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【改定後投稿予定】客人の選択  作者: NINO
第一章 : 客人、情熱を注ぐまで
23/23

21.客人の回想、女子の正しい週末の過ごし方

 

ある意味、前回の悩み解消編?

 

 

 

 西 二月1週目土の日。

 

 何だかすごく長い1週間だった気がする。

 

 クガタチにやってきて、町の景色に感動したり、パミス夫妻に振り回されたり、マイホームゲットしたり、お金がっつり使ったり、パンの実情に打ちのめされたり、ヴィヴィアンに励まされたり、いろいろ作ったり……。

 


「うーん、神殿での生活もそれなりに濃かったんだけどなあ」


 朝のメインロードは、行商の馬車や買い物に向かう人でそれなりに賑わっている。

 そんな朝の通りを眺めながら工房を目指していた。今日の荷物はお弁当の入ったトートバッグに、蔦ハウスで作業して切り分けた室内履きのパーツが入ったエコバッグ1号。

 もちろん、出かける前にリンゴ酵母液の入った甕もしっかり振ってきた。木の日の夜に仕込んでから2日目になって、ちょっとだけリンゴジュースっぽい香りがして、ニマニマしちゃったわ。


 目標がたくさんあると健康的な生活になるものねえ……夜遅くに寝た割には、今日もしっかり6時には起床してやることを済ませることが出来たもの。


 (元の世界での朝は、毎日布団と時計と格闘だったものねえ。)


 以前の生活を思い出し、しみじみしつつ頭の中では今日の夜までのやるべきことをシュミレーション。夜にはヴィヴィアンが我が家にやってくるのだ。ちゃんとディナーの仕込みもしてきたけど、出来れば予定していることは済ませたいわ。


 工房には8時10分前に到着。扉を開けたら、予想外に人が多かった。

 どうも週末の土の日だけあって、メンバーも残業したくないらしく、いつもより早く出勤しているみたい。そうか、普段は結構残業してるってヴィヴィアンも言ってたものね。


 昨日と同じく空いたミシンの前に座って、エコバッグから室内履きのパーツを取りだしたけど、スリッパそのものはこの世界でもある物なので大して珍しくはなく、変に注目を浴びることがなかったことに一安心。昨日開き直っただけに大丈夫だと思いたいけど、昨日の今日で「それ見せて」はあんまり聞きたくないしね。

 

 でも「自分で室内履きを手作りする人がいるとは思わなかった」とか「神殿出身者って何でも手作りするの?」って声はあって、やっぱりちょっと変わってる子認定されたような気もする…それもどうなの?

 

 結局、どう転んでも普通じゃない認定なのね。あはは。


 始業時間になったらいつも通りにお仕事にシフト、今週はレース編みだけど来週からは刺繍を手伝いつつ午後からは小物作成なのよね。いつも通り、作業の手は休めず時折会話が入って居心地の良い職場。

 お昼になったらランチ。お弁当を持って向かった休憩室では何と一人だったわ! 後で聞けば、土の日は次の日が休みということもあって、土の日のお昼はみんな手抜きするんだとか。

 ちょっと寂しかったけど、自分の作業がさくさく進められて良かったかも。


 それに今日のお弁当は相も変わらずなピタサンドで、具は変えたけどこれと言って何の変哲も無かったからね。ちなみに変えた具は、鶏ももを叩いて作ったミンチのハンバーグに、トマトとズッキーニのミニオムレツ、リンゴジャムもどき(昨日の残り)。

 うーん、そろそろ牛肉・豚肉も入手せねば。ワインビネガーが入手出来ればマヨネーズも出来るし、パンが作れればパン粉を作ってコロッケなんかもありだよねえ。

 うう、お昼食べてるのに違う料理を妄想するって侘しいわ…。

 

 そうこうしながらも、お昼の休み時間をたっぷり使って室内履き作りの続き。そしてそのまま午後の勤務が始まって、何事もなく夕方4時で早アガり。

 

 寄り道せずに帰宅して蔦ハウスでお料理…の前に、室内履きの仕上げ。

 さすがにただ縫うだけのバッグと違って手作業が入る工程が多い分、工房での時間だけじゃ間に合わなかったのよ。


 今回作ったのは、元の世界でいう<バブーシュ>。モロッコ風スリッパって言われている物。それを2足。

 外布(表地)は小花柄の生地、内布(裏地)は1足はえんじ、もう1足は濃い茶色でどちらも起毛タイプの触り心地のいい生地を使った、冬用室内履き(ルームシューズ)の完成。

 

 この世界、やたら花柄が多いのよね。チェックとかストライプの方が染色とか織とか簡単そうなんだけど…今の流行りなのかしら?



「よし、完成。履き心地は…おぉー、いい感じ。リオナちゃん天才っ!」


 ヤバい、ママが乗り移った!


 マイホームで一人だと言うのに、つい条件反射でキョロキョロしちゃったわ。工房じゃなくて良かった。ホッとしつつも「なるほど、ちょっとママの気持ちが分かったわ」と一人頷く。


 まあそれはさておき。このバブーシュの完成を見込んで、今朝30分ほどかけて1階のほとんどを拭き掃除しておいたのよね。蔦ハウスの1階室内床は濃いブラウンの木製床で、引越しの日にパミス家のメイドさんがワックスかけてくれたから艶々。



「やっぱ、日本人は土足に向いてないのよねえ」


 神殿でも靴生活だったけど、やっぱりと言うか、かなり違和感あったのよねえ。

 ずっと靴生活は嫌だったから、クガタチに来てこの蔦ハウスの床を見た時に決心したのよ。早々に室内履きを作ろうって。

 それからも家にいる時は靴は極力脱いでたんだけど、それはそれで足が冷えるから靴下2枚重ねとかしてたんだけど。バブーシュ作成は優先順位高かったから完成して良かったわ。1週間かかったけど……ま、ヨシとしましょ。


 うんうんと頷きながら内布が茶色のバブーシュを履いて必要以上に歩き回る。中芯を革にしたのは正解っぽいわ。適度に弾力も厚みもあるから保ちも良さそう。うーん、これはあと何足か作りたいわ。

 型紙もあるし、材料もたっぷりあるし、来週前半のノルマだな~ってスケジュールを考えていたら閃いた。



「あ、これって【感謝祭】のギフトにちょうどいいかも…」


 うん、これなら手作り出来るし、あげても喜ばれるんじゃないかしら?

 そうすると、お爺ちゃん2人にお婆ちゃん、パミス夫妻にヴィヴィアン…7足か。でも、ちょっと早いけどヴィヴィアンには今日あげてもいいかな。ちょうど我が家にくるし、我が家は今後土足禁止ってことにしたいし。

 他にお世話になった人…には、パイとかでいいかなあ? うん、キリがないしそうしよう。



「とするとバブーシュは一日1足として…うん、他の作業も出来るし感謝祭には間に合う」


 色や柄はどうしよう…なんて考えながら、キッチンに移動。そこでふと気づく。エプロンも作らなきゃだ…うん、これは来週、お昼休みのノルマだわ。うわあ、結構忙しいかも。


 でもコレって楽しい忙しさよね。

 

 

 

 + + +

 

 

 

 さてさて、バブーシュの履き心地に浮かれるのもいいけど、お料理もちゃんとしないとね。


 朝仕込んでおいた鍋の中を見てみれば、いい感じにスープが具に沁みている。今日のポトフは手羽肉と昨日買った大かぶ(400グラバとお高いけど、すっごく大きいの。キャベツくらいのサイズなのよ)と人参やじゃがいもがゴロゴロ入った物。


 時計を見れば今は5時半。

 ヴィヴィアンがやってくるのは6時半頃って言ってたから、今から火を付けても弱火なら大丈夫かな。こういう時、ガス代を気にしなくていいのって便利よね。

 あとは、彼女が食べたいって言ってたピタパンにその具材や、今日のメニューと考えていた料理作り。


 ヴィヴィアンに好き嫌いを聞いたところ「何でも食べられるわ」って返事を信じて、今日のディナーは、彼女リクエストのピタサンド3種に、手羽肉と野菜のポトフ、きのこのマリネ、ミルクと刻みバジルを加えたふっくらオムレツ、サラダ代わりに茹でたブロッコリーとトマトを冷やした物にオリーブオイルとカッテージチーズを和えた物。

 うーん、すごい野菜三昧。ヘルシーだわ。デザートはピタサンドのリンゴジャムもどきがあるから様子を見て、何か作ろうかなって感じ。


 そうそう、きのこと言えば、この世界のきのこ変わってるのよね。

 形がすごく妙とか味が変とか毒が入ってるとかじゃなくて、ビックリするくらい大きいの! この世界…って言うか、神殿やクガタチ周辺だと、きのこって買う物じゃなくて森に採りに行く物なんだとか。

 初めて見た時は「すご、でっかいしめじ!」って本気で驚いたわよ。だって大きい物で500mlのペットボトルサイズくらいあるのよ!? そりゃ驚くわよ、変な声も出るわよ。


 まあ食べる部分が多い上に、その辺にわっさわっさ生えてるから庶民にはありがたい森の恵みなんでしょうけど…。


 昨日、例の食料品店に行ったら、今度こそ女店主のメリッサさんがいて、蕪とブロッコリーを買ったらオマケしてくれたの。『もしかして、昨日の夜、大量に買い物してくれたお嬢さんかい?』って。

 メリッサさんはこれぞ「The 女将さん!」って感じの貫録のある女性で、私のことが分かったのも、昨日の店員が付けた売上帳に夕方一人で買いに来た若い女性客って私のことが書かれてたみたいなの。



『結構買ってくれたみたいなのに、しかも2回もうちに来てくれたってのに重い荷物を持たせて帰らせちまって悪かったねえ。これからはこんなことが無いようにうちの新人にはちゃんと言っといたから、また来ておくれよ』


 って、謝られちゃったのよね。


 別に悪いことされたわけじゃないから『気にしないでください』って言ったんだけど、あの日も奥に呼びかければ他に店員もいたから配達だって出来たはずなんだ…ってことで、大した物じゃないけどって、きのこをザルごとおまけしてもらったのよ。

 これぞ「きのこの山」って思ったわ。またしてもエコバッグが大活躍したわ。


 初めて行った時は、サービス的にどうなんだろう? って思ったけど、マーサ副主任がオススメするだけあって、やっぱりいいお店だったわ…って私も大概ゲンキンよね。

 

 いただいたきのこ(大しめじ?)をザクザク切って、熱したフライパンでオリーブオイルと刻んだニンニクを馴染ませた中に投入。フライパンからじゅわっと大しめじの独特の香りが漂う。うーん、採れたて新鮮ってこともあるだろうけど、いい香り。


 下拵えしておいた料理もほぼ完成し、あとはヴィヴィアンが来てから火を入れればすぐに食べられるって状態にして、そこでハタと気が付いた。



「そう言えば…これってアレだ。夏の終わりの女子会の代わり…リベンジになるのかしら?」


 この世界にやってきたのは7月末の金曜日。

 正確には7月27日の金曜日で、この世界だと南三月1週目月の日だった。


 その元の世界での月末・週末の夕暮れ時。女子会でイタリアンディナーを楽しみに歩いていた時に、私は何の因果か世界を越えたのだ。



「みんな元気かなあ…って、元気なんだろうなあ」


 ボウルの中に割りいれた卵をホイッパーでかき混ぜながら呟く。

 そして会う予定だった友人たちの顔を思い出した。


 (私がいなくても女子会はなされたんだろうなあ…問題なく。)


 神殿で学んだグラナバス神の采配が真実だとすれば、『客人』である私がこちらにいる間も、向こうでは私が“ぼんやりと”いることになっている。それは考えようによっては一種のホラーだけど、人間一人の不在を辻褄合わせようと思えば仕方のないことどころか、今の自分の状況を考えればありがたい気遣いでもある。


 それに向こうに心底還りたいのであれば、私自身が神殿でグラナバス神に願えばいいだけのことだ。

そのことを選ばなかったのは自分自身、現地で稼ぎながら楽しむ海外(異世界)生活を選んだのも自分自身。


 そこに後悔が無いのだからしょうがない。

 何も女子会がしたいという理由だけで還るつもりはない。


 何より、今日は自慢の蔦ハウス(マイホーム)で、新しい友達との女子会なのだ。


 (だけど…よもや異世界で女子会リベンジとは……感無量だわ。)


 自分の脳天気とも図太いとも言える順応性の高さに、改めて感心してしまう。



「まあ、それが私だしね。今を楽しまないと!」


 そう。それも私なのだ。いつ還るか分からない異世界生活。とことん楽しまないと損だわ。

 それにせっかくの今日の女子会。ヴィヴィアンには聞きたいことがいっぱいある。明日はお休みだし夜更かししたって大丈夫。何ならうちに泊まっていけばいいのだ。2階の私の寝室にしかベッドは無いけれど、パミス家からやってきたベッドのサイズはダブル。

 ヴィヴィアンさえ嫌じゃなければ一緒に寝たっていいわけだもの。


 そうすれば、山ほどある聞きたいことも今日の夜でかなり消化されそうだわ。


 この世界で最新のコスメや、感謝祭のこと、商業都市サカイのこと、ヴィヴィアンの婚約者の話…聞きたいことは尽きないのだ。当たり前よ。女子のお喋りに条件なんて不要だけど、美味しい料理とお酒があれば尚のこと盛り上がる。



「そうだ、倉庫のワイン、ボトルに入れ替えとかないと!」


 思い出したのは、プリムラ初日から外食した時にワインをぐいぐい飲んでいたヴィヴィアンの姿。

 綺麗なお嬢様然とした彼女は結構酒豪なのだ。私は、さすがに働き始めたばかりだと白ワイン一杯に留めておいたけど、あの時、ヴィヴィアン一人でボトル1本空けてたしなあ…。


 (いや、一緒にご飯を食べに行った連日連夜そうだったわ…。)


 今日は休み前だからもっと飲んだりして…うちのワイン樽だけで足りなかったらどうしよう。まだ4リットルはあるから平気だよねえ? 私も飲むしなあ…。


 うーん、と唸りつつ、向かったのはキッチンの食料庫。

 玄関ホールの納戸じゃないけど、蔦ハウスのキッチンの一部は3畳ほどの広さの小部屋。奥行きと高さのある棚が作りつけられた食料庫なのよ。夏でも温度の低いそこには袋詰めされた麦粉とか野菜とか保存食品を収納しておく場所で、私もワイン樽や大きな野菜はここに収納してあるの。



「うーん、ワイン樽ごと出す…ってのは止めとこ。ほんと全部飲みそうだもんヴィヴィアン」


 まあ、人のことは言えないんだけどね、私も。

 食料庫ならワインも冷えてるし、都度々々ボトルに詰め替えた方が女子会には相応しいわよね。ワイン樽置いたら一気にただのおっさん飲みだわ。


 うん、女子力がますます減ってくわ。やめとこ。


 容易に想像できたオヤジ飲みな女子2人の姿に焦りつつ、料理作りに精を出すこと1時間。そろそろかなあ、なんて思ったところでカランカランと玄関ホールからドアベルの音が聞こえた。

 時計を見れば6時半ジャスト。おお~、ヴィヴィアン、時間ピッタリ!

 

 蔦ハウスのグリーンの玄関扉には、私の入居に合わせてパミス家の執事さんがドアベルを取りつけてくれたのだ。扉の上部からぶら下がった真鍮の棒の木製の握り部分を下に引っ張ると、内側のベルが鳴る仕組み。

 初めて見た時は感動して『執事さんすごい!』と喜んだものだ。当然、メリア夫人に『うちの執事は優秀なのよ~』とドヤ顔されたけど…。


 そんなことを思い出したのも、自分以外の人によってドアベルが鳴らされたのが初めてだからね。


 ちょっぴりドキドキしながら、バブーシュを手にいそいそと向かって玄関扉を開ければ、満面の笑みを浮かべたヴィヴィアンが。美人っていつ見ても美人だわ。ドキドキが違う種類のドキドキになりそうよ。



「来ちゃった! 素敵なお家ね、リオナ」


「いらっしゃい! 待ってたわ、ヴィヴィアン」


 私も満面の笑みだ。


 ……って言うか、何だ、このこ恥ずかしい小芝居じみたやり取り。

 まるでカップルなりたての彼氏彼女の初自宅訪問みたいじゃないの。


 嬉しいのは確かだけど、自分の妄想に照れるよりもちょっぴりげんなりしたのは誰にも言えないわ。

 

 

 

 + + +

 

 

 

「マダム・メリアから聞いてたのよ。素敵なお家だって。ほんと広くてかわいい~」


「でしょ、でしょ! 家探しの時に私も一目見て気に入ったの」


 玄関ホールからリビングへと移動するなり、ヴィヴィアンは室内を絶賛。

 うんうん、褒めてくれて嬉しいわ。私の蔦ハウス!


 リビングの中央で家の中を物珍しそうに見るヴィヴィアンは、長身に似合うオリーブ色の膝丈ワンピースを着こなしてゴージャスな金髪はハーフアップにしている。すらりとした長い脚が動く度に、柔らかなスカートの裾がふわりと動き、履いたばかりのバブーシュも妙に似合っていて、まるで元の世界のハウスカタログに登場するモデルさんのようだわ。


 玄関ホールでコートを脱いでもらった後、手渡したのは当然作ったばかりのバブーシュよ。


 ヴィヴィアンの手荷物を預かりながら「本当は感謝祭に渡すつもりだったんだけど…」とプレゼントすると、いたく感動されてしまって思い切り抱きつかれてしまった。

 しっかり「作り方教えてね」とまで言われて。


 「我が家は土足禁止なの、慣れてくれると嬉しいわ」と言えば「了解、あらコレすごく履き心地いいのね」と、文化の違いにそれほど違和感を感じられることなく済んだのは良かったわ。

 

 そしてやっぱりヴィヴィアンはやっぱり女子力高し。

 


「ありがとう。うわあ、お花! かわいい!」


 預かった手荷物を返そうと思ったら「あ、それお土産ね」と言われ、紙袋を開いてみればデージーの花。開いた物や蕾が幾つもついていて、ちゃんとお世話すれば長く楽しめそう。

 おおう、女子にお花を貰うだなんて…うーん、元の世界の友人ならお家で女子会の時は、人気のチーズやワインボトルが定番だったのに、これが男(ヴィヴィアンの場合は婚約者か)のいる女子なのか、うーん、参考にせねば。


 しかし、渡されたデージーの入った紙袋、結構重いんだよね。何せ根っこ&土付き。

 もう慣れたけど、こっちの花屋さんって切り花よりも土がついた物の方が多いんだよね。いわゆる「苗ごと」かな。大体の人が、気にいった花やその苗を買って家の花壇や庭に植えたりするみたい。鉢植えは安いけど別売り。

 だからプレゼントなんかでも、土の付いた根っこごと大き目の紙に包むか、紙袋に入れた物が多いの。ヴィヴィアンがくれたのもそれ。庭の隅に空いた鉢植えがあったなあ、それに移し替えてリビングに置くのもいいかも。



「まだリビングのソファが届いてないの。ご飯食べたりお酒飲んだりって、ダイニングテーブルでもいいかな」


「もちろん! 十分よ。それにキッチンから近い方がリオナも楽でしょ。それにこのテーブルも素敵じゃない」


「ありがとう。そうなの、南2番通りの東側に入ってすぐの中古家具店…『ラドガ家具店』だったっけ? そこでお家に合わせて買ったんだけどすごく気に入ってるの」


 ヴィヴィアンが褒めてくれたダイニングテーブルは何気に自慢の一品。

 何せテーブルの天板も脚も分厚くて頑丈。床に合わせて濃い色味の木材で出来ていて、よくカフェとかで見る木製の大きなテーブルって感じ。だけど、自然に出来た割れとか節とか穴があるドリフトウッドではないから、ちょっとした作業なんかにも向いてるのよ。

 しかも、天板の一部を持ち上げて仕掛けを動かせば6人掛けが8人掛けになる優れ物。

 中古家具店で見つけたまさしく掘り出し物、揃いの椅子6客と合わせてお値段なんと6万グラバ!!(11万をそこまで下げさせたのはメリア夫人だけどね…)


 家の賃料と同じってどうなの? と思わなくもないけど、それだけの一品ってことよ。でも、他のテーブル・椅子セットも中古で2万とかしたから、このテーブルセットが割と高価だとしても、クガタチは賃料が一番相場が低いってことかもね。それにこういった物は長く、それこそ何十年も使う物だし。



「ああ、あそこね。結構オシャレな感じの家具多いわよね。私もあそこで買い物したたことあるわ。うん、いい感じだわ。でもこのテーブル、中古でもちょっと高そうな感じだけど? 」


「あー実は、メリア夫人が一緒だったから…その……」


「………すごくよく分かったわ。とんでもなく値下げしてもらえたのね」


「知ってる?」


「ええ、とてもよく…」


「…………」


「…………」


 どうやらヴィヴィアンもメリア夫人のあの妙に迫力のある値引き交渉を知ってる様子。


 2人して見つめ合った後、プッと吹き出したけど、いやほんとアレは凄いんだもの。

 それに「メリア夫人が一緒」だけで通じるこのありがたさ!!

 これも酒の肴のネタとなりそうね。



「とりあえずは座って? 先にお茶用意するけど、ハーブティー平気?」


「ああ、良かったら私も手伝うわ。お料理は出来ないけどお茶入れるくらいなら大丈夫よ」


「でも、ヴィヴィアンは仕事アガったばかりなのに」


「何言ってるの、リオナだって一緒でしょ。お料理作ってくれてるんなら労働時間は同じよ」


 それに…と、ヴィヴィアンがトートバッグ(彼女も今やトートユーザーなのだ)から取り出したのは、ティーポットカバー。



「うふふ、リオナじゃないけど感謝祭のギフトと、リオナが町に引っ越してきた来たお祝いも兼ねてのプレゼント。私の手作りなんだけど…早速使ってみてくれる?」


「ええー、かわいい! すごく凝ってるのね。素敵! ありがとう、ヴィヴィアン」


 さすがプリムラの小物・素材部門リーダー。

 渡されたティーポットカバーは、表側は濃いグレーに白の糸で細かい草花の刺繍が入った面が4面。ティーポットに被せるとアラビアの宮殿の頭頂部みたいな丸みが出る。中に詰めた綿が落ちないようにとの工夫なんだろう、1枚1枚をつなぐ部分は光沢のある赤いリボンでパイピングされている。ヘリも同様。中を見ると裏布は白に薄いピンクの小花柄。

 ポット敷きも同じく表裏が同じ構成だ。ほんとに素敵。これよ! これぞ女子って感じよ!


 私がじーんと感動しているのを見て、何を思ったのかは分からないけど、ヴィヴィアンが照れくさそうに「ほんとはね。リオナと仲良くなれただけで嬉しかったの。それなのにお家にお邪魔出来るなんて思ってなかったから舞い上がってプレゼント作り頑張っちゃったの」と言う。



「そうなの?」

 

「ええ、女友達のお家にお邪魔するのって何年ぶり? って言うくらい、久しぶりなんだもの。すごく嬉しい。もうココに来られただけで楽しい!」

 

 はしゃぐヴィヴィアンを前に、キャビネットからティーセットを取り出しながら首を傾げる。ヴィヴィアンのように美人で快活な性格なら、いくらでも付き合う友達も多そうだけど…。それに何年ぶり、って。

 


「プリムラのメンバーのお家にお邪魔したりしないの? サカイからのメンバーだっているでしょう?」

 

「あー、同じ移動組のカロルは、今、小物作り担当のキリエと刺繍担当のシエラと3人でルームシェアしてるのよ。あの2人はクガタチで雇用が決まった人なの。リオナも知っている通り、別に仲が悪いとかじゃないのよ? だけど、私、これでも小物部門のリーダーだからプライベートで会うとちょっと気遣われちゃうの。後のメンバーも、クガタチ雇用の人が多かったり年齢層が少し上だったり既婚者だったりして、お休みの日に出かけるとなるとちょっとね…」


 さらに続けるヴィヴィアン曰く、サカイ勤務時は働き始めたばかりでお金もなくて当時の同僚とルームシェアをしたり、周囲もそんな感じだったから友達の家に遊びに行くということ自体があまり無いことだったんだとか。


 「高等学校時代の友達は?」って聞いたら「みんなお嬢様なのよ」と返答が。

 なるほど、なんとなく分かったわ。ヴィヴィアンもサカイ支店に勤め始めた時は、実家から半分勘当状態だったって話だもんね。高等学校に通ってる女子なんて、ほとんどが貴族息女か裕福な家庭の子女だもの。そういう友人のお家イコールお屋敷よね。生活することと技術を高めることに必死になって働いている時に、そんな所に気軽には遊びに行けないわ。



「あー、そっか。うん、何となく分かったわ。」


「そうなのよ。察してくれて助かるわ。…まあ、正直なところ、ここ数年まともな友達付き合いが少ないって言うのは本当な訳だから、言えば言うほど友人関係が薄い現実を暴露してる感じがして嫌なんだけどね」


「そんなことないでしょ。ヴィヴィアンが嫌な性格だったり意地悪な人だったら私は仲良くなってないと思うわ。今は交流が薄いかもしれないけど、ヴィヴィアンの昔からのお友達がヴィヴィアンを嫌ってるって言ったわけでも無視したわけでもないでしょう?」


「ええ、まあ。さすがにそれは無いわ。手紙のやり取りくらいは今も続いているもの」


「でしょう? それに、知る人のいないクガタチに来て責任ある立場で仕事頑張ってるヴィヴィアンは凄いと思う。もちろんサカイから来た人はみんな同じ条件だけど、それでもヴィヴィアンは役職が付いている中で一番若い。年齢の若い上司って気遣いが大変だって知ってるもの」


「リオナ…ありがとう! そう言ってくれて…。まあ、私は仕事が楽しくてクガタチ行きを選んだ訳だし、サカイで努力した結果をマダム・メリアに認めていただけたから今があるって思って頑張れるし、泣き事言っても主任や副主任に励ましてもらえるから、幸せなんだけどね。あの2人も面倒見いいから、私も甘えてしょっちゅう遊びに行ってるの」


 ヴィヴィアンは明るくそう言うものの、リシェル主任にはお子さんがいるし、マーサ副主任は既婚者だから、いつもいつも休日を一緒にという訳にもいかないだろう。

 彼女が誰よりも残業したり仕事を頑張っている理由が、なんとなく分かった。


 そして話を聞いて、本音を言えばちょっとホッとした。


 いつも明るいヴィヴィアンにも悩みはあるんだって知って、それを喜ぶつもりは一切無いけど、私も彼女も生まれ育った世界が違っても同じ人間なんだなって思ったから。


 そうなのよね。生きていれば誰だって大なり小なりリアルな悩みや思い考えることがあるのが普通よね。大事なのは、それを解消すべく頑張って生きること。

 パンのこともお金のことも…私は自分が生きるのに困らないレベルのちょっとしたことでさえ思い悩んでは立ち止まって、解消したりそこから先に進むのに時間がかかる。開き直れたらまだマシで、どこかでグズグズ気にしてる。でもヴィヴィアンは、悩みがあっても自分に出来ること(仕事)に誇りを持ってさらに歩みを止めることなく進みながら解決していこうって人。


 彼女は私がお見本にしないといけない素敵な人の一人で、そんな素敵な人と出会えて仲良くなれたのは奇跡みたいなラッキーなんだって、この時真剣に思ったわ。


 だから私が彼女に伝える言葉は「頑張ろうね」でも「仲良くしてね」でも無い。



「……私、ヴィヴィアンに出会えて良かった。クガタチでヴィヴィアンに会えたのがグラナバス神からの私へのギフトの一つなのかも」


「何よ、急にそんなしみじみと真面目な顔して。リオナってやっぱり変わってる! でも…でも、私だってリオナに出会えたのはグラナバス神からのギフトだって思ってるわよ?」


「……ヴィヴィアン」


「……リオナ」


「……ぷっ、私たちちょっと気持ち悪いわ」


「っ、何よ、リオナが言い出したんじゃないのっ!」


 まだお酒も飲んでないのに、またまた恥ずかしい小芝居。

 2人してお腹を抱えて笑っちゃったわ。


 いや、自分でもこんなクサイセリフが出るとは思わなかったけど、素直にそう思ったのよ。それに、いつまでもシリアスなのが似合わないのも私たちだと思ったの。

 きっと私もヴィヴィアンもこれからいろんなことを思ったり悩んだりするかもしれないけど、その度にこうやって2人で話して楽しんで解決していける気がする。



「うん。今日はたっぷりお喋りしよう。料理もお酒もたっぷりあるから女子会楽しもう」


「女子会…そうね、女子会ね! いい響き! ええ、ぜひ楽しみましょ! 」

 

 あはは、やっぱり女子会という言葉はこちらには無かったか。


 だけど、女子の楽しいことへのアンテナはいつでもどこでも敏感。すぐに共通の楽しい合言葉になる。この女子会を楽しみにしていたのは私だけじゃなく、ヴィヴィアンもってこと。

 本当にグラナバス神に感謝よね。こんなに素敵な女の子と出会えて、仲良くなれたんだもの。うん、これはガッツリ女子会ナイトを楽しい物にしなきゃ!


 「さて、まずはお茶ね。やっぱりヴィヴィアンに淹れてもらおうかな」とティーセットを渡せば「任せて」と楽しそうな返事が。すぐに「これから我が家に来たら、自分のことは自分でしてもらうかもよ?」言えば「もちろんよ。でも料理はよろしくね」と、綺麗なウインクが。おおう、それは私には真似できない高等テクニックだわ。

 きっとこれからしょっちゅう我が家に来るであろう友人に下手な気遣いやお客様扱いはNG。

 お茶を飲んだら料理とお酒の前に、家の中を簡単に説明して、どこに何があるか覚えてもらいましょう。


 

 こうやってクガタチに来て初めての週末の夜は、思わぬ女子会リベンジで盛り上がったのよね。


 この日のディナーは、ヴィヴィアンに大層喜ばれたの。食べ始めてから「リオナ天才よ! すごい! 王都のレストラン並みだわ!」と絶賛の嵐。うちの父とは違うタイプの褒め殺しでちょっぴり気疲れ。


 お喋りの内容は尽きることが無かった。料理を口に運びながらの序盤は、私からの質問責め。王都やサカイで流行りのファッションやコスメの話。髪型の話。プリムラの話。

 途中、気になっていた革職人のことを聞けば、パミス商会の他の都市にある支店にはいるとのこと。わざわざクガタチで作らなくても、週2回はある定期便でそっちからまわしてもらえれば、クガタチの購買層には事足りるそうな。なるほど。


 他にも食料品店の話を聞きたかったんだけど、何せ料理が出来ないヴィヴィアン。

 早々に「ごめん、料理関係は私に聞いても無駄になるわ」とのお答えが。


 うーむ、ここは一つ、コイバナかしら? いや、下手に聞くと私までつっこまれるわ。それはもうちょっとお酒が進んでからにしよう。なんて画策してたら「婚約者の話はしないわよ」とニヤリと笑うヴィヴィアン。あれ? 顔に出てたかしら。

 「でも、お酒も美味しいし面白い話聞かせてあげる。この間、セルジュとカロンが…」なんて人のコイバナは女子会のスパイス。もちろん身を乗り出して聞いちゃったわよ。


 料理も食べ尽くして、お酒もたくさん飲んで、甘い物欲しくてリンゴジャムとカッテージチーズをツマミにまたお酒を飲んで…。

 結局泊まることになったヴィヴィアンときゃあきゃあ言いながら一緒のベッドで寝て…。



 グラナバス世界での第1回女子会 in 蔦ハウス。


 女子のお喋りは時間が許す限り楽しく盛り上がったけど……基本よね。


 

 これぞ、女子の正しい週末の過ごし方ってやつだわ。

 

  

 

 

次回投稿は明後日(3/28)8時を予定。

予定がズレそうであれば、活動報告にてinfoします。

あとはパン道突っ走ります!(たぶん)

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