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婚約破棄冒頭テンプレチャレンジ

続きません。

 

「リディアナ・アールグレイ! 君との婚約を破棄する!」


 学園の卒業パーティーが始まる寸前。

 大勢の集まる広間で、セドリック・ディンブラ王太子殿下はアイスブルーの瞳をさらに冷たく光らせて、私にそう宣言した。


 彼の隣には、淡い金髪に薄青の瞳の可愛らしい女性――ミリアム・ダージリンが、潤んだ瞳を伏し目がちにさせて寄り添っている。

 シンと静まり返る会場で、まるで自分たちだけがスポットライトに照らされているみたいな感覚に陥ってしまう。


「ここではないどこか」からやって来た、という彼女を紹介されたのは3ヶ月ほど前。

 ミリアムの出自は、王宮と神殿の特秘事項とかで、王太子の婚約者である私にも教えてはもらえなかった。

 色々と不慣れなことが多いから、と学園での見守りと指導を任されて……私なりに、仲良くなれるように頑張ったのだけど。


 その頃から、セドリック様の様子が変わってしまった。


 私よりも、ミリアムといるほうを好まれるようになって。

 頻繁に会いにきてくれたのに、それもなくなって。

 公式の場に私を伴うことも一切しなくなり、誕生日にはカードもない花束だけが送られてきた。


 セドリック様は私ではなくミリアムを選んだ。

 そう信じたくはなかったけれど。


 私とミリアムが似ているのは髪の色だけだ。

 彼女のような、人を魅了する明るさや活発さはない。

 常日頃から王太子としての重圧を負っているセドリック様が、彼女に惹かれるのは……分かる。

 彼のことが好きなだけの私では、ダメだったのだろう。


「……左様で、ございますか」


「即刻、辺境領に戻るがいい」


 辺境住まいの私が王都にいるのは、セドリック様の婚約者だったから。

 その立場を失えばここにいる意味はない。

 すでに寮の荷物は整理され、馬車も用意されているという。手回しの良さに涙が出そうだ。


「御前、失礼いたします……どうぞお幸せに」


 あんなに必死に求婚してくれたセドリック様の心ひとつ繋ぎ止めることができなくて、この先王太子妃など勤まるはずがない。

 周囲の誰もが息を呑む中、せめて最後に完璧なカーテシーをして広間を後にしたのだった。




 **




 ざわめきの戻った広間から即、奥の控え室へとミリアムを連れて戻った。


「……おい、本っ当に大丈夫なんだろうな!? これでリディは死なないな?」


「あーもう、しつこい。何回説明すれば気がすむわけ?」


「リディにあんな心細そうな顔をさせて、俺は……やっぱり今すぐ連れ戻して」


「ダメだって言ってるでしょ、()()()!」


「ふぐぅっ!」


 ミリアムはその細い腕に魔力を込め俺の襟首をむんずと掴むと、そのままソファーへと投げ捨てた。痛え。


「私は『未来から来たあなたの娘』って、神殿でも王宮でも証明されたでしょう! リディアナお母様を死なせるわけにいかないって、父である『セドリック国王(あなた)』から頼まれて、私はここにいるの!」


「いや、でも!」


 この国には大きな秘匿がある。建国から続く王家の直系である王だけが、時を司る魔法が使えるのだ。

 あまりに強大な力のため、たとえ王子といえども知らされるのは立太子した一人だけ。

 この、大陸を征服すらできる力を使って、未来の俺は自分の娘を過去に送ってきたのだ。


 なんでも、晴れて俺の花嫁になった愛しのリディアナは、第一子のミリアム――目の前のこの娘――の出産と同時に、魂の奥深くにかけられていた呪いが発動し、昏睡状態に陥った。

 そのまま、懸命の治療も虚しく亡くなったのだという。


 執念深い捜査の結果、リディアナに呪いをかけていた者は捕まえた。

 だが未来の俺は、奴らを裁くだけでは足りなかったらしい。


「お母様にかけられた呪いを解くまでは、心身いかなる種類でも接触は厳禁! 耐えなさい、未来の自分と生まれてくる私のために!」


 彼女に埋められた呪いの種は、伴侶との――つまり、俺との触れ合いを養分にして覚醒し、育っていくタイプの厄介なものだ。

 手を繋いだり、気持ちを告げたり……そんなことですら少しずつ、確実に呪いは増大していく。

 リディの近くにいて、触れないでいられるわけがない。

 だから、そばにいたらダメだ。


 ダメなんだが――


「そ、その間に、リディがほかの誰かと結婚したらどうするんだ!? 拝み倒して、婚約者になってもらったのにっ」


「女々しいっ! 私の知っているお父様も大概だけど、変わってないわねっ!?」


「せめて事情を説明、」


「だーかーらー、認知は呪いのトリガーだって言ったじゃん! 本人に気付かせても終わりよ!」


「ううぅ……」


 さらに、目標を達成しないとミリアムは未来に戻れない。

 そんな鬼設定をしたのは誰だ、未来の俺か。やりそうだ。


「ほら、まずは隣国と裏取引しているウバ侯爵の一派を制圧! 同時に配下の黒魔術師の確保! そしたら魔王城に行って、解呪の魔石をゲット! 泣いてる暇があったらチャキチャキ動く!」


「ぢぐじょゔ、爆速でやっでやる……!」


 ――婚約破棄の破棄に向けて、情けなくも泣きながら一歩を踏み出した夜であった。




(初出:2020/05/26 活動報告&WEB拍手)


小説家になろうでは、悪役令嬢や乙女ゲーム、ざまぁ、婚約破棄など、人気ジャンルがございます。

たくさんの書き手さんがいらっしゃってそれぞれ面白いのですが、いざ書くとなると、お約束を守りつつ展開していくのがなかなか難しい……。


テンプレを目指したはずなのに、なぜか斜め上にすっ飛んでしまった感のある「婚約破棄」SS

笑っていただけたらなによりです!

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