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魔道士なんて聞いてない!  作者: 香月千夜
雷雲下の義戦
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雷声の余響(2)

暗い街並みを抜け、一行は城に到着した。

イリオルスと比べるといささか小さく、厳格な雰囲気を感じる。窓が少なく、全体的に薄暗かった。城門近くに差し掛かると、どこからか兵が現れた。


「殿下……!お帰りですか」

「ああ。闘技場での騒ぎはひとまず落ち着いた。客人が来ているので、急ぎ広間の支度を」

「はっ」


踵を返した兵を見て、ファナーティカが忌々しげに舌打ちした。


「ふん!なにが客人か……このような無作法者どもなど」

「いちいちうっせえな」

「エーデル。突っかからないの」


ライゼが間に入る。エーデルはファナーティカと睨み合っていた。

グラナが不安そうにしながら、先導して歩いていく。

通された広間は、長机に黒塗りの椅子だけが置かれた簡素な空間だった。天井から吊るされたシャンデリアが、鈍い光を放っている。グラナに促され、チドリ達は椅子に座った。


「それで、その……ペルデドの話なのですが」

「ペルデド殿は我が国の魔道士だ!!あの方の力をお前達も見ただろう!!」

「お前まだ言ってんのかよ。アイツの容姿、魔力、言葉。その全部を実感しておいて今更……」

「そうだね。俺達はトゥオーノ国の魔道士はベスティアだって思ってる。選儀で選ばれたのはベスティアだし」

「選儀に背いて偽物仕立て上げるなんざ御法度だぜ。お前、自分が置かれてる立場そろそろ理解しろよな」

「し、しかし……!!ペルデド殿が言ったのだ!!選儀に誤りがあったのだと!!自分こそが真の魔道士なのだと!!その力も本物であった!!」

「魔道士なら俺達に負けるはずねえだろ」

「まあちょっと苦戦しちゃったけどね~」

「倒したのはチドリ様ですしね」

「そこうるせえぞ!!俺はまだ本気出してなかったっつーの!!」

「はいはい」

「犬ぅ……!!」

「話ズレてるよエーデル」


場違いな和やかムードで話す三人の横で、チドリは静かな表情をしていた。それを見たファナーティカが口元を歪ませる。


「……ふん。魔物を奴隷にするななどとほざいておきながら、魔道士も駄犬を一匹飼っているようじゃないか」

「……どういう意味ですか?」


予想に反し、チドリの声は落ち着いていた。一瞬詰まり、ファナーティカが血色の悪い頬に下卑た笑みを広げる。


「そこの魔物のことだ。魔道士ならそいつのような上物を手に入れることも容易かろうなぁ?見目だけはかなりの物じゃないか、え?荷運びとして使っておるのか?それとも……ああ、閨の相手でもさせておるのか?」

「おい……ッ」


エーデルが腰を上げるより早く、ファナーティカの顔面に何かが飛んだ。

広間に悲鳴が響く。

机に重々しい音を立てて落ちたのは、チドリがライゼから手渡された金貨の袋だった。

椅子から転げ落ちたファナーティカがもんどり打つ。

レアンは目を見開いて、隣に座るチドリを見つめた。

黒い瞳には涙こそないものの、紛れもない憤怒が底光りしている。

大きく深呼吸して、唇が開いた。


「……貴方みたいな人でも一応は国の王様ですから。これくらいにしときます」

「こ、小娘ッ!!貴様……何という無礼な!!」

「無礼なのはどっちですかッ!!」


空気を震わせるチドリの怒号に、一同が首を竦めた。


「レアンさんは私の大切な恋人ですッ!!あんたのその腐った価値観で見るなッ!!」

「チドリ様……!!」

「いや感動するなレアン。気持ちはわかるけど」

「馬鹿犬……」


呆れ返るエーデルを尻目に、レアンは輝きに満ちた目でチドリを見つめていた。その表情は喜び一色で、チドリ以外は何も見えていないようだ。


「こ……恋人だと……!?貴様、何を血迷ったことを!!」

「血迷ってなんかない!!」

「ま、まあまあチドリ。落ち着いて」

「お前が怒るのもわかるけどな。後悔する前に冷静になった方がいいぜ」

「後悔っ、て……」


エーデルの方に顔を向けたチドリは、自分を熱っぽく見つめるレアンに気づき、顔を炎上させた。


「……遅かったか」

「いや、遅いでしょ」

「チドリ様~……!!」

「ひ、ひええぇ……」


情けない声を上げ、チドリは椅子に沈み込んだ。両手で顔を抑えるチドリに、レアンは頬ずりしそうな勢いである。が、場をわきまえて必死に抑えているようだった。


「あ~……ゴホン。まあなんだ、その……つまり俺達が言いたいのは、魔物であっても奴隷になんかするなってことだ。条約は人間のみ対象なんて、虫が良すぎる。魔物も人間も平等であるべきで、今回のことはお前達の条約違反になるってこった」

「そうだね。ペルデドの洗脳があったにせよ、この国に魔物差別の傾向があったのは事実だ。アイツも、それを利用したんだろうし」

「処分みたいなのはこれから俺達四国で話し合うことになるだろう……お前達も、自分達でこれからどうするか話し合っとくことだな」

「は、はい……!」


黙り込んだファナーティカに代わり、グラナがしっかり頷いた。


「さて、と……今日はもう遅いからな。この城に泊めてもらおうぜ……ってお前いつまでやってんだよ」

「だ、だって……は、恥ずかし過ぎて……死にそう、です……」

「死なねえから。レアンもいい加減シャキッとしろよ。顔が緩みまくってんぞ、だらしねえ」

「チドリ様の可愛さの前には成す術もありませんね……どうしてそんなに可愛らしいのでしょう?」

「ホントすみませんでした!!この口が!!うっかり!!死にたい……!!」


エーデルは溜息をつき、半泣きになったチドリを引っ張って広間から出た。

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