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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
3章・親善大使として親書を届けに。
81/285

ノグライナ王国へ。

 宝物庫に報酬となる槍を受け取りに向かった魅影を待っていると、暫くして布に巻かれた槍らしき物を持ち帰って来た。


「おお、魅影、宝物庫に君が気に入る武器はあったかね?」


 ハーディ皇帝が魅影に尋ねると、嬉しそうに布に巻かれた槍を胸の前に掲げて見せた。


「はい! この槍を頂きたいと思います!」

「其方がそれで良いなら私は構わんが、それ程強力な武器が宝物庫にあったかな?」

「性能は分かりませんが……。 私はこの槍の姿が良いのです、皆もこの槍の姿を見たら欲しいって思いますよ?」

「???」

「うふふ」


 そう言うと、魅影は巻かれた布を解き全体像を見せてくれたのだが、露になった槍を見て俺達全員が衝撃を受けた。


「み、魅影その槍のデザインはもしかして……」


 そう、子供時代に竜騎士と言う名の職業に憧れた者なら、必ず憧れた槍にソックリだった。


「ゲームソフトの『最後の冒険Ⅳ』で出て来た竜騎士の槍にソックリじゃないか……う、羨ましすぎる……」

「ほう……魅影、お前はその槍を選んだか。 その槍はその昔、この国を救ったと言われる人物が持っていた槍らしいが、同じく国を救ってくれた人物の1人である君に渡すなら、今は亡き救国の英雄殿も文句は無いだろう。

 魅影、遠慮なく持っていくと良い」


 私は龍槍を胸の前に掲げると、大事に使う事をハーディ様に誓った。


「はい! 大切に使わせて頂きます!」

「く! 俺も魅影と一緒に宝物庫に行っておけば……」

「僕も取り合えず魅影ちゃんと一緒に宝物庫に向かう選択だけでもしておけば……。 今からじゃさすがに無理だよね…………」


 ハーディ皇帝の言葉に、俺達も魅影と一緒に宝物庫に行っておけば良かったと激しく後悔した。


「恰好だけで選んだわけではありませんよ? この槍は私に馴染むと言えば良いのでしょうか……庭で何回か素振りしてみたのですが、全く負担にならないので薙刀より、もしかしたら扱いやすいかもしれません」


 魅影が槍を軽く振ると空気を切り裂く音が辺りに響いた事で、本当に魅影はその槍と相性が良い事を証明していた。


「さて、魅影殿の報酬も決まったし、これでお前達の報酬もこれで終わりだな。

 本当ならお前達のために晩餐会を開くべきなのだろうが、今回の都市襲撃の影響でやる事が多すぎてこれから私は書斎に缶詰にされそうなのだ……。 なぁ、ターネル?」

「当たり前です。 すでに壊れた家屋の修繕費、早急な港の復興費など陛下の認可が必要な様々な書類が、すでにハーディ様の机の上に集まり始めてますからな」

「は? もう!?」

「ハーディ様」

「あ……。 オホン。 と言う訳なのだ……。 お前達にはすまんと思うが、また次にこの国に寄った時は国賓として扱わせてもらうから今回は許してくれ……」

「ふふ、そこまで謝罪して貰わなくても大丈夫ですよ。 私達は目立ちたい訳でも無いですし、晩餐会を開く資金や時間は復興に当てて下さい」

「そうですよ。 港も戦闘でボロボロになってましたしね……」

「魅影、共也、ありがとう!」


 俺達は晩餐会をキッパリ断ると、今後の予定を話し始めた。


「それでハーディ様、ノグライナ王国へ向かう為の飛竜を、お借りする事はまだ可能でしょうか?」

「ああ、それは心配しなくて大丈夫だ、元々そのつもりでクルルやティニー達と言った竜騎士を付けたのだからな。

 お前達の仲間も増えたようだし、シグルドやあと数名程ノグライナ王国へ付いて行ってもらおうか。 シグルドも構わないか?」

「俺は構わないが、またアポカリプス教団がちょっかい掛けて来る可能性は無いか?」


 ハーディ皇帝は顎に手を当てて少し考えるが、すぐにシグルド隊長に「それは無い」と断言した。


「あれだけ大掛かりな仕掛けを仕込んでいたのだと言う事はだ、さすがにあの魔法陣を形成する為の魔道具などを再び集めようと思っても無理なんじゃないか?」

「何故そう思う?」

「失敗した後の事を考えて別の仕掛けを仕込んでいる事も考えにくいし、もし奴等が再び何か仕掛けて来たとしてもだ。

 お前達がノグライナ王国へ行って帰って来るくらいの期間くらいは、私やカトレアが居るのだから耐えきってみせるさ」

「まぁ、確かにカトレア様が居れば大体の敵は殲滅させられるか……」

「そう言う事だ。 まあ、今回お前も頑張ってくれた様だからな、休暇だと思って行ってこい」


 にこやかに笑ってシグルド隊長に休暇を勧めて来るハーディ様に、良い関係の上司と部下だなと感心する俺達だった。


「そう言う事なら俺も行く事にするが、戻って来たら国が無くなっていた……。 って事態だけは止めてくれよ?」

「当たり前だ! 全く何を言ってるのやら……。 それでだ、共也達も今日1日だけだが各自に部屋を用意させたから、しっかりと体を休めてくれ。

 そして、明日の朝に竜騎士隊と共にノグライナ王国へ向かうと良いだろう。

 まさか、これも断るとは言わんよな?」

「いえ、それは改めてお受けさせて下さい」 

「なら良い。 それじゃカトレア、案内して上げてくれ」

「はい、お父様。 皆さまこちらです」


 ここまで大規模な戦闘をした事が無かった俺達は、肉体的にも精神的にもクタクタになって居たので、その申し出をありがたく受けて、今日だけだがこの城でユックリ休む事にするのだった。


(きゅ~~……)


 そうか、俺達がノグライナ王国に向かうって事は、マリとの別れも近づいてるって事か……。


 ====


 次の日の朝になり出発の準備を終えた俺達が庭に出ると、すでにティニーさん達竜騎士隊の面々が飛竜の世話をしながら待ってくれていた。


「皆来たか、これからノグライナ王国へ向かうが忘れ物は無いか?」

「忘れ物は無いのですが、アーダン船長にマリを預ける約束をしていたので、どうしようかと……」

「そう言えばそんな約束をしていたな……。 そうだカトレア様、港に停泊しているアーダン船長にマリを預ける役目を任せてもよろしいか?」

「マリちゃんですか? アーダン船長に預けに行くのか構いませんが、本当にここでお別れでよろしいのですか?」

「共也達もこの子と別れるのは嫌だろうが、海の無いノグライナ王国へ連れて行くのは少々酷だろうからな……」


 自分の名前を呼ばれたのを聞きつけたマリは皆に遊んでもらえると思ったのか、剣から出て来ると真っ先に俺に抱っこをせがんで来た。


 ごめんよ、マリ……。


 俺が抱き抱えると喜ぶマリをカトレア姫に預けると、直観的に俺達と別れさせられると察したのか抱きかかえられながら悲しい声を出して抵抗していた。


「キュ~~、キュ~~」


 悲しい声を聞いた菊流は涙を流しながら竜騎士達の操る飛竜に乗り込むが、それは皆も同じ様で目元をハンカチで拭いながら飛竜に乗り込んで行く。


「カトレア様。 マリを頼みます……。 マリ……また必ず会おうな」

「キュ~~…、キュ~……」

 

 これ以上マリの悲しい鳴き声を聞き続けているとノグライナ王国へ連れて行きたくなってしまう……。

 それはマリの為にもしてはいけないと思い、心を鬼にして俺も飛竜に乗り込んだ。


「全員乗り込んだな、それでは竜騎士隊! 共也達をノグライナ王国へ連れて行くために飛翔せよ!」

『「はい!!」』


 シグルド隊長の合図と共に飛竜達が少しずつ上昇して行くので、俺は最後にマリへ声を掛けた。


「マリが大きく成長したら必ず会いに来る……、だからそれまで元気でな。 俺達全員がマリの事を大好きだから俺達の事……忘れないでくれよ!」


「もう良いかい? 共也君」

「はい……。 待っててくれてありがとうございますシグルド隊長……」

「これくらい構わんさ」


 徐々に上昇して行く俺達を見て焦りを覚えたのか、カトレア姫の腕から抜け出したマリが飛竜の真下に来るとヒレをバタバタとさせて悲し気な声を俺達に向けて鳴いていた。


『きゅ! きゅ! きゅ、きゅ!! きっ…パ……、パ……お…ぉ、おいて……。 私を……おいて、行かないで~~~~~~~!!』


 言葉を発したマリにも驚いたが、それ以上に体が突如光り始めた事に俺達が驚いて上昇する事を止めて事の成り行きを見守っていたのだが、メリムだけがこの現象に思い当たったのか、驚いている様子だった。


「まさか……。 いや……早すぎる……」


 何が早すぎるのか言葉の意味が分からない俺達は、取り合えずマリの様子を見る為に視線を向けると少しづつ光が小さくなり始め、光が収まった場所には紫の髪を腰まで伸ばしている3歳位の女の子が裸の状態で横になっていた。


「まさか本当にこんな事が、シグルド殿急いで下降の指示を出してくれ! マリが危険だ!」


 メリムの焦りを含んだ言葉に竜騎士隊の皆も慌てて下降を始めて地上に降りると、俺達は恐らく少女となったマリの元に急いで駆けつけた。


「エリア殿、悪いが急いでマリに回復魔法を掛けて上げてくれ。 一刻を争う!」

「は、はい! マリちゃんしっかり!」


 メリムに回復魔法をマリに掛けて欲しいと懇願されたエリアは、慌てて回復魔法を発動させるのだった。

 俺達は何が起きたのか理解出来ていなかったので、同じ海龍であるメリムに事の内容を尋ねる事にした。


「メリム、これって人化の魔法をマリが習得して、発動させたって事で良いのか? そして何で回復魔法をマリに?」

「確かに人化の魔法だが……習得して発動させるのが早すぎるのだ」

「早すぎる、ですか?」

「そうだ魅影殿。 海龍の体を人間へと作り変える魔法なんだ。 初めてで、しかもまだ生まれたばかりの子供がその体を作り変えられる痛みに耐えれると思うのか?」

「やっぱり人間に変化するのは痛むのですね」

「そうだ。 本来ならその痛みに耐える事の出来る大人になるまで待ち、大勢の大人達が見守る中で行使するくらい危険な魔法なのだが……。

 あのままの状態で放置しておくとマリがショック死する可能性すら有ったのだ。 だからエリア殿に回復魔法を掛けてもらったんだよ…」


 メリムの説明を聞き終わった俺達は、あのままノグライナ王国へ向けて飛び立たなくて良かったと心底安堵した。


「しかし、この子は本当に無茶をするな……。 よほど共也と離れて暮らすのが嫌だったのだろうな……」

「マリ……」


 意識がほとんど無いマリの額にかかった紫の髪を左右に掻き分けると、薄っすら目を開けたマリの目は髪色と同じく紫色で、その彼女は小さな手を伸ばして俺の服の端を握って来た。


「パ……パ……。 私を……置いて……行かないで……」


『マリぢゃ~~ん(泣)』


 こうして人となったマリの言葉に号泣してしまった菊流や鈴達によって、このままマリをアーダン船長に預けてノグライナ王国へ向かうという選択肢を断固として拒否されてしまったが、彼女達に言われるまでも無く、俺の中でもすでに置いて行く選択肢は無くなっていた。


 俺は目線で幼馴染達にマリを本当に連れて行って良いのか確認をすると、全員が連れて行く事を頷いて了承してくれた。


 良かったなマリ……。


 エリアの回復魔法を暫く受けたお陰で痛みも大分引いたマリだったが、まだ痛みの残るその小さな体でゆっくりと立ち上がろうとするが上手く立てないようで、何度も後ろに座り込んでしまう。


「あ、あれ?」


「マリあまり急いで立とうとするな、まだ2本足で立つ事に慣れてないんだから、バランスを取る事すら難しいはずだ」

「う、うん。 メリム姉ちゃんの言う通りユックリ立ってみるね」


 メリムのアドバイスに頷き、座ったり立ったりを暫く繰り返して練習していると、何度か挑戦するとマリが生まれたての小鹿の様に足を震わせながら立ち上がる事に成功した。


「やった……立てた。 パパ……これで、私を置いて……行かない? 姉達とも別れて……暮らすなんて、嫌だよ……」


 マリのその言葉に事の成り行きを見守っていたハーディ皇帝や竜騎士隊の皆までもが、目頭を押さえながら空を見ていた。


「分かった……。 マリがそこまで俺達と一緒が良いと思ってるなら、一緒にノグライナ王国へ行こう。

 ジュリアさん、エルフの国の人達は人化の魔法で変化した者を迫害する風習とかは無いですよね?」


 ジュリアさんは心外だと言わんばかりに、眉間に皺を寄せて強めの口調で俺の言葉を否定した。


「共也ちゃん、いくらエルフが閉鎖的な種族だと言っても、マリちゃんの可愛さを見て虐めて来る奴なんてむしろ私の敵だから、そんな奴が居たら私に言うと良いわ。 そいつを処して上げるから。 ね! ジェーンちゃん!」

「そうですよ! こんなに可愛い娘を迫害する奴が居たら、そいつはきっと人じゃありません! だから

マリちゃんは私が守ってみせます!」


 ジェーンは胸の前で握り拳を両手で作り、妹を守るお姉ちゃんの目でマリを見ている。


「マリ、カトレア姫にお別れを言わないとな? 本当だったらマリをアーダン船長に預けに行ってくれる予定だったのに、俺達と一緒にノグライナ王国へ行く事になったのだから」

「カトレアお姉ちゃん、ありがとう……ね?」


 カトレア姫の足元までヨチヨチと歩いて行き、スカートの裾を掴んで下から見上げてお礼を言うものだから、カトレア姫の庇護欲にクリティカルヒットしてしまった様だった。


「はあぁぁぁ!!(か、可愛い!) い、良いんですよ! で、でも最後にマリちゃん、あなたをもう1度だけ抱っこさせてもらっても良いかな?」

「え……。 うん、どーぞ!」


 マリの笑顔に心を打たれたカトレア姫は両手を上げているマリを抱き上げると、ご満悦の表情を浮かべてマリの頭を優しく撫でていた。


 暫くするとカトレア姫は懐から1つの櫛を取りだすと、マリの髪に優しく挿した上で笑顔で語り掛けた。


「マリちゃん、私からあなたへ贈り物を送らせて下さい。

 あなたの髪に挿したこの櫛は私が今までとても大切にして来た物なの、マリちゃんが私の事を忘れないようにこの櫛を上げるから、どうか忘れないでね?」

「うん……。 カトレアお姉ちゃんの事、絶対に忘れない……。 必ずまた会いに来るね?」


 小さな手でカトレア姫の頬を撫でるマリの手に、カトレアも優しく手を重ねて微笑んだ。


「マリちゃん、あなたの旅の無事を祈っているわ、頑張って来てね」

「うん! またねカトレアお姉ちゃん!」


 カトレアに別れを済ませたマリは俺と一緒に飛竜に乗り込もうとしたが、もう一度だけ振り返ると最後にカトレアに対して手を大きく手を降った。


「またね! お姉ちゃん!」


 そして、飛竜の背に乗り込んだ俺達は、今度こそケントニス帝国の大空に舞い上がった。


「おい! あの飛竜達はもしかして!」

「そうだ! 英雄達だ!」「達者でな―――!!」


 飛竜で上空に舞い上がった俺達を見かけたケントニスの人々が、次々に大きく手を振ってくれていた。


「さあ、飛ばすぞ竜騎士隊! 遅れるなよ!」

「は!」


 市民達の姿も声も飛竜の飛ぶ速度によってすぐに見えなくなり、飛竜達の巣がある岩山も軽く飛び超えると眼下にはどこまでも広がる深い森と、空まで届くかの如く聳え立つユグドラシルの大樹が遠くからでも分かる程の存在感を示していた。


 そこは【ノグライナ王国】ジュリアさんの故郷でありエルフ達が平和に暮らす国。





マリが人化の魔法を習得し一緒に行く事になりました。

次回は“ノグライナ王国の王女”を書いて行こうかと思います

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