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魔の巣食う校舎で私は笑う  作者: 弥生菊美


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36.教授棟


 


 こんな時でも次から次へと沸いてくる書類仕事、医局長の佐々木に処方箋を出してもらい薬局で胃薬を貰いそれをカバンに突っ込むと教授棟へと足を進める。沼田の件以降、オペには一切執刀していない。医療ミスをする自分が目に見えている。何よりも、医局員たちに示しのつかないようなミスをするところを見られたくはない。


すれ違う他科の医師が、怯えたように廊下の端に移動して俯いてそそくさと逃げるように通り過ぎていく、自分がどんな顔をしているのか、自分が一番よく分かっている。焦燥感は拭えぬままだ。あの時の事を考えるだけで、また胃液が食道を上がってくるようだ。体重も10キロ以上落ち、目も落ちくぼんでいる。誰がどう見ても、以前の自分とはかけ離れ、歩く屍の様だろう。


 何とか教授棟の入り口にたどり着き、カードキーを胸ポケットから取り出そうとすると、背後から誰かが近寄ってくる気配がして、勢いよく振り返る。


「誰だっ!!」


半ば怒鳴るように問えば、怯えたような顔をした男子生徒と女子生徒が立っていた。


「すっ、すみません……。」


 水色のTシャツに「アロハ」と黒い文字で書かれているなんとも間の抜けたシャツを着ている少年が怯えながら謝罪してきた。


「あぁ……、いや、こちらこそ怒鳴ってしまってすまなかったね。

君達は学生かな?私に何か用かな?」


 学生相手に威圧するなど、後でどんなクレームが親から入るとも知れない。大学事務も煩いからな、これ以上の面倒ごとは御免だと、努めて優しい声と笑顔を見せる。


 すると、女子生徒が男子生徒の腕を突っつき「やっぱりやめたほうが良いと思う……」と、小さく呟いている。


「あのっ!僕達オカルト研究会の者でして、兼ねてより教授棟にはこの大学の心霊現象の根源となる何かがあると言われています。教授棟ではそういった心霊現象や、何か気になるものがあったりしませんか?大学の中心にあるのが教授棟なんです。過去の研究ノートにもそう書いてありまして!」


「オカルト研……」


その学生の言葉で一人の友人を思い出す。

震えそうになる手を押さえて、笑顔を見せる。


「ははは、そうかオカルト研かっ!なるほど残念ながら教授棟でそういった心霊現象の話を聞いたことは一度もないな。学生が出入り禁止の場所だからこそ、君の先輩方はそんな事を書いたんじゃないかな?ここは理事の部屋もある。大学の経営に関わる話し合いも行われる場所だからね。迂闊に入れば君の将来に関わるかもしれない。調査はここ以外で行いなさい。インタビューくらいなら他の先生方も時間があれば受けてくれるだろうからね。それでは、仕事があるので失礼するよ」


 今度こそカードキーを壁にある機械にかざすと「ピッ!」と言う音と共に自動ドアが開く。後ろから女子生徒が「お時間を頂きありがとうございました。」と、頭を下げ、隣の男子生徒も慌てて頭を下げていた。それに笑顔で答えて、足早にエレベーターへと向かう。


 不意に香ったエレベーターホールに漂う線香の臭いに顔をしかめる。この教授棟は何故か時折線香の匂いがするのだ。法医学教室の教授があげているのか?ふと、あいつなら……きっと調査するなどと言い出しただろうか……そう思いながらも、やめろ!思い出すな!!と自分へ言い聞かせる。


 邪念を払おうとのんびりと8階から降りてくるエレベーターのデジタルの表示を眺めていると、突然視界の端に白い白衣が見えた気がして、驚いて自分の横を見る。


 しかし、そこには誰もいない。自分と並び立つように、背丈の小さい白衣姿の……ゾワリと一瞬で全身に鳥肌が立つ。恐ろしくなり慌てて階段へと向かう。


 外はまだ15時過ぎで日は傾いているもののまだまだ明るい。何を怯えている。まだこんなに明るいのに連日の深酒と体調不良で幻覚を見たに違いない。絶対に世話になどなりたくないと思っていたが、精神科にかかる事も検討しなければならないかもしれない。落ちた体力と、やせた体で息切れをしながら手すりにすがるように5階まで上がると、階段の向かいにある自分の部屋の鍵を開けると手早く中へと入る。


 教授秘書は時短で15時退勤のため既に帰っているようだ。教授室にある来賓用の白いテーブルセットの上には、自分宛の書類や郵便物が乗せられている。そして秘書からの申し送りのメモ書き。大抵は製薬会社や医療機器メーカーからのアポイントについてだ。それに一通り目を通すと、書類一式を持って自分のデスクへと向かい、黒の革張りのソファーへと身を沈める。


 エレベーターホールで見た白衣、あれはおそらく女……どこかで見たことがある気がするが思い出せない。痛む胃を思い出し、カバンからミネラルウォーターと薬を取り出す。教授室にはウォーターサーバーもコーヒーメーカーもあるが、今は立ち上がるのすら億劫だ。流し込むように胃薬を飲むと「はぁーーー」っと深いため息を吐く。


 考えてみれば、この教授棟では不思議と心霊現象は起きていない。いや、起きていたとしても、非科学的だと教授陣や理事達が話さないだけの可能性もあるが、秘書からもそんな噂話を聞いたことがない。他の建物では起こるのに、何故だ……。先ほどの学生の言葉が頭をよぎる。教授棟に心霊現象が起きる根源があると……。


 馬鹿な、何を根拠に……。そう思ってみるがふと思い出す。教授棟の地下1階は教授陣や理事すら立ち入り禁止だという事を、そして偶にすれ違う理事長の秘書が花束を持っていた。今思えば、白や黄色い菊……仏花ではなかったか……?思わず自分の口元を片手で覆う。


 いや、まさか、そんな……だとしてもこの地下に何があるというのか?こんな場所の地下に慰霊碑でもあるとでも?それとも、誰かの墓?いや、何かの宗教的な……。


やめろ。考えるな、ヤメロヤメロヤメロ!!自分に再び言い聞かせて、PCを立ち上げた。


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