アタシの仲間は犯罪者です
宿屋のだだっ広い入口に着いたアタシ達。
煌びやかな装飾が施された、落ち着いた雰囲気のある入口だ。
そしてシエルはやはり相当不安に思っていたようで、ここに着くまで一度もアタシの方は振り返らなかった。
そして宿屋の雰囲気には似つかわしくない程に不安な顔をしていたシエルがやっとアタシの方を見て、
「急がせちゃってごめんね。……あれ? 顔が赤いけど、大丈夫?」
「こ、これは走って息が上がっただけだから、気にしないで。それより、宿屋の女将さんに二人のことを聞いてみましょう」
アタシの顔が赤い理由は走ったからだと伝えた。まあ実際に走ってもいたんだけど、シエルのことを思ってこんな風になったなんていう本当の理由は今のアタシにはとても言えそうにない。
もっとシエルみたいに素直になれたら言えるのかもしれない、と自分自身で結論を出した。
「女将さん、この宿にナイトさんとリマさんというローブを着た二人組は泊まっていませんか?」
シエルは受付にいた女将さんに近づき早速尋ねる。
「いや、そんな名前の二人は泊まってないねえ」
「そうですか……。ありがとうございます」
おっさんとリマは泊まっていなかった。
一体どこに行ったのだろうか。さらにシエルの顔が不安の色で濃くなったような気がする。
やっぱりいなくなったのに気付いたその時に、すぐにでも探しに行くべきだったのかもしれない。
でも、広大で大勢の種族が入り乱れるこの街で、本当に探し出せたのかは分からない。
いや、過去のことを考えてもどうしようもない。考えるべきなのはこれからだ。一体これからどうすれば……。
そう思っていたところ、
「そういえば、二人組っていったら、今日の昼過ぎに例の二人組が捕まったらしいよ」
と、先程の女将さんが気になることを話してきた。
確かあの二人がいなくなったのも昼過ぎだった。嫌な予感がする。アタシは詳しく聞いてみることにした。
「例の二人組って、どんな二人組よ?」
「おや、あんた知らないのかい? ほら、エレスっていうお姫様を攫った例の二人組だよ。世間を賑わせただろう? その二人組もローブを着ていたらしいよ。そして一人は杖を持っていたって噂だねぇ」
「そ、その二人組は今どこにいるのっ!?」
「急に慌ててどうしたんだい? その二人組は今頃ドルチェ城の牢屋さね。明日は裁判が開かれるらしいから、みんな注目だろうねぇ」
「あ、ありがとうございます……」
アタシは半信半疑で聞いていた。
いや、その事実を受け入れたくなかったというのが本心かもしれない。
でも、なぜ突然二人はいなくなってしまったのか……。
まさかあの二人が? 嘘だよね……?
「シエル! 今のちゃんと聞いてたわね!?」
「う、うん。確かに特徴は合ってるかもしれないけど……。違うよ。絶対に違う。あの二人がそんなことする訳ないよ」
「そうよね。絶対にそう。あの二人がそんな大層なことをする訳がない。で、でも、念のためにだけど、ドルチェ城に行ってみましょうよ」
アタシはあの二人を信じられないの?
念の為って何?
絶対に違う。あの二人が攫ったりする訳がない。でも……。
ここから先を考えるのが怖い。
しかし、アタシの心とは裏腹に口先から出た言葉は、怖さの先を本能のままに知りたがる恐れを知らない言葉だった。疑いを確認に変えたいとも取れる言葉だった。
「そうだね……。絶対に違うと思うけど、ドルチェ城には行かないといけないと思う。ドルチェ城に行って、答えを知るべきだ」
「そうと決まれば、早速行ってみましょう」
シエルとも意見が一致した。城に行けば何かが分かる。
アタシ達は飛び出すように宿屋を出たあと、城に向けて駆け出していった。
急ぎ足で城に着いたアタシ達は、大きな門の前に立ち尽くしていた。
上を見上げると、三日月の明かりによって怪しく照らされた夜のドルチェ城がある。
その城は荘厳な雰囲気と何人たりとも近寄らせないという空気を漂わせていた。
周囲を取り囲む石造りの城壁には棘のついた柵が取り付けられている。この城壁を越えての侵入はできるはずもないことが容易に想像できた。
また、門前には地面へと突き刺さっている鉄格子。入城の時間はとっくに過ぎているということなのだろう。
そんな侵入者を寄せ付けんとするドルチェ城の門前には、槍を手にした門番が二人、背筋をピンと伸ばし並んで立っていた。
アタシがドルチェ城の圧倒的な存在感を前に尻込みしていたところ、
「君達、こんな夜に何の用だい?」
門番の一人に声をかけられた。
「あの、率直に聞きますけど、今日この城にナイトさんとリマさんという二人組が来ませんでしたか?」
シエルが尋ねる。
「来たとも。姫を攫った容疑者としてね。今頃牢屋の中で怯えているはずさ。明日の裁判はどうなるだろうねえ」
門番の男は口元をにやつかせながら答えた。
『姫を攫った容疑者』という最も聞きたくなかった言葉が飛び込んできてしまった。
でも、絶対に違う。何か勘違いで捕まったに違いない。どうにかして助け出さなきゃ……!
「そ、その二人はアタシ達の大切な仲っ--」
「あはは、やっと捕まったんですね。今日街が騒がしかったから、もしかしたらと思ってたんですよ。どうも教えていただいてありがとうございました」
アタシの口をシエルが無理矢理押さえて発言を止めさせた。
そしてシエルは門番にお礼を言ったあと、そのまま私を近くにあった人気のない路地裏へと連れ込み、そこでやっとアタシの口から手を離した。
その瞬間、アタシはシエルに対する怒りをあらわにして、
「ちょっとアンタ! 急に何すんのよ!」
「サーチャ。不用意な発言はやめよう。もし仲間だなんて言ったら僕達まで捕まってしまったかもしれないんだよ?」
「な……! じゃあアンタはあの二人の仲間じゃないっていうの!?」
「仲間だよ。仲間だからこそ、今ここで捕まるべきではないと思う」
もしこのときシエルが仲間じゃないなんて言葉を言っていたら、アタシはシエルに対する信頼を、愛情を、そしてアタシ自身を見失っていたかもしれない。
すぐに見捨てるような、そんな奴だったんだと軽蔑していたと思う。
でも、違った。シエルはそんな奴じゃなかった。
アタシは一呼吸つき心を落ち着かせたあと、
「何か策でもあるの? あ、まさか柵を登って城に侵入して、あの二人を攫い出すとか?」
「そんな愉快なことできないよ」
愉快なことと言われた。
まあアタシもその作戦は無理だとは思っていたけど、真面目な顔をしながら愉快だなんて言われると、ちょっと不愉快になりそう。
「じゃあどうするのよ? 何もしないままだと埒が明かないわよ。そして夜が明けて裁判を迎えちゃうじゃない」
「うん。でも、裁判の法廷だったらあの二人と会えるはずだ」
「……なるほど。二人を法廷で攫うって訳ね。シエルはなかなか大胆なことを考えるわね」
「ぷっ、はははっ! サーチャこそ大胆だよっ!」
笑われてしまった。シエルは愉快を楽しむかのようにお腹を抱えている。
アタシ変なこと言ったかな……?
いや、絶対変なことを言ったんだ。
うーっ、ちょっと恥ずかしい……。
「じ、じゃあ何なのよ! もったいぶらないで言いなさいよ!」
「う、うん。つまり、弁護士として法廷に立つんだ。そして弁護士として二人を救い出す。これしかないと思う」
弁護士?
弁護士って、確か裁判のときに発言したりする人のことだったと思うけど……。
「アタシ達が弁護士になれるの?」
「既に弁護士が決まっていたらなれないよ。だから、弁護士が決まっているのかどうか、さっきの門番の人に聞いてみよう」
シエルはそう言うと、さっき話した門番に近づいて再び話しだした。アタシも側で一緒に話を聞くことにした。
「あの……。明日の裁判ですけど、弁護士ってもう決まってたりしますか?」
「弁護士? まさかまさか。姫を攫った奴らの弁護をする人なんている訳ないじゃないか」
「じゃあ僕達が弁護士になっても問題ないんですね」
「そ、それは構わないが……。君達年齢は? 十五歳以上じゃないとなれないけど……」
「僕は十六歳です」
「アタシも十六歳よ」
「まあ年齢は問題ないか……。しかしなあ……。ううむ……」
歯切れが悪く、もごもごと門番が言っている。
それを見兼ねたアタシは、
「もごもご言わずにハッキリと言いなさいよ!」
人差し指を突きつけハッキリとした口調で門番に言い放った。
すると、そのやり取りを聞いていたのか、
「おやおや……。ユー達、どうしたんだい?」
「も、門番騎士アフォゲート様っ!」
門番騎士アフォゲート様っ! と呼ばれた男が、こちらにゆったりと歩きながら近付いてきた。
その男はアイラと似たような銀色の鎧を着ていた。
そして短めの金髪が輝きを放っていた。さらに言うと、前髪の一部がぴょこんと跳ねており、一際目立っていた。
なんというか、アホらしいほどに跳ねている。アホ毛ね。アタシはその騎士をアホ毛と名付けることにした。
そしてアホ毛は人差し指をくるくると回している。その指が一回りするたびに、チャリンチャリンと金属が擦れる音が鳴っている。
何なのこのアホ毛は?
と思った次の瞬間、チャリン音を鳴らしていた金属が指からヒュンと飛んでいき地面に墜落。
ヂャリーン!
と激しい音を立てた。
「あああっ! ゲートのキーがああっ!」
本当に何なのこのアホ毛は?
地面に落ちたカギを拾うアホ毛。カギを拾う時もアホ毛だけは跳ねている。
もごもごの門番はその重要なカギを握るアホ毛の騎士に、アタシ達のことを説明し始めた。
「ふむふむ。なるほど……。ユー達は、弁護士になりたいと。でも、こんなヤング達に弁護士が務まるのか、とゲートガーディアンは申している訳だ」
「はっ! その通りでございますっ!」
もごもご門番はさっきのもごもごが嘘のように、ハッキリとアホ毛の騎士に返答をした。
何よ、やればできるじゃない。
「ゲートガーディアンよ。よいではないか。ヤングにはチャレンジが必要だ。とまあヤングのミーが言えた義理ではないけれどもね。ハッハッハッハッ!」
アホ毛は背を反らし腰に手をあてて、大声で笑い始めた。
アホ毛の言ってることを聞いてたら、なんか調子狂うわね。そして頭も痛くなってきた。でもいずれにせよ、これで弁護士として裁判に潜入できるようね。
とりあえずお礼言っとかないといけないかしら。
「話が分かる人でよかった。感謝するわ」
「ハッハッハッハッ! サンキューはいらないよ。じゃあ早速、弁護士として容疑者のフェイスでも拝みに行くかい? 面会室にゴーすればまだ会えるはずだからね」
そう言うとアホ毛は人差し指をひょいとシエルに向け、
「キャッスルのゲートがクローズしているから、そのキーでオープンしてくれたまえ」
そんな言葉とともにカギを投げてきた。
カギは放物線を描きながらシエルの矢筒にすっぽりと入る。それを見た門番二人が、
「でたっ! お家芸『素敵投擲』! 狙った獲物は絶対に逃さない超無敵な投擲能力!」
声を揃えてアホ毛を褒めちぎっている。
アタシはアホ毛を毟りちぎりたくなったのをどうにか堪えて、
「ありがたく城に入らせてもらうわ」
というやいなや、シエルの矢筒の中からカギを引き抜き出した。
そして閉まっていた門をアタシが開けて入城。
「そもそも、なんでアタシが開けないといけないのかしら。普通は門番やアホ毛が開けるべきなんじゃないの?」
「ははっ。まあ確かにそうだね。でも、お城に入れただけでも良かったよ」
アタシの小言に対してシエルが軽く笑い飛ばす。
そうして、アホ毛の計らいにより城内へ歩みを進めることになった。
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夜の城内はとても薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。窓から三日月の仄かな明かりが怪しく入り込み、静かに影を落としていた。
長い廊下に一定間隔で灯してあるランプを頼りに、アタシ達は面会室に足を進めた。
面会室は、こじんまりとした椅子と、鉄格子があるだけの部屋だった。
静かで、冷たくて、殺風景。
やさしい雰囲気など感じさせない、悲しげな室内。
容疑者は鉄格子の奥にある扉から入ってくるようだ。
「ユー達はここで待っていてくれ。ユー達二人を弁護士として登録する手続きをするから。そしてそのあと、容疑者を連れてこよう」
城内の案内役として一緒に付いてきていたアホ毛は一言そう言うと、そのアホ毛をぴょんこぴょんことウサギのように跳ね揺らしながら消えていった。
「ふう……。なんだかんだで弁護士になれそうね」
「そうだね。ひとまず安心かな」
息苦しい殺風景な小部屋で一息ついたアタシ達は、雑談をしながら容疑者の来訪を待つことにした。
ところでなぜシエルが裁判に詳しかったのか聞いたところ、本が好きで推理モノなどの本をよく読んでいたかららしい。
それと薬学を学ぶうえで、裁判になった例などを調べていたことも背景にあるようだった。
そうしてシエルは待ち時間の間に裁判に関する知識を教えてくれた。
この世界での法は、『疑わしきは罪』という考えらしく、裁判で怪しいと認められたら何がどうあろうとも罪人になってしまうらしい。
そして罪人となってしまった場合は、一生牢屋の中で過ごすことになるか、または死ぬ--つまり死刑になるらしい。
ということは、アタシ達は裁判であの二人が姫を攫ったという疑いを完璧に晴らすしかないようね。
そうして話をしているうちに、容疑者の一人が鉄格子の奥にやってきた。
「サーちゃん……! シエル君……!」
「リマ! 大丈夫だった? 酷いこととかされてない?」
「うん、大丈夫だよ。それより心配かけさせちゃったね……。ごめんね」
リマは今にも零れそうな潤んだ瞳でこちらを見てきた。
こんな綺麗な瞳を持つ人が姫を攫う訳がない。きっとリマを捕まえた奴の目が濁っていたんだ。
そんなリマは両手を背にして手錠がかけられていた。リマには似つかわしくない物だ。
リマ……絶対に救い出してあげるからね。
それから、五分という短い面会時間の中でリマからおっさんを召喚した以降の経緯を一から聞き出した。
そしてあっという間に時は過ぎ、リマは扉の奥に戻されていった。
そして数分後、もう一人の容疑者がやってきた。
「おお、二人とも! 元気だったか?」
「ナイトさん! 僕達は元気です。ナイトさんもお変わりはないようですね」
「ああ、変わりないよ。この手錠以外はな」
おっさんは蜘蛛の糸が解けたかわりに、リマと同じく両手を背にして手錠をかけられていた。
このおっさん、蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされた時から思っていたんだけど、なんというか、拘束されている姿が様になっていると思う。
リマとは違い、両手の手錠がすごく似合っている。
「その手錠、お似合いね」
「だろ? 変態な俺には最適の装備だと思っていたが、まさかここまで合うとは驚きだ。そして拘束されるのってなんか興奮するよな」
そう言うと、笑顔でアタシ達の方を見てきた。このおっさん、本当に変態だった。アタシは身震いをしてしまった。
そしてリマと同じく事の経緯を一通り聞き終えたあと、おっさんも同じように扉の奥へと消えていった。
「面会時間短かったわね」
「うん。でもある程度は把握できたかな」
二人から聞いたこと簡単にまとめると、こういう事らしい。
まず一日目。
リマがおっさんを召喚。それからおっさんとともに服を買いに行き、その後おっさんは一日騎士体験をするためにお城に向かったが、へっぽこすぎて門前払いだった。その間リマはお城の召喚室で仕事中だった。
そして二日目。
朝から『神授の儀』という大事な儀式へ向かう姫の跡を、おっさんがこっそりとつける。リマもその跡をつける。そうしていたところ、突然ローブを着た二人組に姫が襲われる。そしておっさんとリマは姫を守ろうとするも、力及ばず。そうして姫は攫われてしまった。
と、このようなことを二人とも言っていた。恐らく口裏を合わせたりとかはしていないはず。そしてアタシはもちろんおっさんとリマの証言を信じる。
ということは、突然現れたローブの二人組というのが真犯人になるけど……。
「ねえ、シエル? さっきの話を聞いてどう思った?」
「うーん。突然似たような格好をした二人が現れて、姫を攫ったって言ってたけど……」
「そんな偶然あるのかしら? って思うわよね。でも、これをどうにかしないといけないのよね」
アタシと同じくシエルも頭を悩ませているようだ。
すると、
「ユー達、ミーが捕まえた容疑者達とちゃんとトークできたかい? 」
アホ毛が戻ってきた。
今の言葉によると、このアホ毛が二人を捕まえたらしい。
それを聞いた途端、金色の髪がくすんだ鈍色に見えてきた。アタシの瞳は濁ってしまったのか。目をごしごしと擦るも、変わらなかった。
「ええ、とりあえず話はできました」
シエルが言った。
「ふむ。それはよかった。……ところでユー達、もう夜が更けてミッドナイトときているんだけど、宿はゲットしているのかな?」
あ、宿……。泊まるということをすっかりと忘れてた。
流石にこの時間だと宿は空いていないと思う。せっかく街にきたのにまた野宿になってしまった。
アタシが落胆していると、
「どうやらそのフェイスを見るに、宿がないようだね。でも、そんなユー達にグッドニュースだ。ちょうどこのキャッスルのゲストルームがワンルームだけフリーらしい。ユー達はそこに泊まっていくといいよ」
アホ毛の騎士から救いの言葉が飛び出てきた。
今のアタシには、あのアホ毛が今宵の三日月のように黄金に輝いて見える。アタシの目の濁りは一瞬で解消された。
そして三日月に誘われるままに、アタシ達は客室へと通された。




