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交錯逸話  作者: 永旅 真
12/13

episode11:超能力(チカラ)は超能力(チカラ)にして神通力(ゲンソウ)に非ず

 夜の探偵局本部。

 普段の夜は夜勤の探偵達がわずかに事務仕事をしている程度だが、今日は違う。

 建物の明かりは全て点いていて、各フロアに探偵が満遍なく配置されている。

 更に入り口や屋上などは警察が連絡を取り合いながら見張る。

 探偵局周囲の道路は前面封鎖、バリケードと闇夜を照らすライトが数多く並ぶ。

「……いかにも全力って感じね」

 探偵局の見回りという建前で周囲の様子を確認し終わったそよぎが呟いた。

「そういえばそよぎさんは何処かに配置しなくていいのー?」

 ふと疑問に思ったそよぎと共に見回りをし終えたアルマ。

 今そよぎ、オリーヴ、アルマの三人は三人以外の人間に話を聞かれないように密かに作戦会議をしている最中だ。

「ええ、今はまだオーニソガラムの犯行予告時間まで時間が少しあるから」

「……ところでお姉様」

「何?オリーヴ」

「夕凪さんの事どう思いますか?オーニソガラムへ勝負をもちかける時と普段で様子が明らかに違ったので……」

「……そうね」

 そよぎは顎に手を添えて少し考え込む。

「総局長が変われば探偵局の方針も変わる。だから今回みたいに怪盗に対して勝負をもちかける事もあり得るようになるかもしれない。私が一番気にしているのは何故オーニソガラムを狙っているかね……それに何となく何かに焦っているような感じがしたわ」

「そういえば具体的になんでオーニソガラムを狙っているのかは言ってなかったような……」

 アルマは首をかしげて頭の中に疑問符を浮かべながら言う。

「そう、そこ。今まで目立って活動していた三人の怪盗の内の一人であるディグは拘留されてあとの逮捕歴のない怪盗はオーニソガラムとクロイエンスの二人。……その二人は過去の経歴で埋柄さんと確執みたいな物も特にないし、何の理由もなく行動しなさそうな埋柄さんがオーニソガラムにだけ執着するというのも妙な話ね」

「夕凪さんも何を考えてるのかさっぱりにゃ……」

 うなだれるアルマと腑に落ちない表情のオリーヴに向かってそよぎは口を開く。

「……もしかすると埋柄さんの真意を読み取れないと痛い目に遭うかもしれない。……今回の作戦、埋柄さんに余程の自信があるのだと仮定するなら尚更。……まぁ、でも」

「でも?」

「にゃ?」


「怪盗は、犯行予告状を事前に出す事からわかるように、本来世の中からは愚かだといわれるような事を颯爽とやってのける存在だという事。

だから今回のように探偵の仕掛けた罠だろうと何だろうと盗みの勝負なら颯爽と勝ってみせようとするでしょう。

そんな怪盗を捕まえるのが探偵なのだからどんな事情にしろ全力で相手の心理を読んで適切な行動をしていかなきゃね」


 『私は本来は怪盗だけど』といった意味を込めるかのように苦笑するそよぎ。そんなそよぎを見て、苦笑で返すオリーヴとアルマ。

「そうですよね……だからこそやりがいがあるとも言えますし」

「どこまでも突っ走る!そしてどんどん実力アップにゃー!」

「……ふふっ、そうね二人共。あ、そうだ。ライブ達にもしもの時は協力体制を取れる事を伝えるの忘れてたわ。通信機出すわね」

 この通信会話で後々そよぎ達がライブ達の話す事を聞いてデジャヴを覚えるのは言うまでもない。

 

 

 

「……さて、そろそろ時間か」

 机の上にあるオーニソガラムの犯行予告状のコピーに視線を向けながら呟いく夕凪。


『探偵局総局長埋柄夕凪。貴公の勝負を受けましょう。場所は探偵局本部ビル、日時は午後九時。

お宝を頂戴しに参る』


(……せしら……)

 夕凪が歯噛みした直後、夕凪が着けている腕時計の長針が文字盤の『12』を通過した。

 

 

 

 オーニソガラムの犯行予告が訪れた。

 しかし、オーニソガラムが来る様子はない。

 『まさか勝負から逃げたのか』などと報道関係陣がざわめき始めたその時。

 一人のカメラマンが上空にカメラを向けて撮影を始めた。

 そしてその場に居た者達も注目を上空に向け始める。

 ――探偵局本部ビル上空、ビルを囲むように旋回飛行している白い物体があった。

 それは羽があるように見え、まるで白い鳥の群れが本部ビルの周りを回りながら監視しているようだった。

 その数は十数体。よく見るとそれは鳥ではなく白いグライダーだ。

 白いグライダーに純白のドレス。闇夜に映える何人ものウェディングドレス姿のオーニソガラムらしき人影が本部ビルの周囲を飛行している。

 それを見た周囲のざわめきが一層増す。そんな中、録音してある音声が辺り一帯に響く。

『怪盗オーニソガラムと申します。探偵局総局長埋柄夕凪の勝負、受けに来ました。さぁ、楽しみましょう』

 そして、録音音声が途切れる。すると…

 ――窓ガラスが次々に破れる音が響いた。

 



「……数が多いわね」

 窓ガラスの破れる音声を聞いたそよぎはライブ達が侵入したにしては人数が多い事に違和感を覚えた。

『もしかすると……』

 携帯ではなく他人に傍受されない通信機でそよぎに連絡するオリーヴ。

「何か心当たりがあるの?オリーヴ」

『はい、お姉様。確か以前凝人さんが物に協力した事があって……格闘術をある程度こなせる人型ロボット、です』

「ロボット……成程……確かにオーニソガラムの格好をしたロボットが一気に本部ビルの窓ガラスを破って侵入したとすればさっきの音の多さにも納得がいく」

 などと考えている時だ。

「……どうやら考えるまでもないようね」

「…え?」

 本部ビルの内部を駆け回っていたそよぎにせまる人影。それはオーニソガラムとそっくりの格好をした顔が無機質なマネキンだった。そう、これこそコルトがライブやそよぎから格闘術の動きを解析し開発したロボット。

 ロボットはそよぎを確認すると格闘術を構えからそよぎに襲い掛かる。

 だがそよぎはロボットの格闘術を軽く受け流し隙をついて押さえ込む。

「……これだけの立派な物を壊すのは気が引けるけど……はっ!」

 そよぎはマネキンの胸部を肘で叩き割った。

「格闘術の熟練者なら普通に倒せるレベルね。ただ、探偵が必ずしも格闘術が使えるわけじゃないから…私ならともかく他の探偵が心配ね…」

 しかも一体ならまだしもかなりの数がバラバラに侵入しているのだ。それらを一体一体潰していくのもライブ達に大きな隙を見せる事になる。

『……お姉様!』

「オリーヴ?」

『ここはオリーヴに任せてくれませんか!?』

「何か策があるの?」

『はい!』

 オリーヴは元気良く答えた。




「どうにか侵入に成功したようだね」

 本部ビルの向かいのビルの屋上からパソコンを操作しているコルトが呟く。

(三十二体。いくらそよぎさん達でも探偵局の探偵達でもこの数相手じゃそう簡単には…ん?)

 コルトは何かに気付く。眼鏡モニターに表示しているロボット達のリアルタイムのプログラム実行の様子がおかしいのだ。

(まさかこれは……コンピューターウイルス!?プログラムにハッキングしてロボットの動きを目茶苦茶にしている!?)

 これがオリーヴがそよぎに任せて欲しいと言った理由だ。

 オリーヴが探偵役の時に主に使っている虫型の小型ロボットがコルトのロボットの内部に侵入し、直接コンピューターウイルスを流し込んでいるのだ。

(……まさか俺の十八番を使うとは……しかもこれはあの小さい虫型ロボットの仕業か……くそ、ロボットの内部への侵入を防ぐための気密性が足りなかったか……だけど)

 コルトはにやりとほくそ笑むと、キーボードを鞄から取り出し打ち込みを始める。

(ハッカーがウイルスでビビると思うなよ、オリーヴちゃん)




(……あれ)

 オリーヴは熱源探知器から見たコルトのロボットの動きが正常に戻りつつある事に気付いた。

(……これって!?)

 虫型ロボットのプログラムを手持ちのパソコンで確認するオリーヴ。

(……ウイルスを流し込んでいる虫型ロボットに逆にウイルスが流し込まれている!?……そんな事って……)

 オリーヴはその場でぺたん、と尻餅をついた。

 そしてよく考えてみる。

(そういえばこのリアルタイムでプログラムをチェックできるシステムは凝人さんに教え込まれた物だった……なら凝人さんがこのシステムを利用してウイルスを流し込む事くらいできるのかもしれない……なら)

 オリーヴはまだ温存してある虫型ロボットを全て起動させた。

(……追加で起動させたこの虫型ロボット達で先にコルトさんのロボットに侵入している虫型ロボットからウイルスを除去するしかないです……)

 ここからは機械工学(実際の機械を組み立てたり設計についての学問)のオリーヴと電子工学(機械を制御する為のプログラムなどの学問)の凝人の全面対決というわけだ。




 緊迫している現場の中、鼻歌混じりでフリルが大量についたドレスと仮面の姿でまるで満開の花畑でも歩くように優雅にビルへと侵入する者がいた。

 スキーム…アルムだ。

 一方アルムを捕まえようとしている探偵はというと…防護盾をかまえながら物陰からアルムの様子を伺うのに必死だ。

「あらあら、私を捕まえるつもりならもっと近付かないと駄目なのではなくて?…もっとも、近付けたらの話ですけど」

 そう言うとアルムは指を鳴らす。すると、アルムの後ろに控えている機械―コルト作の自走式の小型砲台から手榴弾が探偵達の潜んでいる物陰へと放られる。

 次の瞬間、爆発の衝撃と耳をつんざく爆発音が本部ビルを揺らす。

(私の…いえ、点状に意識を残す能力で手榴弾の動きを操り爆発の衝撃波を軽く当てる程度に手榴弾を爆発させる事で相手を爆死させないようにする。これなら不殺を守りながら遠慮なく手榴弾を使う事ができるのですわ)

「…なーるほど。ちゃんと火薬の量も調整してあるんだねー」

 そう言って拍手と共に現れたのはアルマだった。

「あらあら、まだ余裕ぶっている人が居たんですのね」

「別に余裕ぶってなんかないよ。これがアタシってだけ」

 アルマは構える。そしてアルムの後ろの小型砲台めがけて走る。

(……無策で突っ込んで来るんですの!?)

 アルムは指を鳴らして小型砲台に手榴弾を発射させる。

「はっ!」

 アルマは放られた手榴弾を手で弾き返す。弾き返された手榴弾は小型砲台の少し後ろ当たりに落下した。

(流石お姉様。私を傷つけないように小型砲台だけを破壊するように手榴弾を弾き返したんですのね……ですが)

 アルムが指を鳴らすと手榴弾の運動方向が急角度に曲がり、逆にアルマへと手榴弾が向かう。そして方向転換した手榴弾は爆発の衝撃波が軽く当たるような位置で爆発した。

(私の能力痕に対してはがむしゃらに突っ込んでも…!?)

 アルムが僅かに油断した隙をつき、爆煙の中から姿を現したアルマが小型砲台に蹴りを放った。

 砲台は一瞬の内に砕け散る。

(……そうですよね。お姉様はいつもそう)

 アルムは横の壁が丸ごとくり抜かれているのを見て納得する。

(私に無策で突っ込んで本能的に防御したのですわね。壁に能力痕の力を使い、液状に近い程柔らかくしてくり抜き、

 瞬時に壁を元の硬度に戻し盾にする。これなら素早過ぎて能力痕の力を使った事すらバレない)

 アルムは仮面の下で微笑んだ。

(……きっとこれからもずっとそう。どんな時でも躊躇わず自分を信じる事の出来るとても強く素敵な、私の憧れるお姉様。……そんなお姉様だからこそ、私はお姉様の虜なのですわ。……ですが)

 アルムは仮面の下の微笑みをにやりとした笑みに変える。

(勝負は勝負ですわ。……本気でいきますわよ)

 アルムは懐に隠していたスイッチを押す。

「…む?」

 砲台を壊し一瞬呼吸を整えたアルマは何か大きな物が移動してくるのを感じた。直後、壁が破壊されアルマに巨大な影を落とし現れたのは…

 ――さっき破壊した小型砲台よりも遥かに大きい見るからに大量に兵器を積んである砲台。キャタピラで移動するそれの大きさは本部ビルの中で一番広い通路をギリギリ通れるかどうかぐらいだ。

「……えーと……」

 さっきまで余裕の表情だったアルマの顔がみるみる内に青ざめていく。

「てっ、てったあああい!」

「お待ちになってー♪」

 アルマが慌てて逃げ、アルムが楽しそうに追う。

 



 シン…と静まり返った広間。その中央で佇む長い銀髪の一人の探偵-そよぎ。

 そこへやって来る純白のウェディングドレスにヴェネチアンマスク姿の一人の怪盗-ライブ。

「…お見通しって事、ですか」

 怪盗は、広間の中央に居る探偵の存在に気付くと、妙に納得したように言った。

 そよぎだけが大広間に居るのも他の探偵の邪魔が入らないようにする為そよぎが仕組んだのかもしれない。

「ふふ、さあ?貴女が計算高い事を考えればここに来るのも有り得ると思っただけ。あとニ、三分誰も来なければここを離れて別の場所に貴女を探しに行っていたかもしれないわね」

「…それはどうでしょうね」

 ここは本部ビルの地下大広間。探偵達の集会に度々使われる場所だ。

「それにしてもなんでここに?最上階に行くなら直通エレベーターを利用したり最上階の窓や屋上から侵入するなり他にいっぱい手段はあるでしょうに。ここには外に通じる非常用エレベーターくらいしかないわけだし」

 そよぎはライブに向かって問う。

「そこまで解っていてわざわざここで私を待っていた、ということはもう私がここに来た理由は解っているみたいですね」

「さぁ……ね」

 ここまで会話が続くと、互いに相手の出方を伺うように黙る。

(もうそーちゃんは気付いている……私の狙いに)

(ライブ、どうするの?まさか別の手段とか考えてないでしょうね……本部ビルをくまなく探してもライブの狙いはこれしか見つからなかったんだから……)

 ――数秒後、先に動いたのはライブだった。真っ直ぐそよぎの後ろ側にある非常用エレベーターへと走る。

(……手段を読まれても手段を変えず正面突破。アルマさんから大胆さを学んだのかしら……でも!)

 そよぎは手に握っているピアノ線に意識を送る。

 すると広間全体に蜘蛛の巣のように張り巡らされたピアノ線がライブを拘束した。

「ぐっ……」

 全身にギリギリと食い込んでくるピアノ線にライブは苦痛の声を漏らす。

「下手に動かないで。血が出てしまうわ」

「……お気遣い、感謝します」

 ライブのまだ余裕のある態度を見たそよぎはライブにはこの手段を打破する手段があるのかと思い、辺りを軽く見回す。

 次の瞬間。

 マスクの下のライブの顔に第三段階の能力痕の痣が浮かぶ。

 すると大広間の壁がバタン、バタンと次々にはずれていく。

 その際壁に端を固定していたピアノ線は支えを失い、それに直結しているライブを拘束していたピアノ線ははらり、と落ちる。

 (ライブの能力痕の力はもはや金属だけでなくどんな物体にも有効なのね…しかも対象物を頭に浮かべる過程をもほとんど必要としてない。なら、これはどう!?)

 そよぎは床に置いてあった捕縛ネットを発射するバズーカを撃つ。

 これはオリーヴ特製バズーカ。発射した網を網自体に大量に取り付けられた小さいブースターで発射後に動きを操作出来る。

 ライブはすかさず用意していた手榴弾を投げた。そして第一段階の能力痕の力を使用するライブ。

 するとライブの手元に手榴弾のピンのみが引き寄せられる。

 それと同時に爆発する手榴弾。そよぎが発射した網を爆発で吹っ飛ばす。

 (今度はアルムさんの得意武器を…アルムさん程のコントロール力は発揮できないだろうけどあれなら普通に投げるよりピンを抜くタイミングに余裕ができて精度が上がるわ)

 そよぎが爆発で怯んだ一瞬をつき、ライブはライフル型麻酔銃を撃つ。

 そよぎは避ける体勢をとるがライフル銃から撃たれた弾がそよぎの脚をかすめてしまう。

 (くっ…咄嗟に撃ったにしては何て命中精度。恐らく端鞘さんの作った強力なセンサーを何個も内蔵した銃なのね)

 そよぎは注射器で麻酔を中和する薬を脚に打ち込むと、ライブに向き直る。

 するともう目の前からライブの姿は消えていた。

 気配を感じたそよぎが後ろを見ると、ライブがホバークラフトのように浮きながらエレベーターへと疾走していた。

 (あの速さ……ハイヒールに増長天と同じ移動方法の技術を仕込んでいるのね……)

 ライブはエレベーターの前までつくと電子ロックの鍵を開けようとする。

 しかし、何故か反応しない電子ロック。

「まさか……」

「ふふふ……」

 笑うそよぎ。

 実はこれはそよぎの作戦。本部ビルを調べた際に見つけた本部ビルへのライブの細工。それは本来外にしか繋がっていない非常用エレベーターのゴンドラの天井の穴から出ると本部ビルの外と中の間のスペース、つまり建物の裏に出られる事を利用して、最上階へ行く直通エレベーターのゴンドラへと非常用エレベーターのゴンドラから乗り移れるようにしたのだ。

 これなら正面突破などせずとも最上階へ行けるのである。

 そよぎはこれを知って非常用エレベーターの入り口の電子ロックを壊して使用不可にしてハリボテの偽の電子ロックを設置して非常用エレベーターを封じたのだ。

「……こんな事をしてよく不便しないで済みましたね。非常用の電子ロックは異常を感知すると自動で開くようにしてなければならないのに」

 扉が開かないとなれば爆弾などで破壊しなければならない。

 しかしそれにはそよぎを完全に身動きしないようにしなければ扉だけを破壊する慎重な爆弾設置はできない。

 そう判断したライブはそよぎに向き直り言った。

「えぇ、実際数十分前までは普段通り非常時にきちんと作動するようになっていたわ。……見回りという名目で私がここに来る前までは、ね」

 そよぎは見回りの時に電子ロックに細工をした、という事なのだろう。もっと事前にゴンドラに細工していたライブとは対照的に。

「……どうやら」

「えぇ。ここは逃げも隠れもせず正面から戦わなきゃいけないって場面らしいわね」

 ライブとそよぎは互いに構えた。

「さぁ、競い合いましょうか!」

「えぇ!」

 互いの掛け声と共に二人が夢への情熱を更に熱く交えるのだった-ー。




「……はぁ、はぁ」

 アルムから逃げるアルマは物影に身を隠した。

 (さて……どうするかにゃ……このまま逃げ続けても状況は打破できないし……)

 考え込むアルマ。

「あらあら、何処ですか~?こっちですの~?」

 (声が近いし、キャタピラの音も近い。やばいにゃ……)

 ふと、アルマの目に留まったのはひしゃげた扉。

 アルムの爆弾の衝撃によって歪んだのだろう。

 (頑丈そうな扉……。この部屋ならやり過ごせるかも)

 アルマはひしゃげた扉を静かにこじ開け、部屋の中に入ると扉をそっと閉めた。

 (ん?真っ暗じゃなくて中央に何かある……)

 アルマが入ったのは薄暗いながらも広い部屋。丁度映画上映中の映画館と似た感じだろうか。

 そして何より気になるのは部屋中央にある物体。

 近付いて見てみるとそれは大きな球体だった。

 (でかっ!人が何人も入れそうなくらいでかいにゃ)

 そして何気なくその球体に触れてみると……

 ――けたたましい程のブザー音が鳴り響いた。

「え、なになに!?」

 アルマは動揺する。ここから離れなければと思ったが……

 (外にはアルムが居るし……)

 結局、薄暗い部屋の物影に隠れる事したアルマ。

 程なくして、薄暗い部屋に誰か入ってきた。

 ――その人物は夕凪だった。走って駆け付けたのであろう、息を荒げている。

「……そこにいるのは誰だ?おとなしく姿を見せてもらおう」

 声を低く、脅すようにゆっくりと言う夕凪。

「ご、ごめんなさい!アタシはただここに逃げ込んだだけで……」

 出て来いと言った声の主が夕凪がわかると、アルマは素直に姿を現した。

「アルマちゃんか」

 夕凪はその姿を見ると、荒げた息を整え落ち着きを取り戻すと、再び口を開く。

「これを見られたからにはそのまま帰すわけには行かなくなっちゃったな……僕も手荒な真似はしたくない。オーニソガラムとの勝負が終わるまで君はここでじっとしてれば君に危害は加えない。どうだい?じっとしててくれるかい?」

「……何で?」

「すまない、理由を教えるわけにはいかない」

 アルマは夕凪の瞳が本気である事を物語っている気がした。

「それは無理、かな……」

「そうか」

「で、でも!ここで見た物を無闇に言い触らしたりしないって約束します!」

「……それでは困る。この作戦、失敗するわけにはいかないんだ。どんな些細なミスの可能性でも放っておくわけにはいかない」

 そう言うと夕凪は革の手袋をはめ、上着を脱いだ。

「悪いが君の口、この勝負においてだけは封じさせてもらうよ」

「……ちょっと、話を聞い」

 アルマが一言言い終わる前に夕凪はアルマの間合いへと入っていた。

 危険を感じたアルマは咄嗟に防御体勢をとるが、その体勢のまま夕凪の拳で吹っ飛ばされた。

 だが空中で体勢を整えると夕凪に向かって構えたアルマ。

 (聞く耳持たないって感じにゃ。ならしょうがない、こっちも全力でいかなきゃ)

 アルマが夕凪に向かって走る。

 (能力痕を使うわけにはいかないから力押しってわけにはいかないけど関節技なら、男の人でも対抗できるはず……!?)

 次の瞬間、アルマは夕凪に手首を捕まれ、逆に押さえ込まれそうになる。

 (早過ぎる!くっ……)

 アルマは間一髪の所で夕凪に押さえ込まれる前に後ろに跳躍した。

「もう一度!」

 アルマが再び夕凪を押さえ込もうと夕凪の足元を狙う。

 だが夕凪は軽く跳躍してアルマの蹴りを回避、反撃の拳へと行動を転じる。

 アルマは腕を交差してギリギリ反撃を防ぐ。

 (なんで!?まるでアタシのしようとする攻撃が最初から読まれてるような……)

「……」

 驚くアルマに表情一つ変えない夕凪。そして夕凪がアルマに追い撃ちの蹴りを炸裂させる。

 アルマが吹っ飛ばされ、床に叩きつけられた。

 そんなアルマに夕凪が近付いて来る。

 (まずい、……え?)

 近付いて来る夕凪にどこと無く違和感を感じるアルマ。

 (夕凪さん、普段より雰囲気違うのはわかるんだけど無表情を通り越して無機質って感じがする。それにあの血……)

 アルマの感じた違和感は夕凪の手から滴り落ちる血を見て更に信憑性を増した。恐らく今さっきこの部屋の何処かにでもぶつけたのだろう。

 しかし夕凪は痛がる様子を微塵も感じさせないのだ。

 (普通なら本能的にガードできたはずなのに……ん?本能……?)

 この時、アルマの頭に閃く物があった。

 意を決して、アルマは立ち上がる。夕凪はアルマの間合いへと入る。しかしアルマはそこから逃げようとはせず格闘術を放つ。

 さっきまでの体捌きの応酬でアルマは夕凪には勝てないとわかったはずなのに、だ。

 案の定、アルマの攻撃は完全に防がれる。

 そして夕凪の攻撃がアルマの急所を狙う。

 だが――。

 アルマが夕凪の一撃を身体を僅かにひねり回避する。そしてひねった身体のぐらつきを遠心力に変えてそのまま反撃に転じる。

 夕凪はその反撃をダイレクトに受けた。

「ぐっ……」

 夕凪が吹っ飛ぶ。アルマは手をついてなんとか転倒を防ぐ。

 起き上がりながらアルマを見据える夕凪は驚愕の表情を浮かべた。

「……何がどうなった、って顔をしてるから教えるね。これは『防衛本能』だよ。まともにやり合っても勝てないとわかったからわざと急所を晒すように無防備に間合いに入った。そうすると、格闘術を身体に染み込ませてるアタシは本能的にそれを防御しようとするってわけ」

「な……」

「うまくいく確証はなかったけどね。なんだか夕凪さんアタシの動きを完全に読み切ってるみたいだったから、アタシですら自分がどう動くかわからない本能的な動きに賭けた。……夕凪さんもしかして読心術でも使えるのかにゃ?」

「……」

 夕凪は答えない。ただアルマに対して再び構えの姿勢をとるだけだ。

「そうこなくっちゃ……え?」

 そう言ったアルマの耳に聞こえたのは球体からの物音。ガン、ガンと球体の内部から拳をたたき付けているような音だ。

「……誰かそこに居るの!?」

「……!やめろ、それに触ったら……!」

 位置的に夕凪よりアルマの方が球体に近いため、夕凪が制止するよりはやくアルマが球体に触れていた。

 次の瞬間、球体が割れて中が解放されてしまう……。





「どっこですのー?居たら返事して下さいましー♪」

 本部ビル内部通路を大型砲台で闊歩するアルム。

 ――そんなアルムの前に突然、壁を破壊して何物かが現れた。

「な、なんですの!?」

 誰かが突然現れたのはわかったが壁を崩した時に発生した土煙によってそれが誰であるかははっきりと見えない。

「ま、誰であろうと妨害する人には容赦……」

 などとアルムが口走ろうとした時だ。

 アルムの乗っていた砲台が突然崩れ出す。爆発も一切せずまるで砂で作った城が崩壊するかのごとく崩壊した。

「きゃんっ」

 アルムは落ちて尻餅をついた。

 そして突然現れた何物かの姿が煙の中でようやく見え始めた時アルムが見たのは。

 ――白いワンピースに裸足の、顔、腕、脚にまで光る痣が浮かび上がっている少女だった。




 大広間で息の上がった少女が二人。ライブとそよぎだ。

 互いに頭と体を全力で駆使してやり合っているのだ、そうもなって当然である。そんな二人の通信機に突然緊急のコールがかかる。それもほぼ同時に。

 何か深刻な異常を感じ取った二人はお互いに通信機に出た。

「……スキーム?一体何があって……」

「アルマさん?」

 二人は数秒通信機で会話した後、周りにライブとそよぎ以外の気配が無いことを確認すると、お互いに顔を見合わせた。

「……緊急事態みたいだね」

「えぇ。ここからは私達も協力態勢をとるわ」

 二人は頷き合うと改めて行動を開始した。

 



 一瞬だった。

 堅牢な壁や柱、床でさえ音もなく崩れていく。

 光る痣を体に浮かべ、不思議な力で破壊している。つまり怪盗の血筋という事だ。

「何処……何処……」

 そんな崩壊の中心にいるのは悪魔でもなければ猛獣でもない。

 たった一人の少女だった。アルマが見つけた球体の中に居たのはこの少女だったのだ。

 少女は球体から出るなり暴走を始め、本部ビルを破壊しながらアルムの砲台をも破壊し、さ迷っているのだ。

「私は……私は」

 その少女は亡霊のようにフラフラとさ迷いながらぼそぼそと何かを呟いている。

「ああああああああっっっっっ!!!!!」

 突如少女が叫ぶ。泣きじゃくる子供のように。

 (あれは……せしらちゃん!?)

 その少女の様子を遠くから見ている、アルムの連絡で本部ビル一階に駆け付けたライブは驚いた。今能力痕の力で暴走しているのは永久村せしらなのだ。

「……お宝をとりにいくにはあの人を止めなきゃ無理なのかな……」

「その必要はないよ、怪盗オーニソガラム」

 ライブに後ろから話し掛けてきたのは夕凪だ。

「……埋柄夕凪」

「何故なら、君さえ止めれば今暴走しているあの子も止まるからね」

「どういう事なのか、説明してくれませんか。そんなに思わせぶりな台詞を言うのなら」

「そうだね……君も納得いかないまま能力を失うのは嫌だろうし、もしかしたら僕に協力してくれるかもしれないし一応言っておこうか」

 夕凪は長くため息をついた。そして――

「時間もないので手短に話すよ。まず君と、今暴走している少女せしら。君達は同類だ」

「……そんな気はしていました」

 同類というのは、せしらもライブと同じく怪盗の血筋だという事なのだろう。


「――しかし同類といってもせしらは特別だ。何せせしらの正体は『オリジナル』の怪盗の一人、怪盗ポンゾなのだから」


「――!!」

 ライブはその言葉に動揺を隠せないでいた。




「き……協力態勢をとったって……」

「あれじゃ近付く事すらできませんの」

 物影に隠れながらせしらの様子を伺うアルマとアルムは呟いた。

「……うーん……そもそも永久村さんがどの怪盗の能力痕なのかも解らないんじゃ対策のとりようもないなぁ」

 向かいのビルから降りてアルマとアルムに合流した凝人も途方に暮れた。

「近付いた物を何でも破壊する能力?」

「いやいやアルマちゃん、そんな能力ないから。絶対的な力はないって言ってたじゃないか」

「でもあの破壊っぷりを見る限りとても勝てそうにはないですわね……探偵達もみんな逃げ出してますし」

『なら、オリー…いえ、私に任せて下さい!』

 突然通信機からオリーヴの声。

 その直後、凝人達の頭上を増長天が跳躍して通過、せしらへと向かって疾走する。

「そうか、相手が能力痕の力で物を壊しているのなら!」

「キャタピラで動く速度の遅い砲台や動かない建物、方向が予測しやすい銃弾ならともかく増長天のような速くて複雑な動きをする対象物に対しては有効ではありませんわ!まして増長天は複雑な構造!」

「いっけー!増長天ー!」

『せしらちゃん!』

 増長天がせしらを捕らえようとせしらに触れた時。

 せしらに触れた先から増長天がバラバラに崩れていく。

 凝人、アルマ、アルムの三人が 心の中でオリーヴの名を叫ぶ。

 瞬間、三人はオリーヴの死を覚悟したからだ。

 しかし。

 崩れたのは増長天だけで、中にいるオリーヴは無傷で投げ出された。





「……あの少女が怪盗ポンゾ」

 ライブは呟く。

「そうだ。現存する唯一の面状物体に意識を残す能力を持つ者だ」

「埋柄夕凪。貴方はどこまで怪盗を知っているのですか?……いや、質問を変えましょう。貴方は何物ですか?」

 怪盗ヘリングである父から怪盗についての詳細を聞いたライブ達でさえ知らない怪盗ポンゾの所在、そして夕凪の知っている事は明らかに普通の探偵局の探偵達でさえ知らない事だ。 何物であるか疑問に思うのも当然である。


「『調停者』だ。いや、正確に言うと『調停者本来の志を目指す者』かな」


「どういう事ですか」

「『調停者』は君達のような特殊な能力を持った怪盗を管理する組織だ。そして僕は……」

「……」

「『調停者』を潰した者でもある」

「潰れた……!?『調停者』が!?」

「そうだ。もう組織は既にない」

「そんな事信じられるわけ……」

「一人の探偵でしかない僕が組織を壊滅させられるわけない、と?そうだね、普通ならあの組織を壊滅させるなんて不可能だったろうね。……なら、明かそう。この僕の正体を、ね」

 夕凪ははめていた革の手袋を脱ぎ、腕をライブに見せるように前に出した。

 ――夕凪の腕には、能力痕の痣と酷似している光る痣が浮かび上がっている。

「僕は元は組織に属していた人間だ。組織に居た頃は組織の本来の目的である平和の為にと頑張っていたよ。だがいつしか組織は僕とは相容れない方向へ歪んでしまってね。金目的で非人道的行為に手を染め始めたのさ。そして一番僕にとって衝撃だったのは冷凍睡眠していた一人の少女を組織が保護した時だ」

 (……やっぱり)

「その少女がせしらさ。組織はあの子を兵器として意のままに操る事を画策していた」

 (冷凍睡眠されていた『オリジナル』がお父さん以外にも居たんだね……)

「僕はそれが許せなくてね。そこで組織の実験体にされてたおかげで身についていたこの力で組織を潰したのさ」

「実験体……!?」

「組織は『オリジナル』と同等の力の再現を目指していた。その中で出来た技術で僕にこの力を付与したというわけさ。ま、所詮『オリジナル』と同等の力は出来なかったがね。おかげで僕のこの力でせしらに影響が及ぶ事はなかった……が、この力は組織を潰しても有り余る程の力だったが」

「有り余る程……」


「僕のこの力は最強の『オリジナル』である怪盗ルビンと同じ力。『対象範囲内の物理現象を解析し、自然由来の物理現象の流れを操る力』さ。例えば人間の筋肉。この力ならどこの筋肉か収縮しているかが手に取るようにわかる為、相手がどう動くかは通常見て判断するしかないが僕は何処に力を入れ始めているかすらわかる。まぁ、人の意思によって引き起こされる物理現象、つまり筋肉の動き自体は操る事はできないから相手を意のままに操る事はできないんだけどね」


 (……怪盗ルビンの能力。それは自然由来である能力痕の力を管理する為の力。そして全ての現象を見通す力。つまり私達怪盗の血筋の能力を使った瞬間、その能力による全ての物理現象が掌握されてしまう。さらに能力痕の力を使わなくても、対象範囲の限界はあれど全ての物体の動きは解析され対策されてしまう。まさに無敵にして最強の能力……)

「……まぁ僕の事はこのくらいにして。この能力は一つの大きな自然の流れを何人もの怪盗が分け合って使っている。だから能力を使う者同士大きな自然の流れを経由して繋がっているようなもので、大きな自然の流れに乱れが生じた場合、能力の素養が高い者には影響が生じる」

「……つまりせしらというあの少女が暴走しているのにはその流れの乱れが影響しているという事ですね」

「ああ。実は彼女は過去の怪盗としての日々の記憶を忘れていてね。だがつい最近大きな流れの乱れを感受してしまったせいで記憶の混乱を招いた。そのせいで情緒不安定になりせしら自身能力を使っている自覚がない。ちなみに今触れる物全てを壊しているのは面状の物質にせしらが破壊願望を意識として流し込んでいるためだ」

 (面状物質……という事は機械や建物のような角ばった物体の集合体は触れた瞬間破壊するけど人間のような丸い物体の集合体は破壊しない、という事なんだね)


「せしらの事もこれくらいにして、本題に入ろう。僕は前にあった『破滅の花』を巡った事件での君の事は調べ尽くした。それと同時期に起こったせしらの異常。これらの事実を組み合わせると導き出される答えは一つ。どんな手段を使ったかは知らないが怪盗オーニソガラム、君は大きな自然の流れを乱す程強大な力を使えるという事。それがある限りせしらの記憶の混乱は避けられない」


「だから私を廃除する、と」

「殺しはしない。だがその怪盗の能力は封じさせてもらう。今、僕はとある特殊な薬を持っている。これは人の身体を自然物質に変える作用を抑える薬だ。……有り体に言えば怪盗の力を封じる薬だよ。もし君がこの薬を摂取するのなら相応の配慮はしよう。富、名声。探偵局が用意できる物なら出来る限りの配慮をね」

「お断りします」

 ライブは即答した。

「安心した。これで心置きなく君を怪盗として再起不能に追い込める。正直金とか権利を利用して事を納めるなんて大嫌いだからね、君には礼を言いたいぐらいだよ」

「正直なんですね、少し見直しました」

「それはどうも」

 そしてライブと夕凪が相対する。





「……しっかりして、目を覚まして!」

「……」

 オリーヴをなんとか連れて帰って来た凝人は目を覚まさないオリーヴに必死に呼び掛けていた。

「……ぅ」

「良かった、気が付いた……」

 凝人はほっと胸を撫で下ろす。

「……あ、あの……」

「無理に喋らないでいいよ。今すぐ裏医者に」

「だい、じょうぶです」

「そんなわけない、いいから無理しないで」

「……だい、じょうぶですから……それより、機材を」

「機材?大丈夫って……まぁ機材ならあるけど。予備の増長天のエンジンも」

「良かった……じゃあそれを私の手の届く範囲に置いてくれませんか……」

 凝人はオリーヴの言われるがままにする。

「ありがとう、ございます。ちょっと、あっち向いて貰えますか……」

「え……う、うん」

 凝人がオリーヴに背を向ける事数分。

「こっち向いて平気ですよ」

「わかった、じゃ向くよ……ってえええ!?」

 凝人は素っ頓狂な声を出す。何せ一人で立ち上がれそうにもなかったオリーヴがさっきまでの状態は嘘だったかのように平然と立っているのだ。

「だ、大丈夫なの?」

「はい、この通り」

 オリーヴはその場でくるっと一回転してみせる。

「……何の魔法使ったの」

「うーん、やっぱり驚きますよね。実は私、身体の一部が機械なんです」

「……は?」

「さっき増長天の予備エンジンの一部を移植して持ち直したんです」

「あ、まさか……昔は五体満足じゃなかったって言ってたけどそれと関係が」

「はい。私が普通の生活を送るには足りない器官を人口物で補って、その上で機械を埋め込んで補助しなければいけなかったので。どうやらせしらちゃんの能力は機械には通じるけど人間には通じないみたいですね、生身の部分には一切怪我がないのが良い証拠です」

「……これは憶測なんだけどもしかして増長天が君にしか操縦できないのにも関係が」

「すごい、あたりです!最初、韋駄天はお姉様達に使わせるため作ったんですけど、実際出来上がった韋駄天は生身の人間が使っちゃ肉体的に耐えられないレベルにまで危険な物になってて……機械の身体の人なら普通に使えるレベルだったんですけどね」

「何てこった……」

「それよりせしらちゃんを止めないと。生身を傷つけない能力ならまだ手はあるはずです」

「けどさ……」

 凝人は様々な物を破壊しながらさ迷うせしらを見て言う。せしらの周りでは破壊された物の残骸が縦横無尽に飛び交っていた。

「そもそも生身じゃ近寄る事すらできないんだよね」

「……そうですね」

 凝人とオリーヴはうなだれるのであった……。




「成る程、大体の話はわかったわ」

 ライブとは違うルートで緊急事態の確認に来たそよぎが凝人、オリーヴ、アルマ、アルムの四人と合流して事情を聞いた。

「つまりアルマさんがうっかり開けた球体の中に能力痕の力を発現させた永久村さんが居たと。そして永久村さんが暴走して球体の部屋から外へ出てアルムさんの使っていた砲台を破壊した。そして今色んな物を破壊しながら暴走中というわけなのね」

「情報を統合するとそんな所です」

 凝人が頷く。

「恐らくその球体は永久村さんの能力を抑える為の物でしょう。ここから導き出される事は、永久村さんは『面状物体に意識を残す』怪盗ポンゾの血筋って事ね」

「そうか、球体で囲んでおけば面状に意識を残す事は出来ない。つまり能力を封じられるって事か!」


「その通りよ。問題は他にもあるわ、今の永久村さんを見る限り痣が第三段階どころかオーニソガラムが発現した第四段階より多い。さながら第五段階とも呼びましょうか。しかもこれだけの力を発現できるという事は永久村さんは第二世代……いいえもしかしたら怪盗ポンゾ本人なのかもしれない。怪盗ヘリングだって病死さえしなければ今生きていたっておかしくないもの、有り得ない話じゃないわ」


 そよぎの解析力に驚く四人。

「普通に考えたらあんな強大な力は私達が勝てる相手じゃないわ」

 そよぎの言葉にごもっともだ、といった感じで頷く四人。

「けどそれはあくまで一人、タイマンの場合よ。今私達は一人じゃない。きっとみんなで力を合わせれば切り抜けられるわ」

 四人は明るい表情で頷いた。

「そこでだけど、スキーム。私達をフルに使って永久村さんを止める方法、何かないかしら」

「え、えぇ!?私ですの!?」

 突然指名を受けたアルムは慌てる。

「えぇ、そうよ。前にフェイクのお宝を目の前で壊して混乱させる作戦で私の度肝を抜いた経験のある貴女にこそ頼めるのよ。頼りがいのある戦略センスってやつね」

「で、でも私がそよぎ様を越える戦略を思いつけるかどうかなんて」

「あら、自信ないの?『愚か者の中の愚か者』の戦略はそんなものかしら?」

「……っ!……ですが、そんな」


「この戦略が上手くいけばライブにお仕置きという名のご褒美が貰えるかもしれないのに残念ね」


「やりますわ」

 

 即答。アルムはきっぱりと言い切った。

(そよぎさんの人心掌握術がすごいのかアルムちゃんが単純なのか……ま、やる気になって何よりだけど)

 凝人はこの緊迫した空気の中よくこんな話できるな、と思ったのであった。




「……以上が、私が考えた作戦ですわ」

「ふーむ……確かに。相手が正気を失っているのなら心理作戦は効かないだろうし……」

「……ねぇ、スキーム。前準備として私の『とっておき』を使えないかしら」

「その提案は魅力的でその『とっておき』も素晴らしい物なのですけど…もう一押し欲しい所ですわね……」

「そう……ならこれでいくしかなさそうね」

「そのもう一押し、私ができない?」

 突然、五人に向かって話し掛ける者がいた。

 赤茶色の美しい髪、長身で長い刀を持つその人物は--。

「シルフさん!!」

 オリーヴは駆け付けたシルフに抱き着く。

「貴方、怪我はまだ……」

 そよぎが心配して声をかける。

「大丈夫。身体の一部に痛みをごまかす為の麻酔は打ってあっていつも通り動けるわけじゃないけど能力痕なら普通に使える」

「……いけますわ!」

 アルムが突然声を大きな声を出した。

「これで戦略は完成しましたわ!皆様がやれる事を失敗しないように慎重にこなしさえすればきっと成功しますわ!」

 ――そしてアルムの指揮の元、作戦が開始された。


 シルフはオリーヴに肩を貸してもらいながらせしらに向かって歩いている。

「大丈夫ですか?」

「貴女こそ大丈夫?増長天がない今、無理に作戦に参加する必要なんてないのに」

「大丈夫ですよ。それに私はただシルフさんの力になりたいだけですから」

「……ありがとう」

「私こそありがとうございます、いつも守ってくれて。あ、このくらいでいいんじゃないでしょうか」

 今丁度オリーヴとシルフはせしらが目視で確認できる位置に着いた。

「うん。オリーヴ、私の後ろに下がってて」

 オリーヴは肩を貸すのをやめてシルフの後ろに下がる。

 (私はかつて自分の超能力で人を怯えさせていた。小さい時だったから力のコントロールが出来なかったせいもあるけど何より私の力は物騒だったから)

 シルフはせしらの周りに意識を集中させた。

 (だから私は考えた。自分で自分に条件を課そうと。その条件付与と義母のおかげで少しずつ自分の力をコントロールできるようになっていった)

 そしてシルフの身体に第三段階の能力痕が浮かび上がる。

 

 (けど今だけは私がずっと私に課してきた条件をなくす)

 

 シルフは心の中で強く決意した。




 (落ち着いて……私。集中するのよ)

 ワイヤーで少し低めのビルの屋上に登り、屋上からせしらを見下ろすそよぎ。

 (私の能力、怪盗ミュラーリヤーの能力は長い間『端に触れているひも状を操る』力だと思っていた。けど真実は『線状に意識を残す』力――つまり今までの自分は能力の一部しか認識していなかった。これは『調停者』による情報操作が原因なんだろうけど)

 そよぎは目をつぶり、両腕と両手を大きく広げた。

 (今まで私はワイヤーやひもにしか能力痕の力を使わなかった。けど私の本当の能力は線状に意識を残す力。線は流れ。流れは動き)

 そよぎの身体に第三段階の能力痕が浮かぶ。

 (動く物とは流体。つまり私の能力は……)

 そよぎを中心に風が渦を巻いていく。

 

 (流体を自在に操る力でもある――)


 そよぎは目を開いた。そしてせしらの周りに意識を集中する。




「今ですの!」

 アルムが通信機で合図をする。

 まずシルフがせしらの周りに能力痕の力を使った。

 するとせしらの周りの残骸が奇妙に歪んだ。

 固い金属で出来ているはずの壁や柱の残骸が崩れず紙のようにくしゃりと曲がったのだ。

 

 (これが私の本来の力。『対象物の変形の振れ幅を歪ませる』力。いわば対象となった物を物理法則を無視して滅茶苦茶な形に変形させる力。普段私が超能力でよく使う手法、衝撃波を対象物に吸収させて増幅された衝撃波として対象物から放出するのは物質が歪んだ状態から元の形に戻るまでの過程を利用した副産物に過ぎない。――そして私が自身に課した条件。それは私の意識は必ず自分の携帯する物だけに向ける事。こうすれば意識が壊したくもない物に向かいにくくなって暴発を防げる)


「次!お願いしますの!」

「えぇ!」

 アルムの次の指示を受け、そよぎがシルフの力の効果を受けた残骸に意識を集中させた。

 するとその残骸は風に乗ってせしらの周りを高速回転し始める。

 シルフが残骸を紙のように歪ませたのは風に乗りやすくする為だったのだ。


(流体――今操っている風はワイヤーやひものように長さに制限はなくどこまでも繋がっている。つまり途中で完全に風の流れを遮断されないなら私の体力の続く限り風を思うまま操れる。それも今回は溜まりに溜まったビル風(ビルによって複雑な流れになった風で速さが通常の風よりも速い場合が多い)を操っている。障害物のない更地の風を操るより効果は上がるはず)

 

 そよぎの操る風は残骸と共に回る事でせしらを閉じ込める檻を形成しているのだ。

「今ですの!最後の仕上げ、お願いしますの!」

「いっくよー!」

「おう!」

 せしらを風と残骸の檻で閉じ込めている隙に、凝人を肩車しているアルマが綱の端を握りながら能力痕による筋力増強を全力で使い、疾走する。

 そして風と残骸の檻の目の前までたどり着く。

「着いたよ!」

 アルマが通信機に向かって叫ぶ。

 その通信を受けたシルフとそよぎは能力痕の力を止める。すると風と残骸の檻は消え失せる。

 檻が無くなると、檻の中心に閉じ込められていたせしらが姿を現した。突然消えた檻に戸惑っているようだった。

 そのせしらにアルマに肩車されている凝人が麻酔銃を撃った。

 せしらはその場に倒れ込んでしまう。

「これが最後の!しあげえええっっっっっっ!」

 アルマが掴んでいた綱を全力で引いた。

 するとアルマが掴んでいた端とは別のもう一方の端に繋がれていた物が高速でアルマの元へと飛んでくる。アルマはそれを見事にキャッチした。そのキャッチした物とはせしらを閉じ込めていた、アルマがうっかり開けてしまった球体だ。

 アルマは能力痕による怪力で球体を開けてせしらを球体の中に入れると球体を固く閉じた。


「「「「「「………………」」」」」」


 静寂が、訪れた。

 能力痕による体力切れを起こし倒れるそよぎとシルフ。

 肩で息をしながらその場にへたりこむアルマとアルマの上から降りて安堵の息を吐く凝人。

 オリーヴは倒れたシルフを肩を貸して起こしていた。


「やった……」


 この凝人の台詞はその場にいた全ての者達の意思を代弁していた。




「……怪盗オーニソガラム。君はどうやら素晴らしい仲間を持っているようだね」

 (すごい……みんなすごいよ。あの状況を切り抜けるなんて)

 せしらが物を破壊する時に発する激しい音が突然止んだ。それに気付いたライブと夕凪。

 ライブは仮面の下で思わず微笑んでしまう。


「だが、根本的解決には至っていない」


 そんなライブの表情も夕凪の一言で掻き消された。

「……私はこの力を失うわけにはいかない」

「後に引けないのは僕も同じだ。怪盗オーニソガラム、覚悟してもらおう!」

 夕凪の手に光る痣が浮かんだ。

「くっ……」

 ライブは一旦後ろに下がる。格闘術を挑もうにも勝てそうな相手ではない上、能力痕の力を使えば更に不利に成り兼ねないのだ。

「逃げているだけではどうにもならない事くらい君にはわかっているだろう」

 (もちろん。だけど今は正面から挑んでも私が疲弊していくだけなのは明白……)

 そんな時、ライブの脳裏に思い出されるのは父の言葉。

 ライブは意を決して夕凪に対峙した。

 夕凪が先に動き、ライブの間合いに入る。

 が、夕凪の拳は見事にライブに止められ、夕凪はライブの腕に関節を抑えられる。そしてそこからライブの反撃が始まる瞬間――。

 ライブの拳が夕凪の肩に止められる。

「なっ……」

「いい狙いだ。わざと僕に先手を取らせて僕の攻撃を受け止め、そこからの反撃。僕の能力が超能力相手以外だと完全に解析能力、つまり後手タイプなのを考慮しての戦略。……けど甘かったね、君の筋肉の動き始めが丸わかりという事は僕はいつでも後手戦略を完成させられるという事。関節が封じられようが攻撃予測さえ出来れば身体中何処でも防御できるようにしてあるのさ僕は。後手戦略を完成させる為にね」

 (まぁ、戦闘の時は相手の動きをあまりに気にするようになるから、代わりに普段から自然に使っている本能的防御がおろそかになるけどね。アルマちゃんにその隙をつかれた時は驚いたが)

 夕凪は心の中で苦笑した。

「……見事です、埋柄夕凪。ですが」

「!?」

 夕凪はライブの余裕に危機感を覚えたと同時に。

 夕凪の光る痣が浮かんでいる腕がライブの手元に引き寄せられ、夕凪の姿勢が大きく崩れた。

 (やっぱり……お父さんが『調停者』に対して有効だと教えてくれた痣に対して力が効果絶大という情報は夕凪さんですら知り得なかった)

 ――だが次の瞬間、ライブは地にねじ伏せられた。まるで見えない隕石が背中に直撃したように激しく。

「……う……あ、あぁ」

 あまりの衝撃に言葉を上手く出せないでいるライブ。

「危なかった。あと一瞬遅れてたら姿勢を崩した僕が君に関節技でねじ伏せられていたところだったよ。まさかあんな隠し玉があるなんて」

「……な、なんで……」


「なんでって、君が使った『対象を引き寄せる』力を掌握して君を地に引き寄せられるように操作したんだ。それに言っただろう、身体中何処でだって防御出来るようにしてあるって。念の為超能力による不意の一撃対策として僕の全身には怪盗ルビンの力を常に纏わせてあるのさ、戦闘中だけの話だけどね」


「う……」

 ライブは地にねじ伏せられたダメージが思ったより深刻らしく、意識が朦朧とし始めていた。

「殺しはしないから安心して。用さえ済めば病院に連れていくから」

 ライブの腕に向けて注射器を構える夕凪。

 (あのシルフという女性も病院に連れて行ったのは僕だし……死なせないようにするのは探偵の常識だ。それにしてもシルフさんといえば…まさか怪盗の血筋で、しかもあんなに正確に衝撃波を操る応用の仕方をしていたとはね。僕の掌握能力でも反射するのが精一杯で、ついシルフさんの身体の内部に怪我を負わせてしまったのはしくじったな)

 夕凪は心の中で呟く。

 (……そーちゃん。ごめんなさい、もう私駄目みたい……)

 ライブが目を閉じると、ライブの頭の中に浮かぶのは仲間のいた日常。そよぎのいた日常――。

 ライブが突然目を開く。

 『まだ諦めない』と言っているかのように。

 直後、突然向かって来た巨大な看板がライブにぶつかった。その衝撃でライブは吹っ飛んだ。

 唖然とする夕凪。いきなり目の前に倒れていた少女がいきなり飛んできた看板で吹っ飛んだのである。驚くのも無理はない。

 

 ――しかし、夕凪はこの瞬間見てしまったのだ。吹っ飛ばされたライブの表情が心なしか微笑んでいるのを。

 

 そう、飛んできた看板はライブがわざと能力痕の力で引き寄せたのだ。

 わざと自分にぶつけて自分を吹っ飛ばす。夕凪と一旦距離をとる為と無理矢理ではあるが吹っ飛ばされて空中に投げ出される事で起き上がる手間を省略したのだ。

 空中でライブが姿勢を整える。そしてライブは道に大量に落ちている何個もの石に能力痕の力を使った。すると石が空中に浮き、縦横無尽に飛び回る。

 

 ――しかしライブが姿勢を整える間に夕凪はルビンの能力を使う態勢を整えていた。夕凪は飛び回っている石にルビンの力を使った。が、効果はなかった。石はそのままルビンの力を受けず重力に従い落ちていく。

 

 バラバラと音を立てて落ちる石。

 しかしもう一つ騒がしい音があった。

 ――石同士がぶつかり合う音。その音が連鎖していき…。

 夕凪が嫌な予感を感じて周囲を見る。周りは建物だらけ、そして響き渡る何かが連続してぶつかる音……。

 ――次の瞬間、夕凪の両腕に大量に石がぶつかってきた。

「がっ……」

 夕凪の腕の力が一気に抜けていき、夕凪の腕から光る痣が消える。さらに石がぶつかった時の激痛で夕凪が倒れた。

「ぐ……あ」

 夕凪は倒れながら悶える。そんな夕凪に向かってライブがゆっくりと近付いて来る。

「……っ、一体、何をした」

 痛みが激しく続き、まだ腕は動かせないがかろうじて意識を保っている夕凪はライブに問う。

「……ビリヤード」

「!?」

「ビリヤードですよ。手球(キューでつく為の球)を的球(手球を当てる為の球)に当てるゲーム。といってもボールじゃなくて石ですけどね。……実はこの戦略、貴方が私にルビンの力を使ってくれなかったら思い付く事はできませんでした」

「……何……」

「ルビンの力が最強なのは知っていましたが実際に使う人を見るのは初めてだったので詳細までは知りませんでした。けど実際見て気付いたんです。ルビンの力の欠点に」

「欠点……」


「ルビンの超能力掌握能力の欠点ですよ。私達怪盗の血筋は体力を消耗して力を使っている。つまり発現させる力自体にもエネルギーがあって、時間が経つか効果を及ぼす対象物にエネルギーを受け渡せば消える。要するに怪盗の力は一度かければ二度と消えない魔法ではなく、効果にも際限がある極めて現実的な物なんですよ。そこで思い付いたんです。特に掌握能力は相手が使った能力を反射して使うという事は相手がどれだけ体力を込めて力を使ったかどうかでどれだけ持続するかどうかが決まる。相手依存の極めて安定性の低い力なんですよ。これに気付いたのは私が貴方に対して最初に力を使った時」


「あの時……」


「私は貴方の腕を力を使って引き寄せて態勢を崩そうとしました。その時実はあまり体力を使わずに力を使ったんです。その後貴方が私の力を掌握して私を地に伏せさせましたが、一瞬だけものすごい力がかかって倒れ込んじゃいましたがすぐに地に伏せさせる効果が切れたんです。つまり貴方は私の力を掌握してから放つ際、威力を高める代わりに短時間しか持たない力に変えたんです。掌握できる力のエネルギー総量は私が消耗した体力分しかなくて後から増幅できるわけではないので持続時間を犠牲にするしかなかった。大体私の力を掌握して地に伏せさせるなら出来るだけ長く伏せさせた方がいいのに一瞬だけ伏せさせるだけですぐやめるなんておかしいじゃないですか」


「……そこまで読んでいたのか」


「そこで思い付いたのがビリヤードです。ビリヤードは手球にまずキューで力を加える……つまりエネルギーを与えると手球は飛んでいく。そして当たった的球にエネルギーを受け渡して手球はエネルギーを失う。エネルギーを受け取った的球は別の的球へエネルギーを受け渡してはエネルギーを失う……これの繰り返しです。つまりエネルギーが物から別の物へと移っていくんです。埋柄夕凪、貴方が私の力を掌握しようと意識を集中させた石はビリヤードでいう所の手球。最初の基点を狙ったに過ぎなかったんですよ。そんな所を狙っても極めて高速でエネルギーの受け渡しが行われる中、全体の流れを掌握出来るはずありません」


「ちょっと待て……すると君はあの時、全ての石の弾道予測が出来ていたというのか」

「ビリヤードでの弾道予測は基本。今回は立体的だから他人からすればわかりにくかったかもしれませんが、石を撃った本人からすれば平面的な弾道予測の並列と考えればそんなに難しくはないんですよ」

 ライブは石を周りの鉄壁でビリヤードのように跳ね返らせて、最終的に夕凪の腕に当たるようにしたのだ。

「……それで君はどうする?今僕は動けない。この隙に僕を」

「腕を封じられて力が使えなくなった今の貴方にこれ以上危害を加える必要はありません。けど一つだけ言っておきたい事があります」

「……?」

「せしらさんの記憶を混乱させたくないから大きな力を使える私の力を封じると言いましたね」

「あぁ、言った」

「もしかしたら、せしらさんの過去の記憶が完全に戻ればたとえ大きな力を使って自然の乱れを感受しても記憶の混乱は起きないのではないでしょうか」


「……それは駄目だっっっっっ!!!!!」


 夕凪が動揺する。それもこれまで見た事のないくらいに。

「何故……」

「あの子は怪盗ポンゾなんだぞ!?裏社会の中心人物の一人なんだ!そんな記憶が戻ればあの子は深いショックを受けるだろう!……僕は」

 夕凪は俯き、叫ぶ。

「僕は裏社会がどんなに汚いか知っている。人の欲望の為ならどんな非道も平然とこなすような世界だ。冷凍睡眠から目覚めた時には家族もいない、一人だけのあの子はそんな過去は忘れたままであるべきなんだ。だから僕はあの子に裏社会ではない真っ当な世界で生きてもらう為に探偵になった」

「……それは貴方のエゴですよ」

「じゃあ君はせしらをあの冷たい世界へ放り出せと言うのか……!」


「違いますよ。人はどんなに辛くても過去があるから今がある。確かに記憶喪失の人が過去を知る事は時には残酷な事もあるでしょう。けど過去に何をしたか気になる感情は一生ついてまわります。それならきちんと過去と向き合い、そこから生きなければ真の幸せとは呼べない」


「……そんな事……そうだよ、君の言ってる事は正しい、正しいんだ……」

「……それにせしらさんはもう一人じゃない。何たってせしらさんの幸せを願う人が側にもう居るじゃないですか。……埋柄夕凪、貴方という人が。せしらさんが過去を取り戻してもこれからもずっと側に居てあげればいいじゃないですか」


「だから、じゃないか」


「え?」

 夕凪は目に涙を浮かべてしぼり出すように語る。


「好きだから……愛しているから……だから……今の関係を壊したくないから……ずっと側に居てくれなんて言えないんだよ……本当はせしらに過去を思い出して欲しくないのはもしせしらが過去を知ったら僕から離れていくんじゃないかって不安もあるからなんだ……」


「……あ……その、えっと」

 ライブは戸惑う。何せライブは色恋の事を語ったつもりはないからだ……。

「夕凪さん、今は一時休戦といきませんか」

「何……?」

「今から私の仲間の所へ行って、抑え込まれているせしらさんを解放しましょう。そしてせしらさんに過去の記憶を完全に受け入れてもらうんです。仲間には私から説得しますから」

「し、しかし……」

 夕凪は慌てる。そんな様子の夕凪を見てライブは夕凪の頬を思いっきり平手打ちした。

「逃げていたってどうにもならないと私に言ったのは貴方でしょう!いつまで逃げるつもりですか!?」

「……」

「……夕凪さん」

 しばらく沈黙が流れる。そして数秒後、夕凪はライブに頷いた。


「やっぱり怪盗は極悪人ばかりじゃなかったんだな……せしらや君のように、他人を思いやれる人も居る……」


 そして夕凪は呟くのだった。




「せし……ら……」

「……」

「……せしら!」

「……ゆ……な……ぎ?」

 麻酔の効果が切れ始め、せしらが夕凪の腕の中で目覚める。

「……う、あ……あああああ……」

 せしらの能力痕の力が発現する。

 周りの建物にひびが入り、崩れかける程に。

「オーニソガラム、第四段階とやらを頼む」

 ライブは第四段階の能力痕を夕凪の言われるままに出した。

「乱れる……自然……私は……せしらは……私は……」

「……君は、怪盗ポンゾだ。裏社会の中心人物の一人、怪盗ポンゾだ」

 夕凪がはっきりと言う。せしらは自然の乱れを感受しながら、必死に夕凪の言葉にしがみつき、過去の記憶を探る。

「……わ、たしは……そう、怪盗ポンゾと呼ばれた者……」

「……」

「……」

 暫く無言の状態が続く。さっきまで息を荒げていたせしら--怪盗ポンゾは息を整え落ち着いてきた。

 それと同時にポンゾの体に浮かんでいた第五段階の能力痕の痣も徐々に消えていく。

 そして周りの物を破壊していた力も消えていった。

「……埋柄、夕凪」

「……あぁ。僕が夕凪だ」

 ポンゾの呼びかけに夕凪が答える。

「寂しかった」

「え?」

「夕凪!!!!!」

 ポンゾが夕凪にしがみつく。

「な、え、ちょっと……ポンゾ?」

「……せしら」

「え?」

「せしらって呼んで。いつも通りにせしらって。……ポンゾだよ。私は怪盗ポンゾ。でも……」

「……せし、ら?」


「……本当の名前は永久村せしらだから。大好きな人がくれた今の時代に生きる為の大事な名前、それが私……ううん、せしらの本当の名前だから」


「せしらぁっ!」

 夕凪がせしらを抱き返す。

「……夕凪、せしら帰りたい。また、夕凪の作ったご飯食べたい」

「あぁ、今日はせしらの好きな物を作るよ。だから、帰ろう。僕らの家に」

「うん……」

 その後二人はその場から離脱したのであった。




「ま、これで一件落着かな」

 凝人が抱き合っている夕凪とせしらを遠めに見て言った。

「……これだけ大きな騒ぎを起こしておいて結局怪盗勝負はうやむやってわけなのね」

 そよぎが呆れたようにぼやいた。

「まあまあ。今回の事は夕凪さんがせしらちゃんの為にやっただけで、そのせしらちゃんが無事で終わったんだからいいじゃない。良い勝負もできたし」

「ライブがそう言うなら、まぁ……」

「くすくす」

 ライブが笑うと、凝人、オリーヴ、アルマ、アルム、シルフの皆が笑った。


「……お姉様、あれ!」

 そんな中、探偵局本部ビルの違和感に気付いたオリーヴが声を大きく出した。

「どうしたの……って、嘘!何、あれ……」

 そよぎが本部ビルを見て驚愕の表情を浮かべる。

 他の仲間も本部ビルの状態を見て唖然とした。

 

 ――本部ビルの亀裂がさっきよりも一気に大きくなり、今にも本部ビルが崩れそうになっていたのだ。どうやらさっきのせしらの力がとどめとなったらしい……。

 

「……まずいわ……ここから離れないと」

 そよぎが急いで離脱の準備を始める。

「そんな!せしらちゃんの破壊衝動が終わった今、ここには再び人が集まって来る!そうしたらその人達、ビルの倒壊に巻き込まれちゃうぞ!」

 凝人が慌てながら言った。

「ギャラリーの人達、タイミング悪過ぎです……一時的に逃げたのは正解なんですけど」

 オリーヴがうなだれながら言う。

「にゃー!アタシ達今体力切れ寸前なのに!どうする事もできないよ!」

「お姉様、落ち着いて下さいまし!体力全快でも倒壊しそうなビルを止める手段なんてありませんの!」

 ボケとツッコミをするアルマとアルム。

「……私も、もう無理。歩くので精一杯……」

 珍しくシルフも弱音を吐いた。


「……もしかしたら、なんとかなるかも」


 そんな中、ライブは一人落ち着いていた。

「どういう事、ライブ!?」

「そーちゃん……ワイヤーある?貸して欲しいんだけど」

「あ、あるけど……何をするつもりなの?」

 そよぎはライブにワイヤーを手渡す。


「みんなは逃げて!私がなんとかしてみせる!」


 それだけ言うとライブはワイヤーで本部ビルの後ろ側にあるビルの屋上へと昇っていった。


「……みんな、ライブを回収できるギリギリ遠くまで退避よ!急いで!」

 

 そよぎの言葉に仲間達全員が頷く。




 (……ここでいいかな)

 ライブは本部ビルが崩れそうな方向と逆の位置にあるビルの屋上に昇った。

 (確証は、ないけど。今の私ならやれそうな気がするんだ)

 ライブは指を日本立てて手を本部ビルの上辺りに向かってかざした。

 

 (先に謝っておきます。自然の力を大きく乱す事、ごめんなさい。なんかおかしいよね。人が生きる為に自然を乱して、自然も人を飲み込む事があって。でもね、私はこんな滅茶苦茶な世界が――みんなが居る世界が大好きなんだ)

 

 そしてライブの身体に能力痕の痣が浮かぶ。第四段階の能力痕だ。

 (だから救える命は見過ごさない。もう決めたんだ――)

 ライブの身体の光る痣がさらに輝きを増す。そして第四段階より更に光る痣が増える。

 

 ――ライブは、第五段階の能力痕を発現させたのだ。




 『見て下さい、怪盗オーニソガラムの犯行現場である本部ビルを……ってあれ?く、崩れる!?』

 リポーターも慌てている。再び集まったギャラリーも本部ビルの前に群がる者も居る。

 

 ――そんな中、最悪な事が起きた。本部ビルの亀裂が斜めに貫通、ビルの上半分が斜めにスライスしたかのように崩れ落ちてきたのだ。

 

 下にいる者達の悲鳴がこだまする。

 もう駄目だ。

 そこにいる誰もがそう思った時。

 

 ――ビルの上半分が、止まった。明らかに崩れ落ちそうなのだが、止まっている。よく見ると、下半分と上半分の間に隙間がある。そう、ビルの上半分だけ空中に浮かんでいるのだ。ライブが後ろから能力痕の力で引き寄せ、落下するのを阻止しているのである――


 『早く、逃げて下さい!』

 

 その場で混乱していた者達が、一斉にオーニソガラムの言葉に耳を傾けた。探偵局やオーニソガラムを見たくて集まった人達なのだ、注目して当然である。

 そして混乱していた現場が少しづつ落ち着いて行動するようになる。

 

 ――怪盗の、人を惹き付ける何か。オーニソガラムはそれを利用して呼びかけをする事で人々を助けていた。


 (……う…ああっ!)

 だが、ライブの身体も限界に近付いていた。

 (お願い……もう少しだから……もう少しだけ持ちこたえて、私!)

 もう何分このままでいるだろうか。実際は数秒でも今のライブにとっては永遠のように長く感じる時間。それほどまでにライブに負担がかかっていた。

 

 ――『ライブ!避難が完了したわ!貴女も早く脱出して!』


 (……良かった……)

 ライブは心から安堵した。そしてライブの体力が切れ、ライブはその場に倒れる。

 倒れる瞬間、オーニソガラムの仮面は割れ落ちていた――。




 それから一日が経った。

 そして……その日の新聞の一面は世の中に衝撃をもたらした。


『怪盗オーニソガラム、歌羽蕾譜氏(14)と素性判明。歌羽氏は現在も逃亡中』


 その日の綺寺学園はこの話題で持ちきりだった。

 学園の理事や校長はマスコミに追われ、生徒達はこの話題を飽きることなく論議している。

 逃亡中であるライブはもちろん、凝人とそよぎも学園を欠席していた。

 アルマとアルムは別の学園であるが、その二人も学園を欠席している。

 夕凪とせしらは探偵局をやめたらしい。

 

 

 

 アパートのライブの部屋。

 探偵局、そして警察による強制家宅捜索が行われていて関係者以外立ち入り禁止状態だ。

 しかしライブの事をよく知る近所の者は探偵や警察を冷ややかに見るものが殆ど。

 ライブが悪人なんて何かの間違いだなどと思っているのだろう。

  

 

 

 そよぎ邸の地下室では、家主の居ない作戦会議が行われていた。

 通信機で呼び出された凝人は、そよぎの家に着くと怪しまれないようにそっと地下室へと降りた。

「凝人さん、お待ちしていました。どうぞ」

「あ、凝人たん」

「凝人様、こちらですわ」

 地下室ではオリーヴ、アルマ、アルムの三人が待っていた。

「……今朝のニュースだよ。あとネットでも出来る限りの情報を集めてきた」

 凝人は店で買った新聞、印刷したネットの記事などを地下室のテーブルの上に広げて見せた。

「……なんでこんな事に……ライブさんはただみなさんを助けたかっただけなのに」

 オリーヴが泣きじゃくる。そんなオリーヴをアルムはよしよしと撫でている。

「多分ライブさんを撮影していたカメラマンが居たんだね。こんなに鮮明に写ってちゃそうとしか考えられない……」

 アルマも怒りを込めて拳を握った。これからそのカメラマンを殴りにいくような怒りをたぎらせている。

「ってももう素性はバレたし……今の所はこれ以上俺達が目立った行動とるとライブちゃん達に迷惑かかるよ。せっかく今の所逃亡が上手くいってるみたいなんだし」

 ライブは現在、そよぎと逃亡している。シルフは情報操作でライブ達の逃亡の手助けをしている。

 今どんな所で何をしているのか、凝人達にも一切知らされていないが今凝人達に何かあればそよぎまで手配されてしまう事になるので詮索はしないでいるのだ。


「アタシ達、これからどうなっちゃうのかな」

 

 アルマの何気ない一言。その言葉はその場に居る者達全員にのしかかる。


「……続けよう」

 

「え?」

「にゃ?」

「?」

 いたたまれない空気に耐えかねて凝人が呟く。そして凝人は続けて言った。


「俺達は裏社会に手を染めた人間だ。だったらもうみんな目標はみんな持ってるはず。だから続けよう、裏社会の活動を。今までみたいに夢に向かっていこう。ライブちゃんやそよぎさんが居なくても俺達はもう進むべき道があるんだ。……今まで通りにはいかなくても、きっと俺達はやっていける。いや、そうでなくっちゃライブちゃん達に顔が立たないよ。せっかく色々叩き込まれたんだ、このまま終わってたまるか!」


 凝人のその言葉に静まり返る。だが、アルマはその言葉に拍手を送った。

 アルムも、泣きじゃくっていたオリーヴも拍手を送る。

「そうだよね、凝人たん!アタシ達はアタシ達の道を進む!というわけでアタシは実家に戻ってパパから色々教わりながら裏社会業続ける!」

「私はお姉様に何処までもついていきますわ」

「……オリーヴは……こことは別にある、鼓芽本家に戻ります。そこでゆっくり今後の道を探そうと思います」

「そっか……みんな自分の道があるんだな……俺もしっかり今後について考えなきゃ……」

 凝人は特に今後の事を考えていない。さっきの言葉はただ自分の思うがまま言っただけだ。

「凝人たん、アタシ達別々でもいつまでも仲間だよね?」

「もちろん!何か困った事があればいつでも力になるよ!じゃあみんな……またどこかで会おう!」

「はい!」

「にゃー!」

「もちろんですの!」

 笑顔で四人は分かれた。それぞれの道へ……。

 

 

 

 それから数ヵ月後。

 凝人の日常は怪盗勝負をしていた日々がまるで夢だったかのように平穏に戻った。

「ふわぁ……」

 朝礼前の教室で大きく欠伸をする凝人。

「おっ」

 その時、凝人の携帯にメールが届く。

 ――それは、忘れようも無い怪盗勝負の日々で叩き込まれた暗号文になっていた。




 日本のとある空港。

 凝人がその空港の人目に触れない指定された部屋に着くと、既に到着している人が二人居た。 

「お久しぶりです凝人さん」

「久しぶり、凝人」

 オリーヴとシルフだ。

「久しぶりだね、二人共。というかオリーヴちゃんは鼓芽本家に戻るって」

「一回戻りました。それで考えて結論を出したんです。ずっと一緒にいたい人のサポートをするのがオリーヴのしたい事なんだと」

「お、オリーヴ……ま、まぁ私は元々単独で活動してたし、オリーヴが居れば心強いからこのまましばらくは自分の活動を続けるつもり。オリーヴと一緒に」

「あぁ……確かにオリーヴちゃんのサポートは心強いよね。その内シルフさん専用ロボとか作りそう」

「凝人さんだってそういう事しそうですよ」

「ぷっ……ふふふ……」

 シルフが思わず笑う。この数ヶ月で随分にこやかに笑うようになったんだなぁ、とこっそりと凝人は思った。

 そんな中、ドアが開いて誰かが入って来た。

「お、懐かしいメンツはっけーん。お久しぶりにゃー!」

「あら、本当に懐かしいですの。お久しぶりです、みなさん」

 アルマとアルムだった。

「じゃ、みんなで待とうか」

 凝人の言葉にみんな頷いた。

 

 

 

「……これでしばらく日本には戻らなくなるね」

「色々あったわね」

「うん……」

「あ、ついたわ」

 タクシーから降りる二人の少女。

 そして予約していた飛行機へと急ぐ。




 空港のロビーは閑散としていた。

 この時間は比較的穴場で人も少ないのだ。

 そして、二人の少女は飛行機のゲートへと行こうとするが……

「そこのお二人さん。ちょっと寄っていってよ」

「お安くなってる……」

 見知らぬ南国風の格好をした色白気味の日本人男性と、麦わら帽子を深くかぶった白いワンピース姿の少女に話しかけられる。

「あなたは……」

「まさか……」

 二人は男性と少女が誰であるか一目でわかったらしく、案内された部屋へと向かった。




 部屋のドアを開ける。

 すると……


「ライブちゃん!そよぎさん!」


 凝人が南国風の男性と白いワンピースの少女――変装した夕凪とせしらに連れられて来た二人の少女に話しかけた。

 そう、二人の少女とはこれから国外へ行こうとするライブとそよぎの二人だったのだ。

 ライブは微妙に変装で髪の色と瞳の色を変えているが、間違いなくライブ本人だった。

「お姉様……ライブさん」

 オリーヴは目に涙を溜めて二人に駆け寄った。

「どうやら上手く国外に行けるアテができたみたいね。もう私の情報操作も必要無くなるようで何より」

 シルフも何となく嬉しそうだ。

「ん……にゃ?……ライブさん!そよぎさん!」

 さっきまで机に突っ伏して寝ていたアルマも目を覚まし、二人に飛びつく。

「ああ……御二人共よくご無事で……」

 アルマと同じく寝ていたアルムも目を覚まして二人に駆け寄る。

「みんな……ごめんね、心配かけちゃって。でももう大丈夫だよ。……それともう一つごめんなさい。私のドジで前みたいに活動できなくなって」

 ライブは頭を下げた。

「ライブちゃん」

 そんなライブの肩をポンと叩いた凝人が口を開く。

「ここにいるみんな、ライブちゃんがやった事は素晴らしいって思ってるよ。それにみんなライブちゃんに色々叩きこまれたんだ、ただでは転ばないって」

 凝人の言葉にライブは頭を上げてみんなを順番に見る。

 みんな微笑んでいた。

「……っ……ありがとう……みんな……」

 ライブは涙をポロポロこぼしながら言った。

「みんなの話は聞いてるわ。さすが裏社会の住人ね、一人でも自分の道を決められたのね」

 そよぎがライブをなだめながらみんなに話しかける。

「そういやそよぎさんはこれからどうするの?やっぱライブちゃんと一緒に国外逃亡?」

「端鞘さん、直球過ぎるわよ。でもまぁ、私は逃亡先の探偵局に配属って名目で国外に行く感じね」

「さみしくなりますの……」

「何言ってるの、アルムさん。私達は離れてもずっと仲間よ。もう忘れちゃった?暗号通信でみんなで決めた最後の規則」

「忘れるわけありませんの。ねぇ、みなさん?」

 アルムの言葉にみんなが頷く。



 

 飛行機のゲート前。

 旅立つ二人と、それを見送る仲間達。

 ライブがゲートを通る直前で口を開いた。


「それじゃいくよみんな!永久持続規則ルール・イモータル!」



「「「「「「「みんなで過ごした日々を忘れない!みんなで追いかけた夢と一緒に!」」」」」」」



 その掛け声は、遥か遠い空の何処までも続くような掛け声だった。

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