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インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される  作者: 椎名 富比路
第二章 夏は、女子魔法使いたちを腹ペコにする

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第29話 廃船で、舟盛り

「皿に盛るだけじゃ、つまらん。いっそ豪勢に、本物の船に盛り付けよう」


 本物の廃船を使って、舟盛りにすることにした。 

 異世界ならではの料理って、一度作ってみたかったんだよな。


「しかし、イクタのおやっさん。船体が潮でやられているが、大丈夫か?」


「そっかぁ」


 だと、衛生的に厳しいか?


「安心せい。潮は取ってやろう。ちゃんと船を磨いて、木材を新調すれば、舟盛りとやらは造れるはずじゃ」


 パァイが協力して、船を磨いてくれるそうだ。ならば、本物の舟盛りができあがるだろう。


「では、我々は船をお掃除します」


 バケツと雑巾を持って、デボラがさっそく船に乗り込んだ。


「わかった。鮮度を保つため、時間を止めておこう」


 船を掃除する時間と、魚をさばく時間を止める。これで何時間かかろうが、外の世界で影響はない。


「プリティカさん、ありがとうございます」


 イルマが、船板にブラシをかけているプリティカに向かい合って、頭を下げた。


「えー? ウチはなんもしてないよー?」


 船板を磨くプリティカの隣に、エドラも並ぶ。


「だって、おめえがヌシを釣ってくれたから、嵐が止んだぞ」


「たまたまだってー。また毒のあるお魚を釣ったよーって、ガッカリしてたもん」


「でも、嵐を止めたのはおめーだから、感謝だな」


「えへへー」


 二人がやりとりをしている隣で、ペルも横並びに。


「そうだぞ、プリティカ。姐さんを助けてくれて、ありがとう」


「いいってー」


 その後、和気あいあいと掃除が始まった。


 オレは、クエに包丁を差し込む。ああ、魚をさばくなんて学食ではめったにないからな。本当は焼いたホッケとか出してやりたいのだが、あれはどうしてもツマミだもんな。


「一応、この世界でも刺身は普及しているんだったよな?」


 醤油があるから、刺身文化もあるにはある。回転寿司屋があるくらいだし。


「女子も食うのか?」


 学食で刺し身とかは、論外だ。魚の構造などを知る、いい機会だと思う。だが、この世界の女子が生魚を食うかどうかは謎である。気に入ってもらえると、いいが。


「食べる人もいると思うよ。あたしももらおうかな?」


 ミュンも、食べる気満々だ。


「試合前だろ? 大丈夫か?」


「何事も経験だろ?」


「それもそうか」


 クエで当たることはまずないだろうし。


 キャロリネが、冒険者ギルドのスタッフを呼んでくれた。彼らにも、掃除を手伝ってもらう。


 その間、ポントスには人を呼んでもらった。こんなの、オレたちだけでは食いきれないだろう。かといって、旅館には持って帰れない。アイテムボックスに入ったとしても、置き場所がないからな。


 コイツは厳密には、ヌシのエサである。だが、メイルストロムモドキが度々引き寄せるため、コイツがヌシと勘違いする釣り人も多いらしい。


 実際、エドラも間違えた。


 とはいえ食うんなら、ヌシよりこっちだろう。


 包丁を入れただけで、わかった。こいつは絶対に、うまい。

 解体ショーを始めても、よかったかも。

 

 廃船が、舟盛り用の皿に加工できた。

 絶妙なタイミングで、観光客がやってくる。


「みんな、食べてくれ。こっちには、鍋をやっている」


 アラや内臓は、大鍋に入れて煮込んだ。


「いただきまちゅ」


「どうぞ」


 まず、エドラが刺し身を口に入れる。刺身と言っても、座布団くらい大きい。まあ、エドラなら食えるはずだ。


「……ああああ」


 だらしなく、エドラが口からヨダレを垂らす。座布団サイズの刺し身が、あっという間に胃の中へ。


「溶けた。座布団が、口の中で溶けていったぞ」


 食ったのは、脂が乗った背の方か。


「そうだろう。クエの脂って溶けるんだよ」


 オレも味見してみたが、たまらなかった。


「身の方も、どうぞ」


「ふわい……おお、コリッコリ」


 笑いながら、エドラは言葉にならない声を漏らす。


「たまりませんね」


 イルマも、ご満悦のご様子である。


「プリップリだねー」


「こんな引き締まってらして」


 他の生徒たちも、同じようなリアクションを取った。


 なんといっても、鍋が一番売れたかも。


 暑い夏に食う鍋ってのが、また格別なのだ。しかも、クエのダシが溶け込んだ鍋が、言いようのない味になっている。


「刺身も最高だったが、あたいは、鍋の身の方がいいな。活力が湧きそうだ」


 アツアツな身を、キャロリネはバクバク食べていた。


「シメは、ラーメンにしてやるからな」


「ラーメン! それ最高じゃないか!」


 ミュンの食いつきが、またハンパない。


 

「だいぶ余ったな」


 あと一日、舟盛りを楽しめそうだ。


「もうさー、学食で出しちゃいなよ」


 夏休みの宿題の途中経過を提出するため、夏期講習が行われるらしい。時期は、明日だという。


「夏期講習で刺身か。それもいいな」


 刺身なんて、めったに食わないだろうし。


「でも、学長の許可が出るのか?」


「平気じゃろうて。吾輩がいいくるめてしんぜよう」


 それは、頼もしい。


 

 当日、刺身を細かくして、舟盛りにして振る舞った。

 生徒たちもたいそう喜んでいる。


 

 こうして、オレの愉快な夏は終わった。ほとんど、かき氷を作って終わったが。


~*~

 

 二学期を迎える。


 デボラの教室に、転校生がやってきた。

 ローファーをカツカツと鳴らし、ショートカットの女生徒が教団の横に直立する。


(ミナミ)安毘沙州(アンビシャス)学園から来た、ペル・セポネだ! 今日からお世話になるんで、よろしくうっ!」

 また、にぎやかな教室になりそうだ。

 

 

(ヌシ釣り編 おしまい)

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