ゴブリンキングと戦いの結末。
「おらぁ!!」
「ゲギャギャギャギャギャ!!」
ハーディに近づけまいとして両手剣を振るうダグラスを、ゴブリンキングは小馬鹿にする様に笑っているが、隙があれば攻撃を仕掛けようと常に視界の中に捉え続けていた。
「こっちを見やがれ、ゴブリン野郎!」
『カ、カアアアアァァ!!』
侮辱されたのを理解したのか、ゴブリンキングは怒りに任せてダグラスを攻撃し始めるのだった。
「ダグラス!」
「来るな共也! お前にこいつの攻撃を受け止められる程の腕力は無い。 ここは俺に任せて、お前は周りにいるゴブリン達をどうにかしてくれ!」
確かに俺達の中では一番腕力が強いダグラスだからこそ、ゴブリンキングの攻撃を受け止められているのは分かるが……。
そして、俺は決断する。
「ダグラス……、死ぬなよ?」
「ハッ! 美人の嫁さんを娶るまで死ねるかよ! 行け!」
細剣と杖を手にしたエリア、ディーネ、スノウと共に、周りにいるゴブリンをダグラスがキングに殺されない内に倒すべく突っ込んで行く。
「ディーネ、周囲に水を撒いてくれ」
(了~かい)
「スノウは、ディーネが撒いた水を凍らせてゴブリンの足止めをしてくれ」
(うん。 分かった~~)
「エリアは俺と共に身動きが取れなくなったゴブリンの殲滅だ」
「分かりました!」
足止めをするだけではなく、スノウとディーネもランス系の魔法を使いゴブリンを順調に倒して行く中、キングと戦っているダグラスに視線を向けると互角に戦っているように見える。
確かに、1撃1撃の威力では負けてはいないが、両手剣と片手剣では再攻撃するまでの時間が僅かに負けており、0,1秒と言う小さな時間が重なって行き1秒となった事でダグラスを苦しめ始めていた。
「そこだ、隙あり!」
「グブブブブ!」
「ちぃ、避けたからって笑ってんじゃねえよ、ゴブリン野郎が!」
隙を見つけて何とか不利な時間を削り取るダグラスだが、再び打ち合いになると防戦に徹さざるを得ない状況が続いていた。
『共也、こっちを心配する暇があったら1匹でも多くのゴブリンを倒せ!』
「共也さん……」
「くっ!」
自分も苦しいだろうに俺に発破を掛けるダグラスを早く楽にさせる為に、エリアと共にゴブリン達を殲滅しに戻ったのだが、ここに来てシグルドさんがいない事がこちらを徐々に追いつめ始めていた。
そこに。
「やあ!」
「グブゥ!?」
少し離れた場所で戦っていた魅影が切り飛ばしたゴブリンジェネラルの腕が、偶々キングのいる方角に飛んで行ったのだ。
「グヒ!」
そのジェネラルの切り飛ばされた腕を見た瞬間、凶悪な笑みを零したキングはダグラスを蹴り飛ばし距離を取ると、物凄い速度でジェネラルの腕を拾い上げ咀嚼した。
「好きにさせないわ!」
ティニーさんが慌ててジェネラルの腕を焼き払おうとして飛竜のブレスを放つが、キングに直前で躱されてしまったが、標的であったジェネラルの腕だけは焼却する事には成功した。
「ゲッゲッゲッ!」
だが、不気味な笑い声を上げるキングの体が目の錯覚などでは無く、先程より明らかに大きくなっていた……。
「ダグラス……」
「あぁ、お前が言いたい事は分かるよ……」
ラノベ好きである俺達は、何かを食す事で効果の出るスキルに心当たりがあった。
「ダグラス、こいつ絶対あのスキルを持ってるよな……」
「ああ、【暴食】だろ?」
暴食のスキルを本当に持っているかは分からないが、俺とダグラスの意見が一致した以上こいつに何かを食べさせるのは危険な臭いしかしない。
そう判断した俺は、周囲の人達にキングから距離を取る様に促す。
「みんな、こいつは多分食べる事で強くなる例のスキルを持っているから気を付けてくれ。 一定の距離を保持して、こいつに捕食されない様に気を付けてくれ!」
合流した室生達も、何のスキルか予想が付いたらしく慌てて離れた。
「了解!」
「マジで!?」
鈴……。 何で散々菊流の部屋でラノベを読み漁ったお前が、暴食のスキルを思い浮かばないんだよ!
そんな心の中の突っ込みは、今は置いておこう……。
全員の動きが変化した事を察したゴブリンキングは慌てて捕食出来そうな対象を探すが、すでに遅い。
「グウウウウ……」
一定の距離を保ち続ける兵士達に業を煮やしたキングは無理矢理近づこうとするが、そんな無策の行動に摑まる程ハーディ皇帝を守護する近衛兵は弱くはない。
いくら災害級の魔物とは言え、無策で突っ込んで来るだけなら余裕を持って避ける事が可能であった。
そんな捕食出来る対象のいない焦りから動きが雑となったキングを放置し、周囲のゴブリンを殲滅した俺達は何とかダグラスと合流する事に成功するのだった。
「共也、姫さん、前線は俺が持つからサポートの方は頼む!」
「分かった!」「分かりました!」
『グゲア!?』
油断していた所に重量武器によるダグラスの攻撃だ。 何とかフィジカルの差で受け止める事に成功したキングだったが、腹部が完全に露出してしまっていた。
「エリア!」
「はい!」
その隙を逃さず、俺とエリアがすれ違い様にキングの腹を切り裂いた事で紫の血が地面を濡らす。
だが……。
「かっ、固てえ!!」
異様に固いと感じたのは間違いでは無かったらしく、切り裂く事が出来たのは薄皮だけだった様だ。
「グガアア!」
((共也、危ない!))
ゴブリンキングの体の硬さに一瞬硬直してしまい、攻撃されそうになっている俺を守ろうとして、剣から飛び出したディーネとスノウ。
((合わせ技:氷壁生成))
「グヌ!」
2人が咄嗟に氷の壁を生成してくれたお陰で、キングの刃が俺に届く事は無く一命を取り留める結果となるのだった。
「ぼさっとすんな共也、死にてえのか!」
「わ、悪い!」
「俺に謝罪はいらないから、後で2人に礼を言っておけよ!」
再度俺を攻撃しようとしたキングだったが、ダグラスが間に入った事で仕留められ無いと判断したのか、奴は後退して一旦距離を取るのだった。
その後も何度かダグラスが斬撃を受け止め、俺とエリアで削るパターンを繰り返し少しづつダメージを与えるていたのだが、キングの強力な1撃を食らえば死にかねないだけに正直神経を削られる想いだった。
(こいつ、まだ何か捕食出来無いか狙ってるな……)
何かを食べる事で自身を強化出来る事を知ったキングは俺達に攻撃を加えられながらも、視線は獲物を求めて忙しなく動いていた。
その執念に、俺達は恐怖すら感じていた。
(そこの2人退け! 《ウォータニードル!》)
「馬鹿、やめっ!」
ダグラスが忠告する間もなく、俺達の苦戦を見かねたメリムがゴブリンキングに魔法を放つが、それがいけなかった。
素早く魔法攻撃を回避したキングは、首が大きく裂けているメリムを発見した事でほくそ笑んだ。
「メリム殿、逃げろ!」
ハーディがキングの目論見に気付き忠告するが、すでに奴はメリムの目の前まで迫っていた。
(鈴の結界はどうしたんだ!?)
「ご、ごめん、魔力切れ……」
鈴が魔力切れを起こした事で、今まで周囲にいる仲間を守ってくれていた結界が消失してしまった事で、全員が最悪の事態を想像した。
メリムが危ない!
だが、メリムの危機をいち早く察していたダグラスが、2人の間に体を滑り込ませた。
「お前の相手は俺だろうが、浮気してんじゃねえよ!」
両手剣でキングの攻撃を防ぐと反撃して吹き飛ばす事に成功したダグラスだったが、着地すると同時に左前腕部を右腕で押さえるのだった。
「ダグラス?」
最初、ダグラスが何故その様な行動を取ったのか分からなかった俺達だったが、すぐにその理由を知る事となる。
「やってくれたな、ゴブリンキング……」
「グヒヒヒヒ!!」
醜悪に笑うゴブリンキングの口から赤い血が滴っているのを見た俺達は、まさかと思いダグラスに視線を移すと、彼が右腕で押さえつけている左前腕部は大出血を起こしており、地面に小さな赤い池を作りだしていた。
まさか、吹き飛ばされる際に、ダグラスの左腕を噛み千切ったのか!?
「クソ!」
両手剣の持ち手に巻いていた包帯を左腕に巻く事で一時的に止血したダグラスだったが、左手を包帯をで止血するのはあくまで応急処置。
早く本格的な治療をしないと命取りになりかねない程の出血量だった……。
「エリア! 少しの間キングは俺が抑えておくから、急いでダグラスの治療を頼む!」
「は、はい! ダグラスさん一旦こちらに!」
「すっ、すまん……」
このまま大出血したままではキングと戦えないと判断したダグラスが、エリアのいる場所に向かおうとした時だった。
ドクン……。
周囲に聞こえる程の心臓が拍動する音が呆然と立ち尽くすキングから聞こえて来た事で、全員の顔が一気に青く染まる。
「おい、待てよ……」
ドクン、ドクン……。
「待てよ!」
俺の叫びが虚しく港に響き渡る中、先程ダグラスの腕の肉を捕食したゴブリンキングの体に異変が起き始めた。
「グッ……、グゲゲゲ……!!」
苦しそうに呻くキングだったが、赤に近かった体色は赤黒くなり身長も一気に伸び2Mを軽く超えた……。
「ぐげぁぁぁぁぁ~~~~!!!」
「おいおい……。 今までの変化と明らかに違うぞ……」
何度か魔物の肉を食べたが、ここまでの変化は起きなかったはずだ。
今までとの違いと言えば……。
「まさか、ダグラスの肉を食べたからか?」
そう呟くと同時にゴブリンキングの変化は終わりを迎えた様だ。
「来るぞ!」
注意を促すハーディに全員が緊張する中、ゴブリンキングは先程より速い速度でダグラスに斬撃を繰り出して来た。
「ダグラスさん!」
「エリア嬢、巻き込まれてしまうから離れていろ!」
「でも、あなたの治療が!」
「良いから離れていろ! 死ぬぞ!」
左腕にきつく巻いたはずの包帯はもう血で赤くに染まってしまい、攻撃を受け止める毎に地面に赤い染みを作った。
だがキングはダグラスのその必死に抵抗する姿に興奮したのか、涎を垂らしながら何度も何度も手に持つ剣を叩き付けるのだった。
だが、ダグラスも只やられている訳では無い。
身体強化を全開で発動したダグラスは、攻撃の合間を見つけてはキングを削り続けていた。
「ダグラス! 援護する!!」
「室生頼む! こいつ先程の強化で味を占めたのか、最早俺しか見て居ねえ!」
合流した室生が属性銃で援護した事で、再びダグラスから距離を取ったキング。
だが、距離を取ったゴブリンキングは首を斜めにすると、その赤く染まった瞳でダグラスを凝視するのだった……。
「なんだこいつ……。 まるでダグラスを品定めをするかのように……」
未だに涎を垂らしながらダグラスを見続けているキングに嫌悪感を抱くが、こうもダグラスを集中的に狙われてはエリアに治療を頼む事も出来ない……。
そう思っていると、俺の肩に乗るディーネから念話が飛んで来る。
(共也気を付けて! そいつ、【邪神の因子】を取り込んでる!)
「邪神の……因子?」
流暢に話し出したディーネにも驚いたが、それ以上に邪神の因子なんて言葉を聞いた事すら無かった俺は、驚きで一瞬硬直してしまう。
すぐに我に返った俺は、肩に乗るディーネに質問しようとしたが、再びゴブリンキングが動き始めた事でそれも叶わなかった。
(邪神の因子について質問したいのは分かるけど、今は後にして! 共也、来るよ!)
慌てて視線をゴブリンキングに戻すと、奴はすでに剣を横凪に振り抜く体勢に入ってしまっていた。
(俺の腕力でこいつの攻撃を受け止められるのか!?)
そう自問自答しながらも、すでに受けるしか選択肢の無い俺は魔剣を縦に構える。
ガギン!
だが、金属同士をぶつけ合う音は響くが、俺を吹き飛ばしかねない衝撃が訪れる事は無かった。
「ぐぅ……! 共也、邪神の因子の事が気になるのは分かるが、今は死なない為に気を引き締めろ!」
キングの攻撃を受け止めてくれたのはダグラスだった。
だが、攻撃を受け止めた衝撃が原因で少し止まりかけていた傷口が大きく開いてしまったらしく、左上に巻いている包帯さらに赤く染めていた。
「おらぁ!」
「ゲギャア!!」
真面に受けてしまえば1撃でお互いを殺しかねない攻撃が乱れ飛ぶ中、ダグラスの顔色が徐々に悪くなっているのを周囲にいる全員が気付いた。
「ダグラス、暫く俺がキングの相手をするからエリアの治療を受けろ!」
「そうしたいのは山々だが、身体強化の使えないお前じゃこいつの攻撃を受け止めるのは無理だ!」
「だが!」
俺が何かを言おうする間も、キングは涎を垂らしながら攻撃する事を止める気配が無い為、ダグラスの左腕から流れ出た血により周囲は赤く染まり始めていた。
そんなダグラスの死を覚悟したかの様な戦い方に、メリムが涙を流しながら謝罪の念話を届ける。
(ダグラス……と言ったか。 先程は助かった…。 そして、私が余計な手出しをしたせいで、お前に大怪我をさせてしまった……。 すまない……)
「メリム、この怪我は俺が未熟だったからだ。 間違ってもあんたのせいじゃない」
(だが……)
「何故こんな事態に陥ったのかと言えば、カムシンと言う小悪党が海龍の卵を密輸しようとした事が発端なんだ。 だから、謝らないでくれ……」
(だが……、私の軽率な行動がそなたを怪我させた上に、今も私達の子を背負い命懸けで守ってくれているではないか……。 そこまでされているのに、気にしないなんて出来るはず無いでは無いか……)
そんな悲しそうに語るメリムの紫色の瞳から、1粒の雫が零れ落ちた。
そんなメリムの想いを察したダグラスはキングの攻撃を捌きながら、何故ここまでの想いをしてまで海龍達の肩を持つのかを語り始めた。
「子供はさ、母親と一緒にいるべきなんだよ……」
(ダグラス?)
「もう会う事は叶わないが、いつもいつも生活態度を改めろって口煩く言って来る母親がいてな……」
歯を食いしばり、悲しそうな顔をするダグラスの話しは続いた。
「だけど、そんな俺の為を想って言ってくれる母親の言葉につい反抗して悲しませちまう俺だけど、何か良い事をした時に見せてくれる笑顔が大好きでなぁ……」
(……………)
「その笑顔を見ていて、ふと気付いたんだ。 あぁ……。 俺はこの人に構って欲しくてワザと反抗していたんだなってな……。 だが、人類が送還魔法を失伝してしまっている以上、俺がお袋に会える事は2度と無い……。 そして、強制的に召喚されて親と会えなり悲しむ同郷の子供達を見て初めて思ったんだ、悲しむ顔なんて見たく無いとな……」
(ダグラス……、私は……)
「メリム、子供には親が必要なんだよ……。 だから、あんたは生き残ってこの子を守らないと駄目だ。 例え俺がここで死んだとしても、それは子供の誘拐を主導した人間側が気にする事なんだ。 だから、あんたが今気にするのは、これから生まれて来る我が子の事だろ?」
(待て、ダグラス!)
己の限界が近い事を悟ったダグラスは、キングを大きく弾き飛ばし距離を取り心配そうにしている幼馴染達に視線を向けた。
「すまねえ皆、憧れた異世界であるこの世界を、もっとお前達と一緒に見りたかったが、俺はここまでの様だ……」
両手剣を構えながらも力無く微笑むダグラスに、俺達は駆け寄ろうとするがキングの行動が一歩早かった。
「ダグラス、今行く!!」
「もう残り少ない体力で、俺がお前達にしてやれる事。 それは……。 ゴブリンキングと言う障害を取り除いて道を切り開いてやる事だ! さあ来い、ゴブリンキング、お前の欲する肉はここにあるぞ!!」
左腕を振り回し血の臭いを周囲にさらにバラまいた事で、興奮したキングは目を血ばらせ更に加速した。
『ぐげぎゃぁぁ~~~!!!』
「まさかここで、俺の良く読んでいた漫画の場面と同じシチュエーションになるとはな……」
集中力が研ぎ澄まされて行った結果、ダグラスの見ている世界では暴力的に剣を振り回すキングの動きがスローモーションでも見ているかの様に遅くなっていた。
これがゾーンに入った感覚か……。
そして、すでに獲物を捕食するつもりでいるキングだったが、自身の剣戟を涼しい顔で受け続けるダグラスに苛立ちが募っていた。
そして、勝負を決めるべくキングは剣を上段に大きく振りかぶった
(ここが勝負所だ、最小の動きで剣を振れダグラス! そして、正確にキングの正中線に打ち込む事が出来れば、奴の剣は勝手に俺を避けて行く……)
死中に活を求める。
そんな古事の言葉がダグラスの頭に思い浮かび、今まさに自分の頭を叩き割ろうとしている凶刃に向けて、ダグラスは自身の持つ両手剣を一気に振り下ろした。
「ゲ、ギャ!?」
先に剣を振り下ろした事で勝利を確信していたキングだったが、徐々に獲物から逸れて行き地面に突き刺さった自身の剣に目を剥いていた。
同時に、激痛を感じた場所に目を向けると、そこにはあるはずの右肘から先が消失していた。
「ぐぎゃああぁぁぁぁ~~~!!!」
あまりの痛みに絶叫を上げるゴブリンキングだったが、ダグラスの放った1撃はそれだけでは終わらなかった。
ゴブリンキングの体から縦に鮮血が吹き上がると、切り裂かれた腹部から内臓が零れ落ちるのだった。
内臓を搔き集めようとして土下座をする格好となったキングから、猛烈な腐敗臭が周囲を襲った。
「う、臭っ! 何だ、この腐敗臭は!?」
強烈に鼻を衝く臭いに、全員が思わず袖で鼻を覆う。
そして、この臭いの元凶に視線を向けると、自身の腐った臓腑に顔を埋めたまま動かなくなっていた。
「ディーネ、何でキングの臓腑が腐っているのか分かるか?」
(多分だけど、邪神の因子が馴染まなくて体が腐ったんだと思うよ)
やっぱりか……。 でも、存在を厄災と認定されるゴブリンキングでさえ体に馴染まなかったって、邪神の因子とは一体何なんだ……。
疑問は残るが、今は腕に重傷を負ったダグラスを治療する方が先だ。
エリアも急いで治療する為に駆け寄ろうすると、鋭い視線をゴブリンキングに向け続けるダグラスに『来るな!』と手を俺達に突き出されるのだった。
『何を……』と言い掛けた俺も、自分の臓腑に顔を埋めているキングの顔が微かに動いているのを確認した。
そう、キングが何かを捕食しているような動きを……、あっ!
「ティニー、ブレスでキングに止めを刺して下さい! 急いで!!」
焦った俺敬語も忘れ、ティニーにブレスでの攻撃を指示する。
「わ、分かったわ!!」
何故か頬を染めるティニーさんは、指示に従いブレスを放とうとするが、一歩遅かった様だ。
「げ! げへ! げへへ!!」
気持ち悪い笑い声を上げながら顔を上げたキングは更に変異が進んでしまったらしく、身長が更に大きく変化した上に体の至る所から鋭い棘が顔を覗かせていた。
そして、ダグラスによって切断された右腕は骨が異様に伸びて片刃の剣を形成している上に、キング自身が捕食した事で内臓があった場所には何もなくなっていた。
そう、最早その姿はゴブリンと言うよりアンデットと言う言葉がしっくり来る姿であった。
「はあぁぁぁぁぁ……」
大きく息を吐いたキングは、一瞬姿が掻き消えたかと錯覚する程の速度でダグラスに襲い掛かった。
「ぐぅ、こいつ更に速度を上げやがったか……」
だが、あれだけ脅威に感じていた斬撃の威力はかなり弱くなっている。
(あと少しで良いんだ、保ってくれよ俺の体!!)
「グゲゲゲァァァァァ!!」
「共也さん、飛竜部隊のブレスは放つ事が出来ません。 私達がキングに止めを!」
「そうだ! 室生、俺達は突っ込むから援護を頼む!」
「任せろ!」
そして、エリアやディーネ、スノウが協力してキングの体を削って行くが、奴はすでに痛みを感じていないのか、いくらダメージを与えても俺達を無視してダグラス1人を執拗に攻撃するのだった。
「ダグラス!!」
血を失いすぎたダグラスは目の焦点が合わず、俺達の声も幻聴の様に聞こえていた。 そんなダグラスは、最早無意識に近い状態のままキングの攻撃を捌き続けていた。
(共也、皆、何をそんなに悲しそうな顔をしているんだ……? 皆……か。 そう言えばお前達とは、この歳になるまでずっと一緒だったんだよなぁ……。 お袋しか肉親がいない俺にとって、お前達と一緒に遊ぶ時間だけが何物にも代えがたい心の癒しの時間だったよ……。 お前達と知り合えて、そして憧れた異世界をお前達と一緒に旅が出来て。 本当に……楽しかったよ……)
血に濡れながらも優しく微笑むダグラスに、俺達は悪い予感が膨れ上がる。
(早く! 早く倒れろ!! じゃないとダグラスが!!)
いくら威力の下がった攻撃とはいえゴブリンキングの骨剣を捌き続けるダグラスの体は、すでに至る所を切られてしまていボロボロの状態だ。
そして、とうとう限界が近づいて来たのか、ダグラスの口端から血が垂れ始めていた。
(もう、魔力も体力も残り少ないが、共也達の道を切り開く為にもこいつだけは刺し違えてでも俺が必ず……。 倒す!!)
命の灯を燃やし作るつもりで、ダグラスは残った全ての魔力を身体強化につぎ込み攻撃を振るった。
そんな命を懸けた1撃は骨剣を砕いてもなお止まらず、そのまま突き進み奴の胸を大きく切り裂く事に成功した。
(あれは……)
そんなダグラスは、最早血すら枯れ果てたキングの胸の中で怪しく光る、明らかに魔石では無い黒の宝玉が目に入った。
(まさかこれが原因で、キングが強化され続けていたのか!?)
「ぐ、げ! ぐぎゃぎゃ~~!?」
『それに触るな!』とでも言いたいのか、胸元に入り込まれたゴブリンキングはダグラスを引き剥がそうと腕を伸ばすが、それより早くダグラスは体をその場で回転させ黒く光る宝玉に向けて両手剣を振り抜いた。
その瞬間、ゴブリンキングの動きが止まり、奴の胸の中から黒の宝玉が離れ空へと浮かび上がった。
「ぎゃ、ぎゃ、ぎゃーー!!」
その黒い宝玉を必死に掴もうとするゴブリンキングの左腕があと少しで、黒の宝玉に触れると言う所でヒビが入り空気に溶けるように消え去るのだった。
「……ゲ」
そして、宝玉消失したと同時にゴブリンキングの全体は真っ白な灰となり、音もなく崩れ去るのだった。 だが、そのうず高く積もったキングの灰も、優しく吹く海風によって外海へと運ばれて行くのだった。
「終わった……のか?」
そんな兵士の言葉が響き渡るが、今回の戦いの功労者であるダグラスはついに限界が来てしまったのか、意識を失い倒れ込んでしまった……。
「ダグラス! エリア、早く治療を!」
「は、はい! ダグラスさんしっかりして!」
「救護班、必ずこの英雄を死なす事は許さん! 命を懸けて治療せよ!」
「はっ!」
皇帝直属の治療班とエリアが意識を失ったダグラスに必死に回復魔法をダグラスに掛けている中、地面に突き刺さったままだった両手剣が黒い煙によって徐々に黒く染まり始めている事を、誰一人として気付く者はいなかった。
ゴブリンロードとの戦闘も終わり後はジェネラル達の掃討になりましたね。
次回は“加護”で書けたらいいなと思ってます。




