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夜はこれから

お題

『ごはん』

『居酒屋』

『クーポン券』

『完全下校時刻になりました。校内に残る生徒達は速やかに下校してください』


 そんな放送が校内に響き渡る。


「先生、さよならー」

「はい、さよなら。気を付けて帰れよ」


 ばたばたとせわしなく玄関を通り過ぎる生徒たちと見送るのが、俺達教師である。

 数多くの生徒が在籍するこの三野瀬高校では、放課後遅くまで部活に励んだり勉強に勤しんだりする生徒の数が絶対的に多くなる。

 ひとまず生徒の波は収まったが、きっとまだ校内に残っている生徒はいるだろう。

 今日の俺の担当は、校内の見回りをしてそういった生徒に下校を促す事である。


「じゃあ、ちゃっちゃと終らせますかね」


 そう呟いて、俺は放課後の校内へと繰り出した。

 そのポケットには、居酒屋のクーポン券が入っている。

 このクーポン券は期限が今日までであるため、俺はなんとしても今日中にこの居酒屋に行かなくてはならないのだ。

 まあ、俺はこの見回りさえ終わればもう帰れるのだが、いかんせん時間が怪しい。


「……ま、適当に見回っておけば問題ないだろ。どうせ俺の後に用務員が見回るんだから」





 校内をざっと歩いただけでも残っている生徒というのは結構いるもので、イヤホンで音楽を聴きながら作業してたせいで放送にきづかなかった、だとか、放送には気づいていたけど今日の分の宿題を学校でやり切ってしまいたい、だとかいう生徒もいた。

 まあ事情は人それぞれにあるだろうが、いいから帰れお前ら。校則違反だ。

 こういう生徒は口でいっただけでは帰りっこないので、生徒玄関をくぐるまでそばについて見送ってやる。

 ああ、めんどうだ。それに、こんなことをしているせいでかなり時間が押している。クーポン券、間に合うか……?


 そんなこんなで教室棟の見回りを終えた。まあ、先生がこの時間に見回ってるのは生徒達も知る所であろうから、それぞれに対抗策を考えて俺達教師の目を欺こうとしているものも多い。

 ほら、あそこの教室なんかなぜか明かりがついている。やるなら徹底的にやれ。ばれてるぞ。

 その教室を後で見回る事に決めた俺は、とにもかくにも部室棟の方へと足を進める。


「……はあ」


 そこには、かつてないほど多くの部屋に明かりがついている光景だった。


「なんで今日に限ってこんな居残りしてるんだ、お前ら……」


 これまでに見回りを担当した時にはせいぜい一つか二つだったのに、なぜか今日は10を優に超える部屋の明かりがついていた。

 何故だ? 別に文化祭みたいなイベントごとの直前でもない。コンクールや何やらの締切がたまたまいくつも被ってしまった、とかそのあたりだろうか。

 せめてひっそりとやってくれたなら俺も見過ごすことは出来るが、こうも露骨に居残りをされては、教師の俺としては下校を促さざるを得ない。


「……今日は、家に帰って冷ごはんかな」


 そう一人ごちて溜息をついた俺は、重い足を引きずるようにして部室棟へと向かうのだった。

初めての教師視点。

これぐらいの長さでもいいかもしれない。

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