夏祭りの赤い宝石
お題
『憧れ』
『りんごあめ』
『フリーマーケット』
窓の外には高い高い空が広がっている秋の放課後、僕達調理部は家庭科室に集まり、話し合いを始めようとしていた。
二週間後の文化祭で喫茶店を開くことにしたので、そのメニューを決めるのだ。
「はい、じゃあ、当日作るメニューを決めたいと思います。何か意見ある人ー?」
ホワイトボードの前に立った実花先輩が案を募ると、部員の中からたくさんの意見が飛び出してきた。
例を挙げるとすれば、焼きそば、チャーハン、海鮮丼といった主食から、プリンやパフェのようなデザートまで様々だった。
中でも、友人の千夏が熱弁していたのがりんごあめだった。
曰く、
「文化祭ってのはつまり祭なんですよ。祭りと言えば、そう! りんごあめですよ! 夏祭りに浴衣と花火とりんごあめは外せないでしょう!」
との事らしい。
別に夏祭りの屋台の定番メニューと言えばりんごあめしかないというわけでもなく、それこそさっき名前の挙がった焼きそばも十分代表的な夏祭りメニューだし、他にもわたあめやらトルコアイスやらが挙げられるだろう。
第一、文化祭は夏祭りじゃない。強いて言えば秋祭りだ。
そのことを千夏に告げたが、千夏は
「そんな些細なことはどうでもいいの! 私はりんごあめを売りたいのよ!」
と、一蹴した。
かくしてホワイトボードに出来上がったメニュー表(暫定)を見れば、祭りや喫茶店の定番メニューやらがずらりと並んでおり、これを売ることが出来たらきっと評判もいいものになるだろう。
来場客の投票で決まる優秀店舗にノミネートされることも、決して夢ではないのかもしれない。
しかし、メニュー決めはここがゴールではなくむしろまだ折り返し地点だ。ここからはメニューを減らしていき、実際に文化祭で作るメニューを確定させなければならない。
真っ先に消えたのは、衛生面上どうしても安全を確保しづらい海鮮丼であったが、次に消えたのが千夏イチオシのりんごあめだった。
もちろんこの判断に千夏は猛抗議をしていたが、実花先輩の
「文化祭での出店のルールで、店舗外へ料理を持ち出すことは禁止されているのよ。りんごあめってなると、喫茶店の中だけで食べきってもらうのは厳しいでしょ?」
との説明にしぶしぶと引き下がっていた。
その後も次々と実花先輩の判断と僕達部員との相談によりメニューのカットは進み、最終的に焼きそば、チャーハン、オムライス、タルトケーキ、杏仁豆腐の5メニューに決定した。
文化祭でやるとすればどうしても時間や人数的な問題や、文化祭の行われる三日間のうちに売り切らなくてはならないので、あまりメニューを増やし過ぎても仕方ないだろう。
メニューが決まったところで今日は解散となった。
荷物をまとめて、廊下へと出る。
「あーあ、せっかくの文化祭なのにりんごあめを売れないだなんて。憧れの賢治先輩に私のりんごあめを食べてもらいたかったのに」
と、去年卒業した先輩の名前を挙げた千夏。
「まあ、仕方ないよ。他の料理は食べてもらえない、ってわけでもないんだから、諦めなって」
「だから、りんごあめじゃなきゃだめなの! 去年の夏祭りの日、賢治先輩に買ってもらったあのりんごあめ……ああ、あの時から私と賢治先輩の間にはりんごあめという赤い糸が存在しているの!」
「はいはい」
いつものように賢治先輩との妄想で暴走を始めた千夏をよそに、視線を廊下に貼ってあったポスターへと向ける。
まだ文化祭への準備は始まったばかりだというのに、すでにちらほらとポスターが貼ってある。
去年と同じく生徒会主導で有志のバンドステージや、フリーマーケットなどが開かれるようだ。
確か、家にもう着れなくなった古着がたくさんあったな、なんてことを思い返しながら、いまだ妄想の世界へトリップしている千夏と共に生徒玄関へと急いだ。
お題のひとつであるりんごあめを主軸に。
三野瀬高校の文化祭は規模が大きいので三日間行うのです。




