雷雲の獣(6)
チドリは、鉱石達を前にして頭を悩ませていた。
自分で自然と選べると聞いていたが、見ていてもその気が全く起きない。どれも美しく、目移りするばかりだった。
昼下がり。今日で最後の夕飯になるからと、ベスティア達は食糧調達に出かけていた。ライゼとレアンは、少し出てくると言い残していったきりだ。
溜息をつき、胸元に手を当てた。
「……あの、皆の意見を聞いてみたいんだけど……」
空気が揺らぎ、六人の精霊王が姿を現した。チドリの手元にある鉱石を眺め、口々に感想を並べ始める。
『アタシはこの紅いのがいいなー!アタシの色だし!』
『自分の色を選ぶというのであれば、俺は蒼になるぞ』
『まあ~どれも綺麗ねぇ』
『…………良い石だ』
『どうせなら一番高価なのにしたら!?』
はしゃぐ五人を覗いて、紫苑は一人、ジッとチドリの手を見つめていた。
「どうしたの?紫苑」
『う、うん……チドリの魔力は、誰の色にも染まれるから……透明なのはないかなって、思ってたの』
「透明、か……」
『ふむ。一理あるな……せっかくだ。自分の魔力に準じた物を選ぶのも良いだろう』
『それいいねー!』
『紫苑良いこと言うじゃなぁい。そうしましょ!』
『え、えへへ……』
チドリは次第に顔を輝かせていき、ポンと手を打った。
「透明か……!うん!いいね!じゃあ、この中から探そう!」
袋をゴソゴソと探っていると、原石を集めた方の袋に、チドリの両手に収まるほどの透き通った石があった。ほんの少しくすんだそれは、磨けばさぞ美しい宝石になると思われる。
『あったな!透明なの!』
「うん……!」
笑顔を浮かべ、チドリは石を胸に抱いた。チドリの鼓動に合わせ、石が温かく脈打つような気がした。
黄昏の迫る夕飯の席で、チドリは選んだ石をベスティア達の前に差し出した。
「ほお……チドリ殿はその石を選んだか」
「それは純貴石っていうんですよ!加工しやすくて安価なので、人気だし有名なんです!」
「へえ。嬢ちゃん、それにするのかい」
「はい……!」
「よかったですね、チドリ様」
レアンの微笑みに、チドリも大きく頷く。
「ではでは!無事に目的も達成されたということで、本日はご馳走ですよお!」
「最後の夕飯ですからね!たくさん食べて下さい!」
「それでは、乾杯!」
ルヒル達の音頭で、楽しい食事が始まった。
翌日の朝。事前に言っていた通り、ロルドスが再び馬車を引いて現れた。荷の減った荷台に、ライゼが乗り込む。レアンも繋いであった黒馬に跨り、手綱を取った。チドリも身支度を済ませ、荷台に乗ろうとして、服の裾を引っ張られた。見ると、頬を赤くしたソルがこちらを見上げている。
「ソルちゃん?どうしたの?」
尋ねると、ソルは散々逡巡した後、そっとチドリの手に何かを握らせた。
中に花びらを閉じ込めた薄紅の小さな宝玉で作られた、首飾りだった。日の光を受けて、優しい煌めきを落とす。
「こ、これ……私に!?」
「ソルが自分で作ったんですよ。そういう風に、花びらが入り込む石なんて滅多にないですから、よっぽどチドリさんが気に入ったんでしょうねえ」
胸がいっぱいになり、チドリはソルを抱きしめた。華奢な体が一瞬強張り、次いで嬉しそうに抱きしめ返してくる。
「ありがとう……!大事にするね!」
ソルは顔を上げ、満面の笑みを向けてくれた。
後ろ髪を引かれる思いで体を離し、荷台に乗り込む。動き出した馬車に向け、ベスティア達は手を振ってくれていた。
「チドリ殿!またいつかお会いしよう!」
「また来て下さいねー!」
「待ってますからねー!」
「お気をつけてー!」
「はい!皆さん、ありがとうございました!」
声を張り上げ、チドリは小さくなっていくその姿にいつまでも手を振り返していた。
関門近くに差し掛かった頃、ライゼが小さくチドリに耳打ちしてきた。
「なあなあ、チドリ」
「何ですか?」
ライゼがあまりに声を潜めるので、自然とチドリもヒソヒソ声になってしまう。
「お前さんさ……レアンの事、どう思ってんだ?」
「はい!?」
「しっ!声がでかいって!」
「す、すみませ……」
恐る恐る首を伸ばし、ライゼがレアンの方を窺った。レアンはこちらに気付かず、馬を歩かせている。
「ど、ど、どう思ってるってあの、あの、その」
「だからさ、率直にだよ。アイツの事、どう思ってる?」
問われて、チドリは自分の頬が熱くなっていくのを感じた。鼓動が早くなり、言葉に詰まる。
「い、良い人だなって思います……や、優しいですし、強いですし……顔も、整ってて……本当に、王子様そのものだなって……」
自分の言葉に、自分で落ち込んできた。口にすると、レアンがどんどん遠い存在に感じられてしまう。
「それだけか?」
「え、い、いや……もっと良いところはあると、思いますけど……」
「そうじゃなくてさ」
言い募るライゼに、チドリは小さく首を振った。
「……い、言わせないで下さい」
「……おい、それって」
「わかってます!」
震えたチドリの声に、ライゼは口を噤んだ。チドリの唇が苦しげに歪められる。
「……わかってます、から」
「…………そうか。悪かった」
頭をポンポンと叩いて、ライゼは荷台に横になった。チドリは膝を抱え、顔を伏せる。
湧き上がりかけた感情に必死で蓋をして、気づいていないふりを決め込んだ。




