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インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される  作者: 椎名 富比路
第四章 おじさんは冬に、社交界デビューする!?

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第45話 クリスマスは、チキンチーズフォンデュで

 デボラがクリスマスで、三年生の送別会を開きたいという。


 しかし、クリスマスっぽい鍋なんてなあ。いいアイデアが、見つからない。


「それでイクタさんは、わたしにアドバイスを求めに来たと?」


 そこで、ウッドゴーレムのモクバさんに相談した。


「はい。なんか、いいもんありませんかね?」


「クリスマスに相応しい、お鍋ですかー」


 この世界にもクリスマスがあるのは、知っている。祝い方も、変わらない。

 ただ、「クリスマスは恋人たちのイベント」という習慣はなかった。

 このへんは、日本と違う。


「お鍋と言っても、我々魔法科学校からすれば『鍋=魔女の釜』というイメージですから」


「ですよね。身にしみています」


 ではと、クリスマスは何を食うのか尋ねてみた。 


「クリスマスといえば、チキンですね」


 この世界のクリスマスはかつて、勇者がさる地方の領地から魔物を追い払った伝説がある。


「地元の有識者が勇者にローストチキンをプレゼントしたことで、クリスマスにはチキンでお祝いする習慣が定着しました」


 モクバさんの家でも、チキンをさばくという。


「実はその伝承によると、チキンとは別の鳥なんですよ。ですが、その地方にしか住んでいない鳥でして。仕方がないのでクリスマスは『勇者のからあげ』を食べましょー、となりました」


 勇者が晩年に立ち上げたっていう、フード事業だよな。彼はそこで溢れんばかりの財を成し、利益の九割とレシピを死後に寄付した。


「じゃあ、とりすきですかね」


「鶏の水炊きですね」


 しかし、デボラやプリティカと違って、ミュンは体力旺盛だ。薄味なとりすきで、満足できるのか。


「では、トマト鍋なんていかがでしょう? サンタさんぽいですよ」


 モクバさんといえば、トマトである。

 トマトと鶏肉の相性は、たしかに最高だ。


「ふむ。赤を足すんですね?」


「あと、いただきもののチーズが大量にあるんですよ。いかがです?」


 海外が舞台のアニメでしかお目にかかれないようなデカいチーズを、モクバさんが見せてくれる。


「チーズ……おお。チーズフォンデュ!」


 オレはパッとひらめいた。


「それですね。チーズフォンデュでしたら、シメにリゾットでもラーメンでもなんでもいけますね」


 それは、喜んでくれそうだ。



 

 クリスマス当日を迎えた。


 大所帯なので、学食には三台の土鍋が並ぶ。


 具材は鶏肉、トマト、ブロッコリー、ウインナー、エビなどだ。それぞれ、串を入れてある。


「みんな。ドレスで来るんなら、言ってくれたらいいのに」


 クリスマスなためか、女子生徒はみんな着飾っている。これならチーズがハネて、衣装を汚しかねない。


 よりによって、今日は生のトマトソースも使うんだぞ。


「メニューを変えてほしかったら、いつでも言ってくれ」


「いえ。この衣装は訓練用で、汚れてもいいドレスなんですわ」


 デボラいわく、料理はこれでいいそうだ。ドレスに使っている布も簡素なものなので、平民でも用意できるという。


 たしかに、平民出身のエドラも、ドレスを着ていた。着こなし次第で、安い生地でもオシャレになるという。


 鍋にしてもらいたかったのも、料理のハネをエレガントに回避するトレーニングであるとか。


 ファッションに無頓着だと思っていたキャロリネやペルも、揃って東洋の着物を羽織っている。


「エドラは小さいですから、フリルを大量にあしらっておくと、こんなにかわいくなるのです」


「うーん。オイラはかっこよくなりたいぞ」


「特攻服で社交界に来るレディが、どこにいますか」


 なるほど。エドラのドレスは、イルマが仕立ててやったらしいな。

 エドラ自身に任せると、それこそレディースのような格好になりかねん。


「しかし、どうしてドレスに?」 


「あくまでも、本番に向けてのデモンストレーションですので」


 本番は、バレンタインに行われる社交界らしい。


「おひょーっ!」


 土鍋の中でコトコトと煮えるチーズを見て、ミュンがウキウキしていた。


「北の森に住んでおった魔女の作業場を思い出すわい。あやつの作った、牛乳でできたシチューに似ておる」


 鍋の中を見て、パァイが過去を振り返っている。相当、昔の話なようだが。


「うまそうだな」


「実験用の鍋じゃ。肉も、毒性カエルじゃった」


 おおう。


「しかし、見事なチーズの解け具合じゃのう。すばらしい」


「さっそく食おう! いただきまーす!」


 ミュンが、串に刺さったウインナーをチーズに絡ませた。


「あはっふ! はっふ! ふんまい!」


 熱さに悶えながら、ミュンがウインナーを噛み切る。


「なるほど、チキンも格別じゃ。燻製にしたのう?」


「ああ。よくわかったな」


 ローストチキンは用意していないが、燻製に炙ってみた。浅めに香り付けをすれば、チキンのパサツキが抑えられて、チーズの味にも負けないと思ったのである。


「エビも燻製になっていて、おいしいですわ」


「イクタおじ、やっぱり、最高だねー」


 デボラとプリティカも、チーズフォンデュを楽しんでいた。


「本番はもっと、きれいな服を着るからな」


「楽しみにしてろよ、イクタの大将」


 キャロリネとペルが、オレの腹を肘で小突いてくる。いったい、なんなんだ。


 デボラが、オレの前に立った。


「あの、イクタ」


 真剣な面持ちで、デボラがオレを見上げてくる。


「どうした?」


 また弁当を作ってほしいのか? 作ったとして、どこで食う気だろう?


「社交界で、一緒に踊ってくださいまし!」

 


(寄せ鍋編 おしまい)

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