第65話:暴食
神話というものは、同じものでも土地毎に特殊な趣向が加わっていたり、別の神話なのに似たような道筋をたどってみたり、解釈する人の受け取り方でも幾通りにも筋書きが変わってしまうものだ。
たとえばナワーロウルド創世神話では、主に神王、聖母がこの星の生き物に祝福と知性を授けるところから始まるのは同じだけれど、最初からこの星に居たという起源獣に関する解釈はいくつもある
いわく最初から知性と魔力を持っていたとか、起源獣などいなかったとか、そもそも起源獣は今の動物と同じものでそこから神王たちの強すぎる力に耐えかねて進化したのが魔物でありゆえに魔物は魔力を持たない動物とは種を保存できないのだとか、起源獣自体神王たちがどこかから持ち込んだものであるとか・・・
また創世神話には二十四神という単語があり、ソレは神話のメインどころである六聖、すなわち神王、聖母、聖王、龍王、処女王、騎士王と十二使途すなわち御使いたち、フェイス、ジャスティス、ホープ、イモータル、テンペランス、ラブ、プライド、ラース、エンヴィ、グリード、グラトニー、ラストまでは確定しているものの残り6柱については諸説あり、御使いがもう1組6体居た説、6大陸の名前になった種族、サテュロス族、セントール族、ハルピュイア族、アンヘル族、エル族の始祖王がそれである説もあるがしかしアシハラ族という種族は創世神話以来存在しない、俗に言う大陸の獣、サテュロスで言えば地平灼く千頭山羊が元は神だったのではないかという説、そもそも二十四神というのが誤って伝わったものであるという説、起源獣の中に神に数えるべきものが交ざっている説、未来に現れる神である説。
あとは死んだ聖母と生まれ変わった聖母が別人説なんてのもある。
そもそも2万年ほども昔のことだというのだから、人々に伝わる神話に真実など微塵も含まれ居ないのかもしれない、しかしながら今このサテュロス大陸、イシュタルト王国王都クラウディアにおいて、神話の存在としてのみ知られる存在ドラグーンの眷属ドラゴニュート、それに神話にすら名前を残すことすら許されなかったグリーデザイア、イシュタルト建国神話の末裔たる三隠密のうちのハンゾウとナガト、それにステータス表に聖母の文字列を持つ勇者アイラは、再開発中の区画にていよいよ激突の時を迎え様としていた。
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(フィサリス視点)
「・・・・だからさぁ俺たちが家まで送ってあげるよぉー内クラウディアとはいえ女の子の1人歩きは危ないよ?」
目標の人相書きの男が動き易い様にと、人通りの少ないところをゆっくり歩いていたのが悪かったのか、目標以外の者が釣れてしまった。
機嫌よさそう・・・というのには些かだらしない顔、平たく言って酔っ払いだ。
3人の男たちはいずれも20前くらいの若い男、こんな時間に女1人で居る私を心配して・・・と口では言っているけれど、実際にはその視線は私の胸にちらちら注がれている。
私がメイド服ではなく街娘風の服を着ているので、おつかい中の一般の娘か、仕事帰りの1人暮らしの奉公娘だとでもおもっているのだろう。
そしてもし後者なら送ったあと確実に部屋に居座ってお酒を飲ませてくるはずだ。
まったく・・・場所は違っても盛りのついたオスというのはどいつもこいつも・・・。
やんわりお断りしても、こちらが小柄なので強く押せばいけると思っているのかグイグイとくる。
100歳過ぎだと伝えてもこの人たちはまだ私の体を欲しがるのだろうか?そもそも信じないか・・・この人たちに私がドラゴニュートだと伝える予定もないことだし・・・。
あまりしつこい様ならほっぺたにヒトデマークでも作れば退散してくれるだろうか?
そういえば内陸国だからヒトデじゃわからないかな?
と、男たちへの対応を考えていると、視線にうごきがあった。
人相書きの男が、アイラさんが言うブリミールという男がこちらに近づき始めた。
まさかいきなり襲い掛かるということは無いだろうけれど・・・?
「そこのお前たち、いい男が3人がかりでか弱い女に何をしておるか!」
人相書きの男、ブリミールは身長は180cm台半ば、私を囲んでいた男たちよりも10cm弱大きい、私からすればどちらも高い身長でうらやましい限りだ。
ブリミールは近くに来ると男たちに高圧的に話しかけ始めた。
貴族である彼は、平民に対して、たとえ3対1であろうと決して引くことは無いのだろう。
でも、男らしくしろとか、嫌がる女性にしつこく言い寄るななんていっているけれど、こちらもソレを狙っていたとはいえずっと着かず離れずで1km近い距離を着いてきた男がその3人に説教できる立場なのかしら?
最後には結局貴族だと明かした上、魔法の火の弾を生み出して脅かして追い払った。
「フン!浅はかな平民どもが・・・」
そういって男たちの背中を見送るブリミールへの感想は今のところ最悪に近い、そもそもあのじっとりとした視線で私を見てきたのは今日で2回目、今の会話で酔っ払いとはいえ男たちを理で説得することも出来ず結局は貴族だと明かして力で押しのけた様なもの、たとえ私に絡む3人の酔っ払いを退けてくれたのだとしてその評価が上向くことはほぼない、-100が-99になったところで嫌いなものは嫌いだ。
しかしながら、非常に不本意ながらだ・・・客観的に見て私が難儀していた男3人への対応をこの男がしてくれたのも確かなので、私はお礼を言わなくてはならなかった。
「どうも、ありがとうございます。酔っ払いなので追い払うのに苦慮しておりました。いやですね・・・酒に酔っているとはいえ、初対面の女をいやらしい目で見る浅ましい男って・・・。」
頭を下げる、若干けん制も含んでいるが、私が彼の視線に気付いていたことなどわからないだろう。
「いや礼はよい、弱いものを守るのは貴族の役目だ。それが平民などでもな、もののついでだ、貴様を送ってやってもよいが?」
そういって手を差し出し、ブリミールはエスコートをする男性側の構えを取った。
乗るのも手ではあるのだろうけれど、ここは一度断ってみよう。
イシュタルト王国で貴族の女であればエスコートを受けるのも一部義務の様な部分もあるのだろうけれど、私を王都の平民だと思っているだろうし。
「いいえ、もう割りとすぐ近くですし、本当のところを申しますと私は男性が苦手ですので、恩人であるところのあなたと話しているのも本当は少しつらいくらいなのです。」
「ソレは・・・まぁ仕方ないか、貴様の容姿ではあの様な男どもも多く居ただろうしな。それではここで見送るとしよう」
ブリミールは両掌を上に向けて仕方ないとジェスチャーすると最後に笑顔を浮かべて私にさよならを告げた。
グリーデザイアがおそらく何か彼に語りかけている、そういう気配を放ちながら。
「ソレではどうもありがとうございました。またご縁があれば会うこともございましょう」
そういって私は彼に背中を向けて歩き始める。
無論警戒は最大限に、そして背中を向けて3歩歩いたあたりで男の葛藤の声が聞こえた。
「いや、だがしかしそれは・・・まて、せっかく顔をつないだんだ・・・ちがう、俺は・・・そうだな、わかった。」
むしろ小声で口論をしている様な声だったが最後には説得されたらしい・・・そして後ろから飛び掛ってくる何かの気配を察知して私は買い足した鹿肉を捨てて飛びのき、振り向いた。
同時に私が居た場所に黒いしみというかもやというか、ゆらゆらとした闇?それも向こう側が見えないくらい濃密なものがブリミールの腕から伸ばされていた。
「えっと、何のつもりですか?」
ブリミールは驚愕に見開いた目でこちらを見ていた。
「避けただと?後ろからなら軍官学校の4年でも避けられなかったというのに・・・」
「ええ避けました。ソレでこれはなんのつもりですか?」
私に黒いによる攻撃が放たれた瞬間私の進行方向の壁の裏に居る人とブリミールの背後に居た人が高速で移動を始めたけれど、私が回避したのを見て再び隠れた。
先ほどから近くに居るとは思っていたけれど、どうもアイラさんが言っていたブリミールを監視中の人も二人居るらしい。
その人たちの前でドラゴニュートの力を使うことは憚られた。
それにドラゴニュートの力を使えば、彼自身が悪かどうかは関係なく殺すことになる。
ソレはまだ早い、グリーデザイアを取り除けば更生する可能性もないではないのだ・・・起こした事件の規模的に死罪ではあるだろうが、ここで善悪を判定できるならば龍の島に帰った後に龍王様に報告すれば次の周があるならば救われる可能性もある。
グリーデザイアが彼を唆したために、彼が事件を起こしたのならば、次周ではそのグリーデザイアが彼に接触を図る前に消されることになるのだ。
「いや、俺は・・・そのつかぬ事を尋ねるが、俺のものになるつもりはないか・・・?その、一目惚れなんだ。俺は貴族だから正室にしてやるのは難しいけれど、苦労のない生活はさせてやれるから、そんなお遣いなんてする必要もないし・・・」
あきれたことに、一度攻撃を仕掛けてきておいて告白してきた。
そういえば彼は生きている人を捕まえるための力を持っているということだったし、それだったのかしら?
でもどちらにせよ・・・
「その言葉が先ならばまだ考えることもあったのでしょうが、その様な無体をされてからでは・・・とても本気とは思えませんね?」
ドラゴニュートとしてではなくヒトの女として持ちうる範囲の力で戦おう。
両腕に魔力を集中する。
「それともその言葉もあなたに語りかけているモノが唆したのですか?こいつは女だから騙せると?」
「な!グラトニーの声が聞こえるのか!?」
ブリミールはその名前を信じているのだろうか?
自分だけに声を届けた存在を御使いと信じてしまうのは、アンヘルやグリーデザイアの起こした裏切りを知らない地上のヒト族からすれば仕方ないことなのかもしれないけれど。
ふつふつと怒りがこみ上げてくる。
グリーデザイアに唆されてのこととはいえ女性を食い物にする愚か者の癖に・・・どれだけ純粋な馬鹿なのか!そして!
「グリーデザイア如きが!偉大な御使い様の名を騙るのか!?」
私はブリミールをにらみ、怒鳴りつけた。
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(アイラ視点)
空から見下ろしたブリミールの様子は初め落ち着いたモノだったはずだ。
この短い時間にいったいどの様な葛藤があったのか、それともそもそも初めからその瞬間だけを狙ったものだったのか?
フィサリスが礼をした後向けた背中にブリミ-ルは「大口の化け物」を放った。
とっさに加速を使い、距離をつめるけれど、フィサリスが背後からの攻撃に反応できたのをみて、再び様子見に戻る。
隠密の二人も同様だった。
先ほどよりも距離が近づき、よりはっきりと二人の身振り手振りがわかる。
ブリジールは首を振り、何かいいわけでもしている様だった。
しかしそうしているうちにフィサリスが手に魔力を帯びさせた。
ナタリィと同様魔法拳士としての戦いが可能みたいだ。
ブリミールはなにかフィサリスを怒らせる様なことを言ったのだろう、フィサリスが何事かを怒鳴りつける。
普段おとなしいフィサリスだけにその様子には少し驚いたのだけれど、近くで怒鳴りつけられたブリミールはもっと驚いていた。
ブリミールはうろたえて、違う、違うという様に頭を抱えて首を振り・・・?何か様子がおかしい?
次の瞬間黒いもやがブリミールの体から噴出し、彼の体を包み込んだ。
「ぐ、ぐあっグオオォォォォォォォォ!!」
一瞬男の声でうめき、次の瞬間には獣の様な産声をソレは上げた。
そしてボクはソレが信じられなくて、思わず声を漏らす。
「ガ・・・ルム!?」
そうソレはガルムだった。
ボクの知るソレよりも体は小さいしまだ揺らいでいるけれど、あの昏さはどう見てもガルムと近い存在だ。
黒い獣は人と獣との間の様な立ち姿をしており苦しげな声を上げながら右腕で周囲の壁をなぎ払った。
なぎ払ったというよりもただ苦しんでいるだけにも見えるが、ソレを見たと同時、ナガトさんとハンゾウさんがすでに飛び出していた。
ボクはフィサリスの傍らに着地し、何があったか尋ねる。
「フィー!コレは!?」
「申し訳ありませんアイラさん、これは、われわれ龍王の眷属が対処しなければならない問題です。」
フィサリスはその黒い獣が何であるか知っている様だった、でもこいつが暴れるのであれば街人に被害が出る可能性がある、それならばもう
「もう、殺す以外ない?」
ボクの問いかけにフィサリスは視線を落とし、短くハイと応えた。
「なら早いほうが良い、ただボクがこのまま戦うわけにも行かないからちょっと着替えてくる。ここは持たせられる?ドラゴニュートの力は隠すのでしょう?」
王都は人目が多い、そこで今のボクが戦うのは目立ちすぎるだろう。
さすがに隠形スキルを用いてもあれと戦えば隠し切れないだろうし・・・。
「はい、あのお二人もあの程度の獣には遅れをとらないと思うので・・・後で、すべてお話します。」
そういってフィサリスはブリミールだったものへの牽制に加わっていった。
そこかしこから黒い獣を目撃した人の悲鳴、巡回中だったと思われる兵士の声がして人目が集まっているのがわかる。
やはりアイラとしての姿のままでは戦えない・・・、ならば・・・!
ボクは近くの工事現場の幌の中に隠れるとはるか上空に「跳躍」した。
そこで暁天を取り出し、最近導入したばかりのナイト・ウルフを装着する。
ナイト・ウルフは2m90cmほどの高さをしたセイバー装備でボク以外とは相性が良くなかったためいっそボク専用にと改良を重ねてきたものである。
元が狼犬素材だからか相性の良い形にと改良を続けた結果、体躯に対して四肢、特に腕が太く尻尾状構造物も取り付けた。
ボクの魔法をそのまま使用可能なため、飛翔や空間収納も使用可能、なので本体に大きな蓄魔力槽を取り付ける必要がなく鎧の内部で空間魔法を発動させて収納の中の小型蓄魔力槽を尻尾の中に召喚している。
この鎧の存在を知っているのは他に、神楽、エッラ、エイラ、ジーク、アイビス、ラピス、ヒース、ユーリくらいなので、誰もボクがこの市街戦に参加したことはわからなくなるはずだ。
足元を見ればナガトさんもハンゾウさんもよく抑えている。
暴れているブリミールだったものは、人が多い市場のほうへ向かおうとしている様に見えるけれど、今もまだ再開発中の区画を出ていない。
ただ半人半獣体高2m半ばの怪物は、本体以外に黒いもやを撒き散らす様に戦っていて、それに触れたヤジウマをしていた女性を捕食した。
もやに触れた部分がまるで鮫に食いちぎられた様になって女性は悲鳴をあげて絶命した。
ソレを間近で見ていた野次馬は全員腰を抜かした様になってしまい、ナガトさんたちの戦いの障害となる。
あの2人がフィサリスと初対面と思えないほどしっかりと連携して、それでどうにか逃がさないでいるのに、ヤジウマなんてしているから巻き込まれるんだ。
「せい!」
専用の大剣を振りかぶり、上空300mから地面に向かって切りかかる。
突然振ってきたブリミールを超える大きさの得体の知れないモノにヤジウマたちは抜かしていた腰が戻ってきたのか蜘蛛の子を散らす様に逃げ去っていく。
またナガトさんとハンゾウさんが突然現れたボクへの対応をするべきか?と一瞬その身体を硬くしたため、その一瞬を逃すまいと思ったのかブリミールがその尻尾で二人の立っていた壁を払おうとする。
「らぁぁぁぁ!」
とっさに間に割って入り、大剣を盾代わりにして尻尾を防ぐ。
フィサリスが二人のところに飛んでいき何かを告げると二人はボクへの警戒をといた。
おそらく仲間であると伝えたのだろう。
コレで心置きなく戦える。
改めてブリミールの姿を見ると、先ほどまでの青年の面影は無く、黒いもやとかしみとか闇とかなんていって表現したものか、とにかく昏い揺らぎの中に虎と猪を足した様な醜悪な獣の顔がある。
全体は人に近いシルエットをしており二足歩行しているが、その体躯は非常にずんぐりとしていて、長身痩躯とはかけ離れている。
狩を邪魔された獣の様に怒り狂った声を出し続けていて、もはや理性など微塵もない様だ。
大きさはむしろこちらのナイト・ウルフよりも小さいくらいだけれど、手足とは関係なく伸びてくる黒い揺らぎが獣の口の様な形で噛み付いてきて、作りかけの基礎や建築資材を破損させていく。
「ナイト!彼はすでにヒトではなくなっています!救う手立てはありません、せめて楽にしてあげてください、後始末のほうは私がやります。」
フィサリスが、ボクの名前ではなく鎧の名前で呼ぶ身元バレを防ぐためだ。
そうか・・やはりもうブリミールはヒトではないのか・・・魔王化に近いものなのだろうか?
魔王は前の周でバフォメットとノヴァリスとであったけれど、どちらも人格を有して、ノヴァリスは生前の彼女とほとんど大差なかったはずだけれど・・・。
これはソレとは違うものなのだろうか・・・?
いやソレはいい、フィサリスが倒すほか無いというならこれは倒すべきものだ。
前の周でもアイラはブリミールを殺した。
「(ならば・・・)はぁぁぁぁぁぁあ!!」
いざ、さらばブリミール!
動きの粗いブリミールの横をすれ違いざま首を狙った一撃は、狙い通りにその頭と身体を泣き別れにした。
首の切断面から黒い泥の様なものがそこかしこに飛び散り、その飛び散った場所から年若い女性たち、それにまだ6~7歳の女の子、ボクが事件に気付くきっかけとなった工房の見習い職人などが半裸や、気を失っている状態で放り出された。
前の時と同じで、即座に殺さず溜め込んで、半裸の女性はきっと嬲り者にしたりもしていたのだろう。
助けなくては・・・、とりあえず近くにいる陵辱を受けた痕跡のある半裸の女性と、小さな女の子とを抱えようとする。
身元がどうとかいぜんに一箇所にまとめて保護しないと、変な気を起こしたチンピラに、それこそさっきの酔っ払いみたいなヒトに連れて行かれても堪らないし。
しかしハタと気付く、泥が消えていないし、ブリミールの身体を包む揺らぎも消えていない・・・?
前世ではどうだった・・・?あまり覚えていない、あの時は水没しそうな女の子たちを拾い上げるのに一生懸命で周囲に気を配る余裕が無かったんだ。
「いたぞぉぉぉ!」
「せぇぇぇぇぇぇい!!」
「援護する!第一、第二小隊は倒れている子女を回収せよ!」
突如聞き覚えのある声がしてナイト・ウルフよりは小さな、性能も低いセイバータイプを装着した2人と特殊鎧の男が急速に接近してきた。
砲撃戦型特殊鎧に関してはこちらより大きい。
あわてて女性二人を防護魔法を乗せた光弾に包んで基礎の上におろした。
大きな光弾に急遽防護魔法を被せたのでそれなりに魔力と気力を消耗する。
大剣を片手もちにし、近接用ナイフを一本左手に逆手で持ち、突き出された槍をさばき、剣を受ける。
「く、黒い魔物と聞いてきたが2体いたのか、しかもこいつ武芸の心得があるぞ!」
「それにこの練度、一般兵では話にならん皆は早く女性たちを保護して撤退せよ!」
な、ボクを魔物と勘違いしてる?
襲い掛かってきたのは、現在この国には限られた数しかないセイバー装備持ち、ジークとエッラ以外の全員だ。
「剣狼」「巨竜砲」「鹿角」ボク自ら用意した鎧がここで仇になるなんて。
「ジェリド殿!ボレアス殿!そちらは敵ではない、協力者だ!」
「な、まだこんなところに人が!?危ないので早く逃げなさい!」
うん女の子たちを早めに保護してくれたのは良いけれど、最初にボクが抱えた二人はまだ放置だし、ナガトさんのこと気付いてないし・・・・って仕方ないか、影の仕事をしているから面識は無いだろうし
「いえ、ですからその黒い鎧はあなた方のと似た物の様ですから、敵はそこに倒れている黒い揺らぎの様な物だけです、そちらの黒い鎧の御仁は私を守ってくれましたし、あなた方に斬りかかられたときも女性二人をそっと置いたのが見えなかったか!?」
「な、なんと、コレは失敬した。とんだ勘違いで、功労者をケガさせてしまうところだった。申し訳ない」
いや良いけどね、黒い魔物が出たとだけきいて知らずに3mの黒い鎧がいたら魔王か何かだと思うだろうし。
むしろブリミールが暴れてからまだ5分くらいなのによく駆けつけたよね?
褒めてあげたいくらいだ。
あれ?そういえばフィサリスは?さっきまですぐ近くにいたのに・・・、まさか今のセイバー同士の戦いに巻き込まれ・・・・ってブリミールの死体の横にいるや、何か捕まえようとしてる?
あ、何かがこっちに飛んでくる?
フィサリスが何か言ってる、加速状態だからゆっくりと口が動いているのがわかる。
「(・・・えっとなになに?危ないにげて?ってなんだあれ、妖精?ハエみたいな羽の生えた目付きの悪い、人に近い形の何かが飛んでくる。ボクのほうめがけて?)セイ!」
とりあえず悪いものらしいから鎧の腕で殴りつける。
哀れハエ妖精はとんぼ返りもとのフィサリスのほうへ、フィサリスはソレを今度こそ捕まえると何かめちゃくちゃ口汚く罵ってるけれど、今度は妖精はドロリと黒い泥の様になって溶けた。
うぇ・・・はっきり見ちゃった、気持ち悪い・・。
次の瞬間のことだ。
飛び散っていた黒い泥やブリミールを包んでいた揺らぎがブリミールの死体のほうへ集まっていく。切り落としていた首も揺らぎごとそこに集まっていきあわてた様子のフィサリスが凍結の魔法をブリミールの死体に放つその響く音に気付いた3将軍もそちらに注目する。
「なんだ、何をやってるんだあの子は」
「魔物の死体を凍結させてる?」
「みなさん!早くこの死体を粉々に!」
「は?」
三将軍は何でだ?という顔、ボクは粉々ってどうすれば、と考えながら大剣を振りかぶる。
とりあえずもう三等分位すれば!
切りかかったものの少し判断が遅かった様だ。
ボクの目の前でブリミールの死体は粘土の様に形を変えて、泥と揺らぎも一箇所に集まって、猪の頭にアルマジロの様な体、蛇の様な長い尾、背中にハエの羽を持つ奇妙な生物となった。
ひどく醜悪な匂いとしわがれた声でわめきながら、近くで救助者がもういないかと探していた兵士に向かって蛇の尾が襲い掛かる。
間一髪のところをフィサリスが助けた。
「早く逃げて、あっちのウルフ、黒鎧が最初にいた辺りに女性が二人倒れているから、ソレもつれて逃げなさい!」
「は、はい!」
助けられたのがわかるからか、自分よりも30cm以上小柄な少女に言われるままに兵士は走り出す。
ボクはその異形に斬りかかったがそのあまりに立派な猪の牙に大剣ははじかれてしまった。
うんすごく立派な牙、立派過ぎて口を縫い付ける様に鼻の上辺りから牙が突き抜けてるし、さらにそのまま眼球を牙が抉っている、血の様に流れ出る泥が禍々しい。
さらによく見ると尻尾のヘビも口を閉じると上顎の牙が下顎を貫通して突き出ている。
生き物としてはあまりにあまりな姿・・・これは・・・?いや考えている暇があれば滅ぼすことを考えよう、いくら元がブリミールとはいえ、理性なく暴れるこの姿は見るに耐えない・・・。
さっきは死体をバラバラにするだけのつもりだったからただの斬撃だったけれど、今度は本気の一撃を加えよう。
幸い今は「剣狼」と「鹿角」が逃げ遅れた兵士のカバーのために尻尾を抑えてくれている。
「光輝剣!!」
大剣に光弾を纏わせ、雪村流においてももっとも威力と速度を重視したシンプルな奥義を構える。
決まった型はなく、ただ自身の速度も体重もすべてを使い、最速最強のただ一撃を放つ
絶影!!
「キェアァァァァァァァァァァァ!!」
光輝剣状態での絶影は 猪の牙も背中の硬い皮膚もものともせず、ヘビの尻尾もハエの羽もすべてを切断した。
黒い揺らぎと泥とは霧散し、その場にはブリミールと、数名の女性の欠損した遺体だけが残っていた。
ブリミールさんは無事退場となりました。
次々回くらいでユーリを出したいです。




