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インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される  作者: 椎名 富比路
第一章 女子魔法使いたちの春メニュー

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第8話 カレーライス

 放課後、オレは伯爵を食堂へ呼んでもらった。


「わが領土の野菜を、検討してくださったのでしょうか?」


「いえ。お嬢さんがなにをお召し上がりになっているか、味見をしていただきたく」


「ほほう」


 伯爵は、やや難しい顔をした。下賤の者が作ったメシは、口に合わないぞと顔が語っている。


 どちらかというと、隣に座るメイド長とやらの表情があからさまだが。


「まあ、一口お召し上がりください。お代は、結構ですので」


 デボラが、伯爵のテーブルにカレーライスを置く。


「恐縮です。蔵小路(クラコウジ)のご令嬢に、お給仕をしていただけるとは」


「今日は、楽しんでくださいませ」


 ワイングラスに、デボラが水をそっと注いだ。

 プリティカのテーブルには、オレがカレーを用意する。


「なんでお前さんまで」


「おなかすいたもーん」とVサインをしながら、プリティカはニコリと笑う。


「プリティカ様、庶民的すぎる料理に触れられては、貴族としてのメンツが」


「メンツより味を取ろうよー。もうそんな時代じゃないんだってー。理屈抜きでおいしいから、みんなで食べよー」


 渋っているメイドに対して、プリティカはスプーンを持つように促す。


「たしかに、くっ。この風味は、食欲をそそります。ですが、こんな没個性なカレーライスに、心を動かされるとは」


 ああ、揺らいでる揺らいでる。あれだけ偏見の塊だったメイドが、瓦解寸前だ。


「まあひとまず、いただくとしよう。ではイクタ殿、いただきます」


 二人が、カレーを口にした。


 遅れて、プリティカもカレーライスをはむっと食べる。他の二人の反応を見つつ。


「あ、これうんま!」


 まずは、メイド長がスプーンを口と往復させる。


「本当だ。見事な。濃厚ながら、馴染みが深い。この米と合わさって、最強ではないか。野菜も一部、解けて混ざっている」


 伯爵は言葉に出さないが、空になった皿がすべてを物語っていた。


「みなさんの故郷でもカレーは、お召し上がりになるとか」


「妻の実家では、スープ状のルーに、パンを付けて食べるのです」


 米でも食べるが、サフランライスだという。


「こちらはそれとは趣が違うが、なんという」


「奥様のカレーとは、比較にもならないでしょうか」


「どうなんでしょうね。もう、亡くなりましたから」


「……申し訳ありません」


 オレが非礼を詫びると、伯爵は「お気になさらず」と言ってくれた。


「カレーは、ダークエルフの伝統料理だそうで」


 スパイスの商談のために訪れたカレー専門店で、プリティカの母親と出会ったという。


「当時の私は、まだ魔王になりたてのヤンチャで。しかしそんな相手に、彼女はどの妃よりも優しかった」


 どちらもまだ若く、一緒に馬でツーリングした仲だったそうだ。


「作ってくれたカレーが、実に美味で」


 そこから逢瀬を重ね、プリティカが生まれたという。


「ですが病に倒れて、そのまま」


 伯爵が目を腫らし、鼻をすすった。


「私は、奥様の弟子だったのです」


 メイド長も、泣き崩れる。


「でもプリティカさんは、イクタのカレーが好きなんですわね?」


「うん。ママが作ってくれた味と近いんだー。市販のルーを、使っていたらしいんだけど」


 それだったら、と、オレはルーの空箱を用意した。店で売っているタイプを、業務用にデカくしたものだ。子どもでも見た目がわかりやすいパッケージで、人気がある。


「これか?」


「そう! リンゴとハチミツが入ってる、ってやつー。だから、味が近かったんだー」


 まさかプリティカの母親と、こんな形で接点ができるとは。


「なんとも、愉快ですなあ。亡き妻と、このような姿で再会するとは」


「まったくです」


「ごちそうになりました。ありがとう」


 立ち上がった伯爵が、手を差し伸べてきた。


「こちらこそ」


 伯爵と握手を交わす。


「娘は元気そうなので、余計なマネはしないでおきましょう。妻が見守っているんだ。ルーに溶け込んで」


「そうですね。毎日出会えます」


 オレがカレーを作る限り。 

 



 

 翌日、プリティカがまたカレーを食いに来た。


「オヤジさんとは仲直りしたか?」


「うん。イクタおじのおかげー」


 プリティカはそう言ってくれたが、オレは首を振る。


「そりゃあよかった。でもオレの力じゃねえな。カレーの力だ」


「そうかな?」


「カレーは、なんでも溶かしてくれるからな」


 鍋の中では、野菜も肉の一部も溶け込んでいるものだ。それが絶妙なバランスで混ざり合って、人の口に入っていく。こんな偉大な料理だからこそ、長年愛されている。


「イクタおじ、ウチと同じ考えだったんだね? これって運命かな?」


 なんだ? ヤバイ雰囲気になってきたぞ。


「おじはー、ウチのダーリンになる気はない?」


「ちょっとプリティカさん! いくらなんでも、抜け駆けはよろしくありませんわ」


 皿洗いをしていたデボラが、プリティカに食ってかかる。


「デボラちゃんの、お邪魔はしないよー。ちょっと借りるだけー」


「まあ、ふしだらな! そんな不純な行為、許せませんわ!」


 ヌヌヌ、と、デボラがエプロンの裾をたくしあげて噛みしめた。


 こいつらもカレーのように、仲良く混ざり合ってくれたらいいのに。


(ダークエルフのギャルと魔王と、カレーライス おしまい)

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