チドリの奮闘
カイトに連れられ、チドリは馬に乗った。辺りは夜闇に包まれ、真っ暗だ。
「カイト、レアンさんは……?」
「アイツを乗せた馬はもう行っちまった。俺らも急がないとな」
カイトの表情は沈んでいる。チドリはハタと声を上げた。
「部屋にいたストゥトっていう男は……!?賊の頭領もいたはずなんだけど……!」
「レアンに言われて捜索してるよ。俺たちが来たときには、逃げてたみたいでな……アイツも、チドリの怪我を治そうと水場に行っていた隙に逃げられたみたいでさ」
「ッ……お願い!絶対に見つけ出して!あいつらきっと、アロガン王子に繋がってるはずなの……!それから、イフテカール公爵っていう人も……」
「なんだと……!?わかった!任せろ!!」
カイトは傍にいた兵に大声で指示を出し、馬の腹を蹴った。
チドリを支えながら、カイトは不安げに話しかける。
「な、なあ……レアンの奴、本当に処刑されちまうのかな……?」
「……させないよ。そんなこと」
疾走する闇の中を真っ直ぐ見据えて、チドリは答えた。
心の中で、アロガンやストゥトに対する怒りが沸々と湧き上がってくる。
「レアンさんを死なせるなんてこと、私がさせない……!きっと、何か方法があるはず!」
「!……お、おう!そうだよな!」
少し元気を取り戻したカイトは、「よっしゃあ!」と空に向かって吠えた。
チドリのお尻が痺れ始めた頃、馬は城に到着した。
チドリはカイトの手を借りて馬から降り、広間に走った。途中途中で出会う侍女達が、驚きと安堵の表情を浮かべる。
ノックもせず、広間に駆け込んだ。
レーヴェとフィオーレが顔を輝かせ、アロガンが目を見開くのがわかった。
だが、レアンの姿が無い。
「魔道士殿……!!」
「魔道士様……!お怪我はありませんか!?」
「はい、大丈夫です!あの……レアンさんはどこですか!?」
一変して、フィオーレの顔が張りつめた。アロガンがにやにやしながら近づいてくる。
「奴は地下牢だ。当然だろう?やっと本性を現したのだからな」
チドリは腹に力を込め、アロガンに真っ向から言い返した。
「貴方の企みはわかっています。私が、許しませんから」
「なんだと……?」
「魔力がなくても、弱くても……貴方の企みだけは、絶対に阻止します。レアンさんは、死なせません」
フィオーレが涙を浮かべる。チドリはアロガンが何か言いかけたのを無視して、踵を返した。
「魔道士殿!?どちらへ……!」
「レアンさんの所です!」
大声で応えて、チドリは地下牢へ走った。
静かな牢の中で、レアンは溜息をついた。
両手と両足は枷が嵌められ、鎖で壁に繋がれている。体は、元の姿に戻っていた。
脳裏に、チドリの泣き顔が蘇る。
(……もう、城に帰ってこられただろうか。頬が赤く腫れていらっしゃった……麻痺薬でも使われたのか、お体も上手く動かないようだったし……お辛い思いをしていないといいが)
胸がズキリと痛んだその時、外の衛兵が騒いでいるのが聞こえた。
「……さい!……様!お帰り下さ……」
(なんだ……?)
不審に思っていると、小柄な影が転がり込んで来た。思わず声を上げる。
「チドリ様……!?」
「レアンさん!!」
鉄格子に飛びつき、チドリが顔を輝かせる。
近づこうと動くが、鎖が伸びきって引き戻された。
衛兵達が、チドリの腕を引いて引き離そうとする。
「魔道士様!どうかお引き取り下さい!」
「嫌です!!離してくださいっっ!!」
衛兵の腕に噛みついて、チドリは牢の中のレアンに必死で捲し立てた。
「レアンさん!待ってて下さいね!絶対にそこから助け出してみせますから!私、諦めませんから!!」
「チドリ様……」
「処刑なんてさせません!だから、レアンさんも諦めないで下さい!私のこと、信じててくださいっ!」
二人掛かりで牢から引き離された後も、チドリは「絶対ですからねー!」と叫んでいた。
たまらず、レアンは吹き出してしまう。
遠くなっていくチドリの叫びに、目を閉じた。
「もちろんです、チドリ様…………俺は貴方を信じます」
廊下に追い出されたチドリは、駆け寄ってきたエスカマとアジーン、カイトに向かって言った。
「これから、書庫に行ってきます!」
「こ、これからでございますか!?」
「もう夜遅いぞ……!?今日はとりあえず寝た方が……」
「いやだ!」
駄々っ子のように、チドリは三人を睨んだ。
「もう今は一秒だって惜しいの……!カイト、ファリアさんに頼んで、日持ちする食べ物を用意してもらって!」
「お、おう」
「エスカマさん!三日分くらいの着替えを侍女さんに頼んで下さい!」
「は、はい」
「アジーンさんは私の手伝いをお願いします!」
「うん!」
言い終えたチドリは、もう一度広間へ走った。
レーヴェとフィオーレ、アロガンが待ち構えている。
アロガンが余裕たっぷりに告げた。
「レアンの身は五日後の裁きで処分されるそうだ。それで?それまでにお前は奴を救えるとでも言うのか?」
「……できます」
(五日後までに、ストゥトと賊の頭領、イフテカール公爵を捕まえて、レアンさんの無罪を証明してみせる)
アロガンが不満げに鼻を鳴らした。
(私も、自分にできることをしなきゃ……!!)
瞳に決意を宿らせ、チドリはレーヴェとフィオーレの方を向いた。
「レアンさんを死なせたりしませんから、安心してください」
二人は息を呑み、しっかりと頷いた。




