アマチュアは教えを説く。
「さて……今日からキャラの統合を始めるわけだが……まず、俺から教えることがある」
「それはなんですの……?」
そう、俺は……霧香のキャラを統合するにあたって……これだけは言っておかないといけない事がある……。
「人格の話だ」
「人格の……話……?」
「そうだ……」
それは俺が"アイツ"……。
皆星舞を救った時の話……。
□ □ □
「亡……私……もうアイドル……できないや……」
「舞……」
俺と舞は幼馴染だった。
舞はとにかく明るかった。
「私ね……自分のやりたいことが……分からなくなっちゃった……」
そして……この頃の舞は自分を見失っていた。
原因は簡単な事だった。
それは彼女が素の自分のほうが楽しくなってしまった事にある。
そう……彼女はアイドルである為、常にキャラを作り、皆に笑顔を与えようと必死だった。
だけども……それは無理をした明るさに、いつしかなってしまっていた……。
「私ね……アイドルが好きだった……だって私に向いてたから……」
「そうだな……お前は明るく元気で周りを笑顔にするのが得意だったもんな……」
「だから……ね、楽しかったよ最初は……私の言動……表情……歌や……踊りで笑顔になってくれる人がいたんだもん……」
確かに舞はアイドルに向いていた、だけども……向いていた理由は才能があったからではない。
明確な目的があったからだ。
「でもね……気付いたの……私は別にアイドルじゃなくて良かったんだ……って……」
「……」
「私……貴方に元気になってもらう為に……アイドルになった……いつも下ばかり向いて無気力で……どうせ……全て無駄だって……嘆いてる貴方が嫌いだった……そして……好きだった……ううん……今の亡は……もっと好き……」
そう……彼女は俺の為にアイドルになったのだ。
「でもね? 今の亡……もう前を向いてる……ならさ……これってもう目的達成じゃない……?」
「……そう……だな……」
「まあ……私だけが亡を救ったわけじゃないよ……鈴音ちゃんもいたから亡は前を向けた……」
神子山鈴音……そして……皆星舞……この二人に俺は……救われた。
「でさ……三人で過ごしてる内に思ったんだ……なんでアイドル続けてるんだろう?」
「それはアイドルが好きだからだろう?」
「ううん……もう好きじゃない……いや……好きじゃなかった……私が本当に好きなのは……」
「好きなのは……?」
「……でもさ……私アイドルだから……駄目なんだよ……そんなの……」
この時、舞は何が好きなのか答えなかった。
「だからさ……許されない事の為に……無理してキャラを作って……皆の期待に応えるのは……さ……そしてアイドルを辞めたいの……」
「お前は……本当にそれでいいのか……?」
「うん……三人で過ごしてる時間を大切にしたい……その時間だけはキャラを作らずに……素の自分でいられるって気付いたし……何より……もう目的もない……そんな事の為にこれ以上時間を使う必要はない……って……」
それは……至極真っ当な意見だった……舞はアイドルだが……その前に一人の人間だった。
それならばファンに求められる自分と……アイドルの自分のギャップに苦しむ時間そしてその悩みがない……俺達との時間……。
どちらを選びたいかなんて……誰でも後者だろう。
だけど……俺は……こう思ったのだ……。
「舞……確かに……その理由ならアイドルを続ける理由はないな……」
「! そうだよね!」
「だが……俺は……お前がアイドルをしてる姿が見たい……」
「え……?」
「これじゃ目的にならないか……?」
「それは……」
舞は……きっとこう考えただろう……もう好きじゃない事の為に……やりたくない……と。
「俺は……お前の許されない事が何なのか……分からない……だが……な……アイドルをしてても、俺達三人の関係は続けられるし、何より……俺が支える……!」
「支えるって……?」
「プロデューサーになる、俺がお前の……」
「え……?」
そう、プロデューサーになればいいと俺は考えたのだ。
「プロデューサーになればお前のキャラより素の時間を増やせるし……何より……」
「何より……?」
「俺がプロデューサーになる事で、キャラと素を統合するんだ!」
そう、俺は舞を救う為に、舞のキャラを調整する事に決めたのだ。
「どうだ……?」
「……ぷっ! ハハハハ! 亡……全くそれじゃ意味ないんだけどな……」
「それじゃあ意味ないって……?」
「別に……! うん……! いいよ! やってあげる……! で……どうする?」
「決まってるだろ人格調整だ!」
□ □ □
こうして俺と舞は人格を調整しだした。
それまで休養という形でファンには説明した。
失敗したこともあった、初めのうちは上手くは行かなかった……。
だけど……やって行くうちに……一つの答えに辿りついたのだ。
「うん! このキャラなら……!」
「やってみるね!」
「は〜い! 皆の星! 皆星舞だよ〜! 今日は……私のキャラ変のお時間です! どう? 亡! よくない?」
「ああ……! これだ!」
そう……俺達は元のキャラから大きく変えなかった……まさしくアイドルとしてのキャラ……そしてそこに本人の気質を混ぜたのだ。
キャラの統合は何もキャラを変える事ではなかったのだ。
まず俺達は、なりたいアイドル像を決めるために……俺がファンのフリをして応対してもらったそこでなりたいアイドル像を掴んで貰った。
そして、そこから本人の気質を混ぜていったのだ。
幸い本人の本来の素とキャラはあまりズレがなかったので方向転換だけをしたのだ。
今まではザ・アイドルとしてのキャラ像だったのを、アイドルのまま、本人の明るさを混ぜ、親しみやすいアイドルに変えたのだ。
そう、キャラとしての人格は否定するものではなく、調整し本人の気質を統合するもの。
キャラを作るという事は本人の気質を変えようとする行為……。
故にキャラと素で摩擦が生じる。
だが逆にキャラを作る気質を変えていた時間がある時点でそれもまた一つの人格……気質なのだ。
そこから素だけを抽出してもまた摩擦が生じるのだ。
つまり……人格を否定せず一つの気質として扱い統合するそれこそがこの摩擦というギャップの向き合い方なのだ。
その結果、方向転換をしようが、キャラ自体にそこまでの変化を起こす必要がなくなるのだ。
「亡! ありがとね! 大好き!」
□ □ □
これが……俺が舞を救った時の話だ。
「霧香、俺は方向転換をすると……そしてキャラの統合をすると言ったから大きくキャラや言動が変わると思っているだろうが違う……」
「そうなのですか……?」
「そうだ、キャラというのもお前が自分の気質を変えようとした一つの人格だ、故に素とキャラの統合とは人格の調整なんだ、だから……どうか……過去を否定するな……それだけ教えておきたかった……」
「分かりましたわ先生……! わたくし頑張りますわ!」
こうしてキャラを統合する訓練をし……無事に……キャラを統合した。
……いよいよ海月との戦いだ。




