06 月明かりの下で
貨幣制度(一枚あたりの価値)
銅貨
10円
大銅貨
100円
銀貨
1000円
大銀貨
10000(一万)円
金貨
100000(十万)円
大金貨
1000000(百万)円
白金貨
10000000(一千万)円
聖金貨
100000000(1億)円
目安となる収入
農民:銀貨5枚/日
兵士:大銀貨1枚/日
平均的な冒険者:大銀貨2枚+銀貨5枚程度/日
湿った木の香りが鼻をくすぐる。
恐怖から解放されたのだろう。
村の住人の表情は緩み、酒場は盛り上がりを見せていた。
「こんなガキんちょがあの化け物を倒すとはなぁ」
そう言って隣にいたガタイのいい男が僕の肩を引き寄せた。
「ほんと、ほんとぉ。まだ信じられねぇ」
「やるなぁ、ガキんちょぉ!」
肩を叩かれ、そう言われる。
軽く返事をして、僕は周りより二回りは小さいジョッキを手に取り、喉にオレンジの果汁を流し込む。
喉を潤し、料理を頬張る。
「う‥ま」
自然と頬が緩む。
「美味しいですかぁ?お客さん」
手際よく食器を片付けているお姉さんに話しかけられる。
現代で言う所のメイド服を身に纏ったお姉さんがスカートを揺らし、こちらにそう尋ねた。
「はい。とても美味しいです!」
「ふふ。いっぱい召し上がっていってくださいね」
そう言うと両手に器用に食器を寄せ、お姉さんは店の奥へ消えていった。
賑やかな酒場を遠目で見つめ、今日のことを思い返す。
—
黒鰐を討伐した後、僕達は討伐報告の為冒険者ギルドへ向かった。
‥本来なら魔石が討伐の証となるのだが、その魔石は魔法を使った際に粉々になってしまった為、目と鱗で代用することにした。
ギルドの職員が黒鰐の死体を見たときは頬が若干引きつっていたのを覚えている。
少し厚い扉を押し開けると、何度もアニメで見たような光景が広がっていた。
ガタイのいい男や、いかにもって感じの魔法使いがひしめいていた。
ラティ師匠は慣れた様子で人々をかき分け、受付とおぼしき場所で立ち止まった。
簡単な手続きと、証拠となる目と鱗を提出すると別の職員が奥へ持って行き、少し待機するよう言われた。
奥から別の職員が受付のお姉さんに軽く耳打ちをした。
「討伐を確認いたしました」
こちらに振り返り、笑顔で言った。
「本来なら黒鰐の討伐報酬は金貨5、6枚ほどですが複数回の任務失敗があった為、報奨金が上がっておりまして」
そう言い、こちらに布袋を差し出した。
ガチャ、と音が鳴った。
「討伐報酬が金貨8枚、鱗など含めまして、銀貨8枚と大銅貨3枚になります」
「鱗に関してですが‥回収できる量が少なく損傷も多い為、通常の買取価格より低くなっております」
丁寧に、でも少し言いづらそうに言った。
「別に構わないよ。ありがとう」
ラティ師匠はそう言うと、視線を僕に向けた。
受け取れ、と言うことらしい。
僕は少しだけ、少しだけ背伸びをして報酬を受け取りその場を後にした。
—
上級魔法。
私ですらまだ扱えない。
本来、子供が扱えるような代物ではないのだ。
中級魔法とは比べ物にならない程の高み。
独り言を漏らしながら、私は椅子に全身を委ねた。
「ワナ、私は大丈夫ですから、先に戻って休んでいてください」
酒場でそう言ったアルシェリア様の言葉に甘えて、食事もそこそこに宿へと帰っていた。
彼は単体ですら使うことが困難とされる魔法を複数同時併用していた。
考えただけで頭が痛くなる。
アルシェリア様の魔法の才にも十分驚かされてきたが、ハッキリ言ってその比ではない。
「確か‥ウェル‥ウェルストリア=オーデン、だったかしら」
背丈は年相応という印象を受けたが、それ以外は異質に感じられた。
良く手入れされた黒髪と整った横顔が夕陽に照らされ、アルシェリア様にそっと手を差し伸べたのを覚えている。
普段は人と触れ合うのを極端に避けるアルシェリア様も、震える手を差し出していた。
彼とあの金髪の女性にアルシェリア様を任せたが、大丈夫だろうか。
いや‥あの人達なら心配いらないだろう。
そう、思った。
—
まだ賑やかな居酒屋を後にして、帰路に着く。
と言っても宿に帰るだけだけど。
隣には、白銀の髪を靡かせる少女がいる。
酷く感傷的で、今にも月の光に照らされ消え入りそうな、そんな横顔だった。
一体彼女は今までどんな風に扱われていたのだろう。
彼女は決して言葉にはしないけれど、彼女の全てがそれを物語っていた。
そんな彼女を、美しいと思ってしまう。
けれど、それを口にするのはあまりに無責任に感じて、言葉を飲み込んだ。
コツコツと、靴の音だけが静かに響いている。
「‥あの」
歩みを止めたかと思うと、消え入りそうな声で言った。
「どうしましたか?」
月に背を向ける形で僕は彼女の正面に立った。
「なんで‥私を‥私なんかを見てくれるんですか」
目頭に涙をいっぱい溜めながらそう言った。
「話す時も聞く時も、相手を見るのは常識じゃないか」
「私なんか‥見ないでください」
彼女は目線を逸らして言った。
何て言えばいいかわからなかった。
分かっている、彼女が何を言わんとしているのかは。
だからこれは、かける言葉が見つからない僕の、時間稼ぎに過ぎない。
「私は、魔女の生まれ変わりだから‥」
彼女は強く髪を引っ張った。
「こんな‥髪色だから!」
「こんな汚くて、汚らわしい髪で生まれちゃったから‥」
急に声を荒げたかと思うと、その声はすぐに萎んでいった。
「だからもう‥関わらないで」
彼女は立ち去ろうとする。
「待って!」
彼女の細く、痩せた手を掴む。
こちらを振り返ったかと思うと、大粒の涙を流し叫んだ。
「私は魔女なの!怖い魔女なの!」
「生きている価値なんてないんだから‥」
「もう関わらないで!!」
僕は今までにない、熱を感じていた。
確かに僕は彼女の事を何も知らない。
けれど、彼女の瞳を見れば。
声を聞けば。
そして、あれだけ怯えながらメイドを気遣っていた姿を見れば。
彼女がどんな人かくらい分かる。
「君は魔女なんかじゃない!」
「他の誰が何と言おうと、君は君であって魔女なんかじゃない!」
「君は人のことを思いやれる、強くて優しい子だ」
「生きている価値がないなんて、そんなことはない」
息を切らしながら言った。
「‥それに」
僕は彼女の華奢な肩を掴み、真っ直ぐ向き合って言った。
「こういうことは普段言わないから、上手く伝わるか分からないけれど‥」
息を整えて続ける。
「君の髪を、その色を、本当に綺麗だと思ったんだ」
「だから、もうそんなことは言わないで」
—
気恥ずかしさを隠すように、僕は月を向いて歩き始めた。
彼女もまた、何も言うことはなく、静かに後ろをついてきた。
部屋に彼女を送り届けて、自分の部屋に向かう。
その途中、思わず壁に手をついた。
さっきのことを思い出す。
言ったことに後悔はしていない。
だけど。
「‥ちょっと調子に乗り過ぎた」
案の定、その日は寝付けなかった。
‥お久しぶりです。私生活の方で行事が立て続いて、それに加えて原因不明の頭痛で1週間も体調を崩してしまい、ここまで投稿できませんでした。皆さんも体調にはお気をつけて!




