蒼薔薇の戦姫(4)
お久しぶりですー!!!\(゜ロ\)(/ロ゜)/
夕闇が迫る空の下、ネフェロディスの城下町をチドリは歩いていた。エーデルは前を行き、時折足を止めてチドリが追い付いてくるのを待っている。街は、トゥオーノの時ほどではないが、ひっそりとした静けさに満ちていた。
「な、なんか……静かだね」
「まあな。今、街のほとんどの人間が月蝕会に労働員として収集されてんだ。男手は粗方王宮近くの施設で働かされてる。女と子どもと年寄りは、まだこの街に残ってるんだがな……それでも、施設で働いてる男の女房なんかが、少しずつ収集され始めてるよ。女房達だって働いてる自分の旦那が心配だからな、言われるままついていくしかないんだ」
「……そうなんだ」
「残された子どもや年寄りの面倒は誰が見るんだって話だよな。実際、体の弱いやつや病気を患ってるやつから死にかけてるらしい……ホント、胸糞悪い話だがよ」
舌打ちを零し、エーデルが忌々しそうに吐き捨てた。薄闇の降り掛けた中、紺の双眸が微かに光る。
「……行こうぜ。多分、この先にいる」
足を進める先は、街路のずっと奥だった。家々が折り重なったように見える背後から、温かい橙色の明かりが漏れている。人の話し声や笑い声も聞こえてきた。
狭い路地裏を何とか進んでいくと、急に目の前が開けた。
広場のようになった場所に、焚火と、何十人かの人が集まっている光景が飛び込んでくる。皆手に木の椀を持ち、楽しそうに笑っていた。
エーデルが一歩踏み出す。
「おいエルローズ!やっぱりここにいたのかお前!」
人々の中央、焚火の傍に立っていた少女が振り返った。
小柄な体躯、腰元まで伸びた美しい金髪は緩く波打ち、焚火の明かりを受けて艶やかに光る。スラリとした手足は陶器のように滑らかで白い。こちらを見つめる目は蒼穹の色で、大きく、宝石のように輝いていた。長い睫毛をパチパチとさせ、少女が破顔する。
「エデ!」
「その呼び方やめろって言ってんだろ!」
「なんだよぅ!エデはエデじゃないか!お前こそなんだ!いつもみたいにエルって……」
「だあぁぁヤメロ!言うな!」
顔を赤くしながら、エーデルは唐突にチドリの耳を両手で塞いだ。硬直するチドリに気づいたエルローズが目を瞬かせる。エーデルは深く息をつき、チドリの耳から手を離した。
「……聞いてないよな?お前は何も聞いてないよな?」
「うん。エーデルがエルって呼んでたことなんか聞いてな……」
「しっかり聞こえてんじゃねえかッ!!」
顔を赤くするエーデルに、思わずチドリは笑いを零した。それを見たエルローズが、ムッと頬を膨らませる。
「な、なんだエデ……い、いつの間に恋人が出来たのだ?わ、私には一言も……」
「……ッは!?はああぁぁあぁあ!?」
瞬間、エーデルの顔からザッと音を立てそうな勢いで血の気が失せた。焚火の明かりがなければ、背後に広がる薄闇と同色にすら見えたかもしれない。
「おまッ……!お前、恐ろしい事言うんじゃねえよ!!お、俺が殺される……ッ!!」
「こ、殺される!?」
「そうだよ!!滅多な事言うな!!いいか、コイツにはもう恋人がいるんだよ!!」
「え、そ、そうなのか?す、すまない、私はてっきり……」
「あぁぁ……これがアイツの耳に入ったら俺ホントに殺される……」
「お、落ち着いてエーデル。レアンさんはそんなことしないよ」
「言うなよ!?絶対アイツに言うなよ!?」
「う、うん。言わないから」
半ば怯えているエーデルを宥め、チドリはジッと向けられているエルローズの目に向き直った。
「えっと……初めまして。私はチドリと言います。イリオルス国の魔道士です」
「おお!お前がエデの話していた魔道士だな!?初めまして!私はネフェロディス国第三王女、エルローズ・デゼル・ネフェロディスという。よろしくな!」
「はい!よろしくお願いします」
「んー……チドリ、年はいくつだ?」
「年……?今年で十八です」
「なぁんだ!じゃあ私の方が年下じゃないか!敬語なんていらないぞ。もっと普通に、友人に話しかけるように私と話してくれ!」
「はいっ……じゃない、うん!」
「うんうん!いいなぁ、私にも女の子の友達が出来たぞ!」
頬を染めて嬉しそうに笑うエルローズは、とても美しく可愛らしかった。今にも踊りだしそうなエルローズに、エーデルの溜息が重なる。
「お前なぁ……浮かれるのはいいけどよ。俺がここに来た意味、わかってんだろうな?」
「む。もちろんわかっているとも。だが……も、もう少しだけここにいさせてくれ。まだ皆が食事の途中なのだ」
叱られた子どものように首を竦ませ、エルローズはクルリと踵を返した。こちらを見守っていた後ろの人々が、戻ってきたエルローズにまた親しげに声をかける。
「王女さん、大丈夫ですか?俺達の事ばかり気にかけて頂いて……」
「エーデル様がいらっしゃってますよ。もうお城に帰られては……」
「心配するな!城の事なら気にしなくていい。さあ、もう食べないのか?まだまだあるぞ!」
明るい笑顔を浮かべながら、エルローズは駆け寄ってきた子どもの椀に鍋からスープのようなものをよそってやっている。人々はその様子を見て温かく笑い、また談笑に戻っていく。
街の隅で広がっていた光景に、チドリはそっと息をついた。
「……エーデル」
「ああ。アイツが城から持ってきた食料で作ってやってるんだ。その食料だって、この街に住んでる皆が畑で作ってたものなんだがな」
「……そっか」
「ここだけじゃない。アイツは、毎日街中駆け回って同じような事してるんだ。朝も夜も……まったく、城から捜索頼まれるこっちの身にもなって欲しいぜ」
「ふふっ」
「な、何がおかしいんだよ」
「ううん?ただ、そんなこと言う割には優しい顔してるなあって思って」
「し、してねえ」
「朝も夜もエルローズさんが走り回ってること知ってて、お城から言われるまでは探しに行かないんでしょう?」
「……別に」
「素直じゃないなぁ」
「う、うるせえ」
顔を背けたエーデルだったが、その後、エルローズがこちらに走り寄ってくるまでその場から動こうとはしなかった。




