49.何も聞いてなかったのか
こいつは一体、何を言っているんだ。
「いや、だから由希ちゃんとデートだって」
冗談じゃ……無さそうだな。
「どういうことだよ? 優勝したらデート?」
「ああ、約束だったからな。デートに誘ったのは俺だけど、条件を持ち出したのは向こうだし」
「藤井がそんな約束したってのかよ? いつ?」
「お、随分気にしてんな。昨年の合宿の後だよ。ここまで長かったぜ」
声を掛けるって言っていた時のことだよな。あの時にそんな約束を……?
「優勝したらデートするって、そう言ったのか?」
「いや、修治が出てる大会で優勝するって条件だったな。だから、昨年の秋季大会は本気で参ったぜ。あそこで優勝逃したせいで、半年待つハメになったんだ」
『猛練習して、春にはこの借りを返してやるからな。待ってろ!』
やけに燃えていたのは、そういうことだったのかよ。
「由希ちゃんは『無理だと思うよ』って笑ってたから、てっきり修治も知ってるもんだと思ってたよ。何も聞いてなかったのか」
待てよ、合宿……? あの時期……!
『約束、守るよね』
『約束を破ったら男じゃないだろ』
『守るよね』
『……もちろん』
あの、意味のわからなかった会話! やっぱり真剣な話だったんじゃないかよ! 何も聞いていないことは無かったんだな。
『しつこいなぁ。そこまで責任感じるんだったら、二度と負けないで』
『約束する』
俺にとって、一番大切な約束。
俺が出ている大会で優勝するには、俺に勝つしかない。俺が負けなければ、恭平の優勝は無い。
藤井は、俺が約束を守ることを信じて……?
「ま、とにかく、優勝は優勝だ。デートのことは、どうだったか話してやるから心配すんな。んじゃ、お疲れ」
藤井と恭平が……デート。
もし、嫌だったなら、最初から約束自体しなければ済んだ……いや、俺が負けなければ……。
あれ? よく考えたら、俺、負けてはいないな。勝ってもいないが。
「よう。本当に優勝しやがったな」
「格好よかったよ」
テルも村松も、この暑い中、長時間日なたで見てくれていたな。
「応援のお陰かな。サンキュ」
「お、なかなか素直だね。お祝いにチュウしてあげよっか」
「テルの前で何つーことを言うんだ」
「おや? じゃあ見てないところならいいのかなぁ。シュウくんもワルだねぇ」
「別に、俺の前でしても構わないぜ」
二人とも笑っている。信頼し合っているってことだよな。
俺には……真似できないかもな。
「テルの調子はどうだ?」
「まぁサボってた期間が長いからな。とりあえずは体力からつけてるよ」
「頑張ってるんだな。安心したよ」
「とか言うけど、たまに『今日は休み』ってサボろうとしてるでしょ」
「そういう時は、村松が背中押してやってくれよ」
「もう押されてんだよ。休めなくて困ってるくらいだぜ」
亭主関白なのかと思っていたが、案外尻に敷かれているのか。
「あ、そうそう。夏樹も来てるんだけど、シュウくんとは会わないって言ってるんだよ。まだいると思うから、声掛けてあげてよ」
「柏木や藤井の応援に来たんだろ? 中島が俺と会わないって言ってるなら、俺から声掛けるのは――」
「シュウくん。わかるでしょ。言わせたら怒るよ」
……テルが尻に敷かれている理由がわかったような気がする。
「――大事なことだと思ってたんだよ、うん。探してみるよ」
「たぶん駐輪場の辺りにいると思うから、急いでね」
前は可愛らしいと思った笑顔だが、村松の笑顔は舐めてかかったらいけないな。気を付けよう。




