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『鬼神の刀と桜の誓い』〜異世界転生侍、魔王の娘を守る〜  作者: 蒼狐


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第四章 森の深淵と迫る影

洞窟の中で短い休息を取った後も、雨は一向に弱まる気配を見せなかった。


零は鬼哭丸を膝に置き、洞窟の入り口に座ったまま外の気配を鋭く警戒していた。


ルリアは岩壁に寄りかかり、零の羽織を体に巻いたまま浅い息を繰り返している。


傷の手当てのおかげで出血は止まっていたが、痛みはまだ残っているようだった。


零は低く言った。


「もう少し休んだら移動する。

 このままでは追手に囲まれる危険がある」


ルリアは小さく頷いた。


「零……ごめんね……私のせいで……」


「謝るな。守ると決めたのは俺だ。

 それに、侍として一度背中を見せたら終わりだ」


その時、洞窟の外から木々が激しくざわめく音がした。


零の瞳が鋭く細まる。


「来る……今度はもっと多い」


ルリアの体がびくりと震えた。


「聖騎士……また……?」


零は鬼哭丸を手に立ち上がり、ルリアを背後に庇うように構えた。


洞窟の外から、十人の影が雨の中を進んで現れた。


今度は先ほどより組織立った追撃隊だった。


白銀の軽鎧を着込み、胸に太陽と剣の紋章。

八人には聖剣、二人は弓を構えている。


雨に濡れたマントが重く垂れ下がり、兜のスリットから冷たい殺意が零とルリアに向けられていた。


先頭の騎士が低い声で叫んだ。


「魔王の落とし子と、その侍の犬め……ここで終わりだ!

 王女を渡せば、貴様だけは生かしてやるぞ!」


零は静かに構えながら答えた。


「生かしてやる、か。

 随分と上から目線だな。

 お前たちこそ、俺の太刀の錆になる覚悟はできているのか?」


一番手前の騎士が弓を引いた。


矢が雨を切り裂いて飛んでくる。


零は一瞬で間合いを詰め、鬼哭丸を横に払った。


ビュンッ!


矢が真っ二つに切断され、地面に落ちる。


そのまま零は二歩で弓使いに迫り、刃を振り下ろした。


ザシュッ!


軽鎧の肩口が深く裂け、血が噴き出す。


騎士が悲鳴を上げて後退する。


しかし残る九人が同時に動き出した。


左右から四人が聖剣を振りかぶって斬りかかり、

後ろの二人が弓を構えて援護射撃を始める。


零の体が低く沈んだ。


鬼哭丸が雨を切り裂きながら美しい弧を描く。


最初の剣を弾き返し、反撃の横薙ぎを放つ。


刃が軽鎧の隙間を捉え、鮮やかな血が雨に混じって飛び散った。


「ぐあっ!」という短い悲鳴が上がる。


もう一人の騎士が聖剣を大きく振り下ろしてきた。


零は体を捻って避け、鬼哭丸を下から突き上げる。


刃が兜と胸当ての間を抉り、血が零の顔に飛びかかった。


零は血を振り払いながら、低く笑った。


「聖王国の騎士とは思えぬ動きだな。

 もっと本気で来い。俺はまだ温まっていない」


戦いは激しさを増した。


零は洞窟の入り口を背に、狭い地形を活かして敵の数を分散させる。


鬼哭丸が雨を切り裂き、聖剣を弾き返し、鎧の隙間を的確に抉る。


血しぶきが零の黒い羽織に飛び、肩や腕に浅い傷がいくつも増えていく。


ルリアが洞窟の奥から心配そうに声をかけた。


「零! 後ろに三人……弓が!」


零は即座に反応し、体を翻して矢をかわした。


同時に鬼哭丸を大きく振り回し、残る弓使いの一人を牽制する。


矢が零の肩をかすめ、羽織に小さな裂け目を作った。


痛みはほとんど感じなかった。


代わりに、背後のルリアの存在が零の集中力をさらに研ぎ澄ませていた。


(守らねば……この少女を、これ以上傷つけさせない……)


零の動きが加速した。


三歩で間合いを詰め、残る聖剣使いの四人を同時に相手取る。


剣と剣が激しくぶつかり合い、火花が雨の中で散った。


金属の衝突音が洞窟に響き渡る。


零は一人の剣を弾き返し、もう一人の脇腹を浅く斬りつけた。


血が噴き出し、白銀の鎧を赤く染める。


「この侍……ただ者ではない!

 魔王の娘を守るために、ここまで強いのか!」


一人の騎士が叫んだ。


零は冷たく答えた。


「守るためだけじゃない。

 俺は侍だ。剣を振るう理由など、それで十分だ」


最後の騎士が、聖なる光を宿した剣を大きく振りかぶった。


「聖王の名の下に、魔族を討つ!」


零は低く息を吐き、鬼哭丸を両手で構えた。


青白い光が刃全体を走る。


次の瞬間、零の体が影のように動き、騎士の間合いに入り込んでいた。


鬼哭丸が美しい弧を描き、騎士の聖剣を弾き飛ばした。


そのまま一閃。


刃が軽鎧の胸当てを深く切り裂き、騎士が膝をついた。


戦いの音が、突然静かになった。


地面には十人の聖騎士が倒れ、血と雨が混じり合って赤黒い水溜まりを作っていた。


零の黒い羽織は新たに血しぶきで染まり、肩に浅い傷ができていた。


息が少し荒くなっていたが、目はまだ鋭く輝いていた。


零は鬼哭丸を振って血を払い、鞘に収めると、すぐにルリアの元へ戻った。


ルリアは壁に寄りかかったまま、紅い瞳を大きく見開いていた。


「零……大丈夫……? 傷が……血が……」


零は膝を折り、ルリアの顔を覗き込んだ。


「俺は大丈夫だ。お前こそ……傷が開いていないか?」


ルリアは小さく頷いたが、痛みで顔を少し歪めた。


「零……ありがとう……

 零が戦う姿……かっこよかった……

 でも、怖かった……零が傷つくのが……」


零は低く言った。


「心配するな。

 俺は倒れない。

 お前を守ると決めた以上、絶対に倒れない」


外では雨がまだ激しく降り続いている。


遠くで、再び金属の足音のようなものが聞こえた気がした。


零は鬼哭丸の柄に手をかけ、目を細めた。


「休む時間は短い。

 すぐにまた動くぞ、ルリア。

 お前を安全な場所まで連れて行く」


ルリアは零の袖を弱々しく掴んだ。


「うん……零と一緒なら……どこまでも……」


洞窟の外では、桜の花びらが雨に打たれながら、ゆっくりと舞い落ち続けていた。


二人の逃避行は、まだ始まったばかりだった。


そしてこの雨の夜は、零とルリアの運命を、静かに、しかし確実に結びつけようとしていた。

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