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プロローグ 煉瓦の摩天楼

 この街の名は王都メルティロラトス。通称"煉瓦造りの摩天楼"。


 通称が示す通り、莫大な赤煉瓦と莫大な時間と莫大な労力をかけて造られた、この世界"グライストリア"において三本の指には入る大都市であり、メルティリア大陸を牛耳る"ヨハンクイム王国"の首都でもある。

 この街は真円の形をした街壁に覆われている。直径40キロメートルほどの街を囲い込む壁はメルティロラトスが建都してから五百年もの歳月を有して築かれたもので、高さ30メートルも積み上がる壁ももちろん煉瓦造り。都市の街壁に近い方、つまり外側のほうには農園や畑が広がったり背丈の低いあばら家が立ち並び、中心に進むにつれて徐々に立派な家を見かけるようになる。そのうち"家"から"邸宅"へとランクアップし、小高い丘を登りながら更に進んでいくと摩天楼と冠するに相応しい巨大建築物群がお目見えする。地表には日の光も差さない薄暗い道をすり抜けると、円の芯となる位置にある一層高い建物に辿り着く。名を『王宮天刺塔(おうきゅうてんさとう)』と呼び、国王『ヨハンクイム16世』の居塔である。天高く(そび)え立つそれは、天辺を仰ぎ見ようとも霞んで見えないほどだ。


 そしてこの街は現在も天を埋め尽くす煉瓦の摩天楼を拡大している。中心街に住む貴族たちの命令のもと、雇われた人間たちが途方もない量の煉瓦を作り、運び、積み上げていく。実際は"雇われた"などという生易しいものではない。奴隷とまでは言わないがそれに近いものではあるだろう。彼らのことを貴族たちは働人はたらびとと呼んで(さげす)み、呼ばれている本人たちも享受(きょうじゅ)している。

 この街で裕福な暮らしをしている人間など二割はいない。言い換えれば八割の人間が過酷な生活を強いられているということ。食料を作る者もいるし、貴族の使用人としてこき使われる者もいるし、街の外の戦いに身を投じられる者もいる。


 長きに亘る独裁王政の中で、この街の人々はこのシステムに抗うなどという考えすら消え失せていた。生まれた時からずっと同じ環境なのだから。仕方あるまい。


 今日も日が沈む頃、それでなくても赤い街が夕日に照らされて真っ赤になっている中、煉瓦が組まれていく音は限りなく続いていた。

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