第29話:紫の龍の背に乗って
ホーリーウッド領とルクス帝国領の接する僻地の森の中、さらにその奥まったところにある洞窟の中で二人の少女は、全裸だった。
2人とも人目のない洞窟の中とはいえ、外で肌を晒すことに抵抗がないわけではなかったが、仕方ない。
紫の少女ナタリィは金の幼女アイラの吐き戻したものをかぶり汚れ、金の幼女は自身の吐き戻したものと漏らした小便にまみれていたのだ。
幸い金の幼女は勇者であり、空間収納が使えるため自身の着替えは持っていた。
さらに幸いにして紫の少女の方は、霊服という魔力で編んだ衣装を出せるため、一度服を消して、体を洗ってから服を着ればとりあえずどうにでもなる。
そういうわけで二人はひとまず全裸になり、魔法道具で水を出し体を清めていた。
それから火を焚き体を温め乾かし、身支度を整えた二人は、奥の部屋に入ると、斧・・・というよりは短いハルバードに近いそれを見つけた。
柄の長さは125cmくらいでそこからヘッドの部分が先端まで60cmほどある。
片側はクレセントアクスやバルディッシュ、あるいは下側が肥大した形状なのでブローバの様なとも形容できそうな巨大な斧になっていて、その部分がヘッドの見た目の大半を占めているためこの武器に斧と言う印象を持たせるのだろう。
そしてヘッドの斧と逆側には、円柱状のハンマー、上側には軽く弧を描く刃物がついておりおそらく刺突に使うのだろうと考えられた。
石突側は丸く滑らかに加工されていて、底面を手で握りこむ様にして勢いづけて突くことも可能な様だ。
アイラは床にたたきつけられた様になっているそれに手を伸ばすと、引き抜き、そのまま空間収納に収めた。
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(アイラ視点)
「さて、これからどうしましょうか?このまま会いにいくんですか?それとも明日にしますか?」
そういってナタリィがたずねてくる。
時刻は午後4時を回ってしまっている。
意識を失っていた間に1時間ばかり過ぎてしまったのが非常に痛い。
「本当なら今すぐにでも行きたいところですが、ちょっと遠いのですよね・・・。」
行くだけなら一瞬だが、魔力が持つかどうか、そしてすぐに神楽を見つけられるかどうかわからない。
家人たちに心配はかけたくないので、明日にしたほうがよいかもしれない。
「そういえば、お住まいを聞いてませんでした。」
「ボクはホーリーウッド市で、カグラはルクセンティア市です。」
前世と同じなら神楽はルクセンティア帝城に住んでいるはずだ。
「敵国の方なのですね、それに、前はここの村に住んでいたのに今はホーリーウッド市にだなんて・・・アイラの容姿を見て養子にして政略結婚の駒に・・・といった感じでしょうか?」
そういってボクの頭をなでるナタリィその目は少し寂しそう。
「いいえ、あの、さっきは言葉が少し足りなかったのですが、ボクは一度転生者としてアイラに生まれ変わった上で、アイラとして周回者になっているので・・・。親戚の方なので、駒扱いはされてないですよ?」
するとナタリィは得心いった様に手を打った。
「なるほど、それではアイラになる前の婚約者がその、カグラさんなのですね。それでどうします?乗りかかった船なので私もお付き合いはする予定ですが、今日にします?明日にします?」
そういって首をかしげるナタリィはかわいい。
ドラグーンという神話に出てくる生き物でありながら、今の彼女の外見は身長150cmちょっとの美少女だ。
雰囲気が大人びているものの、顔は幼さを残しているし実際の年齢と一致しているかはわからないけれど、人化の設定としてはヒト族13歳の設定らしいし。
それもタイミングをみて聞いてみようか・・・。
「仮に明日にするとして、どうやってナタリィは付き合ってくれるんです?」
ボクの質問にナタリィはなんともなしに答える。
「そうですね、ホーリーウッド近くで適当に明日まで待ちますから、明日一緒に行きましょうか?」
「それは、ナタリィは野宿をするということですか?」
「はい、普段から割りとそうしていますね、ゼファーたちもいるときならともかく、私が一人旅というのは目立ってしまうので。」
目立つといえば、少女が一人で野宿というのもすごく目立つとおもうのだけれど、人目に触れなければいいということだろうか・・・?
「失礼ですが、ナタリィは年はいくつですか?設定の話ではなくって、ドラグーンとして生まれてからの年齢の話です。」
念のために、念押しして尋ねるが・・・。
「はい、13ですね」
驚いた、ヒト形態と同じ年齢らしい。
「見た目どおりの年齢じゃないですか!だめですよ、女の子が野宿だなんて」
責めるボクにナタリィはクスクスとおかしそうに笑う。
「なんですか・・・笑って、まじめな話をしてるんですからね!」
「いえ、そんな風にアイラにいわれると、周回者だとわかっていても、なんだかほほえましくって。」
むぅ・・・確かに今のボクは幼女の姿、それに女の子が野宿だなんて無用心だと諭されたなら確かにほほえましいかもしれない。
「ボクはどうしようもないことを笑われて、ちょっと不愉快です。」
そういって拗ねて見せると、ナタリィはすこしあわてた様子でゴメンゴメンと謝っている。
「ところで、そういうことを言う以上私の寝床を用意してくれるということですか?5歳にそれができますか?」
と少し訝しむ様子を見せるナタリィに担保を示す。
「もう一人周回者がいるので、そちらに話を通して寝床を用意してもらいます。」
無論それはユーリのことだ。
最悪ユーリに頼めば、ユーリの趣味の部屋なら、ユーリの部屋からしか出入りできないので安全だろう。
「わかりました。その方にも是非お会いしたいので、今夜はお世話になります。」
周回者がもう一人いるということで、ナタリィは乗り気になってくれたけれど、もう少し問題はある。
「このあたりの調査はもう大丈夫ですか?」
「はい、遠隔地の鍵は足の速いダリアに確認してもらっていますし、私の担当はここだけですので、後は5日後にレジンウッドに行って合流してから龍の島に適当に帰るだけですね。日付もまだ余裕があります。」
歩きながら話し、洞窟の外にでる。
「さて、それじゃあどうしましょうかね・・・」
「アイラの魔法でホーリーウッドに戻るのでは?」
わくわくとした様子でナタリィがボクの様子を見ている。
「そうなんですけれど、ボクの移動魔法、跳躍っていうんですけれど、移動距離で魔力の消費量ががかわるんですよね・・・?」
「はい。」
「それで、人数が増えても消費量が増えるんですよね?」
ウンウンと頷くナタリィ
「6歳前のボクの魔力だとウェリントン、ホーリーウッド間の行き来はできるんですが、二人だともしかすると危ないかもって思いまして・・・。」
こっそり城に戻るためにも、ナタリィを連れ込むためにも、まずは直接ユーリの部屋に跳躍したいけれど、魔力が足りるかわからない、足りたとしても、ボクが魔力枯渇で眠ってしまえば、ユーリにナタリィのことを説明をできない可能性もある。
「なるほど、心得ました。つまり、確実に届く距離までは通常の移動方法で行きたいということですね?」
さっしの良いナタリィはここまででボクのいいたいことを理解してくれたばかりか追加で提案する。
「それでは近郊までは、私が飛んでアイラも乗せてあげます。」
そういうが早いかナタリィは光りだす。
いつか見た、龍からヒトへの変化の逆に光は放出されるのではなく、ナタリィの中に流れ込む様にして光っている。
そして・・・。
肌にビリビリと魔力の奔流を感じて目を瞑ると、そこにはかつて見た龍がいた。
ナタリィ・デンドロビウム F13ドラグーン/
生命129050魔法1192意思284筋力1275器用56敏捷106反応126把握278抵抗100
適性職業/巫龍
とっさに鑑定をしてみると、もうなんと言うか・・・
抵抗100ということは、通常魔法ではダメージは負わないってことだね、生命力が高いから、ただ斬ったりするだけじゃあ致命傷にはならないし、彼女が敵ではなくて本当に良かった。
「(アイラ、背中に乗ってください。)」
「あれ?龍形態でも会話ができるの?」
前世では龍形態では声が出せないからと、ボクとトーレスは彼女に対して攻撃を仕掛けることになってしまったが・・・あぁそっか声が出せないだけで仲間と認識されれば、念話ができるみたいなことをいっていたか?
「(声は出せないですが、アイラとはもうお友達になれましたから、心が通じています。)」
あぁやっぱり?
「じゃあお言葉に甘えて途中まで乗せてもらおうかな。」
そういって、背中にジャンプして飛び乗る。
「これ背中の時点で結構高いね?4mくらいあるよね?頭から尻尾まで9mくらい?翼はもっと大きいね。」
紫色の龍の威容は、前世含めてみてきたあらゆるものよりも強靭な生命力を感じさせる。
おそらくほんの一振りで魔物だろうが城だろうがなぎ払える様な尻尾が地面をたたくと、一瞬で空に飛び上がった。
不思議と体に衝撃は来ない。
「(魔法でアイラにダメージが行かない様にしてますが、大丈夫そうですか?)」
「ありがとう、大丈夫。」
答えるとナタリィいいえと念話で伝え。
ゆっくりと上昇しきった後、移動を始めた。
高さはたぶん8000mくらい・・・人目につくのをはばかってのことの様だ。
後ろを見ると、雲がどんどん後ろに流れていくのがわかる。
「(アイラよければあまりお尻のほうはまじまじと見ないでください・・・裸なので見られると恥ずかしいのですよ?)」
さっきお互い裸になったけれど、それとこれとは別の様だ。
「ところでナタリィは前世ではボクにもう少し年上のお姉さんぽい口調というか、ボクに対してですとかますとかあまり使わずに接していたんですが、どうして今は丁寧な物言いなんですか?」
「(あー、たぶんその慣れていないというか、アイラは私の年上ってことになるんですよね?精神的に・・・だからです、年長者は敬わねば、と思ってしまうんです)」
表情は・・・わからないけれど、念話の口調はちょっと困った感じのナタリィ
「体はボクのほうが年下なのですから、もっと話易い様に話して構わないんですよ?」
そういって背中を触ると、硬い鱗がひんやりとして、でもナタリィの体温が感じられて気持ちいい。
「(そうですか?だったらアイラのほうも、私とはもっと気安く接してください)」
いわれて気づけばボクもですます調だね。
「わかった。でも人前だとちょっと丁寧にするね?見た目はナタリィのほうがお姉さんだから」
(はーい、さてそろそろホーリーウッドの上空だよ?)
「わ、はやいね?」
驚いた、まだ数分しか話していないというのに、身を乗り出して下を見ると確かにほぼ真下に中央に川が流れる八角形の街が小さく見えている。
徐々に高度も落としている様だ。
「(ちょっとはりきっちゃったの)」
踊る様な茶目っ気のある声音が心に響いてくる。
「ボクも飛行魔法は使えるから人型に戻ってもらえる?目立ちたくないし空中から直接部屋の中に跳躍魔法で入ろうと思う。もしかしたら部屋に男の子が一人いるかもしれないから驚かない様にね。」
そういって伝えると、ナタリィはひとことわかったと呟いてまた光を放つと、ボクの足元から龍の体が消える。
すぐに飛行を開始して出現した少女のナタリィを抱きしめる。
「ちょっと下側に抱きつくね。跳躍したとき床に足が当たって痛いとかわいそうだから。」
「うん、任せる。よろしくねアイラ。」
そういって顔をほころばせるナタリィの、ひざの辺りに腕を回して抱きつくとユーリの部屋の奥にある、趣味の部屋にナタリィをつれて跳躍した。
短い期間ですがナタリィが仲間になりました。
※初期のテキストメモからキャラ名をコピーしたため、ステータスのキャラ名を間違えておりました。
修正しました。




