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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
3章・親善大使として親書を届けに。
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ゴブリンキングと戦いの結末。

 俺達とゴブリンキングの戦いは、熾烈を極めていた。


 ゴブリンキングの攻撃をダグラスが何とか受け止めてくれているが、少しでも俺達に隙があればハーディ皇帝を狙おうとして、激しく動き回りながらも常に視界の中に入れていた。

 

「くぅ! こいつの攻撃の1撃1撃が重たい! 共也気を付けろ、こいつ何かを狙っているぞ!」


 ゴブリンキングとずっと切り結んでいるダグラスからの忠告を受けた俺も、周りにいるゴブリン達が戦いに割り込まない様にディーネやスノウの協力を得て殲滅していたが、状況は芳しく無かった。


「不味いな。 このままダグラスの体力が尽きると、キングの攻撃を受け止められる人間はこちらにいないぞ……」


 ここに来てシグルドさんを市民の護衛に行かせた事が裏目に出始めていた。


「やあ!」


 ここより少し離れた場所で戦っていた魅影がゴブリンジェネラルの腕を切り飛ばしたのが視界の端で捉える事が出来たが、腕を切り飛ばされたのを視界の端で見ていたゴブリンキングは、ダグラスの蹴り飛ばして距離を取ると切断されたジェネラルの腕を拾い上げて咀嚼し始めた。


 ティニーさんが慌ててジェネラルの腕を持つゴブリンキングに飛竜のブレスを放つが、直前で躱されてしまった。

 だが、ゴブリンキングが咀嚼していたジェネラルの腕だけは焼却して、灰にする事には成功した。


「ゲゲゲ!」


 だけど、キングの笑い声と共にまた少しゴブリンキングの体が大きくなったように見える……。


「ダグラス、こいつもしかして例のスキル持ってるんじゃないか?」

「ああ、俺もそれを考えてた……【暴食】だろ?」


 俺とダグラスがこいつのスキルが何なのかと言う意見が一致した事で、こいつにこれ以上何かを食べさせると不味い事になると思い周りに声を掛けた。


「みんな! 多分こいつは暴食のスキルを持っているから、餌になりそうな物を見せないように注意してくれ!」

「はい!」

「了解!」

「マジで!?」


 鈴以外は俺達と同じく気付いていたらしく、ゴブリンの処理もキングに見られない様に気を付けて戦ってくれていた。


 ラノベでは有名なスキルの名前だもんな。


 俺達の動きが変わった事を感じ取ったゴブリンキングは、何とか捕食出来そうな対象を探しているが隙間なく包囲されてしまった今では捕食出来そうな相手を見つけたとしても、そこに移動する事すら困難な状況となっているため、動けるスペースを確保しようとして動きが徐々に荒々しくなって行っていた。


 その後もダグラスが斬撃を受け止めている間に、俺が振動剣でダメージを与えて行くとやり方で攻撃していたが、何かを食べる事で自分を強化出来る事を知ったこいつは俺達に攻撃を加えながらも、視線は様々な場所を見て獲物を探している。

 その食欲に俺達は恐怖すら感じていた。


(そこの2人退け! 《ウォータニードル!》)


 俺達が苦戦しているのを見かねたのかメリムがゴブリンキングに魔法を放つが、ギリギリで避けられてしまった。

 そして攻撃が来た方向を見たキングは、元々大きく傷ついていたメリムを捕食しやすいと見たのか、凶悪な笑顔を浮かべて彼女に向かって突っ込んで行った。


「メリム殿、逃げるんだ! そいつは貴殿を殺して捕食するつもりだ!!」


 ハーディ皇帝がキングの目論見に気付き忠告するが、すでに奴はメリムの目の前まで迫っていた。


(くっ! こいつ!)


 メリムが殺される!


 と周りに居た俺達が思った瞬間、ダグラスが間一髪メリムとの間に体を割り込ませる形で何とか守る事に成功した。

 そしてゴブリンキングを弾き飛ばし元の位置に戻した事で、メリムが殺される事は防ぐ事が出来た。


 だが、ダグラスの居る方向から『ぶち!』と何かを引きちぎる音が辺りに響いた事で、状況が一変してしまう。

 メリムを捕食される事を防いだダグラスだったが、左前腕部の肉をキングに食い千切られてしまった様で、そこから大量に出血し始めていた。


「ダグラス!」

「クソ!」


 ダグラスは両手剣に巻いていた布で左腕を強く縛って止血していたが、早く回復魔法などで治療をしないと命取りになりかねない出血量だった……。


「エリア! ダグラスを回復魔法で治療を!」

「は、はい! ダグラスさん一旦こちらに!」


 ダグラスもエリアに回復魔法を掛けて貰おうと移動しようとしたが、先程ダグラスの腕の肉を捕食したゴブリンキングの体に異変が起き始めていた。

 赤黒かった体はさらに黒くなり、身長も一気に大きくなり2Mを軽く超えていた……。


「ぐげぁぁぁぁぁ~~~~!!!」


「おいおい……。 今までの変化と明らかに違うぞ!」

「まさかダグラスの肉を食べたからか?」


 ゴブリンキングの変化が終わると、先程よりさらに速い速度でダグラスに斬撃を繰り出して来た。

 だが奴の異変を感じ取っていたダグラスも、咄嗟に身体強化を最大まで引き上げて発動したお陰でギリギリの所で押し切られずに鍔迫り合いの恰好で止まっていた。


 だがダグラスは斬撃を受け止めた衝撃で、先程むしり取られた左前腕部から再度出血してしまい、苦痛に顔を歪めていた。


「ダグラス! 援護する!!」

「室生頼む! こいつ味を占めたのか、俺を食べようとしてやがる!」


 ゴブリンジェネラルを倒した室生達が合流してダグラスを援護しようと属性矢を撃った事で、何とか一旦引かせる事には成功したのだが、距離を取ったゴブリンキングは首を斜めにして赤く染まった目でダグラスを凝視している……。


「なんだこいつ……。 まるでダグラスを品定めをするように……」

(共也気を付けて! そいつ、邪神の因子を持ってる!)


 急に聞こえて来たディーネの流暢な念話にも驚いたが、それ以上に邪神の因子なんて言葉を初めて聞いた俺は、その事で質問しようとしたがタイミング悪くゴブリンキングが再び動き始めてしまった。


(共也、来るよ!)


 ディーネの警告を聞いた俺は慌てて正面を向くと、すでにゴブリンキングがすぐ目の前まで迫って来ていて、轟音を轟かせながら剣を横凪に振り抜いて来た。


〖ガギン!!〗


 ダグラスが斬撃を受け止めてくれたお陰で何とかキングが止まったが、受け止めた衝撃でダグラスの左腕から大量の血液が噴出していた。


「ぐぅ……! 共也ボ~っとしてんな! こいつはもう気を抜ける相手じゃねえぞ!」

「わ、悪い。 ディーネから、こいつが邪神の因子を持っていると念話が来たものだからつい目を離してしまった……。

 次からは気を付けるが、ダグラスはエリアの治療を受けなくて大丈夫なのか!?」 


 鉄と鉄が強く擦れあう音がここまで聞こえて来るが、何とか受け止めているダグラスの顔色が徐々に悪くなっているのが見て取れた。


「大丈夫じゃねえが、今俺が治療の為に後方に下がるとあいつの攻撃を受け止められる奴が居ない以上、一気に崩される可能性が高いじゃないか……」


 確かに今ダグラスに治療の為に抜けられると、あの斬撃を受け止められる人物がここには居ない……。

 もう早期に決着を付けるしか勝ち目が無いのか、と俺達が思っているとメリムから謝罪の念話が届いた。


(ダグラス……と言ったか。 先程は助かった…、そして私が余計な事をしたせいで、お前に大怪我をさせてしまった……。 すまない……)


「メリム、あんたのせいじゃないから謝らないでくれ……。 元はと言えば、カムシンと言う馬鹿があんた達の大切にしている卵を密輸しようとした事が発端なんだ。

 だから謝る必要は無い、この怪我を含めてな」

(だが……、私はそなたの怪我の原因を作ったのに、そなたは今も私達の子の卵を背負い守ってくれているではないか……。

 そこまでされているのに気にするなと言うのは、あまりにも……)


 メリムが、今も必死にゴブリンロードからの攻撃を受け止め続けているダグラスの姿を見て、紫色の瞳から涙を流すのだった。

 そんなメリムの想いを肌で感じたダグラスは静かに、だけど良く通る声で語り出した。


「俺もさ、片親けどお袋がいるんだよ……。 いつもいつも口煩く俺に生活態度を窘めて来るんだけど、その度に俺は子供の様に反抗してしまって悲しませちまうんだ……。

 だけどさ。

 俺が何でも良いから、良い行いをした時に見せてくれるお袋の笑顔が好きでなぁ……、その笑顔を見ていると、あぁ……。 俺はこの人に心の底から愛されてるんだなって思う事が出来るんだ。

 お袋にもう2度と会う事が出来ないかもしれないがメリム、あんた達が子供達を守ろうとしている姿を見ているとお袋の姿と被っちまってな……。

 メリム、子供には親が必要なんだよ……。

 だから、あんたは生き残ってこの子を守らないと駄目だ。 例え俺がここで死んだとしても、それは子供の誘拐の片棒を担いでしまった人間が1人居なくなるだけなんだから、気にしちゃ駄目なんだよメリム……」


 ダグラスは自身の身の上話をメリムに聞かせていた、そう……まるでこれでお別れだと言わんばかりに……。


「ダグラス、お前!」

「共也すまねえ……。 本当ならお前達ともっとこの世界を一緒に回る予定だったが、俺はここまでのようだ……。

 なら、最後なら最後らしく、お前達の障害を取り除いた上で派手に散ってやるさ! ふぅ~……。 さあ来い、ゴブリンキング!!」


 ダグラスがゴブリンキングを弾き飛ばし両手剣を突き付けると、奴は挑発されたと理解したらしく咆哮を上げて突進して来ると出鱈目に剣を打ち下ろして来た。


「ぐげぎゃぁぁ~~~!!!」


「まさかここで俺の大好きだった漫画のような場面になるとはな……。 動きを小さく……、そして正確に正中線に打ち込む……。 それが出来れば相手の剣は俺を避けて行く……」


 ダグラスが両手剣を上段に構えた剣を、ゴブリンキングの正中線に重なるように、力を出来る限り抜いた状態で一直線に振り下ろした。


 ダグラスが一直線に振り下ろした事で剣先に流されたキングの剣は、ダグラスの横を滑るように逸れて行き地面に突き刺さった。

 そして、ダグラスの剣は体制の崩れたキングの右腕を切り落とすと、そのまま腹を真ん中から切り裂いて内臓が腹から零れ落ちた。


「ぐぎゃああぁぁぁぁ~~~!!!」


 ゴブリンキングはあまりの痛みに絶叫を上げてその場で土下座するような恰好で倒れこんだのだが、邪神の因子で力を得た代償なのか内臓が腐っている様で凄まじい腐臭が辺り一面を覆った。


「ぐ! 何て言う臭いだ……。 これは腐ってるのか!?」

(共也の想像通り、邪神の因子が体に馴染まなかった影響で体が腐ったんだと思うよ)


 またも流暢なディーネの念話が届き、やはり内臓が腐ったのは邪神の因子の影響だと教えてくれた。


 俺達はあまりの腐臭の為に鼻を塞ぎキングの成り行きを見守っていたが、徐々に動きがゆっくりとなって行ったので、この戦いも終わりか……。 と思い力を抜いて武器を降ろしかけた。

 そして、エリアに急いでダグラスに回復魔法を掛けて治療して貰おうとしたのだが、俺は未だにロードの首が上下に動いている事に気付いてしまった。 まるで、何かを捕食しているかのように……。


「まさかキングの奴、自分の内臓を……」


「げ! げへ! げへへ!!」

「クソ! まだ来るのか、しつこい奴め!」


 気持ち悪い笑い声を上げながら顔を上げたキングの腹部は開いたままの状態の上に、内臓を自分が捕食した為何も無くなって空洞になっていた。

 そして、体の至る所から短い棘が生えて、ダグラスに切断されたはずの右腕は骨が異様に伸びて片刃の剣が生成されていた。

 最早見た目がアンデットと遜色が無くなったゴブリンキングは、もはや自我が残っているのかどうかすら怪しかった。

 

〖ガギン!!〗


「ぐ! こいつ!」


 先程よりは遅くなっているが、それでも十分速い速度でダグラスに切りかかって来るゴブリンキングにダグラスも何とか対応して受け止め続けていたが、斬撃の衝撃によって出血が止まりかけていた左腕の傷からまたも大量に出血し始めていた。

 ダグラスも何とかキングを討伐しようと一生懸命頑張っていたが、血を流しすぎた影響で顔色がどんどん悪くなって行く上に、目の焦点が合わなくなって来ているのかふらつき始めていた。


「はぁ、はぁ……」

「グゲゲゲァァァァァ!!」


 それでもダグラスはゴブリンキングの攻撃を受け流し、そして攻撃してキングの体を削って行く。

 俺と室生もゴブリンキングに攻撃してダメージを与えて行くがすでに奴は痛みを感じていないのか、こちらを見向きもしない上に執拗にダグラスを攻撃している。


(早く! 早く倒れろ!! じゃないとダグラスが!!)


「ダグラス!!」


 ダグラスは夢を見ている様な感覚に陥り、ほぼ無意識に近い状態でキングからの攻撃を受け流し続けていた。


(共也、どうしたんだ? そんな悲壮感いっぱいの顔で俺を見て……。 そう言えばお前とは保育園からずっと一緒の学校に通って遊んでたんだよなぁ……。

 学校が終わった後は菊流の家に皆で集まって漫画やラノベを読んで、自分の好きなジャンルをお前達と話し合ったっけなぁ……。

 お袋しか肉親がいない俺にとって、お前達と一緒に遊ぶ時間が何よりも心の癒しの時間だったよ……。 お前達と知り合えて、そして旅が出来て。 本当に……楽しかった……)


 ゴブリンキングの攻撃を受け流しているダグラスの体は、骨剣によって様々な場所を切られてしまい、とうとう口の端からも血が出始めていて、もう限界が近かった。

 

(きっついな……。 だが、せめて共也達が安心して先に進める事が出来るように、こいつだけは俺が……。 倒す!!)


 そう決意したダグラスの振るった剣がキングの胸の部分を掠めると、黒く光る玉が露出した。


 あの黒く光る玉は、こいつの弱点か?


 そして、その黒く光る玉に重なるように伸びる白い線がダグラスには見えていた。


(この黒い玉に伸びる白い線は何だ? 幻覚か何か知らないが、どうせ俺はもうそんなに保たないんだから、次のキングの攻撃に合わせてこの剣をあの白い線に合わせて振ってみるか……」


 ダグラスの決意を後押しするかのように、その時はすぐに訪れた。

 キングがダグラスの頭に目掛けて骨剣を振り下ろして来たのを見たダグラスは、体を半回転させて最小限の動きで骨剣を躱すとキングの左肩から右脇腹にかけて走る白い線に合わせて両手剣を振り抜くと同時にゴブリンキングは動きを止めた。


「ぐ、げ! ぐぎゃぎゃ~~!?」


 ゴブリンキングは切られた場所が内側から捲れて行くと、そこから黒い宝玉が露になった。

 すると、その黒い宝玉は逃げようとしているのかキングの体から離れると徐々に空に浮いて行った。


「ぎゃ、ぎゃ、ぎゃーー!!」


 その黒い宝玉を体の中に戻そうとして必死に手を伸ばすゴブリンキングだったが、黒の宝玉にヒビが入り始めるとガラスの割れるような音を残して砕け散った。


「ぎゃ~~~……」


 そして宝玉が砕け散ったと同時にゴブリンキングの体は真っ白な灰となって静かに崩れ去ってしまい地面に高く積もっていたが、それも風によって運ばれて行き空へと消えて行った。


 こうして何とかゴブリンロードとの戦いは俺達の勝利で幕を下ろす事が出来たが、今回の戦いの功労者であるダグラスはついに限界が来たのか、両手剣を地面に刺した所で意識を失い倒れ込んでしまった……。


「ダグラス! エリア、早く回復魔法を!」

「は、はい! ダグラスさんしっかりして!」


 エリアの回復魔法が発動している中、砕け散った宝玉から発生した黒い煙が地面に突き刺さったダグラスの両手剣に吸収されて黒く染まって行くのを、誰一人として気付く者はいなかった。



ゴブリンロードとの戦闘も終わり後はジェネラル達の掃討になりましたね。

次回は“加護”で書けたらいいなと思ってます。


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