↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔道士なんて聞いてない!  作者: 香月千夜
雷雲下の義戦
PR
75/141

直情猫騒動

ビクリと体を揺らして、エーデルは目を覚ました。

ぼやける視界を何とかしようと、瞼を擦る。手元に散らばる薬草、小瓶、メモ書き。明かりをつけ忘れたのか、部屋の中は薄暗い。


(あれ……俺、何してたんだっけな……)


トゥオーノでの一件の後、確かファナーティカとグラナと話をつけたはずだった。後日、ベスティアも一緒に話をする予定を立てたはずだ。

そして帰国した後、魔法薬作りを命じられ、自室に籠ったのだった。そこまで思い出し、息を吐く。


(どれくらい経ったのかわかんねぇけど……徹夜してたみたいだな)


体を伸ばすと、節々が痛んだ。椅子から立ち上がり、閉め切っていたカーテンを開く。真っ白な日差しが目を刺した。


「うっ……」


呻いて、身を竦ませる。ヨロヨロと椅子に戻ろうとした時、机の隅に置いてある魔法水晶(ラクリマ)が光った。手を触れさせると、男の声が聞こえる。


『エーデル様、今よろしいでしょうか』

「ああ、何だ」

『イリオルス国のカイト様がお会いしたいと言っておられます』

「はぁ?カイトが?」


脳裏に能天気なカイトの顔を思い出し、エーデルは重い溜息をついた。


「なんだって今……また何かあったのかよ」

『どうされますか?』

「いや、行く。放っといたほうが面倒だ」

『かしこまりました』

「転移するから皆にもそう伝えといてくれ。遅くはならないはずだ」

『お気をつけて』


杖を手に取ったエーデルは、机の上の小瓶に目を留めた。透明な液体が満ちている。


「あー……これ、失敗したんだよなぁ。後で片づけとかなきゃな」


そう言って、自分のポケットに押し込んだ。




「よおエーデル!遅かったな!」


出迎えたカイトは、陽気な笑顔を浮かべていた。エーデルは口をひん曲げ、腕を組む。


「で?俺に何か用か?また何かあったのか?」

「いや?ファリアが美味い菓子作ってくれたから一緒に食べようと思って」

「…………は?」

「給仕室で待ってるから早く行こうぜー」

「お、おま、お前……!!それだけのために俺を呼びつけたのかよ!?」

「えーいいじゃん。ライゼさんも来てるし」

「アイツもかっ!!」


怒りを露わにするエーデルだったが、睡眠不足のためかすぐに肩を落とした。


「はぁ……もういい。ツッコむのも疲れた……」


給仕室では、ファリアがニコニコと待ち受けていた。隣にいたライゼが手を振る。


「おー遅いぞエーデル」

「…………うるせーよ」

「あれ?何か元気ない?」

「ただの寝不足だ」


ファリアが三人にバスケットを差し出した。ふんわりと甘い香りがする。


「こちらが私の作った焼き菓子です。お口に合えばいいのですが……」

「うわー!美味そう!」

「ありがとね~!」

「お、おお……」

「お茶、お入れしますね」


焼き菓子に手を伸ばした時、カイトと軽くぶつかってしまった。


「あ、悪い……」


カイトが謝る。エーデルはそれに応えようとして――足元がふらついた。寝不足のせいか、体に力が入らない。視界が回った。


「うっ……!?」


派手な音を立て、エーデルは床にすっ転んだ。振動でか、戸棚に入っていたジャムやシロップの小瓶が床に散らばる。


「エーデル!?」

「大丈夫ですか!?」

「どうした!?」


三人が顔を覗き込む。エーデルは軽く目を回していた。


「あちゃー……かなり疲れてたのかな」

「俺の部屋でよければ休ませてやれるよ。ライゼさん、一緒に運んでくれる?」

「ああ、いいよ」

「私はここを片づけてからお伺いしますね」


ファリアは落ちた小瓶を拾い集め、戸棚に戻した。

その中に、エーデルが持ってきていた透明な魔法薬の小瓶があることを知らずに。



四人が去った後、一人の侍女が給仕室を訪れた。


「えーと……ステラ様とチドリ様にお出しするお茶の用意を……」


手際よくカップや紅茶を用意した侍女は、次いで小瓶の並ぶ戸棚に向かった。


「チドリ様はシロップがお好きよね……ステラ様は、ジャムね」


焼き菓子とカップを並べた間に、侍女は赤いジャムの小瓶と透明な液体の入った小瓶を並べた。


「さて、急いで運ばなくっちゃ」



部屋でステラと談笑していたチドリは、侍女が持ってきたお茶と焼き菓子を見て顔を輝かせた。


「わーい!お菓子だ!」

「まったくもう……さっきお昼食べたじゃない」

「甘い物は別腹だよー」

「やれやれ」


呆れたように言うステラも、その表情は優しい。侍女は微笑んで、机にカップを並べ、紅茶を注いだ。


「チドリ様はそちらのシロップを。ステラ様はこちらのジャムを入れてお召し上がりくださいね」

「はーい!」


元気よく返事をして、チドリはいそいそとカップに小瓶の中身を入れた。ステラが隣で苦笑しながら、優雅な所作で紅茶を飲む。


「いただきまーす」


カップに口をつけ、チドリは紅茶を一口飲んだ。温かさがじんわりとお腹に滲み――ふと、体に違和感を覚える。


「ん?何かムズムズするような……」


呟きながら、カップの紅茶を飲み干した。

おかわりを注ごうとして、ステラと侍女の目線に気付く。

二人は、真っ青な顔でこちらを見つめていた。ステラの唇がワナワナと震えている。


「ス、ステラ?どうかした?」

「ど、ど、ど、どうかって……チ、チドリ、貴女……!!」

「え、わ、私?私が何?」

「チ、チドリ様!!こちらを!!」


侍女が叫び、チドリに手鏡を手渡してきた。

急いでそれを覗き込む。





部屋中にチドリの悲鳴が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。