25.ノーレイン、ノーレインボー
前回のあらすじ。
探していた店長が偶然出会った人で、
しかも純の父だった。
「ここにいるって聞いた時、びっくりした。二人の思い出の場所、なんでしょ?」
小雨が降っている。
慌ててタクシーから傘を持ってきた僕に、緑野君はいらないと首を振る。
湿ってる砂でも気にすることなく、彼は父親の隣に座ろうとする。
だが、御領原さんはそれを拒むように、あえて立ち上がってみせた。
「……よく知ってますねー、そんなこと。あなたが生まれる前の話なのに」
「ママが自慢げに話してたの、よく聞いてたから」
「あの人がやりそうなことですねー。で、なんであなたまで? ミー、自分の名前を教えましたっけ?」
「僕、聖明音って言います。アルカンシエルの店員で……店の人からあなたの名前と、店長だって聞いて探してました。緑野君に、ここにいると聞いたんです」
「あー、そーゆー……運命ってのは、残酷ですねー。こんな形で、再会するなんて」
「ねぇ、パパ。なんでお店、やめたの?」
いきなり核心をついた質問だな、と思ってしまう。
それでも彼の口調はまるで子供が素朴な疑問をぶつけるかのようで、聞いてるこちら的にはなんも違和感すら生まれない。
だが彼には違うようで、どこかバカにしたように鼻で笑って見せた。
「なんですか、唐突に。あなたには関係ない話でしょー?」
「関係ある。僕、ママとパパがお店やってたの、好きだったから」
「よく言いますねー、経営中に手伝ったことないくせに」
「パパ。またお店、やらない?」
その言葉に、初めて御領原さんの目がこちらを向く。
まるでその言葉が想定外だったかのように、揺れていて。
だがそれはほんの一瞬で、緑野君のまっすぐな瞳からすぐ逸らしてしまう。
その彼は、どこか冷たく、闇すら纏っているように見えた。
「今更ですねー。そもそも今は、ミーがいなくたって彼らがやってくれてる。問題ないでしょ」
「も、問題ならあります! お店が閉店するかもしれなくて……お客さんが言ってました。店長さんのコーヒーが飲みたいって。あの店には、あなたの力が必要なんです!!」
「……それでもミーはやりませんよ。だって、作れなくなっちゃいましたから。コーヒー」
そう言って彼は、自嘲気味に口角を上げながら、胸元をグッと掴む。
この光景……見覚えがある。
確か初めて会った時に、コーヒーを好きじゃないといっていたー……
「スランプっていうんですかねー。同じ味を作れなくなっちゃったんですよー。何度やっても、ぜーんぜん」
「それは……いつからですか?」
「妻がいなくなってからですかねー。清々すると思ったのに、いい迷惑ですよー。おかげで何もかもめちゃくちゃ。記憶を消して、全部忘れられたらいいのに」
「……本当に? 忘れたいなんて、思ってるんですか?」
黒く染まった瞳が、こちらを向く。
その目は、少し揺れていた。まるで、図星をさされたかのように。
若干睨まれているように感じながらも、僕は思いの丈をぶつけた。
「緑野君から、聞きました。二年前のこと……奥さんのこと。コーヒーを作れなくなったのは、奥さんが忘れられないからじゃないんですか? あなたにとって、奥さんが大切な存在だったから」
「……そんなわけ……」
「好きな気持ちは、忘れたりなんてできない……僕も、同じだから……それに、忘れようとしてたら、思い出の場所にきたりなんてしないですよ」
彼にとって、奥さんはどんな人だったのだろう。
僕は彼女を知らないし、会ったことさえない。けれど、御領原さんがどれほど彼女を大切に思っていたかは、痛いほど伝わってくる。
コーヒーを作れなくなったり、したのもきっとー……
「言われてみれば、そうですねー……二年間も雲隠れしてたのに、見つかったのはそのせいか」
「……すみません、僕なんか知ったような口をたたいちゃって」
「ほんと、変な人ですねー。なんで赤の他人のあなたが、そこまでいうんだか」
「お店を守りたいんですよ。あの場所は僕にとって、好きな人と出会えた、大切な場所だから」
「ボクもあの店、好き〜ボクのお家だもん」
「あなたのことは聞いてませーん」
音が、静かになる。
いつの間にか、雨が止んでいた。
空を見上げると、七色の光が弧を描いていた。
七色とはっきりわかるほどとても綺麗で、美しくて。
それに気づいたのか、緑野君が明るい声で空に指差してー
「見て、パパ。ママだ」
「え、お母さん?」
「……彼女の名前、虹が入ってるんですよねー。虹が出るたびに、あれは自分だってうるさくて。そういや店名も、彼女の名前から取ったっけなー」
「ああ、それで……やっぱり、すごく好きなんじゃないですか。奥さんのこと」
「思いつかなかっただけですよー」
途端、大きな風が吹く。
その風圧で、彼の首元が垣間見えた。
銀色のチェーンの先に、欠けた円のような――アーチ状の飾りが揺れていて。
それで、やっとわかった。
虹だ。あのアクセは、虹を象っているんだ。
緑野君が腕にしているミサンガの飾りと対になる、お揃いのもの。
コーヒーは好きじゃない。何もかもめちゃくちゃ。
そう吐き捨てるように彼が、ずっとその首元を、強く掴んでいたのはーー
消したいほど愛しい記憶を、必死に、離さないように繋ぎ止めていたからなんだ。
「ママ、よく言ってた。虹は幸運の兆し、ママがいない時は虹を見つけて、虹が道を照らしてくれるからって」
「……見つけて、ね。よく言いますよ、勝手にいなくなったくせに」
「御領原さん。一度、戻りませんか、お店に。奥さんもきっと、それを望んでますよ」
雲間から太陽が、顔をのぞかせる。
照らされた顔は覇気が感じられないものの、どこか吹っ切れたようにみえてー
「ま、気が向いたらねー」
彼らしいのんびりした口調が聞こえる。
雨上がりに浮かんだ虹は、僕らを見守るようにずっと輝いていた。
(つづく!!)
明音(はぁ、なんとかなったな……(〃´o`) なんだかんだ、一件落着……かな)
藍「それにしてもあれから二年か……。随分経ちましたねー( ¯꒳¯ )。。。」
純「ん、パパが見てない間に中学3年せーになりました。大きくなったでしょー? そだ、だっこして確かめてよ (((( ˙˙)」
明音(ふふっ、緑野君甘えてる……!"(∩>ω<∩)"そりゃあ二年ぶり、だもんね。まさに、感動の再会……)
純「…………(((・ω・ )…ピタ……ん、コーヒー臭い。なんかやだ( ・᷄-・᷅ )」
明音「Σ( ˙꒳˙ )」
純「見ない間、おじさん化が進んでない? 髪もボサボサだし……ちゃんとお風呂入ってる?(¬_¬)」
藍「そういうあなたこそ、成長期の割に全然変わってませんねー。声変わりすらしてないし……大きくなるどころか、身長縮んだんじゃないですかー?( '-' ))
純「これでも1センチ伸びたもーん( ˙³˙ ) 」
明音(……あれ? 想像してたのと、だいぶ違う……(^^;))
なんだかんだ似たもの親子。




