ep.16
夢うつつの中、見えたのは深い深い黒い人。優しく撫でてくれるその手は、まるで懐かしい父様の手のようで。嬉しくなってもっともっと、とねだる様に頭を擦り寄せた。そうしたら手が止まった気がしたけど、もっと撫でてくれたから。本当はお腹のこの子を撫でて欲しかったなぁ、なんてワガママなことを思いながら深い深い眠りへと落ちていった。
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「――っ、どうしろって言うんだよ……!」
そう悪態を吐くベルナルトの腕には、すやすやと眠るファルミーナが居た。
事の始まりは数刻前、ベルナルトがいつものように鍛錬をしようと庭の一角に来た時だった。流石に任務で来ているとはいえ、ロッソィーノ侯爵家お抱えの私兵団に混ざって鍛錬する訳にもいかない。したがって、庭で景観を壊さないように筋力トレーニングと魔力の構築トレーニングをしているのが、ルミナス嬢の護衛任務の時のベルナルトの過ごし方であった。帰ったら自室に書類の山が出来ていそうだ、リュエがある程度捌いていてくれているだろうか、などとつらつら考えながら庭にたどり着いたベルナルトの視界に入ってきたのはフラフラと歩いている元同僚である平民ことファルミーナであった。侍女が支えてはいるが、どうにも危うい。任務という仕事中に一応は平民である彼女らを見て見ぬ振りをするほど鬼ではないし、そもそもここで手助けしなければ王国貴族の紳士として恥である。仕方なく、手を貸すことにしたのだった。
(なんで、俺がコイツの面倒を見なければならないんだ……。)
そっと声を掛ければ、一人で平民ことファルミーナに着いていた侍女に人を呼ぶまで彼女の傍に居て欲しいと頼まれ。仕方なく平民を庭にある東屋のベンチに座るよう誘導すれば、人にもたれ掛かるように寝息をたて始めたのだ。仕方なく、本当に仕方なく平民の隣に座ることにしたのだが、どうしてこうなった。
しかも、頭がかくっと下がったため自分側にもたれかからせたら、自分の手に平民が子猫がごとく擦り寄ってきたのだ。ふざけるな、とベルナルトは心の中で叫んだ。そう思いながらも平民に応えるようにそっと頭を撫でたのだった。
「――……で、なんで来るんだ。」
「面白い光景を見るために。決まっているでしょう?」
現れたルミナス嬢に、キレそうになるベルナルト。何故だ、どうしてこうなった。何度目かに分からないぼやきを心の中で叫びながら、天を仰いだ。
(不思議ね、いえこの間から不思議なことばかりだわ……。)
ルミナスは思う。不可解なファルミーナの妊娠、アカーチャ・メーディウム医療班長という大物がミーナの主治医になったこと、距離をとっていたはずのベルナルト・マジカ・ヴェルデットロとファルミーナが寄り添っている光景。何もかもが、繋がっているような、靄がかかっているような不思議な感覚がする。この感覚は忘れてはいけない、そうルミナスは心に刻む込むように今までの出来事に思い惑うのだった。




