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第十一話 観測者

静寂は、長く続かなかった。


 ――カツン。


 乾いた足音が、空間に響く。


 トシノリは、顔を上げた。


 誰もいないはずの場所に、




 “それ”は立っていた。


 影。


 輪郭は曖昧で、形は定まらない。


 だが――


 確かに、“人のように見える何か”。


 「……お前が」


 喉が、ひりつく。


 「観測者か」


 影は、わずかに揺れた。


 そして――


 笑った。


 「ようやく、ここまで来たね」


 声は、どこからともなく響く。


 一人ではない。


 無数の声が、重なっている。


 「選び続けた結果だ」




 「君が、ここにいるのは」


 トシノリは、剣を握る。


 その手は、もう迷っていなかった。


 「……お前が、全部やってたのか」


 「世界を壊して」




 「やり直させて」


 観測者は、静かに首を傾けた。


 「違うよ」


 「僕たちは、何もしていない」


 一拍。


 「ただ――見ていただけだ」


 空気が、凍る。


 「は?」


 「君が選んだ」




 「君が壊した」




 「君が、使った」


 一つ一つ、突き刺さる。


 「真珠も」




 「未来も」




 「すべて」


 トシノリの呼吸が、荒くなる。


 「ふざけるな……!」


 剣を構える。


 「あの地獄を見ておいて……!」


 観測者は、静かに笑った。


 「そうだよ」


 「だから、面白かった」


 その瞬間。


 トシノリの中で、何かが切れた。


 「……てめぇ」


 踏み込む。


 剣が、光を裂く。


 だが――


 手応えがない。


 影は、そこにあるのに。


 触れられない。


 「無駄だよ」


 「僕たちは、“結果”じゃない」


 「“過程”でもない」


 「ただの――“観測”だ」


 理解できない。


 だが――


 理解してしまう。


 こいつは、倒せない。


 「……じゃあ、どうすればいい」


 絞り出すような声。


 観測者は、楽しそうに言った。


 「簡単だよ」


 「選ばなければいい」




 「使わなければいい」




 「進まなければいい」


 一歩、近づく。


 「すべてを、やめればいい」


 静寂。


 トシノリの手が、わずかに震える。


 だが――


 ゆっくりと。


 剣を、握り直した。


 「……それは、できない」


 観測者が、わずかに反応する。


 「ほう?」


 トシノリは、顔を上げる。


 「俺は、もう知ってる」


 「何をしてきたか」




 「何を失ったか」


 一歩、踏み出す。


 「それでも――」


 「進むって決めた」


 空気が、変わる。


 観測者の笑みが、深くなる。


 「いいね」


 「それでこそ」


 「観測する価値がある」


 その瞬間――


 世界が、歪む。


 無数の視線。


 無数の未来。


 無数の選択。


 すべてが、トシノリに重なる。


 観測者の声が、響く。


 「見せてくれ」


 「君の、“最後の選択”を」


 ――その言葉は。


 呪いのように、優しかった。

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