雷声の余響
闘技場に、静寂が降りた。
銃を下ろし、ライゼが息をつく。
「ふう……ひとまず、片付いたみたいだね」
頷きかけ、チドリの膝から力が抜けた。崩れかけた体を、レアンが支える。
「す、すみません……なんか、力が……」
『無理もない。精霊王二人と同時に契約したうえ、霊具まで発現させたのだからな』
藍晶の声が聞こえた。レアンが苦笑し、チドリを支えたまま地面に足をつく。
「ご無理なさらず。楽にしていて下さい」
「あんだけ派手なのかましてたらね~そりゃ疲れもするよ」
「ふん。鍛練不足だな」
「う……」
チドリが項垂れる。レアンに睨まれ、エーデルは肩を竦ませた。
「さてさて、どうしようかね……魔族を始末したはいいけど、本来はこれが目的だったわけじゃないし」
「まあな。けど、見たところ国中に置いてある像はコイツの魔力で動いてたはずだ。元が絶たれたから、そのうち国のやつらの催眠も解けるんじゃねえか」
「だといいけどね」
「催眠があったとはいえ、この国に魔物に対する差別があったのは事実です。まともな人間もいたようですが……王族と直に話し合うほか無いでしょう」
「魔族を魔道士に仕立てあげるような連中と話し合いかよ」
「まあ、気づいてなかったんだし仕方ないんじゃない?」
「ケッ……甘いんだよ」
エーデルがそう吐き捨てた時、闘技場の扉が荒々しく開かれた。
奥から、白髪交じりの男と青年が姿を現す。身に着けた衣服から、二人が高い身分の人間であることが窺い知れた。男がギョロリと目を剥く。
「騒ぎを聞きつけて来てみれば……!!何事だ!?奴隷達はどうした!?」
「ち、父上、落ち着いて下さい……!!」
「落ち着いてなどいられるか!!ペルデド殿はどうされたのだ!!なぜいない!?」
「ペルデドなら俺達が殺したが」
エーデルの言葉に、男が絶句した。青年はポカンと口を開く。短い灰色の髪に大きな赤玉の瞳の、どこか幼さが残る青年だった。
「なんだと……!?この国の魔道士を手に掛けたというのか貴様ら!!」
「父上!!ですからあれは魔道士ではないと……」
「……へえ、君、あれが魔道士じゃないって言うの?」
ライゼが面白そうに声をかけた。青年が肩を震わせ、小さく頷く。父上と呼ばれた男は唾を撒き散らして叫んだ。
「馬鹿な事を言うなッ!!この国の魔道士はペルデド殿ただお一人だ!!選儀により選ばれた方なのだ!!」
「ち、違います!!選儀で選ばれたのはベスティア様で……あ、あの人は、ペルデドは……普通じゃない……!!」
「グラナ!!貴様……言葉が過ぎるぞ!!」
男が、グラナと呼んだ青年の頬を打った。
エーデルが二人の間に割って入る。
「突然現れといて勝手に話進めんなよ。お前達は、誰だ?」
「引っ込んでいろ小僧!!無礼であるぞ!!」
「……アァ?」
ライゼが止める間もなく、エーデルは男を宙づりにした。中空で逆さにされた男が叫ぶ。
「何をするか!!降ろせ!!降ろさぬか!!余はトゥオーノ国の国王、ファナーティカ・トゥオーノであるぞ!!」
「吊るされてから自己紹介するなってんだ。んで、お前は?」
「え、あ、はい!僕はグラナ・トゥオーノと言います……!トゥオーノ国第三王子です!」
「お前はまだまともみてーだな」
乱暴にファナーティカが降ろされた。降ろされたというより、落とされたと言った方が正しいかもしれない。ファナーティカの顔は怒りと逆流した血で真っ赤だった。
「貴様……!!ただで済むと思うなよ!!」
「吠えんなよ。それに……ただで済まないのはお前達の方だろ」
グラナの顔が青ざめた。
「禁止されたはずの奴隷制度を勝手に復活させて、魔物を襲い、商品として扱う……他国からの非難は承知の上か?あまつさえ、魔族を魔道士として迎えるなんてな……覚悟しとくのはそっちだぜ」
「魔族だと……!?一体何を言っておるのだ!!」
「や、やはりあのペルデドという者は……普通の者ではなかったのですね」
「フン。お前は勘づいてたのか」
「はい。あ、あの……詳しいことは、城で話しても構いませんか。ここで立ち話もなんですし……」
「お。そうしてくれるとありがたいねぇ」
「ならん!!このような者共を我が城へなど……!!」
「もういっぺん吊るされてえのか?」
「こらこら、脅しちゃ駄目でしょ……ファナーティカ国王。こちらにはジャファーフ国とネフェロディス国、そしてイリオルス国の魔道士と王子がいます。この国で行われていたことは我々がしっかりと把握済みですので……どうでしょう。こちらとしても、穏便に話し合いたいのですがね」
「ぐ……っ」
「お前のも脅しと変わらねえだろ……」
悔しげに歯噛みしたファナーティカが踵を返した。そのままズンズン歩いていく。グラナが申し訳なさそうに眉を下げた。
「すみません……どうぞこちらへ。大したことはできませんが、お食事と湯の用意ならさせて頂けます」
「ごめんねぇ。なんか押しかけたみたいになっちゃって」
ライゼが笑うと、グラナは「いえ」と苦笑した。
チドリは、当然のように自分を抱えようとするレアンを押し止めた。天狼のままの金の瞳が、不満そうに見返してくる。
「お疲れでしょうに……遠慮していらっしゃるのですか?」
「た、確かに疲れてますけど、歩けないほどじゃないですから……!!」
何とかレアンを説得し、チドリは歩き出した。




