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【Amazonで発売中!】妻殺しの冤罪で七年間独房に閉じ込められた俺、脱獄後にダンジョンガチャで復讐を果たす  作者: 月瀬 リュカ


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25/41

第25話 生きた証人

 老人を連れ、旧市街の暗い路地を進む。

 《隠密》で俺自身の足音は消せる。

 だが、老人の音までは消えない。

 傷めた足を引きずるたび、革靴が石畳を擦った。

「もっと静かに歩け」

「これ以上は無理だ……」

 老人の呼吸は荒い。

 排水路から脱出した直後だ。

 地下で骨の魔物に足を掴まれ、石橋から落ちかけた。

 年齢を考えれば、歩けているだけでも不思議ではある。

 それでも、立ち止まるわけにはいかない。

 墓地へ入った外套の男が戻らなければ、クロイツ家は異変に気づく。

 この老人の家にも、確認の人間が送られる可能性がある。

「家には戻れんぞ」

 老人が小声で言った。

「分かっている」

「では、どこへ行く」

「黙ってついてこい」

 老人を生かしておく必要がある。

 七年前の夜を知る証人。

 クロイツ家の兵士が金属箱を運び込んだことを、自分の目で見ている。

 家宰の顔も覚えている。

 だが、こいつを信用しているわけではない。

 金を受け取り、七年間も沈黙していた男だ。

 自由にすれば、再びクロイツ家へ売られる可能性もある。

 俺は人通りのない道を選び、古い町並みを抜けた。

 やがて、一軒の建物が見えてくる。

 窓は割れ、看板は傾いている。

 七年前まで、マリエルと暮らしていた店だった。

 裏口から店へ入った。

 老人が薄暗い店内を見回す。

 空になった棚。

 埃を被った台。

 壁に残された古い染み。

 老人の表情が変わった。

「ここは……」

「地下へ下りろ」

「待て。この店は、七年前に――」

 俺は老人へ視線を向けた。

 包帯に覆われた顔を、老人が見つめる。

「妻が殺された店……」

 老人の声が震えた。

 視線が、俺の火傷へ移る。

 そして、懐に収めた髪飾りの包みへ向いた。

「まさか、お前は……」

 鋼鉄の剣を抜いた。

 切っ先を、老人の喉へ向ける。

「俺の名前を口にするな」

「生きていたのか」

「聞こえなかったか」

 剣先を近づける。

 老人が息を呑んだ。

「名前を口にするな」

「……分かった」

「地下へ行け」

 老人は逆らわなかった。

 床下へ続く扉を開け、狭い階段を下りていく。

 マリエルへの手紙を見つけた地下室。

 空になった金属箱の置かれていた場所だ。

 俺は老人を壁際へ座らせた。

 生活魔法で水を生み出し、足首の傷を洗う。

「なぜ治療する」

「お前を死なせないためだ」

「私を許すのか」

 包帯を強く巻く。

 老人が痛みに顔を歪めた。

「許すわけがない」

 俺は老人の目を見る。

「お前は金を受け取った」

「……ああ」

「俺が独房へ閉じ込められている間も、毎年受け取った」

「断れば殺されると思った」

「最初の一度は、そうかもしれない」

 包帯を結ぶ。

「二度目からは違う。お前は自分で沈黙を選んだ」

 老人は何も答えなかった。

 俺は硬焼きパンと水を渡した。

「食え」

「許していないのに、食べさせるのか」

「お前には、生きたまま証言してもらう」

 老人がパンを握り締める。

「それが終わるまで、勝手に死ぬことも許さない」

 地下室に残っていた古い椅子を、老人の前へ置いた。

 俺は剣を膝に載せて座る。

「七年前のことを話せ」

「地下で話したとおりだ」

「最初からだ」

 老人は俯いた。

 しばらく黙ったあと、ゆっくり話し始める。

「事件から三日ほど経った夜だった」

「マリエルが殺されてからか」

「ああ」

 胸の奥が冷える。

 老人は俺の顔を見ようとしなかった。

「クロイツ家の馬車が墓地の裏へ来た。紋章は布で隠されていたが、私は以前にも同じ馬車を見ていた」

「乗っていたのは?」

「三人だ。兵士が二人。それと、クロイツ家の家宰」

「間違いないのか」

「間違えるものか。町の式典で、何度もヴァルド様の隣に立っていた男だ」

 老人は当時の光景を思い出すように目を閉じた。

「家宰は金属箱を地下へ運べと命じた。中身を見るな。誰にも話すな、と」

「誰の命令だと言った」

 老人の唇が震える。

「若様のご命令だと」

 若様。

 クロイツ家の家宰がそう呼ぶ相手は限られている。

「ヴァルドか」

「名前までは言わなかった」

「だが、お前はそう思った」

「……ああ」

 直接聞いたわけではない。

 それだけでは、ヴァルドの命令だった証明にはならない。

 だが、クロイツ家の家宰が、事件の直後に証拠を墓地へ隠した。

 それを証言できる人間がいる。

「箱を置いたあと、何があった」

「家宰から金貨二枚を渡された」

「毎年の金も同じ男からか」

「最初の三年は、家宰の部下が持ってきた。そのあとは、墓地の正門近くに置かれるようになった」

「受け取った証拠はあるか」

 老人がわずかに顔を上げた。

 答えない。

 俺は剣の柄へ手を置いた。

「あるんだな」

「……一枚だけだ」

「何を残した」

「支払い票だ」

 老人は観念したように息を吐いた。

「毎年、金貨と一緒に小さな紙が入っていた。墓地維持費と書かれ、クロイツ家の印が押されていた」

「なぜ一枚だけ残した」

「私が口封じに殺されたときのためだ」

 自分を守るための証拠。

 罪悪感から残したわけではない。

「どこにある」

「私の家だ。寝台の下の床板に隠した」

 老人の家には、すでにクロイツ家の人間が向かっている可能性がある。

「ほかに知っていることは」

「あの二人の兵士のうち、一人は顔に大きな傷があった」

「今もクロイツ家にいるか」

「分からん。だが、家宰なら今も仕えているはずだ」

 家宰。

 七年前の箱を運び込んだ男。

 現在もクロイツ家の中枢にいる可能性が高い。

 ヴァルド本人へつながる、生きた手がかりだ。

 俺は店に残されていた紙とインクを出した。

 老人の前へ置く。

「今話したことを書け」

「供述書を作るのか」

「日付も書け。お前の名前と、墓地の管理人だった期間もだ」

「これを書けば、私は殺される」

「書かなくても殺される」

 外套の男は、老人を地下で殺そうとしていた。

 クロイツ家にとって、こいつはすでに不要な人間だ。

「それとも、もう一度奴らを信じるのか」

 老人は返事をしなかった。

 震える手でペンを握る。

 紙へ文字を書き始めた。

 事件から三日後。

 クロイツ家の家宰と兵士二人が訪れたこと。

 金属箱を地下へ隠すよう命じられたこと。

 家宰が「若様の命令」と口にしたこと。

 毎年、口止めの金貨を受け取ったこと。

 そして今夜、箱の中身を処分するよう命じられたこと。

 老人は何度も手を止めた。

 それでも最後まで書き、署名する。

 俺は内容を確認した。

 老人の右手親指へインクをつけ、署名の横へ押させる。

《復讐対象に関する証拠を獲得しました》

《証拠:共同墓地管理人の供述書》

《証人の生存を確認しました》

《証拠価値を確認しました》

《復讐達成率を再算定します》

《復讐達成率:17%》

 十五から十七。

 二パーセント上昇した。

 供述書だけでは足りない。

 老人が死ねば、本人の意思で書いたのか証明しにくくなる。

 支払い票も必要だ。

 家宰の存在も確認しなければならない。

 だが、少しずつ道はつながっている。

 脅迫状。

 改ざん前の検視記録。

 秘密支出台帳。

 共同墓地管理人の供述。

 一つだけなら、クロイツ家の力で握り潰される。

 すべてをつなげれば、ヴァルドが作り上げた嘘を崩せる。

「ここから出るな」

 供述書を《収納》へ入れた。

「水と食料は置いていく」

「どこへ行く」

「お前の家だ」

「危険だ。クロイツ家の人間が――」

「だから今夜行く」

 支払い票を、先に回収しなければならない。

「逃げようとするな」

 地下室の扉へ向かう。

「俺を売れば助かると思うな。クロイツ家はすでに、お前を殺そうとした」

「分かっている」

「本当に分かっているなら、生きて待て」

 地下室を出る。

 扉を閉じ、外側から錠をかけた。

 老人の家は、共同墓地から遠くなかった。

 旧市街の外れにある、小さな平屋。

 夜はまだ明けていない。

 俺は《隠密》を発動し、建物へ近づいた。

 窓から、淡い明かりが漏れている。

 老人は俺と一緒にいる。

 家の中に誰かがいる。

 扉の前には、新しい靴跡が二人分。

 俺は壁際へ寄り、開いた窓から内部を覗いた。

 黒い服を着た男が二人。

 一人が棚を倒し、引き出しの中身を床へ捨てている。

 もう一人は、寝台の近くを調べていた。

「老人は戻っていない」

「墓地へ行った処理役も帰っていない。何かあったのは間違いない」

「家宰へ報告するか?」

「支払いの記録を回収してからだ」

 知っている。

 床下に証拠があることを。

 寝台の近くにいた男が、床板を踏んだ。

 わずかに音が違う。

 男が足を止めた。

「ここか」

 腰から短剣を抜き、床板の隙間へ差し込む。

 板が少しずつ持ち上がる。

 その下に、老人が隠した支払い票がある。

 俺は窓の外で、鋼鉄の剣を抜いた。

 音を立てずに二人を倒す。

 証拠を守るには、それしかなかった。


【あとかぎ】

小説を読んでいただき、ありがとうございます。

実は、★や♡、フォローなどの反応がないと、

「この物語は楽しんでもらえているのかな」

「このまま書き続けても大丈夫かな」

と、不安になることがあります。

もし少しでも「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、★や♡、フォローで応援していただけると、とても励みになります。

これからも楽しんでいただける物語をお届けできるよう、頑張ります。

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