50.何か悪い気がして
駐輪場の辺り……いた。
「中島、帰っちゃうのか?」
「早瀬くん……。何でこんなところに?」
何て言えばいいんだ。
「偶然、見かけたもんだから」
「恵ちゃんに何か言われたんじゃないですか?」
女子っていうのはみんなこんなに鋭いものなのか? 隠し事をする自信が無くなってきた。
「いや、まぁ、そうなんだけど」
「無理やり、ごめんなさい」
「嫌だったら言われても来ないよ。応援に来てくれたなら、お礼を言いたいと思ったんだ」
「そんな、お礼なんて」
「ありがとう。俺、応援してもらえるのが嬉しいんだよな」
「あの、優勝、おめでとうございます。格好良かったです」
ずっと感じていた違和感は、これか。
「あのさ、何で中島は俺にだけ敬語なの?」
「え……その、理由は無いというか、自然に、そうなっちゃうんです」
「敬語無しにしない? その方が俺も話し易いし」
「あの、それじゃ、はい」
クリスマスの時は凄く大人びて見えたのに、中島にはこういう一面もあるんだよな。村松と一緒に遊んだ日と同じ。
もじもじして、可愛いな。
「そういえば、試合に来てくれたのって初めてだよね?」
「うん。初めてです」
「ほら、また敬語」
「あ、その、初めて……だよ」
これは……。
もっと、見てみたいな。
「試合を見たいって思った時は沙耶ちゃんと付き合ってて、来ちゃいけないような気がしてたんです」
「……です?」
「あ、気が……したの」
後ろで手を組んで、小刻みに左右に向きを変えて、頬を染めて俯く、落ち着かない中島。うん、これだけで、好きになってしまう男がいても不思議じゃないな。
「けど、それでせっかく来てくれたなら、何で声も掛けないで帰ろうとしたんだ?」
「それは、何か悪い気がして……」
「柏木に?」
「ううん、違います。……違うの」
柏木じゃなければ、一体誰に……?
「あ、その、また応援に来てもいいですか? ……来ても、いい?」
「来てくれたら嬉しいよ。けど、今度は黙って帰らないで一声くらい掛けてくれよ」
「それは……できたら、そうします。……するね」
「俺と話すの、嫌かな?」
「そんなことないです! あ、う、嫌じゃ、ないよ」
ちょっと、やり過ぎたかな。
「敬語、無理しなくていいよ。話し易いように、普通にしなよ。俺が余計なこと言って、悪かった。ごめん」
「あ、でも、早瀬くんがその方が話し易いって、さっき……」
「それで中島に無理させるくらいなら、元通りがいいよ、俺は」
「私、頑張ります……頑張るから」
「じゃあ、次に応援に来てくれた時は、敬語抜きで声掛けてくれよ。待ってるからさ」
今度は、試合前にちゃんと中島を探そう。終わってから応援してくれていたことを知るより、応援してくれていることがわかっている方が、やっぱり頑張れる。




