第一話
勇者が死んだ。
唐突すぎてあたしたちは誰も理解できなかった。
魔王の城まで後少し。
ここまでたった四人であたしたちは良くやってきたと思う。
人の生存領域を越えて魔族の領域で。
まともな食べ者や飲み物も無く。
それでも魔王を倒せば人類に希望があると信じてここまで歯を食いしばってやってきた。
この世界は終わりかけていた。
魔王が率いる魔族と魔物。
人類は諦め、滅びを受け入れようとしているように見える。
人の世界は暴徒たちがより弱き者から奪う。
その暴徒たちも魔物の食料になる。
人の住む国はもう片手で数えるほどしかない。
そんな日常の中、幼い彼女は国に押し寄せる魔族の率いる魔物の軍勢を単身討ち滅ぼした。
討ち滅ぼせてしまった。
幼い彼女は全世界の希望にされてしまった。
あたしを含めた3人が彼女のお世話係に任命された。
斧を振るうだけが取り柄のあたし。
宗教国家に祭り上げられた死んでない限り人を修理して戦わせる聖女。
魔導国家で大量に殺す術だけ詰め込まれた魔導師。
あたしたち4人で世界を救う旅に出るらしい。
あたしたちは世界を救う英雄らしい。
乾いた笑いしかでなかった。
あたしは力だけは強かった。
魔物も数が多くなければそれなりに戦える。
でも幼い彼女はあたしよりも、もっと強かった。
剣の一振りで魔物の群れを殲滅する。
あたしは幼い彼女が恐ろしかった。
人の形をしているだけで魔族と何が違うのかわからなかった。
でも違った。
幼い彼女は人だった。
ありきたりの惨劇に遭遇すると被害にあった人を思って泣きわめく。
当たり前の理不尽に遭遇すると怒りを滾らせ立ち向かう。
幼い彼女はこの世界に起きる不条理全てを圧倒的な力でねじふせてきた。
あたしたち3人は幼い彼女のことを次第に好きになっていたと思う。
少なくともあたしは大好きだった。
ある日、平和な魔族の村を見てしまった。
あたしはそんなこともあるだろうと思った。
魔族だって生きているんだから文明があれば平和に暮らしている村の一つや二つあってもおかしくない。
あたしたちはその村に辿り着いたとき、控えめに言って全滅していた。
頼りの幼い彼女は連戦に続く連戦で意識を失っていた。
意識を失っていたってのは誇張表情かもしれない。
幼い彼女は魔族たちとの激しい戦いで片手両足を欠損し意識を失った上で死にかけていた。
魔術師が目、鼻、耳、口から血を垂れ流す程の大魔術を行使して弱りきっていた魔族たちに止めをさした。
魔術師もその後倒れた。
聖女がぶっ倒れるまで神の奇跡を行使したおかげで、二人ともギリギリ人の形を保てているだけのほぼ死人だった。
聖女も奇跡を使いすぎたせいで顔面を土気色にして意識なんてとっくにない。
あたしは馬車だった物の荷台に3人を乗せ街を目指して歩いていた。
あたしは、多分ここが旅の終わりなんだろうと思いながら歩いていた。
今ここに強い魔族や魔物の群れが現れたら、あたしだけじゃ守りきれない。
あたしたちはみんな死ぬだろうな。
そう思いながら集落を見つけ命からがら辿り着いた。
そこは魔族の村だった。
村には強い魔族はおらず、あたしを警戒しながらも死にかけている3人を心から案じ看病してくれた。
意識を取り戻した3人は、魔族の村に最初は警戒したものの数日で馴染んでいたと思う。
あたしは早くこの村から離れたかった。
あぁやっぱり、幼い彼女は結論を出した。
魔族全てが敵ではない、と。
人に悪しき者がいるように、魔族にも良き者、悪しき者がいて、日々平和に暮らそうとする者がいると理解してしまった。
そう理解した幼い彼女は国に帰り国王に進言した。
してしまった。
それからは早かった。
あたしたちが何を言おうと幼い彼女が何を言おうと世界は凄い速さで進んでいく。
昨日、幼い彼女の処刑が執行されていたらしい。
幼い彼女は一切の抵抗をしなかったんだと思う。
幼い彼女が抵抗すれば貧弱な人間ごときに止めることはできないからだ。
あたしたちは何も知らなかった。
幼い彼女が秘密裏に処刑されたことも。
その間束の間の休息をとっていた。
その間に幼い彼女は、勇者は死んでいた。




