ep.18
「それで、お姫はんはなんでこの地に?おもろいものはなんもあらへんどすえ。」
「いえ、ちょっと気になることがあって……。」
壮年の男性に尋ねられて、口ごもるが気になるモノは気になる。おい平民、戻って来い帰るぞ、とか、あら、ベルだけ帰ってもいいのよ?とか、なんだか外野がうるさいがジエラストロンディ様が抑えてくれるだろう。たぶん。
辺りを見渡すと、違和感がどんどん強くなっていく。そして、懐かしさを感じる方向へ惹かれるように一歩踏み出すと、いきなり草花が退いていき、また一歩踏み出せば、更に草花が退いてどんどん道が出来ていく。不思議な感覚に従い、一歩一歩踏み出して進んでいく。
「ルミナスさま、いきましょう?」
嗚呼、なんということだ。大切な人を忘れて帰るところだった。くるりと振り返り、ルミナスさまの方向へ向いて、手を差し伸べる。ルミナスさまは、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに蠱惑的な笑みを浮かべて、水上魔車からこちらへと跳んだ。私は、ルミナスさまがこちらまで来れるように、土の階段を作る。そのつもりだったのだが、なぜか綺麗な白亜の階段が出来た。しかしルミナスさまは気にした様子もなく、一歩一歩ゆっくりとこちらへと階段を下っていく。呆然とこちらを見てる男性陣も慌ててこちらに来ようとするが、階段はルミナスさまが進むたびに消しているので私の階段ではこちらに来れない。それになぜか、ルミナスさまを守る様に階段の周りには草花が、果てには小さな木までが生えている。幻想的ですらあるような景色に、不思議な気持ちよりも、嬉しい気持ちがわき出てくる。
「わたくしのかわいいかわいい、ミーナ。待たせたわね。」
「いえ、……行きましょう。ルミナスさま。」
やっと、帰れる。そんな私の様子を見ていた壮年の男は、にぃっと口を弧に描いて笑っていた。
「――役者は揃うた。あとは、王の御心次第やなあ。」
***
「ベル、ちょっと、どうしよう。」
「俺に聞くな、俺だって困惑している。」
だって、一瞬ではあるが、あのファルミーナ・マジカ、いや今はマジカではないが、あの女が本当に一瞬、金色に輝くような髪色に変化したのだ。金色に輝く髪色であるのは、王家の証。光の公爵家である、アランドゥーエ魔術師団長であっても、淡い黄色といったように光属性の白や黄色といった金に近い色合いであっても金色には産まれない。しかも、昨今の王家では血が薄れてきたのか黄金色といった少しくすんだ色合いの金髪であることが多い。これは権威を示すのに不都合であるため、少し輝く染め粉を使っているというのは上位貴族の間での秘密である。つまり、何が言いたいかというと、あんなに輝く金髪であることは、王家であっても有り得ないということだ。
それに、とベルナルトは思う。
「噂は当てにならないな、
――イニーツィオという地は閉ざされているんじゃない、閉ざしているんだろう。」
思っていることをそのまま口に出したが、しっくりと来る。リュエも頷いているし、この見立ては大凡間違っていないだろう。
それに、だ。自分達も自力で水上魔車から降りて、地へと踏み入れようとしたが、あの2人が進んでいった方向に進もうとすると、草木が邪魔してくるのだ。人を選別している魔術が使われているとしか考えられない。しかし、それなりに魔術に精通していると思うが、そんな魔術は聞いたことがない。それに、ファルミーナ・マジカとしてあの平民が部隊員に所属していた頃、そこそこ優秀な女だとは思ったがまさか白亜の階段をなんの苦もなく何段も用意できるほどの実力ではなかったように思う。あの階段は装飾まで施されていて、しかも草木が生えるという聞いたこともない魔術を使っていたのだ。
正直、何が起きているかわからない。
そんなことよりも、とベルナルトは困惑していた。あのファルミーナ・マジカの顔が、金髪と銀髪の色の違いがあるとはいえ、魔力暴走から助けてくれた彼女の顔にそっくりに見えたのだ。そんなバカな話があるのだろうか、と深い深い思考へと潜っていった。




