最終話 運命を超えた先へ
世界は、静かだった。
無数の視線だけが、そこにある。
観測者は、ただ見ている。
トシノリを。
その選択を。
「さあ」
声が、重なる。
「終わらせよう」
トシノリは、息を吸った。
手の中には――
一振りの剣。
草薙の剣。
胸の奥には――
消えない記憶。
砕けた真珠。
見てしまった真実。
繋がってしまった声。
「……俺は」
言葉が、ゆっくりと形になる。
「もう、戻らない」
観測者が、わずかに揺れる。
「戻れない、の間違いじゃないのか?」
トシノリは、首を振る。
「違う」
「戻らない」
一歩、踏み出す。
「戻れるとしても」
「俺は、選ばない」
静寂。
無数の視線が、集中する。
「それが――答えか」
トシノリは、頷いた。
「ああ」
「全部、背負って進む」
「それが俺の選択だ」
その瞬間。
世界が、変わった。
分岐していた無数の未来が、一本に収束していく。
揺れていた可能性が、固定される。
観測者の声が、わずかに変わる。
「……確定した」
「一つの未来が」
トシノリは、剣を構える。
「終わりだ」
観測者は、笑った。
「いや」
「ここからだよ」
その言葉と同時に――
無数の視線が、消えていく。
一つ、また一つと。
やがて。
世界には、トシノリとルルだけが残った。
静寂。
風が、ゆっくりと流れる。
ルルが、小さく言った。
「……終わったね」
トシノリは、剣を見つめる。
もう、光っていない。
ただの剣のように見える。
「ああ」
そして――
空を見上げた。
そこには、もう分岐はない。
ただ、一つの未来だけが続いている。
「なあ、ルル」
「なに?」
少しの間。
トシノリは、ゆっくりと聞いた。
「……お前は、最初から知ってたのか」
ルルは、少しだけ笑った。
「どうだろうね」
答えには、なっていない。
でも――
それでよかった。
トシノリは、前を向く。
もう、振り返らない。
「行こう」
ルルが、頷く。
「うん」
二人は、歩き出す。
決まってしまった未来へ。
それでも――
自分で選んだ道へ。
「運命は、変えられなかったんじゃない」
トシノリは、小さく呟く。
「俺が、選んだんだ」
その一歩は、もう迷わない。
――運命を超えた、その先へ。




