ep.19
道なき道を、感覚に従って進む。そうすると、草花はまるで当たり前のように退いてくれて、思い通りに進める。自分でも、なぜ進めるのか、なぜ道案内なしに前へ進めるのか、分からない。ただ思い出したのは、お祖母さまの言葉。
『ミーナ、よう聞いてや。わしを信じて進むのやで。そうしたら、道は自然と開けていくさかい。恐ろしいことがあっても、負けたらあかん。だって、あんたはうちん可愛い可愛い孫だもの。いけんで、歩みを止めちゃあかんさかいね。』
あれは、ただのお祖母さまのエールなのだと思っていたのだけれども。もしかしたら、今この時に向けた言葉なのではないかと思う。恐ろしいものが、なんなのかは分からないけれど、もしかしてこの黒い影だろうか。なんだか騒がしく、怨嗟らしき音が聞こえてくるが、何を恐れる必要があるのか。すべては自分自身へと跳ね返ってくる、それこそこの音の主にこそ恐ろしいものでしかないというのに。
ひゅぅ、という口笛の音が聞こえた気がした。
***
(こらぁ……、豪いことになってもうたもんだ。継承の儀式をしてへんだけで、これじゃあ大巫女様と変わらへん。既に精霊王様にお会いしたちゅうんか?こら、我々はほんまに丁重にもてなさなあかん。)
先ほど、丁重にと伝えてあったが、村の連中ではきっと姫様に粗相してしまう。それではいけないのは、経験上分かっていた。なんせ、男は次代の村長と呼ばれているほどの実力者。ゆえに経験豊富で、今までだって正しく丁重にもてなしてきたのだ。したがって、今まで通りの用意をする必要があった。
けれど、と男は思う。
(姫さまの進むスピード速い……っ。こら、間に合うか……?)
男は焦りながら、そっと古代から伝わる魔法を使う。しかし、姫様の足取りはしっかりと、迷いなく村の方へと進んでいる。惑わすための魔法も、姫様には意味がなかった。ダミーの村も用意していて、資格無き者は進めないようになっているはずなのだが、姫様は本村へと向かっている。男に焦りが募る。
(間に合うとくれやっしゃ……っ。精霊王様の加護の意味を忘れてへん奴がどのくらい居るんやっ!)
自分を支持する若者達は大丈夫だろうが、それこそ老害とも呼べる老いただけの子どもも沢山いる。姫様が試練を乗り越えた意味を理解している者がどのくらい居るか、見当もつかなかった。前回来た大巫女は、本当に前で、といっても50年ぽっち前なのだが、その時はちょうどダミー村に出かけていた者も多く、その前と言うとその20年前だろうか、70年前である。そうなると、50年前に儀式を見たことがないのなら、70年前は確実に見たことがないだろう。つまり、村長やその側近が見たことあるかないか程度に違いない。
男は焦る。しかし姫様は、ファルミーナは、歩むことを辞めなかった。




