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まりあ VS ベル

 

 

 眦を決するまりあの視線の先で、ベルは含みのある顔でほくそ笑んでいた。



「やっぱり、君の方が強いね」

「あなた……しぐれに何をしているの?」

「何もしていない。ただ、殺気をぶつけているだけ」

「ならそれを今すぐ止めなさい! そもそもどうして戦うの? 何が目的?」

「ボクは強い。そして君も強そうだ。どちらが上かはっきりさせたい。だから、戦おう。授かった魔の力で」



 この答えに、まりあは今度こそはっきりと、ベルを敵と認定した。盛大にため息を吐いて見せる。



「そういうことならやらないよ」



 警戒はそのまま、睨むのをやめてしぐれに寄り添った。中途半端に煙に巻いても納得しない、ベルの相手にすることそのものを放棄する。



「どうして? 君、強いんでしょう? だったら戦ってみたいでしょう?」



 先程からまったく意味の通らない理屈だ。まりあはきっぱりと断言する。



「あなた魔術師なんでしょう? 魔女じゃない。だから戦わない」



 何故こんなにも初対面の彼女のことが気に喰わないのか、何となく分かった気がする。


 魔法を授かった者同士、魔法を使って決闘をしよう。ベルはそう言った。

 それが何より気に入らない。美意識の違いだ、まりあはそれを良しとしなかった。


 まりあの魔法は、己の筋肉のためにある。


 鍛え、育て、作り上げる。そのためだけに存在している。誰かと優劣を競うために使うなど、馬鹿げている。



「臆病者だね。勝負から逃げていたら、いつまでたっても井の中の蛙なのに」

「世界中どこへ行ったって、井の中の蛙だよ。魔法少女っていう枠の中だけの強さ。そういうんじゃなくて、私は私が望むように強くあればそれでいいの。どっちどれくらい上とか、興味ない」

「ボクは魔法少女じゃない、魔術師だ」

「さっきから何なの、その拘り?」

「……ボクは知りたい。君よりも、何者よりも、強いことを証明したい。一人でも生きていけるんだという実感が欲しい」

「……? 何のことを言っているの?」



 まりあがベルを理解できないように、彼女もまたまりあと価値観を共有できない。


 曲げられな意地の張り合いは、双方が平等に妥協するという解決案を放棄する。



「戦う理由は、ボクにはある!」



 言い争いを先に打ち切ったのはベルだ。まだ変身もしていないまりあ目掛けて、宝杖で殴りかかってくる。


 間一髪、まりあは飛ぶように横に逃げて、しぐれを押し倒して抱きかかえながら、地面を転がった。



「こんのーっ! いきなり何すんの!」

「あ、まりあちゃん、戦ったらダメだよ……っ!」

「離れていて、しぐれ!」



 急襲はまだ終わっていない。ベルは宝杖を下段に据えたまま、すぐさま間合いを詰めてくる。



 ―――迎え撃つ。



 即座に開き直ったまりあは、迷いの一切を投げ捨てる。


 抜刀の勢いで腰につっていたスクイズボトルを引き抜き、プロテインを摂取。空に向かって猛々しく咆哮する。



「やああああああああ――――――――――――――っ!」

「……っ」



 ベルは突如として現れ出でた筋肉の巨身にわずかな驚きを示し、突撃する足に急制動をかけた。


 動きが止まったその一瞬を狙って、大砲のような拳が真正面から放たれる。



「ぐ……っ!」



 手加減の一切を取り払った全力の初撃は、ベルの小柄な体躯を高々と跳ね上げた。


 だが、それで決着には至らなかった。



「ふっ」



 最高到達点で身体を捻って鮮やかに着地。ベルは何事もなかったかのように態勢を整え、まりあの前に降り立った。



「そんなっ、まりあちゃんの攻撃で無傷だなんて!」



 驚愕の悲鳴を上げたのはしぐれだ。まりあもまた、その強面をわずかに歪め、同様の驚きを顕わにする。


 魔女の肉体をも粉砕する破壊の一撃を受けて、何事もないなどということはありえない。事実、まりあの拳には確かに強かに打ち据えた感触が残っていた。


 一体何を殴ったのか。

 

 宝杖をひと振りし、ベルはその問いに答えた。

 先端にはめ込まれた玉石が、宙に紅い軌跡を残してベルの周囲を包み込む。魔力で編まれた透明な防護の壁、”魔力障壁”が球形に展開された。



「君たちはできないの? 魔法少女なのに」



 ベルはできて当たり前だと言いたげに眼差しを細めるが、まりあもしぐれも黙りこくるしかなかった。


 魔力に障壁という形を与えて敵からの攻撃を防ぐ。

 それを可能とするには、目まぐるしく動き回る中、タイミングと空間座標を見極めて、障壁の形に固定した魔力を放出しなければならない。


 必要とされるのは緻密な魔力操作と針の穴を通す集中力。少なくとも、まりあはそんな技術を持ち合わせていない。


 まりあの魔法は単純明快。己の魔力を筋肉に変えて、迫り来る敵をぶん殴る。

 それだけで十分だ。



「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」



 その自慢の筋肉から繰り出される連撃は、障壁に防がれてベルまで届かない。次々に張り巡らされる障壁に手こずる間に、蝶のようにひらひらと逃げられてしまう。


 こんな戦いは初めてだった。


 魔女との戦闘は常に真っ向勝負。力と力のぶつかり合いだ。それぞれが持つ特徴はあれど、それを使って逃げ回るようなことはなかった。


 思わぬ形で辛酸を舐めさせられ、まりあはひとつ舌を打つ。



「厄介な……っ」

 

 

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