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一輪に両手を  作者: リン
50/120

50.何か悪い気がして

 駐輪場の辺り……いた。

「中島、帰っちゃうのか?」

「早瀬くん……。何でこんなところに?」

 何て言えばいいんだ。

「偶然、見かけたもんだから」

「恵ちゃんに何か言われたんじゃないですか?」

 女子っていうのはみんなこんなに鋭いものなのか? 隠し事をする自信が無くなってきた。

「いや、まぁ、そうなんだけど」

「無理やり、ごめんなさい」

「嫌だったら言われても来ないよ。応援に来てくれたなら、お礼を言いたいと思ったんだ」

「そんな、お礼なんて」

「ありがとう。俺、応援してもらえるのが嬉しいんだよな」

「あの、優勝、おめでとうございます。格好良かったです」

 ずっと感じていた違和感は、これか。

「あのさ、何で中島は俺にだけ敬語なの?」

「え……その、理由は無いというか、自然に、そうなっちゃうんです」

「敬語無しにしない? その方が俺も話し易いし」

「あの、それじゃ、はい」

 クリスマスの時は凄く大人びて見えたのに、中島にはこういう一面もあるんだよな。村松と一緒に遊んだ日と同じ。

 もじもじして、可愛いな。

「そういえば、試合に来てくれたのって初めてだよね?」

「うん。初めてです」

「ほら、また敬語」

「あ、その、初めて……だよ」

 これは……。

 もっと、見てみたいな。

「試合を見たいって思った時は沙耶ちゃんと付き合ってて、来ちゃいけないような気がしてたんです」

「……です?」

「あ、気が……したの」

 後ろで手を組んで、小刻みに左右に向きを変えて、頬を染めて俯く、落ち着かない中島。うん、これだけで、好きになってしまう男がいても不思議じゃないな。

「けど、それでせっかく来てくれたなら、何で声も掛けないで帰ろうとしたんだ?」

「それは、何か悪い気がして……」

「柏木に?」

「ううん、違います。……違うの」

 柏木じゃなければ、一体誰に……?

「あ、その、また応援に来てもいいですか? ……来ても、いい?」

「来てくれたら嬉しいよ。けど、今度は黙って帰らないで一声くらい掛けてくれよ」

「それは……できたら、そうします。……するね」

「俺と話すの、嫌かな?」

「そんなことないです! あ、う、嫌じゃ、ないよ」

 ちょっと、やり過ぎたかな。

「敬語、無理しなくていいよ。話し易いように、普通にしなよ。俺が余計なこと言って、悪かった。ごめん」

「あ、でも、早瀬くんがその方が話し易いって、さっき……」

「それで中島に無理させるくらいなら、元通りがいいよ、俺は」

「私、頑張ります……頑張るから」

「じゃあ、次に応援に来てくれた時は、敬語抜きで声掛けてくれよ。待ってるからさ」

 今度は、試合前にちゃんと中島を探そう。終わってから応援してくれていたことを知るより、応援してくれていることがわかっている方が、やっぱり頑張れる。

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