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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
3章・親善大使として親書を届けに。
80/285

メリムの嫁入り。

 今ダグラスは地面に突き刺さって黒く染まった自分愛用の両手剣を目の前にして、触る事を心底恐れていた。


(こぇぇ……。 ゴブリンジェネラルが一瞬で塵にされた武器を手に取るとか、怖すぎるんだが?

 だけど鉄志が作って俺が愛用して来た武器なんだから、手放すのも忍びないし……。 ええい、男は度胸だ!!!)


 勢い良く柄を握ろうとしたダグラスだったが最後の一歩が踏み出せないみたいで、黒く染まった両手剣の持ち手を恐る恐る触ったり叩いたりするダグラスだった。


「よ、良し! 持つぞ!」


 メリムの付与してくれたスキルの恩恵なのか、生命力が吸われる様子も無いようなので覚悟を決めてしっかりと握って持ち上げた。


「大丈夫……みたいだな。 性能を調べるのはこれからすれば良いとして、代わりの剣が有る訳でもないから、しばらくはこの剣を使うしかないか……」

「ダグラス、私の言った通り大丈夫であったろう? だが、大海の加護が無い者が触るとゴブリンジェネラルのようになるから、他人には触らせない様にするのだぞ?」 

「やっぱりかぁ……。 共也達振りじゃなくて絶対に触るなよ? 絶対だぞ!?」

「ジェネラルが死ぬ姿を見てるのに触る訳無いだろ!」


 漫才の様なやり取りをしていた俺達だったが、どうやらダグラスが剣を持ち上げた辺りで都市に召喚された全ての魔物が討伐されたらしく、王都を覆っていた赤い魔法陣が徐々に剥離して行き、小さな欠片となって砕け散り空中で消滅して行った。

 そして、全ての赤い魔法陣が消え去ると、青い空と海が見える通常空間に戻ったのだった。


「やったぞ! これで我が国は滅亡する未来を変える事が出来たぞ! 皆の者、勝鬨を上げろ!!」

「えい、えい、お~~~~!! えい、えい、お~~~~!!」


 ハーディ皇帝を守護していた兵士達も勝鬨を上げていると、海龍達が用事も済んだので湾の出口を目指して移動して行くのが見えた。


(メリム、我々は本来あるべき場所へ戻る事にする。 お前がその男の嫁となり付いて行くと言うのなら、好きにするが良い)

「長老……。 分かりました、長い間お世話になりました……」

(うむ。 もし何かあれば我々を頼るんだぞ。 さらばだ、他者でな)


 赤い魔法陣が消滅した事で封鎖されていた湾の出口も解放されたので、海龍達が次々と遠洋へと消えて行く中、メリムと何故かもう1匹の海龍が港に残った。


「メリムさん、そちらの残られた方はもしかして?」


 所々破れた和服を押さえながら戻って来た魅影が、メリムに残った海龍の名を尋ねると誇らしそうに紹介してくれた。


「ああ、君達の予想通りダグラスが守ってくれた卵の親であり、私の姉でもあるササナだ」

(あなた達には最大限の感謝を)


 メリムに紹介されたササナは念話で感謝を伝えて来ると、頭を俺達にゆっくりと下げるのだった。


「それでだ。 ダグラス、お前が守ってくれた卵を姉のササナに返してやりたいのだが、お前の手から渡してもらっても良いか?」

「あぁ、体の方も大分回復したみたいだから、その提案は願ったり叶ったりだ! それで、箱に入ったまま渡せば良いのか?」

(そのままで構いません。 私達の巣に戻ったら開封しますので)

「じゃ、じゃあ、これを」


 ダグラスは背負っていた小箱をササナに差し出すと、彼女は頷き小箱を口で受け取ると嬉しそうにしていた。


(もう一度だけ、ダグラスあなたに感謝を。 そしてメリムの事をお願いしますね)

「お姉ちゃん!」

(ふふ、達者でねメリム)

「うん、いつか必ずその子にも会いに行くよ」


 ササナは大きく1鳴きして感謝をダグラスに伝えると、他の海龍達の後を追い外海へと戻って行った。


「メリム結局俺の嫁になると言うのは本気なのか?」

「本気だよ、お前は私がお前の嫁になると言うのは嫌なのか?」

「嫌って訳じゃ無いんだが……。 俺はてっきりその場の雰囲気に流されて、言ってるものとばかり……」

「こんな一生に関わる大事な事を、場の雰囲気に流されただけで言う訳無いだろう!? 私だって1人の女なんだぞ、一大決心でお前の嫁になると言ったのにそれは酷いんじゃないか!?」


 メリムの必死に訴える姿を見た女性陣達が、これは一大事だと判断して彼女の援護に入った。


「ダグラスさん、それはメリムさんに対して酷いんじゃないでしょうか?」

「確かにそうだよね~~。 彼氏がまだ居ない僕が言うのも何だけど、ダグラスはメリムさんの事嫌いなの?」

「いや、鈴、嫌いとかじゃなくて、俺が言いたいのはだな?」

「嫌いだからメリムさんが嫁になると言っているのに、そこまで乗り気じゃないのでしょう?」

「愛璃、違う! 違うんだ!」


 幼馴染の女性達に詰め寄られたダグラスはタジタジとなり、小声で何かゴニョゴニョ言っているが良く聞こえない。


「ダグラスさん、小声で何か言ってるみたいですが良く聞き取れません……。 ハッキリと言ってくれないと、私達もどう動いて良いのか分から無いです」

「……だよ……」

「はい?」

『一目惚れだったんだから、嫌いな訳無いじゃないか!! 心の中ではメリムが俺の嫁になってくれるって言われた時、舞い上がりそうな位うれしかったんだよ!! これで良いか!?』

「嬉しいよダグラス!!」


 ダグラスの放った言葉に感激したメリムは、嬉しさの余り強く抱き着いた。


「メ、メリム、苦しい!」

「あ、すまない嬉しさの余りつい……。 では、私はこのままお前と一緒に旅をしても良いのだな!?」

「はぁ……。 お前に惚れたのは確かだが、嫁にするかどうかは少し時間をくれないか? 俺も気持ちの整理を付けたいんだ……」

「私との関係を真剣に考えてくれるだけでも嬉しいよ、これからよろしく頼むよ、旦那様!」

「お前、行った傍から……。 はぁ、メリム、頼むから人前で旦那様と言うのは止めてくれ……」

「む? 人族はそう呼ばれると嬉しがると海龍の婆様達から聞いたのだが、ダグラスがそうして欲しいと言うならそうしよう」


 こうしてメリムが新たな旅の仲間となったのだが、そこへニヤニヤとした顔で近づいて来るのは、さっきも俺を揶揄ってくれた鈴だった。


「ダグラスおめでと~! 遂にダグラスも所帯持ちか~、幸せになりなよ!!」


 鈴が親指を立てて祝福しているが、ダグラスはさっきの事もあるので、全く嬉しそうな顔をしていなかった。


「そう言えば鈴さんや、さっきはよくも動けない俺に対して散々煽ってくれたな、これはお返しだ!」


〖ガツン!〗


「はぁーーーー!? 痛った!!」


 鈴の頭に拳骨を落としたダグラスだったが、どうやら鈴がとっさに頭を結界で覆った様で、ダグラスは結界を素手で殴ってしまった自身の拳の痛みに仰け反った。


「ふ、ふ~ん! 私が結界を張れる事を忘れていた様だね! 僕に結界術がある限り君が攻撃を当てる事など不可能なのだよ!!」


 人差し指をダグラスに『ズビシ!』と突き付けた鈴は、決まった! と言うドヤ顔をしていたが、ダグラスが両手剣を手に持ち近づいて来た事で顔が引きつり始めた。


「えっと……()()()()()()……それを使おうとするのは卑怯じゃないですかね……?」

「いや~、最強結界術師の鈴さんに通じるとは思いませんが、胸を借りるつもりでちょっとこの黒く染まった両手剣の性能を試させて下さいよ~? 良いですよね? 拒否権は無いがな!!」


 後ずさる鈴に対して、黒の両手剣を構えたダグラスがジリジリと距離を詰め始めた事で、これ以上はさすがに危険だと判断した魅影が仲裁をしてくれたお陰で、何とか場は収まった。


「ち! ここは魅影の顔を立てて引いてやるよ、命拾いしたな鈴!」

「それはこっちの台詞だよ、今度から夜道に気を付けるんだねダグラス!」


 お互い懲りずに悪態を付きながら離れて行くが、どこか楽しそうにしている2人だった。

 そこに今まで空気となっていたハーディ皇帝が会話に入って来た。


「あ~~。 いつの間にか話しが完結してしまっているが、この国の代表者として言わせて貰うが。 お前達がいてくれて助かった……。

 君達が偶然居てくれなければ恐らくこの国は今日、長い歴史に幕を降ろしていただろう……」


 頭を下げるハーディ皇帝に対し、俺達は慌てて頭を下げるのを止めた。


「ハーディ様、あなたの誠意は伝わりましたから、取り合えず顔を上げてください!

 私達もこの国の人達を見捨てられなかったから動いただけなのですから、そこまで畏まられてると逆に困ります!」


「だが……」

「分かりました! そこまで今回の事が気になるなら、俺達に何か功績に合った報酬を下さい。

 私達も一応冒険者なので報酬を頂ければ文句はありません、だからその報酬次第で今回の事は終わりといたしませんか? 皆もそれで良いかな?」

「そうですね、私も随分と槍術スキルが上がったので文句なんて無いです」


 そう魅影が言うと、スキルカードを俺に見せてくれた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【名前】

 ・金鳴 魅影(かねなり みえい)


【性別】

 ・女


【スキル】

 ・槍術スキル+5

 ・分体生成

 ・斬撃延長


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そして見せてくれた魅影のスキルカードには新たにスキルが追加されていてその上に、槍術スキルも大分成長している様だった。


「ハーディ様、カードを見て分かるように私達は私達で経験値と言う名の報酬をすでに頂いているので、今回あなた達を助けた事に対して後ろめたさを感じる必要は無いんですよ?」

「ふふ、そうか、そうか。 では城に戻ったら、今回の功績に見合った報酬を渡す事にしようじゃないか。 それで良いか?」


 ハーディ皇帝は功績に見合った報酬を頂きたいと言う俺達の提案を飲んでくれた事で、先程までの申し訳無いと思っている雰囲気も無くなった様で、むしろ、城に帰った時にどんな報酬を渡すか笑顔を浮かべて話してくれたので、俺達にとってもその方が気が楽だった。



 =◇====


【ケントニス帝国が一望出来る丘の上】


 ここには2人の漆黒ローブを着た男と、血塗れのグノーシスが地面に倒れていた。


 そして、彼等の視線の先では赤い巨大なドーム型の魔法陣が徐々に砕けて行っているのが見えていた。


「おいおい、あれだけ時間や魔道具を消費した上に、様々な工夫を凝らして発動させた巨大な召喚の魔法陣なのに大した成果無しかよ!?」

「五月蠅いぞベリアル。 今回の作戦が失敗した以上、また別の策を講じなければ暗黒神様の力を取り戻す事が出来ないのだから、本拠地に戻るまでに何か良い策を考えておけ」

「そりゃ分かってるけどさぁディアブロ。 今回の責任はほぼこのグノーシスのせいじゃね? 中途半端なゴブリンキング何て呼ぶもんだから倒されるんだよ。

 なぁ、グノーシス、お前もそう思わねぇ?」


 ベリアルと呼ばれた男は足元で血塗れとなっているグノーシスに話し掛けるが、気絶しているのか反応が一切ない事に苛立ちを感じている様子だった。


「返事くらいしろやグノーシス! お前の責任だよな!? って聞いてんだろ!」


〖ボゴン!〗


 ベリアルがグノーシスの腹を足先で蹴り上げた事で意識を取り戻した様で、彼は苦しそうに咳き込んでいた。


「ぐ、ぐは! ゲホ! ゲホ!」

「ほ~ら。 ちゃんと返事出来るじゃねえか。 と言う訳でグノーシス。 お前には罰ゲームを体験してもらう」

「ゲホ! ば、罰ゲームですか?」

「そうだ! お前に今からあるスキルを付与してやる。 これは上級悪魔クラスにならないと取得出来ないスキルだが、今回はサービスだ!」

「お。 おお! ん? ありがたい話しですが先程は罰ゲームと……」


 言い切る前にベリアルが手を翳すと、淡い光がグノーシスを包み込んだ。

 すると、あれだけ血塗れだった彼の肉体がすっかり治り、何事も無かったかのように綺麗になっていた。


「こ、これはまさか『超速再生』では!?」

「そうだ、スキルの効果は見ての通りだ、素晴らしいだろう?」

「は、はい! それで、私にこのスキルを授けて私に何をさせるつもりで……」

「お前、餌になれ」

「………………は?」


 グノーシスは暫くこの男に言われた事が理解出来ずに、間抜けな声が口から洩れてしまった。


「え、えっと……。 ベリアル様、説明をお願いいたします……」

「しょうがねえな。 グノーシス、お前には暗黒神の因子がすでに埋め込まれている。 ここまでは良いか?」

「は、はい。 この因子を授かった事で私はあなた達の主に忠誠を誓ったのですから、当然分かっています……」

「その暗黒神様の因子を持つお前の肉体を、魔物達に与えたらどうなると思う?」

「ど、どうなるのでしょう?」


 この先に言われる事が分かっている私だが、聞きたく無くて耳を塞ぎそうだ……。


「頭の良いグノーシス君なら分かってるくせにーー! そう、強力な魔物が生まれる、だ!」

「まさか先程の餌と言うのは!」

「そう、毎日お前の手足を切り落として魔物に与えるんだよ」

「な、ななななな……」


 私が恐怖で震えていると、ローブの隙間から見えるべリアル様の顔が真顔になるとこちらを金色の目で見て来ていた。


「グノーシス。 別に餌になる役をお前じゃなくて、他の信者にやらせても良いんだぞ?」

「そ、それは!!」

「やるんだな?」

「ぐ。 ………はい。 その代わり他の信者に手を出すのは止めて頂きたい……」

「おっけー。 まぁ安心しろ10年程、魔物研究の餌になってくれれば開放してやるよ♪」

「じゅ……」

(光輝殿、ダリア殿。 私はこの先しばらく指揮を取る事が出来そうにありません。 後の事はおまかせします……)


 こうして罰ゲームと言う名の拷問が私に課せられるのだった。


「さて、どんな強力な魔物が生まれるか今から楽しみだぜ! なぁディアブロ!」

「五月蠅いぞ……。 もうここに長居しても1ミリも良い事が無いんだ、本拠地に戻るぞ」

「へぇへぇ、私が悪うございましたよ! 転移!」


 こうして赤い魔法陣を発動させて主犯の3人は、結末を見届けるとあっさりと本拠地に戻って行ったのだった。


 =======



 こうして『試練』と言う名の虐殺を乗り越えた俺達は、再びケントニスの王城へと招かれて、これから城門を潜り抜けようとしている所だった。


 城の庭に到着すると避難して来ていた人達が落ち着かない様子で、庭をウロウロしているのが見えた。


 そして、ハーディ皇帝の紋章の入った馬車が庭に入って来ると、避難して来ていた民衆は一斉に跪いた。


「これからハーディ皇帝から、今回の事に対してお言葉がある。 心して清聴せよ!」


 アレンさんが飛竜に乗って空に浮いたままの状態で庭全体に聞こえるように声を出すと、市民達はこれから馬車から出てくる人物からの言葉を跪きながら待ち望んでいた。

 そして、馬車から待ち望んで居た人物が扉を開けて降りて来た。


「皆の者、今日色々と大変な事が起きたが、こうして皆と生きて再会出来たことを心より嬉しく思う。

 海龍達の襲撃に始まり、赤い結界に閉じ込められ、そして上位の魔物達の襲撃だ……。

 本来なら、今回のような唐突の大災害は大小の国を問わず対処する事が出来ずに壊滅してしまっていただろう。

 だが私達は運が良かった、ここにいる者達は友好国であるシンドリア王国から偶々来ていた者達だ。

 その彼等の命懸けの活躍によって海龍達との和解。

 そして本来なら国を挙げて対処するべきゴブリンキングの討伐にも成功した。

 私はこのシンドリア王国から来訪した友人達に、惜しみない感謝を送りたいと思う。

 そして私からのお願いだ、皆もこの友人達に感謝の言葉を送って上げて欲しい」


 ハーディ皇帝の言葉が終わると皆立ち上がり、俺達へ感謝の言葉を言う人達の声が重なり合うと爆発したかのように空気が振動していた。

 そして、俺達は未だ鳴り止まない民衆の拍手を背にして、そのままハーディ皇帝と共に入城するのだった。



 ======



 城の中にある謁見場に戻って来た俺達だったけど、謁見の間だと言うのにハーディ様が気を利かせてくれて椅子を用意してくれていた。

 その椅子にありがたく深く座ると今回の話し合いを元気な内に始める事となった。


「ふぅ~~。 再度言うが今回助力してくれた事に関して本当に助かった。 今回アポカリプス教団がしでかした事については、迅速に近隣諸国に周知する事を約束しよう。

 それで……だ。

 シグルドとも話し合ってお前達の報酬は何が良いか考えていたのだが、金銭の贈与は当然としてお前達に合う武器を贈る事も考えていたのだが~~。

 どうやらお前達の装備している種類を見ていると、魅影が使っている薙刀だったか? それに似ている竜騎士が使っている槍が宝物庫に数種類有るくらいなのだ……。

 各々何か希望する品物とか無いか? 出来る限り希望を叶えよう」


 確かにハーディ様が困るのは当然と言えた。


 俺が持っているのは一応魔剣だし……。

 エリア、菊流、与一、魅影、室生、愛璃の持っている武器はドワーフのドワンゴ親方が仕立ててくれた1点物の武器が有る。

 そして、ジェーンが使うのは忍者刀だから似ている武器なんて有る訳が無い。

 そう考えると、確かに魅影しか主武器に出来る物が無いな……。


「ではハーディ様、私はその宝物庫に有る槍を見て見たく存じます」

「む? 魅影は竜騎士の使う槍で良いのか? それなら案内に1人近衛を付けよう」

「ありがとうございます」


 結局魅影は槍に興味があるらしく、近衛の人によって宝物庫に案内されて行った。


「ふむ……魅影は宝物庫内にある竜騎士が使う槍を見に行ったか。 お前達は、特に欲しい物は無いと言う事で良いのか?」

「ええ。 武器は俺達にはこの武器がありますのでこれと言って必要な物は今の所思いつきません」

「だがなぁ、国を救ってくれた英雄に何も報奨を渡さないと言うのも、私の沽券にかかわる……」


 ハーディ皇帝も困った顔をしているので何か貰った方が良いんだろうけれど、必要無い物を貰ってもこの後行くノグライナ王国への旅に邪魔になるだけだから本当に要らないんだよな…。


 お互いどうした物かと思い悩んでいると、ハーディ様がふと何かを思いついたのか宰相のターネルさんに耳打ちをすると『なるほど』と言う顔をして謁見の間を出て行った。

 そしてすぐ戻って来たターネルさんの手には、1個の小さな透明な宝玉が握られていた。


「この宝玉なら旅の邪魔にもならないし強力な力を宿すアイテムだから、これをお前達に報酬として渡そう」

「これは一体?」

「うむ、この宝玉は珍しい能力を持っていてな。 どんなに魔力が強い者でも()()()()だが完全に魔力を封印すると言う能力を持っていてな。

 魔王との決戦の時にでも使用すれば大きく有利になると思って私が確保していた物だが、お前達が持っていた方が有意義に使ってくれそうだからこれを託す事にしよう」

「そんな……。 魔王戦の切り札となるかもしれないその宝玉を俺達に? もしここに魔王が攻めて来た時はどうするんですか?」

「ん~~。 その時はその時で何とかするしかないだろうな。 まあ結局その宝玉も使い捨てだから、いざと言う時本当に使えるのかとずっと悩んでいた所があったから、むしろ悩みの種が消えてくれて清々したと言うのが本音だ! アッハッハッハ!!」


 その気持ち、ここに居る幼馴染達全員が分かりますよ! ゲームをしていても、エリクサーなどの貴重品はどこで使うか悩みますよね!!


 俺達が心の中でハーディ皇帝と共感して頷いていると、カトレア姫が全員分のお茶を持って来てくれたので、一旦休憩する事となりとみんなに配ってくれていた。


「もう……。 お父様ったら共也さん達を気に入ったから、今後必ず必要になる切り札を託したと素直に言えば良いではありませんか……。 ごめんなさいね皆さん、お父様は素直じゃない人で……」

「か、カトレア! そんな事は……、まあ気に入ったのは事実だが……何も今言わなくても……」


 慌てるハーディ皇帝を眺めながら、俺達はこの人間味溢れる皇帝に好感をいだいていた。


 会った王様は2人目だけどこの世界の人って割と親切な人が多いよな。


「ではハーディ皇帝、必ずこの切り札を活用してこの戦争を終わらせる事を誓います。 期待しててください!」


 俺は小さな宝玉を握り締めると、重要な道具を託されたのだと心身ともに引き締まる思いだった。


「ふ! 大いに期待させてもらおう。 そうだ! 共也、ここに残ってカトレアと結婚して俺の後を継がないか?」

「は?」「お父様!?」

「2人共何を驚く事がある。 民達も今回の事でお前達の事を英雄と見ているだろうから、誰も反対などせんだろう」

「お父様ったら! 民達は認めるかもしれませんが、私の意思は無視ですか!?」

「カトレアは共也との結婚は嫌なのか?」

「え……私は……嫌では無いですが……。 共也さんの周りには、すでに素敵なお方が沢山居らっしゃいますから……」

「俺はそんな人なんて、痛っ!!」


 左右の臀部から激しい痛みが走ったため、慌てて俺の左右に居る人物を見てみるとエリアと菊流が笑顔を作って座っているが目が笑っていない……。


 その2人の目が語っている。


 そのカトレア姫との結婚の話を受けたらどうなるか、分かっているわよね? っと……。


「どうした共也黙り込んで、カトレアとの結婚を考えてくれているのか?」


 その言葉でさらに左右から臀部を抓る力が籠り、俺は断りの言葉を言しか無いのだった。


「ハーディ皇帝、その申し出とても嬉しくはありますが、今はまだ魔国との決戦がどうなるか分からない身の上なので、私には勿体ない提案だと思われます。

 カトレア姫の伴侶には、この地にしっかりと根を張ってくれる人と婚姻を纏める方がこの国のためだと思うので私にはいささか勿体ない話しかと」


 良し、当たり障り無く断る事が出来たと自分では思う。

 そう思ったのは俺だけではない様で、その証拠に2人から臀部を抓る力が少し弱まった。


「ふむ……。 確かに共也の言う通りではあるが、まあ急ぐ話しでも無いからな、気が向いたら私に言いに来ると良い、国を挙げて歓迎しようじゃないか。 カトレアもそれで良いな?」

「はい、私はまだ10歳なので私はいつでも待っても……」


 頬を赤く染めてこちらを見つめるカトレア姫を見て、これ以上期待を持たせるのは罪悪感が……。


「そ、その様な機会があれば是非に……」

(絶対にそんな機会が来ない事を祈るよ…。 本当に…)


 取り合えずいきなり1国の姫との婚約を回避出来た俺は、安堵して再び椅子に座り込んだ。

 2人に抓られたせいで痛む臀部を擦りながら、そんな未来が来ない事を隣に座る2人の目が笑っていない笑顔を見ながら、本気で思うのだった。


アポカリプス教団の試練を突破出来ましたね。

次回は“ノグライナ王国へ”で書いて行こうかと思っています。

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