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第27話:龍に出会った

 季節が秋から冬に移る頃、幼女アイラは記憶を頼りに森を探索することにした。

 目的は3つ、1つはウェリントンの村娘、オルセー・グランデの病の阻止

 オルセーは「龍の島」ではハシウトキシックと呼ばれているらしい病にかかり10歳で命を落としてしまうのだが、それは感染の段階で浄血魔法と浄化魔法をかければ治る病、その時期に感染することを知っていて、アイラは前世の記憶のおかげで、そのあたりの魔法も使うことができる様になっているボクはオルセーの病を防ぐことにした。


 2つ目は、ドラグーン、ナタリィ・デンドロビウムとの接触。

 前世ではオルセーの病の調査中に出会った彼女だが、神話の龍王に連なるその存在とつながりを作っておくのは、生まれ直しのことを調べる一つの手がかりになるかもしれない、そう考えていた。


 3つ目、「亀島の斧の魔剣」の回収、これはナタリィとの接触次第でするかどうか変わってくるが、可能なら魔剣は早い段階で回収しておきたい、それだけ早く土地が広がる。

 ここの魔剣の場合はベナムスワンプが北西側から干上がっていく。

 魔剣は、地形神器やら鍵とも呼ばれる人工物で、いつから刺さっているかも正直定かではないが、絶大な、地形を変えるほどの力を持っている。

 このサテュロス大陸には7本存在していて、それぞれ人が暮らすには険しい地形を作り出している。


 そしてこの日調査を決行した幼女、アイラ・ウェリントンは、一日目にしてあたり・・・を引いていた。

 ただし、神話の存在に憎憎しげににらみつけられるという状態で・・・


------

(アイラ視点)

「そこで見ているヒト、気配を隠しての盗み見、不快です・・・」

 ナタリィがボクのほうをにらみつけている。

 ボクは息もできないで、縮こまってしまう。


 ナタリィの強さはヒトの身のボクがどうこうできるものではないはずだ。

 それに、隠形も見破られているとなれば戦えばボクは死ぬだろう・・・。


 どうする・・・、ナタリィはヒトと仲良くしたがっていたはずなのに、どうしてにらまれる・・・?

 いいや、どうせこちらもナタリィに会いたいと思っていたのだ。

 見つかっているならおとなしく出て行くしかない・・・。

 

 ボクは敵対する意思を示さないため、払暁を収納してから隠形を解いた。

 するとナタリィは一瞬目をパチパチとさせて・・・。

「子・・・ども・・・?」

 と、彼女自身見た目は11、2歳の子どものくせに意外そうな表情でつぶやいた。


「どうも、はじめまして、オルセーを助けてくれてありがとうございます。」

 驚いた様子のナタリィを見るに、どうもはっきりとボクの姿が見えていたわけではないみたいだ。


「ど、どうもはじめまして、ナタリィゼ、失礼、ナタリィ・デンドロビウムです」

「アイラ・ウェリントンです。」

 先ほどまでこちらをにらみつけていたナタリィは困った様な表情になっている。


「すみません子どもだとは考えていなかったもので睨んでしまいました・・・怖かったですよね・・・ごめんなさい。」

 やはり姿が見えていたわけではないらしい。そして前世同様、人間の子どもが好きらしい


「あの、どうして謝るんです?それにボクのこと見えていなかったのに、居場所はわかっていたんですね?」

 ボクの返しにナタリィはあ・・・と声を上げ、それからボクのほうへ歩み寄ってきた。


「ごめんなさい、魔法の力で姿を隠してずっとオルセーさんをうかがっていたのがわかったので・・・・先ほど、オルセーさんが魔物に遭遇したのに、襲われるまで助けようともしていなかったのが、大人として無責任ではないかと、思ってしまったんです。私も襲われるまで助けなかったのは同じなのに・・・、その上アイラさんは子どもです。魔物相手では怖くて尻込みするのも仕方ないことなのに・・・。」

 そういってナタリィがうつむいたのを見てボクは

(あぁなんて善良な娘なんだろう・・・。)

 そう思った。


 ナタリィは魔法が使えるのにオルセーを助けなかったボクをはじめ無責任な大人だと思い責め、ボクが子どもだとわかると、わざわざ口にせずとも良い謝罪を口にした。

 そもそも彼女がオルセーを守らなければならない理由もないのに、前世に引き続き彼女を守ってくれた。


「ナタリィさん、ボクも貴方に謝らないといけない・・・、ボクはエントを倒せる力がありながら、一瞬躊躇した。ボクはここにいないはずだから、姿を現すことを躊躇した。ナタリィさんがオルセーを助けてくれなかったらオルセーが怪我をしていたかもしれない・・・ごめんなさい、ありがとう。」

 そういって笑い返すとナタリィはようやく、少しは明るい顔になった。


---


 その後ボクが治癒術と、浄化や解毒など思いつく限りに治癒系の術を施したオルセーが意識を取り戻し、カメをしっかり抱いて村に戻っていくのを隠れてこっそり見届けた後で、ナタリィがひとまずエントたちを村の近くから排除することにした。

 ナタリィは前世でも公称していた魔術拳士としての戦い方で、エントたちをカメ島よりも奥の地域に押しやっていく。


 その最中にこっそりとナタリィのステータスを覗き見る。

 ナタリィ・デンドロビウムF13ヒト/

 生命1267魔法112意思284筋力75器用87敏捷46反応56把握78抵抗82

適性職業/魔術拳士


 うんおかしいね?

 おかしいのは2箇所一つは種族、彼女の種族はヒトではなくドラグーンのはずだ。

 今生ではまだ見ていないが、前世では彼女が龍になるところも見ているし、オルセーが彼女の娘としてドラゴニュートに転生したと聞いている。

 なのですくなくともヒトという種族なのはおかしい・・・そしてステータス、ヒトの少女としてはあまりにもハイスペックだが、ドラグーンとしてはあまりに弱い。

 ドラグーンより格下だといっていたドラゴニュート化したオルセーでも生命力は36000を超えていた。


 もしかして、ドラグーンの人化は、スペック自体ヒトの枠に収まる様に変化しているのだろうか?

 オルセーが何か言及していた気もするけれど・・・、さすがに90年ほども前のことはすべてを思い出せはしない。

 一通りのエントを粉砕するかナタリィの説得で森の奥に移らせたあとボクはナタリィと会話を始めた。


「ナタリィさん、少しお話がしたいのですが」

 そういって切り出すと、彼女のほうも笑顔で

「私もです、それと私にさんはいらないので、気易く呼んでください、アイラ」

「それではナタリィ・・・」

 言ってしまって良いものだろうか?

 彼女はドラグーンはヒトと敵対はしないといっていたが、ボクがばらされてもいないのにドラグーンのことを知っていた場合彼女はどんな反応をするだろうか・・・?

 ボクを害したりしないだろうか・・・?

 結局前世でナタリィと顔を合わせた期間は1ヶ月に満たない、その人格をボクは測りきれてはいない。


 それでも神話に連なる存在である彼女らにはやはり尋ねておくべきだろう。

 そのためには、ボクも秘密を打ち明ける必要がある。


「前世の記憶を持って生まれるってどういうことだと思いますか?」

 言った。

 言ってしまった。

 もう後には引けない、彼女の反応は?


 ナタリィは小さく頷くと、ボクの肩に手を回した。

「その年で、あれだけの認識阻害を使えるので、何かあるなとは思っていましたが、貴方は転生者なんですね・・・。」

 ボクの心配をよそに、ナタリィからはいとも容易く受け入れられた。


「すみません、私も詳しくはわからないですが、この世界には確かに現在転生者がいる様です。」

 そうして、知っていることはないと断じる。

 が、それは嘘だろう、彼女たちは人類の魂を利用して、ドラゴニュートとして転生させる技術まで神々から賜っている。


「ナタリィ、ボクは貴方がヒトではないことを知っています。それでも知っていることを教えていただけないですか?」

 だからボクは次の言葉を放ち、彼女はその目に驚きの色を浮かべる。


「アイラ、貴方はそれをどこで!?」

 一瞬驚いた後で、彼女はすぐに平静な様子になり、姿勢を正した。

「なるほど、記憶をもって・・・とは転生者ではなくて、周回者なのですね?」

「?」

 初めて聞く単語だ。


「貴方は以前にもアイラだったってことですよね?」

 そう尋ねられてボクは頷く。

「そして、前の生でも私に、ドラグーンとしての姿を晒した私に出会っていたということですね?」

 申し訳なさそうな笑顔を浮かべてナタリィはボクの頬を触る。


「そうです。ボクはドラグーンのナタリィに付き人をやっていた。ダリア、フィサリス、ゼフィランサスにも出会っています。」

 そういうと、彼女は納得いった風に大きくゆっくりと頷いた。


「そうですか、ではアイラは勇者なのでしょうね。」

 生まれなおし・・・周回者と勇者は関係があるということか?


「周回者といえどもその心の有り様は、体の年齢に大きく影響を受けると聞きます。アイラが前世どれくらい生きたかはわかりませんが、生まれなおした直後は混乱して大変だったでしょう。」

 そういってナタリィは理解は示したものの

「ですがすみません、私は周回者ではないですし、『取り決め』についても詳しく知りません」

 そういって、やはり答えは持ち合わせないと、ボクに言った。


「『取り決め』というのは何ですか?」

 それでもせっかくの手がかり、少しでも気になったことは情報を得ておきたいので、ボクはナタリィの小さな、それでもボクよりは大きな手をつかんで尋ねる。


「サテュロスの人にとっては聖母がなじみ深いかとは思いますが、神話の六聖やその眷属たちがこの星の理を歪めてまで得ようとした何か、またそこに至るために決めた道筋、道筋をなぞるための手段、それらを含めての取り決めです。神々はその目的のためにアイラの様な周回者の他に、転生者や転移者、勇者や魔王、鍵や魔法を用意しました。すべては何かをなんらかの結論に持っていくためですが、私は、父である龍王陛下から、とある指示を受けています。」

「指示?」

 龍王陛下と呼ぶときナタリィの表情は少し恍惚としていて、ボクは父親を呼ぶ顔ではないなと思いながらも、ナタリィの言葉の続きを待つしかなった。


「はい、私は転生者や転移者、周回者を見つけたら。この言葉を述べるのです。『鍵を集めなさい、そして暗黒大陸を開放しなさい。』と」

「鍵を集めても構わないということですね?サテュロスの地形が変わっても大丈夫なのですね?」

 と念の為に尋ねると。


「そうですね、私は聖母や神王の目的を知りませんが、龍王陛下曰く今年からみて7年前から120年後の期間・・・。」

「・・・?」

 唐突に何か期間の話をしだしたナタリィは、わからないと前置きした上でボクに情報をくれる。


「そのだいたい130年くらいの時間を、周回者である龍王陛下はもう何度も繰り返しているといっていました。」

「1万年以上生きている龍王様がですか?」

 ボクの確認にナタリィは首肯する。


「そうです。周回者である龍王陛下は最初からこのときのために用意された駒だとご自身のことをおっしゃっておりました。この100余年の期間に神王様か聖母様の目的があるのだと。それをなんとしても成り立たせるために、転生者も転移者も、周回者もその他のさまざまな機能や権能、そのすべてがこの100余年のために組み立てられた。そうもおっしゃっていました。」

「目的・・・、ボクが再度アイラとして生を受けたのもその目的のうちということでしょうか、それともただ単に目的のための駒なのでしょうか・・・?」

 なにがなんだかわからないけれど、今のボクの状況を生んだのは、神王や聖母ら神話の存在らしい。

 彼らが何を考えていたのかもわからないし、確かめ様もないことだけれど・・・。


「とにかく、私からアイラに伝えられるのは、鍵を集めて暗黒大陸を・・・アシハラを開放することですね

。私は、アシハラにいくことができますが、『外』の人間がアシハラにたどり着くには、開放する必要があるそうです。鍵をそろえて開放してから出ないと、内外の人類は行き来できないそうです。」

 また意味がわからない、縛りが出てきた。

「ではボクが龍王様に会うことも難しそうですか?」

 龍王が周回者だというならば、直接あうことで何か得られることもあるだろうと思ったが、龍の島はアシハラの上も通っているらしいので、そこに差し掛かった瞬間死ぬとかだと困る。


「そうですね、龍の島に龍の島出身以外の生身の人間を乗せて試したことはないですが、船でアシハラから出ようとした人は黒い魔力の塊になって星に飲まれてしまうので・・・辞めたほうが無難でしょう。」

「鍵をどのように使うのかはわからないですか?前世ではサテュロスの鍵はすべて集めましたが、その後は土地開発に一生懸命で・・・鍵の使い方がわからないのですが」

 使い方がわからない上に、それがないと死ぬといわれてしまえば試すこともそうそうできない。


「鍵はすべて集めたあと、一人の所有者の下に揃えることで魔鍵に変化させることができるそうです。鍵のことは私の方から龍王陛下にはお尋ねしておきます。連絡がつく様にしたいのですが、普段どのあたりにいらっしゃいますか?先ほどの口ぶりからすると、ここの村に住んでいるわけではないのですよね?他に近い村は見当たりませんが、子ども一人でどうやってここまで来たのですか?」

 とナタリィはいまさらながらにボクがここにいることに疑問を呈した。


「はい、ボクは今ホーリーウッドというここから北北東にある街に住んでいます。前世で習得した魔法でここまで移動してきたんです。」

「なるほど、そうでしたか、私がここと角笛の鍵とバフォメットの様子を見る担当なのでそれが終わったら、フィーたちも連れてホーリーウッドによらせていただきますね、アイラとはお友達になりたいです。」

 そういってナタリィはボクに手を差し出した。

 その手をとって、ボクも笑顔で答える。


「はい是非、ただナタリィとの会話しだいでどうするか考えていたんですけれど、ボクが今日、ここの鍵を、斧の魔剣を持っていっても構わないでしょうか?」

 尋ねるとナディアは何度目かになる驚いた表情を浮かべた後、すぐにまた笑顔に戻った。


「そうでしたね、周回者だから、勇者なんでしたね、見た目が小さい子どもなのでちょっと驚いちゃいましたが・・・はい、大丈夫です。本当は私は鍵の回収をお手伝いしてはいけないのですが、ここはすでに役目を果たしきれていない場所なので、OKということにしましょう。こちらへどうぞ・・・。」

 そういってナタリィはボクの前を歩き始めた。


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