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第28話:斧の魔剣の魔力

 隣国との国境に程近い辺境の村、そのすぐ外側の未開の森、亀島と呼ばれる小島の浮かぶ亀の群生する湖の畔を二人の少女がてくてくと歩いていく。

 片や腰までの長く薄い紫の髪を編みこんだ、12歳前後に見えるとび色の瞳の少女。

 片や美しい金髪を肩のところで両お下げにした赤みがかった金髪の幼女、こちらはまだ幼児と呼ぶのがふさわしい外見をしているが、その足取りや口ぶりは年不相応にしっかりしていた。


 二人はとある目的を持って連れだっていたが、その親しげな様子はよく遊んでもらっている近所のお姉さんとお散歩を楽しむおませな子どもの様に、知らない人から見ればそれは自然な光景に見えただろうが、幼女を知っている者が見れば誘拐現場か何かだと訝しくおもっただろう。

 二人は初対面であった。


「アイラ、このあたりは魔物が蔦を這わせているので、気をつけてください。」

 紫の少女が後ろを歩く幼女に手を差し出すと、金の幼女はおとなしくその手をつかんでピョンと跳ぶ。


 金の幼女・・・アイラとしては、別に手を借りずとも飛び越えられるが、せっかくの友人の心遣いを無駄にしたくなかった。


 それからまた少し歩くと、目的の洞穴が見えてきた。

「ここが・・・」

「はい、ここに鍵が一つ保管されています。ただ、本来の安置場所とはずれている為機能は十全に果たされているとはいい難いのです。」


 そういって紫の少女ナタリィは洞穴の中に入っていく。

 ナタリィはアイラの手をとり、逆の手で灯火の魔法を発動させた。


「ここは本来ただの入り口で、鍵の安置場所ではないのです。ただ偶然人より力を持っていた者が台座から取り外した後、入り口付近で命を落としたのです。」

 二人が洞穴に入って3分ほど歩くと、多量の猪型魔物が蠢く空間があった。


「え゛・・・?」

 アイラは変な声を上げた。

「どうも日中は、夜行性の魔物の巣になっているみたいですね」

 ナタリィも少しうんざりした様な声で、アイラの手を放した。


「アイラ、手伝っていただけますか?」

 アイラはその問いに無言で首肯した。


------

(アイラ視点)

 ボクにとってこの洞穴は、初めて訪れた場所だったけれど、同時に前世に於いて幼馴染が命を落とし、生まれ変わった場所でもあった。


 だからなのか、なんだか血で汚したくない気がして、ボクは手のひらに炎を呼び出して、それを猪型魔物の口から直接体内へ放り込み始めた。

 加速して、相手の動きをよく見る、攻撃をしてきそうなものや、すきだらけに口を開いたものから順に体の内側から焼いて殺す。


 ナタリィのほうは?と様子を見ると何かの魔法で強化した拳で打ち据えた魔物の頭部が歪にゆがみ、一打一殺とでもいうほど確実にしとめていく。

 3体の魔物にほぼ同時に飛びつかれても危なげなくわずかでも距離の近い物から殴殺し追加で飛びついた2体を同時に両方の(たなごころ)で張ると首から鼻の長さが5cmは縮んだ。


「きれい・・・。」

 思わずナタリィの武技に見惚れる。

 ボクの周りに8、ナタリィの周りに20ばかりの猪魔物の死体が転がり、空洞内は静かになった。

「ナタリィすごいね、まるで全部わかっているみたいに・・・。」

「アイラこそ、周回者とはいえ、子どもの体でよくたたか・・・上!」

 ほめたボクにナタリィも褒め返そうとしたタイミング、目に見える脅威を退けたことで油断してしまったのか周囲の気配に気を配るのを忘れていたボクは上から現れた脅威に反応が遅れた。


 ナタリィとの距離が一気に開く。

 ボクの腕と体になにかが絡みつき一気に上に持ち上げられた。

 急速な上昇と、圧迫感で昼に食べたものが食道を駆け上がる。

「グヴォェ」

 反撃をしないといけないのに、アイラの子どもの体がとっさのことに混乱してしまい、まともに動かせない、魔法も光弾も・・・

(これ・・・死ぬ・・・?)


 そう思った直後、何か強烈な気当たりを貰い、ボクは意識を失った。


---

(???視点)

 目を開けるとそこは、かつて暮らした自分の部屋・・・。

 すでに自分の部屋という気持ちもあまり沸かないのだけれど・・・。

 何か割れる音がした。

 そんな気がして目を覚ましたのだ。


 隣に寝ている少女に声をかける。

 この状況は危険かもしれない、大切な彼女になにかあってからでは遅い、起こしておけば、彼女は自分の身くらいは守れる女性だ。

「んー・・・せ・・ちゃん・・・私まだねむい・・・あきらさん・・・?」

「ごめんね、神楽、なにか割れる音がしたから、様子を見てこようと思って、目覚めた君が寂しがってそのままの格好で出てこない様に声をかけていこうかなって。」

 眠たそうな眼、細い黒髪が少し寝ぐせになっていて、でもその滑らかな髪の先が、起こした体を這う様に流れて、そのなだらかな膨らみの白と扇情的なコントラストを演出している。

 一糸纏わぬその白磁の様な美しさに、夕べの艶事を思い出しまたむしゃぶりつきたくなる衝動を押さえつけながら僕は立ち上がり部屋を出た。


 15歳になった神楽は、桐生の家を出て、大学に通うために朱鷺見台を出た僕の暮らすアパートに一緒に住む様になった。

 といっても僕が住んでいるのはかつて姉が在学時と一人暮らし中に使っていたアパートをそのまま引き継いだものだが・・・。

 僕が高校卒業するとき丁度姉が結婚のためにアパートを引き払うことになり、今度は僕がそこから大学に通い、神楽は早く夫婦で一緒に暮らしたいからと、都市部の女子高に入学した。


 今日はお彼岸のために朱鷺見台に帰省していて、初日は神楽も僕の実家に泊まって、バイトもあるのであと2日朱鷺見台に泊まっていくけれど、今日は二人それぞれの実家に、明日は二人で桐生の家に泊まってから街に帰る予定。


 神楽の名前が近衛神楽に変わってから6年以上経つし夫婦としての営みも持ち一緒に暮らしているけれど、いまだ彼女の反応は初々しくてかわいい。

 夕べも恥ずかしがって声を出さない様に我慢する彼女に、どうやって声を出させたものかと試行錯誤した。

 思い出すだけで頬が緩む。


 神楽の学校にはちゃんと既婚者であることを申請しているけれど、彼女の同級生で既婚者は神楽一人であるらしく、何度か彼女を迎えに行ったところ、ものめずらしい目で見られてしまった。

 女子高だから男が待っていると目立つのだ。


 校門で待っている僕に神楽が「あきらさん」と声をかけると先生からお叱りをもらうけれど、「あなた」だと叱られないのはいったい何に配慮してのことなのだろうか?


 台所に下りると、母が割れたガラスを拾って新聞紙に載せているところだった、

 どうもコップの割れた音だった様だ。

 安心して、破片集めを手伝い床を綺麗にした。

 こういうとき魔法が使えると便利だ。

 暁の頃は魔法の力がほとんどなかったから、こういう使い方はできなかった。

(暁の頃?何を考えているんだ僕は?)


 少し違和感を感じたが、神楽が起きてきたのでハグとキスをすると、もう何が不思議だったのかも覚えていなかった。

 それから暑くなる前に済ませておこうということになり、神楽と二人でうちと、桐生家のお墓参りをしておくことにした。


 彼岸で帰ってきているものの朱鷺見台十家は神道だ。

 墓は宮国神社の裏の小山を登って、逆の斜面に神道式の墓が集められているところがあって、ウチの墓も桐生家の墓もそちらにある。


 この斜面こそ朱鷺見台の結界の基点であり、歪みがもっとも大きな場所であるらしく、ここを封じるのに、祖先たちの魂も一役買っているのだとか。

 墓の周りを綺麗に・・・、もともとほとんど汚れていなかったが、綺麗にしてから義父に話しかける。

 神楽がいまどんな学校に通っているのか、神楽がどれだけかわいいか、神楽を嫁に迎えることができて自分は幸せです。

 なんていつも伝えていること。


 僕は神楽のお父さんとは幼少期に2回顔を合わせただけだけれど、あの人は僕が神楽を貰うことになるなんて思っていなかっただろう。

 僕も神楽との結婚どころか、十家の方々と親しくなるとは思っていなかった。


「さて、それじゃあ行こうか・・・、神楽?」

 墓参りを終えて後ろを振り向くと、そこに神楽はいなかった。

「あれ・・・?迷子かな、もうすぐ16歳になるって言うのに、また野ウサギかタヌキでも見つけてねず鳴きでもしてるのかな?」

 チィチィとかわいい声を出して猫やいたちを誘う神楽はそれはもうかわいいので、ぜひとも見つけてからかってやろう、そう思ってその姿を探す・・・。


 ところがなかなか神楽は見つからない、日が高くなり、暑くなってきた。

 闇雲に探しても見つからないので、一旦木陰に入って休もうと思った僕は手近にあった木陰に入る。

 木陰に入っただけで気温がグッと下がって感じられ、やや肌寒いくらいに感じられたが、気にせずに木に寄りかかる。


(神楽はどこにいったんだろうか・・・?)

 そう思って墓所内を見渡すと、なにか見たことがない形の、シンプルな木造の墓が見えた。

「あんなお墓、ここにあったっけ?」

 いや、たまにしか帰ってこないし、新しい知らない墓の一つや二つあってもいいのだけれど、あれはそんなに新しいものには見えない。


 むしろ手入れもされず朽ちている様に見える。


 3つ並んだ墓の前にたどり着くと、日ノ本語で書かれていない墓だった。

 いや、訂正しよう、この世界の言葉ですらなかった。

 気味の悪い感覚と寒さを覚える。


 僕はもう木陰からは出たはずなのに、日差しが戻ってこない、空はどんよりとして、風も冷たい、何よりも、あたりに人の暮らしの音がしなかった。

 それに、目の前の文字がこの世界のものではないと判る。

 それがどんなに気味の悪いことだろうか?


 読めないならいい、それはボクの知らない文字だというだけ、たとえばタキタキ語やトラック語なんて僕は語感が面白いので名前は覚えているけれど、見たこともないのだから、それは読めなくて当然だろう。

 でも僕はこの文字がこの世界のものではないとわかる。

 読めてしまう・・・。

 発音するならば


 エドガー・ウェリントン

 ハンナ・ウェリントン

 トーレス・ウェリントン

 頭が痛くなった。

 僕は何を考えているのかわからなくなった。

(そうだ・・・神楽を探さないと・・・。)


「アイラ!」

 後ろから女の子の声、それは聞き間違えるはずがないのに僕はその声を聞き間違えた。

 それを求めすぎていた。

「神楽!!」

 振り向くと捜し求めていた半身の姿はなく、明らかに日ノ本人ではない色素の薄い髪をした少女が僕の手を握って泣いている。


 ようやく出会えたという安堵の表情を浮かべる彼女の涙を僕はたぶん見たことがある。

 でもそれがどこだったかわからない。


 ふと気づいた。

 目の前にいる女の子はどう見ても16歳未満の子ども、日ノ本人は幼く見えるとよく言われるので、僕から14~5歳に見える彼女はきっと本当は11~2歳なのだろうけれど、僕は彼女を見上げ・・・ている。


 不思議に思って、自分自身の手を見ると、すごく色白で、小さく、弱弱しく見える手だった。


------

(アイラ視点)

「はぁっ!カグラ!!」

 ズキっと頭が痛んだ。


「アイラ!よかった。吐いたものが詰まって、息をしていなかったんですよ!」

 涙を浮かべて、ボクを見下ろしている淡い紫の髪の少女・・・。

 彼女は汚物にまみれた姿でボクを世話していたらしい。


「ナタリィ・・・?」

「はい、ナタリィです。よかった、このまま目を覚まさなかったらって、心配しました。お水です、どうぞ」

 ナタリィがコップに水を入れてを差し出す。

 それを受け取って口の中を二度すすぎ、三度目は軽く飲んだ。


「ナタリィ、ボクは・・・?」

「はい、頭上から大型のエントが降りてきて、アイラの体を持ち上げて、そのとき運悪く胃と肺を圧迫されて、反撃ができなかったみたいでした。」


 なったる失態か・・・、ナタリィがいなければ死んでるか、めでたくエントの苗床にされるところだった。

 しかし、なんというか、複雑な気持ちになる夢を見せられた。

 前世のことを夢に見た話を話すとナタリィは複雑そうな顔をした。

「ここの鍵の効果ですね、アレは願望の幻を見せる効果がありますから、アイラが気を失っただけだったので、夢ですみましたが、死んでいたらどうなっていたことやら・・・。」

 と不安そうにつぶやく。


「本当に大丈夫ですか?何も変わったところはありませんか?」

 ぼうっとしているボクを心配してナタリィはボクの顔を覗き込む、鳶色の瞳の中心にボクの、幼いアイラの顔が映りこむ。

 ボクは・・・

「ボクは、カグラに会いたい・・・。」


「カグラさん・・・ですか?」

 無言で頷く。

「アイラは意識を喪っていたときもうわ言の様にその名前を呼んでいました。その方は?」

「前世の婚約者。」

 暁はボクの前世、アイラの前はアイラだけれど、その前は暁だ。

 だから前世で間違いはない。


「そうですか・・・、カグラさんの現在の居場所はわかるのですか?」

「たぶん・・・」

 コクリと頷くとナタリィは満面の笑顔を浮かべていった。

「じゃあいきましょう!会ってしまえば意外と何とでもなるものです。大丈夫ですよアイラはこんなにかわいいんですから、今生でもきっとカグラさんに好きになってもらえます」


「ナタリィ、そんな簡単でいいんですか?会いたいからって会ってしまって良いものなんですか?ボクはただ前のアイラの記憶をもっているから、現在のカグラの場所がわかるだけなのに・・・。」

 これまでもかなり大きく流れを変えてしまった。

 それでもカグラに会いに行かなかったのは怖かったから。

 今カグラに会うことで、何か大事なものを失うのではないかという怖さ・・・。


「大丈夫です、アイラたちが前世のことを覚えているのは、前の時と、世界の流れを、なにかの運命を変えるためなのですから、今を生きるアイラが、やりたい様に生きていいんです。死なせたくない人がいるなら守ればいいんですよ。でもとりあえずは鍵を回収してから考えましょう?今からにするか明日にするか・・・。」

「でも今カグラにあってしまったら、リリが、ボクの娘が、生まれてこなくなるかもしれない。」

 ボクは自分の娘たちにもう一度会いたい。

 それはもしかしたら本当はもうとっくにかなわないことなのかもしれないけれど、ボクの選んだ道筋のせいで、あの子達がこの世に生をうけられないというのはつらい。


「アイラが前世で産んだ娘ということですか、言っておきますが、その子たちはちゃんと前の周で生まれ、生きて、死んだはずです。今の貴方がどんなに前のとおりに生きても、生まれてくるのは新しい、アイラの子ですから、前世の子が・・・なんて比べること自体が無意味です。その子がアイラみたいに周回者にならない限り、前世の子と今生の子はまったくの別人です。だから、貴方が幸せに生きるのに足枷になるものではありません」

 涙が出た・・・。

 ボクはもうリリに会えないらしい・・・。


 でもそれが当然のことなんだといわれた。

 そしてそれに納得できた。

 前の周の記憶をボクは持っている。

 でも今ボクは前の生をなぞっているわけじゃなくって、前の周が終わった後同じ場所からはじめなおしたに過ぎない・・・だからボクがどれだけがんばっても生まれてくる命は周回者以外はまったく別のものとして見なければならない。


(そうするしかないなら、受け入れよう)

 考えて見れば当然のことだ。

 ボクのプリムラやアルマはボクより先に死んだのだから。

 ユーリの孫世代にだって、ボクより先に死んだものがいる。

 その死をなかったことになんてできない・・・。

 だからリリが生まれてきたこともなかったことになんてできない。

 前の世界でとっくにリリたちは生まれている。


 だからボクのせいで生まれなかったなんてことは絶対に発生しない。


 意識を切り替えれば、すっと受け入れることができた。


「会いに行く!カグラを迎えにいく!」

 決めてしまえば、あとは実行あるのみ、今日ボクは神楽のもとへ行くけどその前に・・・。


「着替えましょうか・・・。」

 ボクもナタリィも、ボクの出したものでぐちょぐちょで、人前に出られる状態ではなかった。



展開がいきなりで申し訳ございません、そういうわけなので、神楽に会いに行きたいと思います。

逆に跳躍が使えるのに、今まで会いに行かなかったのは、アイラの中で神楽の存在は大きいので、彼女に会うことが大きな変化を生んでしまうのではないかという恐怖感からでした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 本当に展開がいきなりと言うか、強引過ぎますよ... こういう(作者にとっての)ご都合主義の為に実戦経験の豊富な人間を態々油断&気絶させると言う 不自然極まりない展開で作者の望む方向性…
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