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異世界軟弱物語  作者: よっきゃ
第三章
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銀色の女騎士と小おっさん

 この仄暗い森の中から抜け出すことができるかもしれない希望の声。

 声の種類は悲鳴に近いものがあったけど、アタシ達は光明を見出したかのように、その声の方へと急いで駆けつけた。


「いました! あそこです!」


 リマが指さす方を見ると、そこには銀色の鎧を身に纏った背の高い女の人が、二人の男に囲まれ追い詰められていいた。


「くっ! 殺せ!」


「お、落ち着いてください! 僕達は絶対に何もしませんから!」


「嘘だっ! 絶対に何もしないって言う奴ほど絶対に何かをするんだっ!」


「じゃあ敢えて言おう、俺はこのあと絶対に何かをすると。だからその前にひとまず落ち着いてくれ」


「上から下まで舐めるようにじろじろ見るなっ! この変態っ!」


 やれやれ……。あの二人、一体何をやってんのかしら。


「ちょっとアンタ達! その女の人から離れなさい!」


 声が聞こえたようで、三人の視線が一斉にアタシに集中する。


「サーチャ! よかった……。どこに行ったのかと思ってずっと心配してたんだよ」


「それはこっちのセリフよ。二人とも急に消えて本当に心配したんだから。……で? この女の人は誰?」


「誰かは知らん。だが、いい女の人であることは間違いない。一目見ればわかるだろ? このボディ! 一瞬で俺を虜にしたこのボディ! みなさんも見てくださいよこのボデ……はぐうっ!?」


「お仕置きです」


 リマのお仕置きという名の拳がおっさんの腹に決まり、そのままおっさんは膝から地面へと崩れ落ちた。


 ……リマ、召喚士じゃなくて武闘家のほうが合ってるんじゃないかしら?


 おっさんがお仕置きされたのを横目に、アタシは銀色の女の人をじっと見てみた。


 海のように深い蒼色の髪を頭の後ろで一つにまとめ、肩の位置まで真っ直ぐに下ろしている。そしてキリッとした眉とつり目、鼻も高く口元はぷっくりとした薄紅色をしている。

 肌は薄めの褐色で、実に健康的といった感じね。


 それに薄手の銀鎧の上からは誰が見てもわかるほどの豊満な身体。そしてくびれた腰には一本の剣。

 また、その腰から生えたむっちりした太腿とスラリと伸びる二本の脚が、大地を凛と踏みしめている。恐らくだけど、この体つきは人間とオーガのハーフかもしれない。


 しかし、見たところ年齢は二十歳くらいに見えるけど、これは只者じゃなさそうね。一体何者なのかしら?


「この女の人は僕達が迷っている途中で偶然出会ったんだ。でも、突然逃げてしまって……。それで追っかけて今に至るって訳」


 シエルが端的に説明をする。

 突然逃げられた原因は、十中八九このおっさんのせいね。


「私は男の人がどうも苦手でな……。慣れれば問題はないのだが……。と、とにかく助太刀いただき感謝する。で、お二人はこの男達の仲間なのか?」


「そうよ。アタシ達の連れなの。さっきは連れの一人が迷惑をかけてごめんなさいね。そしてもう一人のこの男は危害を加えないから大丈夫よ。安心して」


 そう言い、シエルをじっと睨みつけた。

 あの女の人に何かしたらどうなるか分かってんでしょうね……?

 と、無言の圧力をかける。


 それにしても、男の人が苦手か……。

 その言葉を聞くと、どうしてもメトリを思い出すわね。


 メトリのこと、縄でぐるぐる巻きにして村の出口辺りに放置して来ちゃったけど、大丈夫だったかしら。

 まあ、あの村はちっさいし誰かが拾って屋敷まで届けてくれてるわよね、きっと。


「ところで、どうしてお一人でこんな森の中を? それと差し支えなければ名前を……」


 リマが尋ねる。


「うむ。私の名前は『アイラ』だ。ドルチェ王国で騎士をやっている。その騎士の仲間達とともにこの森を抜けていた途中で、私だけはぐれてしまってな」


 この女の人、騎士だったのね。だから鎧と剣を身につけているって訳か。

 それにしても、こんなにハキハキと喋るしっかりとした騎士なのに、なぜはぐれてしまったのかしら。


「どうしてはぐれたんですか?」


 アタシが尋ねようと思っていたところ、丁度良いタイミングでシエルが続けて尋ねた。


「う、それは……。野ウサギが悪いんだ。野ウサギがかわいくて跡を追っていたら、つい私だけはぐれてしまったんだ。こんなことになるとは……。騎士として恥ずかしい。情けない限りだ」


 と言うと、アイラと名乗った騎士は頬を赤らめて下を向いた。



 な、なんなのこの人は! 野ウサギを追ってはぐれた? かわいすぎるじゃない! 反則よ!

  破壊的!圧倒的破壊よ!あのおっさんだったら理性の暴走待ったなしだわ!


「なんだか可愛らしい理由ですね。つい心がほっこりとしてしまいました」


 リマはあたたかな目でアイラという騎士を見ている。その気持ち、分かるわ。


 それからアタシ達も名前と簡単な自己紹介を一通り行い、現在のアタシ達が置かれている状況--全員して迷ってしまっていることを再確認。


 とりあえず全員揃ってアイラっていう騎士がいる訳だけど、迷っている状態はいただけない。

 一刻も早く正規のルートに戻りたいけど、どうすればいいのかしら?


 正規のルートには、数歩ごとに目印となる赤いリボンが木に巻きついているから、それを辿っていけば自ずと森を抜けられるようになっている。

 その正規のルートさえ分かればいいのだけれど……。


「あ! 私、いいこと思いつきました! ちょっとこれから精霊を召喚しますね!」


 リマが何か閃いたようで、召喚の準備を始めた。地面に魔法陣の描かれた布を敷き、その上に乗っかり、呪文を唱える。


「我を救いたまえ! 地の精霊、ノーム!」


 すると、地面や木の幹、生い茂る草花などから、おっさんの風貌をした小人達がどこからともなく続々と現れてきた。みんな赤い服を着ている。


「ほう……。リマ殿は召喚が使えるのか」


 アイラは物珍しそうな目で召喚されたノームというおっさん達を見ている。


 どうやら、アイラはこのノームっていう小さなおっさん達のことは大丈夫のようね。変態の大きなおっさんのことは苦手みたいだけど。


「はい。ノームさん達に森のことを調べてもらいます。そして出口まで導いてもらおうかと思うのですが……」


「うむ、いい案だと思うぞ。それでいこう」


 リマの提案にアイラが賛同する。大きなおっさんとシエルも同様に賛同し頷いた。


「そうね。このまま闇雲に歩いても埒が明かないし、この小さなおっさん達に行き先を託しましょう」


「さて、そうと決まれば早速ノーム達にお願いしよう。リマ、頼む」


「わかりました。……ノームのみなさん、ドルチェ王国側の出口までの道のりを調べて、そして私達を導いてください。よろしくお願いします」


 リマは屈んで小さなおっさん達に話しかけている。そして調査開始の号令を聞くやいなや、小さなおっさん達は一斉に散らばり草をかき分けながらどこかへ消えてしまった。



「よし、じゃあノーム達が戻ってくるまで雑談でもするか」


 そう言うと大きなおっさんは、樽型のリュックから大きな絨毯を取り出し地面に敷き、


「さあ、みなさん。どうぞこちらへ」


 全員をその絨毯に招待し始めた。


 どうやら、これに座ってのんびりと雑談をしようって考えのようね。



 --



 それから、小さなおっさん達が戻って来るまでの間、休憩も兼ねて雑談することになった。


 それぞれ脚を伸ばしたり寝転がったりと、ゆっくりして疲れを癒している。

 アタシも絨毯に腰を下ろし、羽を伸ばすようにぐいーっと背伸び。そして空を見上げた。


 木々で遮られてよく見えないけど、太陽は空のちょうど真ん中から少しズレた位置にあるみたい。昼過ぎってところかしら。


 アイラはリマとおっさんと何やら話している。大人だけの会話を楽しんでいるようだ。おっさんに対する苦手意識も少しは薄れたみたいね。


「ねえ……。シエルもやっぱり、ああいうのが好みなの?」


 おっさんの熱心なススメで、弾弓という石ころなどの固形物を投擲する武器を作っていたシエル。丁度その弾弓の手入れをしていたシエルに、アタシは小声で尋ねてみた。


「ああいうのって?」


「ああいうのよ。 ほらっ」


 目線をアイラに移したあとシエルの方を見直す。


 シエルも意味が分かったのか手入れを止めて、


「え、そ、そりゃあ魅力的だとは思うよ……」


 もじもじしながら女の子のように答えた。


「やっぱりそうなのね……。ほんと男ってどうしてこうなのかしら」


「でも、サーチャだってそうやって聞いてきたってことは、魅力的だと思ったからなんじゃないの?」


「それは私が男っぽいってことかしら?」


「そ、そうじゃないよっ! サーチャは充分立派な女の子……だよ……」


「今、変な想像したわね。お風呂の時のこと思い出したでしょ」


 そう言いながら、アタシもついあの時のことを思い出してしまう。


 あのお風呂では常にドキドキしっぱなしだった。そして今思い出しただけでも恥ずかしくなる。

 それにしても、シエルの背中が案外逞しかったのは驚いたっけ。まあ、村で暮らしてたときのシエルは薪割りとか狩りとかしてたから、逞しいのも当然といえば当然なんだろうけど。


「お、思い出してなんかないよっ! 本当だよっ!」


「本当でしょうね?」


 じとっとした目つきでシエルを見る。


 顔と耳を真っ赤にしながら慌てるように答えるシエルを見ると、何を考えていたのか丸わかりね。


 と、こんな会話を繰り広げていたところ、突然アイラがこちらを振り向いた。そして、


「シエル殿といったか。君はリマ殿と姉弟なのかな?」


 突拍子もないことを投げかけてきた。


 姉弟? まあ確かに、二人とも髪質は短めのサラサラだし、どこか雰囲気も似てる気もするけど、姉弟だと思うほど似ているかしら……? というか種族違うじゃない……。


「いえ、僕達は姉弟ではありませんよ」


 すぐさまシエルが訂正する。


「む、そうか。いや、色々と似ているな、と思ってな」


「シエル君。私達、姉弟だって言われちゃったね。……ねえ? 姉弟にはなれないけど、家族になっちゃおっか?」



 はいーー!?!?



 この悪魔は天使の顔をして何を言っているの!?


 そしてシエルも顔を真っ赤にしない! 耳をぴくぴくさせない!


 って、それにしてもまずいわ……! リマはたぶん無意識なんだろうけど、このままだとシエルが奪われちゃう……!


「だ、だめっ! シエルはアタシとかぞ--」


 何言おうとしてるのアタシ!


『シエルはアタシと家族になるの!』


 なんて言っちゃったら、こ、こここ、告白するも同然じゃないっ!


 シエルはアタシの発言の続きを聞こうとして、まじまじと見てくるし……。


 こ、この続きは何て言えばいいのっ!?

 もうこの流れで言っちゃうしかないの!?!?


 どうしてアタシはこんな不用意な発言をしちゃったのよ!


 って、こんなこと考えている間にも、刻々と時間は過ぎていっちゃう……!

 いつまでも待たせるのはおかしいし、もう言うしかないっ!



「家族になるのはシエルじゃなくてこの俺だ! リマと俺が家族になる! ということでリマ、今すぐここで家族の契りを--」


「ナイトさん? また私の鉄拳をくらいたいんですか? それとも消されたいんですか?」


 リマがおっさんに拳と唇をちらつかせている。


 あ、危なかった……。

 間一髪のところで、大きなおっさんの大きな声が響いてくれたお陰で助かった……。


 それにしても、召喚士兼武闘家かつ天使と悪魔をその身に宿したリマはかなり危険な存在ね。常に注意を払っておかないと……。



 って、安心しちゃってるけど、もしシエルに、


『あの発言の続きは何?』


 とか聞かれちゃったらどうすればいいの!?


 ああー!もう!アタシのバカッ!!



「お、ノーム達が戻ってきたみたいだぞ!」


 アタシが頭を抱えて悩んでいたところ、小さなおっさん達の帰還を知らせるアイラの明るげな声が耳に飛び込んできた。アタシの心も明るくなる。


「さ、さあ! 雑談は終わりにして早く出口へと行きましょう!」


 アタシが急かすように出発を促すと、


「そうだね。早く出口に向かおうか」


 シエルが返答。

 絨毯から立ち上がり、出発の準備を始めた。それに続いて他のみんなも続々と準備を始める。


 みんなアタシのあの発言のことは気にしてないみたい。ほっ……よかった……。


 アタシは、大きなおっさんと小さなおっさんによって救われてしまった。



「ありがと……ね」


 草の陰にいた小さなおっさんの一人に、アタシはこっそりと伝えたのだった。

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