2.運命の再会
前回のあらすじ。
前の会社を辞めたその日に
初めての恋をした。
明くる日、その相手が目の前に現れた。
「……んだよ明音、急にでかい声出して」
「こう!!!!!! いた!!!!!!」
「あ? 何が?」
「いたんだよ、今!! 僕が好きになった人が、そこに!!!」
目の前を指差しつつ、興奮がままに彼へ話す。
間違いない。あの時と同じ横顔が、今そこにあった。
たった一瞬で、その人は店の中に入ってしまったから今はいないけれど。
もう二度と会えないかもって思っていたのに、まさか、こんなところで出会えるなんて!!
「へぇ、ここお店なんだ!! こんなところにお店なんてあるなんて、知らなかったなぁ。中に入ったってことは、店員さんなのかな??」
「あーーー………そーなんじゃね、知らんけど」
「こんなの、奇跡のほかないよ!!」
いてもたってもいられない僕は、中に入ろうと店のドアへ手をかける。
しかし、その直前。なぜかこうが、腕をがっしりと掴んで……
「あーかーねーさん? まさかとは思うが、中に入ろうとはしてないだろうなぁ?」
「え? 入らないの??」
「入らないのっておま……ちっとは落ち着け。本当にそいつだったか? よぉく思い出してみろって、横顔しかみてねぇんだろ?」
「そうだけど……銀色の髪なんて珍しいし……耳に同じピアスがついてたから、絶対本人だと思う!!」
「この一瞬でそこまで見たのかよ、引くわ……仮にそいつだったとして、お前は何を……」
「そんなの、決まってるよ!!」
オープンとかかれた、店のドアを開ける。
ドアにかかった鈴の音、店内に鳴り響くジャズの音楽が耳に入る。
同時に芳しいコーヒーの香りが、僕の鼻を刺激してー
「いらっしゃいませ、アルカンシエルへようこそ」
左目が隠れるほどの長い前髪が、お辞儀で揺れる。
中へ一歩進んだ先に、その人はいた。
切れ長の目、銀髪に輝く短い髪、耳にはリング状のピアス。
ああ、間違いない、この人だ。
胸が、全身が、叫ぶように脈を打つ。
「何名様で……」
「一目惚れしました!!! お友達からでもいいので、付き合ってください!!」
直角ともいえる角度に頭を下げながら、自分の気持ちを勢いがままにいう。
ああ、言っちゃった……つい言っちゃったぁ。
だってここでしなきゃ、次いつ会えるかもわかんないし……
どうしよう、変な人って思われてないかなぁ?
でもこんなチャンスないし、伝えない手は……
「……は? 無理だけど」
ぐはっ!!!!
で、ですよねぇぇ、そうだよねぇぇ。
うう、やらかした。せめて少し話をしてから告白すれば……
「ちょ、真冬! 今の告白だよね?! なんで断っちゃうの?」
「見ず知らずの人と友達なんて、普通に考えて無理でしょ」
「だからってそんな言い方しなくても……申し訳ありません」
「だ、大丈夫です……僕の方こそ、ずびばべん」
「お前なぁ……泣くくらいなら会って早々告白するなよ。悪いな、俺の連れが」
「……誰かと思ったら、黄河の知り合い? また随分変わった人だね」
「よくいわれる」
??? あれ???
「えぇっとぉ、気のせいかな?? 今、こうの名前が聞こえた気がするんですけどぉ……どういうご関係で??」
「あーーーー、友達の友達の後輩の親戚」
「それって知り合いってこと!? 何それずるい!!」
「ずるいも何も、知らなかったんだから当然だろ。失礼なことしたことは俺が詫びる。少しでいいから、話してやってくれねえか? こいつは馬鹿なだけで、悪い奴じゃねーんだ。馬鹿なだけで」
「ば、バカって2回言った!!」
「真冬、こう君もこういってるし、話くらいなら聞いてあげない?」
「……那月がいいなら、いいんじゃない。どうせ暇だったし」
こうの言葉につっこむ僕を、その人は一瞥する。
するとその人物は、僕に
「名前」
「ほえ??」
「告白より先に、まずは名乗るのが普通じゃない?」
と告げた。
そ、そうだった!! 僕、名前すら言ってなかったんだった!!
「す、すみません! 自己紹介が遅れました! 聖明音、つい先日26歳になりました! 元サラリーマンです!!」
「ふーん」
「……えっ、それだけ!? そこは自分も挨拶するとこでしょぉ? ごめんねぇ、この子いっつもこうで」
隣にいた女性が、その人の肩に手を乗せて笑う。
すらりと伸びた手足に、茶髪のくるくるパーマがふんわり揺れる。
綺麗なまつ毛にピンク色のアイシャドウ……少し濃い化粧のせいなのか、いかにもお姉さんって感じだなぁ。
「改めて、うちから紹介するね。この子は青天目真冬。こんな外見してるけど、れっきとした女の子で、お店のサブチーフなんだ。んでうちは、紫藤那月」
短髪に僕っ子、しかもこの店のサブチーフ!!?
やばい、これでもかってほど好きになる要素が詰まり過ぎてる!!!
「それで、さっき一目惚れって言ってたけど……真冬の知り合い?」
「……さあ。僕の記憶が正しければ、初対面だと思うけど」
「直接は今、初めてですけど……僕あなたをみかけたことあります!! ……今から13時間前、波津乞駅で!!!」
「13時間……ってそれ昨日じゃん! でも真冬、波津乞駅って方向真逆じゃない?」
紫藤さんが顔色を窺うように、彼女に聞く。
それでも彼女は身に覚えがないのか、表情ひとつ変えもしない。
ま、まさか、ここまできて人違い……?!
いや、でもまだ胸がドキドキしている。まるで、この人だよって体全体が教えてくれているみたいに。
だから、わかる。このチャンスを逃すわけにはいかないんだ……!
「いきなりこんなこと言って、困らせることはわかってます。初対面の人にいわれて、迷惑だってことも……でも、本当に好きなんです! こんな気持ち、生まれて初めてで……だからわかるんです。この気持ちは、本当なんだって!!」
今まで、普通に生きてきた。
好きなことも、夢中になることもなく、ただ同じ日常がずっと続くだけ。
だから憧れていた。心から好きな人に出会えた人たちに。
でも、彼女と出会った。
それだけで僕の中で、大きく何かが変わるような、そんな気がするからー!
「聖君……だっけ? それだったら、うちで働いてみない?」
鶴の一声ともいえる言葉が、紫藤さんからこぼれる。
同時にガタガタと音がしたかと思うと、こうの近くにあった机や椅子が派手に散らばっていた。
「はぁ!? 働くっておまっ、何言ってんだ那月!」
「だって、こんな一生懸命なんだよ? うちはそういう経験ないけどさ、友達周りで真っ直ぐ好きって言ってくれる人なんていないって聞いたし……それに、このまま帰すなんて、かわいそうだよ」
「だ、だからって何も働かなくてもいいだろ。せめて上の人に聞いてから……」
「もちろん、聖君さえよければだけどね。ほら、一緒に働いたらお互いのこと知れるし、そこから恋人〜なんてこともあるんじゃないかなって」
「話聞けよ!」
「……相変わらず、那月はお節介だね。好きにしたら? どうせ人員不足だし」
「まてまてまて、勝手に決めるな。明音、悪いことは言わねえ。それだけはぜっっったいやめろ。接客業なんてお前にできるわけがない。せめて通……うのもだめだな、遠目から見る程度にしとけ、な?」
こうが、肩をがっしり掴みながら、まっすぐ目を見てくる。
なんだかいつにも増して焦っている気がしたけど……正直、今の僕にはそんな事関係ない。
だって僕にとっては、こんな提案、願ったり叶ったりなのだから!
「……やります!! 僕を、ここで働かせてください!!」
聖明音、26歳。
初恋の人に近づくため、喫茶店デビューします!!
(つづく!!)
おまけの小ネタ①
明音「よろしくお願いします!!」
那月「早速だけど、履歴書かいてくれる? 店長に渡すだけだし、簡単でいいよ〜」
明音「はい! φ(..)カキカキ できました!!」
那月「えっ、はやっ! すごいなぁ、さすが元社会人。……ってあれ、この志望動機」
明音『青天目さんに一目惚れしました。』
黄河「おいこら明音、これ志望動機じゃねぇだろ。ふざけてんのか(ꐦ°᷄д°᷅)」
明音「はっ! し、しまっま、つい勢いで……すぐ書き直します!!Σ(゜Д゜;≡;゜д゜)」
那月「可愛い子だね、真冬( ´ ᵕ ` )」
真冬「バカなだけでしょ( ・᷄-・᷅ )」
素直すぎる男。




