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【改定後投稿予定】客人の選択  作者: NINO
第一章 : 客人、情熱を注ぐまで
7/23

5.客人の回想、手作りローション、まさかの

 

 

 

 こちらの世界に来て初めての手作りはどれも嬉しい結果に終わって、私もすっごい幸せ気分。

 このままイロイロ作っちゃえ~、なーんて、実は既に作っちゃったんだよね。


 しかもバザールで購入したその日の夜に。


 だってバザールでは、毛糸や布のほかに、個人的には一番嬉しい発見があったんだもの。


 何かって言うと、なんと植物性グリセリン(もちろんオーガニック)!!


 ハーブや薬のテントに置いてあったのよ。聞けば、これも『客人の恩恵』で、神殿の医療院に薬品として卸しているとのことだったんだけど、お願いして分けてもらったの。


 でもって“コレ”が私の手持ちすべておサラバの原因になったんだよねえ(たはは)。


 グリセリンそのものは、大陸各地の医療院に卸されているからそう高くはないのよ。500mlで5,000グラバくらい。だけど、その容器がねえ…。


 ガラス瓶が高かったのよ!


 500mlの瓶で1万グラバしたかしらね。陶器なら2千グラバくらいなんだけど、グリセリンは医療品として売っているってことで、普通の陶器はダメ! って行商のおじさんに言われちゃって。


 泣く泣く1万グラバの出費ですよ。

 まあおじさん曰く、次は今回購入した瓶に詰め替えてあげるからって言ってくれたけど。


 どうも陶器産業は結構盛んなんだけど、ガラス産業はまだまだそうでもないみたい。確かに日常で使われているガラスは純度も精度も高い感じしないもんなあ。今回買った瓶はさすがに1万グラバしただけに、分厚くて透明度も元の世界で見る物と遜色ないけれど、あちらなら千円くらいで買えそうな物だけに、気持ち的に痛かった。


 あとは陶製の小瓶と平たい容器を二つずつ買って(ちょっとサービスしてくれた)、これで綺麗さっぱり文無し! ってなった訳よ。これぞ生きる実地体験よね。


 それが元で叱られちゃったけどさ。


 でも、これでもう!

 グリセリンさえあれば! 保湿ローションが作れちゃう!! って、その時は必死だったのよね。


 ほら、お肌の曲がり角は25過ぎてって言うじゃない。実際はハタチ過ぎたらだと思うけどさ。とにかく、こちらの世界に来て何に困ったかって美容関連…って言うか、特にスキンケアだったんだよねえ。


 洗顔・洗髪って言う、髪や体を清潔にする行為やその為のアイテムは、支給される日用品の中にあったんだよね。無添加の石けんが(しかも神殿医療部門特製!)。

 おまけに神殿の共同浴場なんかでは、仲良くなった女神官さんとか巫女さんにオレンジの皮を漬けこんだオイルやハチミツを混ぜたリンスインシャンプーって感じの使い勝手のいい物とか分けてもらっちゃって全然問題なかったんだけどさ。


 ただ、その後のスキンケアが…ねえ。


 こっちの人は聞いても、洗顔後に特別な大したお手入れはしてないって言うから驚きよ。それでも白くてツルツルのお肌ってどういうことよ。

 聞いたのが神官・巫女さんっていう健康的かつ清貧な生活している人だから基準が違うのかもだけどさ。

 それでもいろんな人に聞きこんでみたところ、ローションもあるにはあったんだけど、どくだみやハーブをアルコールか水で漬けたハーブローションで、使わせてもらったら、潤いぷるぷる~じゃなくて、スッキリサッパリ! な物だった訳よ。


 それが嫌って訳じゃないけど、分けてもらったハーブローションにこれまた調理部門で分けてもらったオリーブオイルやら医療部門で分けてもらったカメリアオイルを混ぜて、なんとかごまかしてきたんだけどね。


 なんせ、一応私も日本人特有の肌理(きめ)細かい白い肌の持ち主なのよ。祖母も母もお肌のお手入れには結構煩くって、神宮寺家の女はみんな日焼けと美白には物心つく頃から気をつけるようになっちゃって。


 特に母親が何でもかんでも手作り志向で、それが仕事になっちゃったような人なんだよね。

 だから、肌だけじゃなくて食べ物や衣類まで自家製が当たり前で「健康とナチュラルな美しさはイコールなのよ」って気を遣われて育ったもんだから、髪だって染めたことないし、おかげで我が家は男も女も健康優良児ばっかりな上に、お肌もシミ一つなく、髪だってツヤッツヤ・サラッサラのストレートよ。


 ちなみに私はあご下で揃えたボブ。

 ちょっとクセがあるのか、くるんと内巻きなのがぷち自慢。


 …と、話はそれちゃったけど、そんな家庭環境で育ったせいか、美容品には結構気を使ってるのよ私。


 だから、神殿内で働きつつリサーチして見つけたいろんな物―――薬草園にいろいろ植わっているハーブやアロエベラ、医療院に結構ストックしてるドライハーブ、養蜂場で取れるハチミツや蜜ろう、調理部門で意外と揃っているオイル各種―――、この辺分けてもらっていろいろ作っちゃおうかな……って真剣に考えていた矢先のバザールでのグリセリン発見!


 そりゃ飛びつくに決まってるわよ。

 これで手っ取り早く保湿ローション作って肌の突っ張りとはサヨナラよ!


 って感じで、お金ぜーんぶ使って購入。


 叱られはしたものの、めげずに調理部門に行って、夜、調理場の片隅を借りていろいろ作業したのよね。



 ちなみに材料と作り方は以下の通り。


 煮沸したお水100mlちょっと、グリセリン10ml、これ混ぜるだけ!


 神殿のお水って、飲んでも何の問題ない湧水なんだけど、一応煮沸して冷ましたものをグリセリンと一緒に煮沸消毒して乾かした小瓶に入れてシャカシャカ振って、一番シンプルな保湿ローション完成!


 早速使ってみたら、毛穴にスーって入って肌が水分で満たされていく感じに「ほわ~」ってなっちゃったわ。


 これも何でもかんでも手作りしていたママのおかげよね。

 化粧水が出来たのは嬉しかったけど、ちょっと日本を思い出しちゃって、柄にもなくしんみりしちゃったわ。いかんいかん、還れないわけじゃないんだから、今を楽しまないと!


 保存料も何も入っていないから1週間くらいで使いきるサイズだけど、保湿のためなら作業も苦じゃないわ。医療院でドライハーブも分けてもらえる約束したから、その内、精油もどきを作ってもいいかも!


 …って感じで、保湿ローション作ったその後は、まるっと一週間、お爺ちゃんたちへのプレゼント作りに時間を使い、その後は、パターンを買ってもらうことになった服やパジャマの仕上げで時間を費やしたんだけど、それも終わって、神殿生活2カ月目も5週目を迎えた月の日。



 な・ん・と!

 グリセリン入り保湿ローションが、神殿の特許課に申請されちゃったの。


 毎週末調理場でローションを作っていたら、それに気付いたお婆ちゃんに1本あげたのよね。

どうやらそれを使って、この世界の化粧水とは違うテクスチャーを気にいったお婆ちゃんがお爺ちゃんたちに相談して申請したらしいの。


 実際に特許権が認められるまでは2~3か月はかかるみたいだけど、これが特許案件として認められると、『客人の恩恵(知識・技術)』として神殿の書物(あれよ、偉人列伝みたいなやつ)に名前と功績が記録として残されるし、発明した客人には特許料も入るって言うのよ。


 ええ~、私、もしかしてこちらの世界で億万長者に!?


 ドキドキしながら特許権に関して教えてもらったところ、そのサービス度?具合にビックリ。

 一般の人の特許申請と違って、客人が発明者の場合、客人がこの世界にいる内は特許権は客人の物である上、元の世界に還ったとしても再訪・移住の可能性も鑑みて、特許権発行後100年は客人本人の物として保留されるんですって。


 また客人がこちらの世界に再訪した場合は、不在の間の分の特許料が一括で支払われ、もし発明した客人がこちらの世界の住人となった場合は、100年の条件は無くなるものの故人となるまで特許権は約束され、直系の子孫(2親等内)がいる場合はその子孫に特許料の半額が1年分のみ付与されるっていう、客人にとっては大盤振る舞いなサービス。


 ちなみに、特許権が終了すると特許権は客人が現れた神殿の物(ただし50年間)とされ、市井に広めるためにかなりお安い特許料で開示可能となるとか。50年が過ぎると、お好きにどうぞってなるみたい。

 つまり発明されてから約150年後には当たり前の知識・技術ってことよね。


 だけど、特許内容がデリケートな案件(国の経済を揺るがすような物とか武器の類とか、高価な薬品とか)の場合は、神殿と国とで相談して、非公開になることもあるんですって。


 どちらにしても、神殿に入ってくる特許料は基本的に、次に現れる客人の為に使われるほか、神殿の設備費用にあてられたり医療院や民間の学校、孤児院なんかに寄付されるみたい。


 ここまで聞くと、やっぱりすごい儲かってる!


 って感じもするけど……さらに説明を聞いて納得というか脱力というか。


 ほら。この南神殿が代表格神殿で過去にも『客人の恩恵』を受けた場所だっていう割には、超鄙びていて(早い話がちょっとボロっちいのよ)るってことは……答えも簡単よね。


 

 グラナバス神の意向と言うかさじ加減と言うか。



 2~30年に一度現れる客人のほとんどが、ただの一般人ってことよ。


 過去の『客人の恩恵=特許案件』は結構多いには多いけど、一般人の発明する恩恵と言えば大きな物や特殊な物でも無いから、特許案件のアイテムもしくは技術料の価格自体がそんなに大きな額でもないってことよね。


 この世界の人口が北南両大陸あわせて2千万人にも満たないってを考えたら、個人が一生遊んで暮らすに困らない特許料は手に入れられるかもしれないけど、技術革命を起こして世界を変えるってほどの資金までは得られないし、何より、この世界の「今」の状況を見るに革新的な変化を起こすような、つまり高価格帯(・・・・)アイテムでの超爆発的大ヒット商品! となるような案件はそんなに無いってことね。


 それと、これまたグラナバス神の託宣で決められていることらしいんだけど。


 そのアイテムの用途にもよるけれど、原則、この世界の人が購入できる範囲の価格帯での販売と定め、特許料も販売価格の10%以下ってことらしいのよね。


 ちなみに。

 もし、実際にこの保湿ローションが世の中に出回るとなったら、1本120mlあたり800グラバがいいとこ。原材料がグリセリンと水だけって考えると、600グラバでもいいかも。

 グリセリンは医療品扱いだから、販売も町の医療院か商業ギルドにってことになって、詰め替えで売られるってことになるらしいわ。陶製の小瓶が1,000グラバくらいかな。


 女性1千万人の内、ローションが必要な人が200万人と仮定して16億グラバ売上、そこから原価、製造費、人件費、宣伝料、輸送量などなどいろいろ多目に差っ引いて8億の純利。そこから特許料を貰うとしても5%なら4千万グラバ。数字だけでみれば、私は一気に大金持ちだけど、ローションが年間に10万人くらいにしか売れなかったら? 私のところに入ってくるのはせいぜい2~400万グラバってところよね。


 逆に超高価格帯のアイテムだったら、数が出ない。

 私が火薬や武器を作れるような技術者だったら、国相手にかなり稼げるんでしょうけど、何せ一国でも無くなると大陸そのものが消滅するような世界だしね。その前にそう言った危険な物を生みだす客人はグラナバス神がNGだし。


 結局は、ほどほどに…って世界なのよね。


 そんな訳で、私の異世界超セレブ成りあがりの夢は断念だけど(まあ最初から考えちゃいないけどノリでね)、純粋に自分が作った物が認められるのは嬉しいわよね。それが元の世界での知識だったとしてもね。



 しかし、こんな単純な物で恩恵になるとは思わなかったなあ。

 そのことの方が驚きかも。


 それなのに、ライオスお爺ちゃんは「ふーむ、リオナさんの客人としての知識は、生活面で活かされるのかものう」って妙に考えこんじゃって。


 イルメルお婆ちゃんは「あなたの美しい肌の秘訣はこのローションだったのねえ」なんて、次の美容品を期待するかのように目をキラキラさせてたし。



 いえいえいえ。単なるマグレです!!


 お役に立てたら嬉しいけど期待しないでね~、と遠まわしに言ったら苦笑されちゃった。アレ?



 でも、せっかくの機会だから、イロイロ作ってみようかな~~。



 そうそう。

 ルイジールお爺ちゃんに関しては、予想通りの反応でしたよ。


 「リオナ(いつの間にか呼び捨てになってた)は凄いのう。恩恵をありがとのう。でも無理しちゃいかんぞう」ってニコニコ喜ぶだけだった。


 まったく単なる孫を溺愛する祖父そのものだよ、ルイジールお爺ちゃん。


 まあ、癒されるけどね!

 

 

 


 

ちなみに主人公リオナちゃんが作った保湿ローションは、実際に作れる超簡単保湿ローションです。(ご存じの方もいらっしゃると思いますが)

薬局で売ってる植物性グリセリン(液体)は大豆由来が多いかな~。

精製水とグリセリン10:1(5~10%)の割合で出来ちゃいます。


ご興味あったら作ってみるのも楽しいですよ~。

精油とかアロマオイルプラスして楽しむのも一つ。


粉末のグリセリンもあるけど、こちらはケミカルも多いので気になる人は避けた方がいいかも。


…と、こんな感じで、主人公は生活に根差した“イロイロ”な物作っていくと思います。

しかし、パンにはいつ辿りつくのか…あと2話くらい先かなあ。

いや、無理だ。5話くらい先かも…。まあゆっくりお付き合いくださいませ。

 

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