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魔の巣食う校舎で私は笑う  作者: 弥生菊美


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31.手首の捜査


 

 ゴンゴンゴン!!!!と言うコンクリートを砕く音と、地下では作業できない分を上の階でやっているのか、コンクリを砕く音と作業員の声が階段に程近い研究室に響き渡る。


「うるさぁーーーーい!!!骨に響くぅぅぅ!!!」


「君も煩いよ、桜井君」


まだ15時半だと言うのに、柳教授がいそいそと帰り支度を始める。


「えっ!?教授逃げる気ですか!?」


「ちょっと諸用を思い出したから外に出るだけだよ」


「酷い!裏切りだ!」


「では失礼」


 そう言うと颯爽と研究室から出ていく教授の後ろ姿を見送る。くっ……定年退職している教授は自主的に来ているので勤務時間など一切関係ない。何時に来ても来なくても全く関係ない。クソっ!!思わず内心で悪態をつくも、ガンッガンッ!という音に発狂しそうになる。


「ダメだ……気が狂いそうだ……」


 そんな呟きすらも手首捜索のための発掘音……いや、もはや工事音にかき消される。他の面子は良くやってられるなと、思ってみれば皆ちゃっかりイヤホンや耳栓をしている。


ノイキャンのイヤホン、今すぐ私も欲しい……。


 唇を噛み締め、途中で止められない組織染色作業を続ける。これが終わったら絶対BOSSのカフェラテ、これが終わったら絶対BOSSの甘いカフェラテ飲むんだ……。念仏のように心の中で唱え続け、工事音を忘れようと努力するがっ……


「…………ぐっ……うぐぐぐ……うるさい……むり……」


血でも吐きそうな声を出して、耐えるしかないのだった。


数時間後


 染色が終わり、やったぁーーー!逃げれる!と思う頃には、辺りはすっかり夕焼け小焼け……。本日の工事も程なくして終わるのではないだろうか?


兎にも角にも!ご褒美糖分!!


 そう思いながら研究室を飛び出すも、廊下に作業員と鑑識と思われる服装の方々が居て通り抜けられる雰囲気ではない。仕方なくエレベーターを使おうと、研究室横の年季の入ったエレベーターに乗り込む。壁は剥がれて、床は黒ずみ、行き先階のボタンも所々はげている。新橋あたりの古い雑居ビルと良い勝負のボロさ具合のこのエレベーター。止まりそうで怖いと乗るたびに思う。


1階のボタンを押して、扉がガコンッ!という大袈裟な音を立てて閉まる。


「はぁ……」


 束の間の静寂。目を閉じて考えるのは、BOSSのカフェラテより午後の紅茶のロイヤルミルクティーだよな、と如何でも良いことを考えながら、止まったエレベーターから降りるとそこは1階の明るい廊下ではなく、真っ暗な廊下……もしかしてB1と押し間違えた……?


「……あっ……あれっ?……」


 ボタンを押し間違えたか!そうだな!よし戻ろう!と振り返るも、締め出すように扉が閉まり上へとさっさと登って行ってしまうエレベーター。


「おいてかないで……」


 エレベーターの扉に縋るように呟くも、聞き届けてくれることなく1階、2階と上へ上がっていく。白状者がっ!!いや、こんな事をしている場合ではない!!静まり返っている地下1階。定時になったのか作業員達は帰っているようで、人っ子一人いない。死体が埋まっていると言われ捜査が入っている立ち入り禁止のエリアに!作業員の帰った後に!私が一人ウロついて!見つかった暁には!考えずともわかる!社会的にマズイ!!


「階段、上に上がる階段」


 ブツブツと呟いて、勝手知ったる廊下を迷わず進んでいく。がっ……立ち入り禁止の規制線が階段の登り口に貼りめぐらされていた。潜れなくもないけど引っ張ったら取れるかな……しかも階段の上の方から男性の話し声が聞こえている。


「作業の進捗が……」


 内容的に工事の人か警察関連……今なら見つからない?いや、万が一……無理だ!出ていけるわけもない……いやでも職員だしっ……後ろめたいことはないが、余計な問題は増やしたくない。仕方なく踵を返して、早足で且つ足音を立てないように素早くエレベーターの方へと戻ると、ちょうどエレベーターの扉が開き始めたのか廊下に細い灯りが漏れる。


 うぉぉぉぉ!!と、さらにペースアップをして滑り込むようにエレベーターの目の前に躍り出た瞬間、視界に入ったのは白衣を着た男。そして男の方も目を見開いて


「いゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

「出たァァァァァぁ!!!?」


 いやあぁぁぁぁと叫んでいる間にしまっていく扉に、ヤバイ!?と、慌てて両手を差し込んで無理やり開ければ、白衣の男性が泣きそうな声で壁際に後退り、背をぶつけて


「ちょちょちょちょ!!!来るな!来ないで!!」


「違う違う!!ここの職員ですから!生化学研究室の所属ですから!」


「あっ……あぁ……」


扉が一時停止して、再び開いた瞬間乗り込むと、階段の方からダダダッと駆け降りてくる音がする。


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