表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハードボイルドワルツ有機体ブルース  作者: N.river
27/89

ACTion 26 『巡る世界 2』

 入れ替わり、部屋の隅で表示は灯った。表で部下が入室許可を求めている。応じてドアをスライドさせれば、プラットボードを携え部下は現れていた。今しがた極Yより通信があったことを告げるとプラットボード上へ人形を立ち上げ、シャッフルへと向けなおす。

 人形が踊り出すと同時に翻訳されてゆく動話は、与えたもう一つの座標が『デフ6』エリア、ギルド商人の非対面式店舗であったことを、すでにもぬけのカラだったことを報告していた。さらに店舗内の留守録映像に対象が映っていたことを、ふまえて送信元を探り、惑星『アーツェ』へ向かっていることもまた知らせる。そうして動きを止めた人形を前に、部下はシャッフルへ顔を上げていた。

『アーツェ、ですか……』

 呟くように繰り返す。

『ここからOp・1までの距離と、あまり変わらんな』

 シャッフルは仮想デスクのコンソールを弾した。『アーツェ』の正確な位置確認にとりかかる。

『まだ彼らに任せるおつもりですか?』

『フェイオン以上の惨事は起きんよ』

 部下の問いかけへ十分承知している、とうなずき返した。

『ですが我々の船は彼らよりアーツェに遥かに近い位置で待機しています……』

 食い下がる顔へ視線を上げる。

『対象を確保することは重要だ。だが極Yを使うのは、彼らから動話を剥奪するためでもある。それが上の考えなら従うのが我々の役割だ。乗り込んで手柄を奪うわけにはいかん。ただ』

 一呼吸おいて、知らぬうちに詰まっていた眉間を開き付け加えた。

『その極Yが対象を逃し続ければ、確かに本末転倒ということにはなるがな』

『すでに一個分隊の準備は整っている状態です』

 言葉を待っていたらしい。部下の段取りに抜かりはなかった。

 そんな部下の目をのぞき込む。同時に、向かえば上の指示に背くこととなるとも考えた。だからこそもう一度、勝負をかけるてみるか、シャッフルはとひとりごちる。そしておそらくこれが最後のチャンスだろうと感じ取った。

『確か、アーツェには古い連邦軍基地が残されていたな』

 わざとらしい仕草で宙を仰ぎ見、確かめる。

『視察、されますか?』

 切り返す部下こそ絶妙だった。

『そうだな。ここも一段落つきつつある。たまには貴重な資源のすす払いにつとめるのも悪くない』

 シャッフルは言い放ち、一転して表情を引き締めなおした。

『分隊員には必ず絶縁スーツを着用させろ。それから実弾の携帯は認めん。実験体は生きたままで確保したい。もちろん極Yとハチあわせた場合、我々は援護に回る。だが彼らがしくじりそうな時は我々の出番だ。遠慮はするな。後の責任はわたしが取る。実験体を確保しろ』

『了解しました』

 早速にも制服の胸元からケーブルを引き出した部下が、先端についたパッチをこめかみへ貼り付ける。骨で声を拾いながら、別れてぶら下がるケーブル途中のマイクを使い指示を飛ばした。やり取りに集中していた視線をやがてシャッフルへと戻す。

『六百セコンド以降でしたら、いつでも出発可能です』

『分かった』

 ならば視察で席をはず件を、うまくクレッシェへ伝えなければならない。出来るかどうか疑問は残ったが、やるしかないとシャッフルは胸の光学バーコードへ入出許可証ともなる階級章を転写させた。埋まっていた椅子から腰を上げる。前で部下が静かに頭を下げていった。



 その六百セコンド後、一艇の巡航船は『フェイオン』の傍らに停泊する白い船から離脱していった。そこにシャッフルたちと、『アーツェ』で過ごす誰もの運命もまた乗せて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ