着き、父に手を出した。


「んだよクソガキ!!!」


 圧倒的な力の差に成すすべがなかった。


 子供の体に、大人の蹴りは効きすぎる。


 母と父が言い合ってるのが聞こえるけど、うまく聞き取れない。


 気が付くと、布団に包まれた状態で父に担がれていた。


 山の中か?


 暗すぎて何も見えないまま、ただ父の肩に揺られた。


 しばらくすると、地面に落とされ、父は土を掘り始めた。


 父の掘った穴に、俺は落とされた。


「兄妹揃って仲良く死んでろ」


 俺は横を見た……。


 まみ……。


「まみいいい!!!!」


 そう叫んだのも束の間、土をかけられる。


「クソっ……やろおお!!」


「口だけはかったりーな」


 どんどん身体に土がのしかかる。土の重みを直に感じる。


 俺は泣くしかなかった。


 息も出来ない。


 土!邪魔だ!!土が退けば(くそやろう)を殺せる!!


 どけ!!土!!


 心からそう想った。





「わ、渉は?渉はどうしたの!?本当に山に捨ててきたの!?」


「うるせえ、だから何だってんだ」


「ねえ!!私たちの子供なのよ!!」


「子供なんていらねえよ。俺との子かすらわからねえような子なんて尚更な」


「酷い!!身体売ってもあなたを愛してるのに!!」


「俺もお前が居ればそれでいい」


 ガチャンっ!!ガチャガチャガチャ!


「こんな時間に誰?」


「知らね、待ってろ見てくる」


 ガヂャン!!


「なんの音!?」


「げ、玄関がぶっ飛んだ……」


 6歳の体には重すぎた玄関が、片腕に妹を抱えたまま、片腕でこじ開けられるとは思ってもなかった。


「ただいま、クソやろう」


「お、お前、デュロルになったのか……!?」


「知らねーよ、お前がそうさせたんだろ」


「わ、渉なの??それに、まみ?」


「そうだよ母さん。まみも眠ってる」


「く、来んな!!こっち来んな!!」


「うん、出ていこうと思ってる。でもその前に、クソやろうにお別れ言いに来たんだ」


「ああ!!すぐ出てけ!!」


「出てくってば。じゃあ、もうこの世界に未練ないね?さよなら」


 俺は胸ぐらを思っクソ強く掴んだ。





「ねえ、ご存知?黒谷さん家の事件!」


「知ってますわ!酷い話よね〜」


「ほんとよね〜、奥さん事件現場に取り残されて震えてたらしいわよ?」


「かわいそうに、全部失ったんだものね」


「1番可哀想なのは、娘も殺されて、自分の息子に殺された父親よね〜」


 聞こえる。


「うんうん、それが1番かわいそう、愛情たっぷりで育てた子に殺されるなんて」


「ね〜。デュロルは今も逃亡中なんですって!娘さんの遺体も見つからないらしいから、食べちゃったんじゃないかしら」


 聞こえてる。


「自分の妹食べちゃうなんて、どうしたらそんな子になっちゃうのかしら。怖い世の中よね〜ただでさえ不審者多いってのに、ご近所でデュロルが出ちゃうなんて」


「デュロルなんて死んじゃえばいいのよ」


 全部聞こえてんだよ。


 毎日痛いほど耳に入ってくんだよ。


 デュロルってだけで全部悪者扱い。


 事実も知らない世間が言いたい放題言いやがって。


 自分の意思でなったわけじゃない。いっそ死んじまった方が楽なんじゃねえか。


 だめだ、俺がデュロルならば、良いことしたって無駄、死んだら尚更人間に喜ばれる。


 だったら。





 人間(おまえら)に、俺が感じた恐怖を与えてやるよ。





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