↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔道士なんて聞いてない!  作者: 香月千夜
雷雲下の義戦
PR
78/141

直情猫騒動(4)

二人きりになると、レアンがそっと頭に触れてきた。


「皆、行ってしまいましたね」

「う……うう……」

「そんなに嫌ですか?俺と二人きりになるのが」


言いながら、レアンの指が尻尾の先を押す。


「嫌じゃないのにゃ!恥ずかしいだけなのにゃ!」

「ふふ。そうですか」

「レアンさん……っ!!」

「もっと触れてもいいですか?」

「恥ずかしいけど嫌じゃないのにゃ!!嬉しいけど恥ずかしいのにゃ!!」

「おや」

「ううぅうぅぅ……!!」


問う度にレアンが尻尾を押すので、否応なしにチドリの口から本音が漏れる。おまけに「にゃ」という語尾がチドリには恥ずかしくてたまらない。


「もうダメです……!死にそう……!」

「……もっと可愛がらせて下さい」


顔を覆ったチドリの手を外し、レアンは瞳を見つめてきた。心臓が高鳴り、体が痺れたように動かない。

耳に触れられ、チドリの口から「ふぎっ」と奇声が飛び出す。レアンの指は、いたずらにチドリの耳を弄び始めた。


「や、やめ……くすぐった……!」

「ふふ……触れるのは、くすぐったいですか」

「くすぐったいのにゃ……!あ、もう!」


抗議しようと体を起こしても、嬉しそうなレアンを見ると言葉が喉元で消えてしまう。

耳に触れていた手は、またチドリの顎を撫で始めた。まるで本物の猫にするような手つきに、チドリの頭がボンヤリしてくる。

垂れた耳を見て、レアンが満足そうに笑う。


「……本当に、猫のようですね」

「っ……知りませんよ!もう!」

「可愛いと言っているのですが……」


チドリの頭を抱きかかえるようにして、レアンが仰向けに倒れこんだ。ベッドの上で横になったレアンの胸に、チドリの頭が乗っかる格好になる。驚いて身を捩ろうとしても、両手で頭を押さえられ、かなわない。頭を撫でられ、チドリは体を硬直させた。


「よしよし」

「ね、猫じゃないですよ……っ!」

「……今は、俺の猫さんでしょう?」

「猫さんて……!!」

「よしよし……ふふふ。俺の猫さんは本当に可愛いですね」

「う……」

「おや?どうしました?」

「にゃっ……猫さんじゃなくて、チドリにゃ!!」

「…………」

「ああうぅ」


泣きべそのような表情で、チドリはレアンの胸に顔を埋めた。しばらく黙り込んでいたレアンが、ふいに寝返りを打つ。つられてチドリもコロンと転がる。向き合う形で、レアンが顔を覗き込んできた。


「……今のは卑怯過ぎますよ。可愛さでどうにかなりそうです」

「な、なりませんからぁ……!!」

「なります」


レアンの両手に頬を包まれ、チドリは真っ赤な顔を逸らすことができなかった。鼻先にレアンがキスを落とす。


「ふぇ……っ」

「……俺の、チドリ様?」

「うわあぁぁそれやめて下さいいぃ」

「……やめてもよろしいのですか?」

「にゃ……っう、嬉しい、から、も、もうちょっと、言って、欲しい、にゃ」

「もちろんです」

「はわあぁぁ!!」

「ふふ、可愛い……俺のもの、なのでしょう?ねえ、チドリ様……」

「あうあうあぁ……!!も、もう無理です……!!ドキドキして、ホントに、もう……!!」

「俺の、俺だけのチドリ様。ふふ、ダメですねコレは……繰り返すたびにおかしな気分になります」

「お、おかし、な……?ぅにゃ」

「いえ、何でも……ああ、本当に……愛らしいですね」

「うにょ!?」


瞼に触れた唇は、次いで耳、頬、こめかみ、首へと触れていく。もはやチドリには、抵抗する気力も残っていなかった。

耳の先を甘噛みされ、奇声が飛び出る。


「少し、遊び過ぎましたか?」


力を失った尻尾を、レアンがまた掴む。チドリの肩が小さく震えた。


「んにゃ……レアンさんはいつも、いろいろ、してくれるけど……私がしたことってないのにゃ……っは!?」

「ほう?」

「あ、ちょ、尻尾……!っにゃ……これって不公平なのかにゃ。レアンさんが不満に思ってたら嫌なのにゃ……っ!」


チドリの口から零れた言葉に、レアンの瞳が蕩けるのがわかった。チドリは、今なら顔面でお湯を沸かせられると思った。


「……そんなことを、考えていたのですか?」

「……ア、いや、エット、い、今の、ハ……」

「不満に思ったことなど一度もありませんが……そうですね。して頂けたらどんなに嬉しいかと思います」


そう言うと、レアンはチドリから手を離した。自ら進んで身を差し出しているような姿勢に、チドリは固まる。


「お好きなようにして下さい。俺がしていたことを真似して頂ければ」

「あ、ああいうのは難易度が高いです……」


チドリは震える手を恐る恐る伸ばし、レアンの美しい銀髪に触れた。そっと撫でてみると、レアンは心地良さそうに目を細めた。思い切って、髪の中に指を差し入れてみる。レアンが笑いながら肩を竦ませた。


「っふふ……くすぐったいです」

「す、すみません」

「……髪だけにしか、触れて下さらないのですか?」

「えっ」

「もっと、俺が貴方にしていたように……可愛がって下さいませ」


チドリの息が詰まった。ねだるようなレアンの視線が熱い。その熱に浮かされたように、体を起こした。見上げてくるレアンの目を見ないようにして、そっと、引き結んだ唇で額に触れる。顔を離すと、レアンの嬉しそうな紺碧の瞳が見つめ返してきた。


「あ、あ、の……」

「はい」

「……目、つぶってて、下さい」


クスリと笑って、レアンが瞼を閉じた。長い睫毛が、誘うように影を落とす。チドリは爆発しそうな心臓を抑え、その瞼に口づけた。息をついて、形の良い耳へ。次いで、滑らかな頬へ。最後に、勇気を振り絞って首筋へ。チドリのそれは口づけと言うより、唇を押し付けているかぶつけているかに近かった。それでも、開かれたレアンの目に映るのは、紛れもない喜びだ。


「……ありがとうございます」

「い、いえ……」

「ご感想は、こちらに聞いてみましょうか」

「し、尻尾は……!!にゃぅ……よ、喜んでもらえたらすごく嬉しいにゃ……レ、レアンさんも私に触れてくれる時、同じ気持ちだったら、う、嬉しい、にゃ」

「ええ。きっと同じですよ」

「ほ、本当ですか……?」

「本当です」


微笑んで、レアンがチドリの顎に指を這わせる。また撫でられるのかと思っていると、上を向かされた。声を上げるより早く、唇を塞がれる。体中に、甘い痺れが走った。耳と尻尾が垂れるのがわかる。レアンは、悪戯っぽくチドリの下唇を甘噛みしていった。


「っ!!」

「ただ、口づけはもう少し柔らかく……力を抜いて頂いていいのですよ」


笑みを浮かべるレアンの胸元を、チドリは無言でポカポカ叩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。