ep.21
男は、不思議な感覚に包まれていることに気付いていた。そして、この感覚が、と正体を察して喜んでもいた。つまり、男は姫様に認められたということであった。こんなに幸福なことがあるだろうか、と嬉しさに震えていた。
「姫様、まことに恐縮どすが御時間よろしいでっしゃろか?」
「構いません、おっしゃってください。」
「わしの名前は、ラティー・エレトリッコと申します。イニーツィオの次期村長と目されてる実力はあると自負しとる。村に着いてからはわしに任せとぉくれやす。どうぞ、いかようにも使いおくれやす。」
「ラティーですね、期待しています。どうぞよしなに。」
にっこりと微笑む姫様に、ほっと安心した。やはり名乗らずに、信用してもらうのは難しい。ここまできたら、姫様の騎士の一人として、故郷を捨てる覚悟すらしていた。そもそも、本来であれば誉ですらあるので喜ばしいことである。特に、姫様方が最後に訪れる場所であるイニーツィオは、外に出ている者でもなければ、騎士になることは難しい。だからこそ、誉でしかないのだ。
しかし、と男ことラティーは思う。
(こら、説得ではどうにもならんな。)
今の村の環境は、最悪と言って間違いない。姫様の邪魔になるのは想像に難く無かった。
(そやさかいこそ、わしが騎士に選ばれたのかもしれへん。)
ラティー・エレトリッコは、にぃっと不敵な笑みを浮かべ武者ぶるいしていた。
***
感覚に従い、進んでいく。そろそろ着くだろうなということと、歓迎されていないことだけは分かっていた。しかし、ファルミーナは心配していなかった。名前こそ知らなかったが、彼を見た時からこれで大丈夫だと、足りないピースが揃ったような感覚があった。ラティーって言うんだ、と心の中で復唱した。なぜか言葉遣いがうまくいかないが、ラティーは気にした様子はなかったので安心していた。むしろラティーはファルミーナにへりくだっていて、違和感を感じる自分と、当たり前のように感じている自分が居て、それこそ不思議な感覚であった。
「……姫様、ここはわしが何とかすさかい、先に進んどぉくれやす。ご安心ください、心得とります。」
「任せます、ラティー。
――さあ、行きましょう。ルミナスさま。」
「ええ、行きましょう。わたくしの可愛い可愛いミーナ。」
そして、3人は動き出す。それは、世界が喜び震え、止まっていた時が進んだ瞬間であった。
一応伏線なので、ちゃんと理由含め回収します。




